
「オーナーに最大の収益をもたらす」こんなコンセプトもオーナーにとっては大きな魅力であり、オーナーに確実に伝えるにはどのような表現が望ましいでしょうか。
ただ、そのためにはオーナーの収益状況を正確に把握し、改善できる提案ができる能力が必要です。
その能力は「キャッシュフローツリー」を学ぶことにより身に付きます。
キャッシュフローツリー
キャッシュフローツリーとは、賃貸経営で生まれる収入からさまざまな支出を差し引いて、実際に手元に残るお金がいくらになるのかを図式で表すものです。
キャッシュフローツリーに記載する要素は以下のとおりです。
①あるべき賃料収入
満室時収入と言ってもいいですが、入居者を募集する時に物件情報に記載する家賃の総額です。
たとえば月5万円の家賃の物件が10戸ある場合は、月額50万円の収入となり年間600万円となります。
②発生したロス
あるべき収入からマイナスになる金額です。
たとえば家賃を値引きした場合の値引き分がロスになります。
1年間のうち半年間空室となっていた場合は、半年分の家賃をロスと計算します。
滞納になる場合もあり、1年間の計算をする時に1か月分が滞納となっており、回収できていなければ1か月分の家賃がロスになります。
そのほか空室対策として「フリーレント」を設定するケースでは、フリーレント期間の家賃がロスです。
③実際の収入
あるべき収入から発生したロスを差引いた金額です。
家賃収入として実際に集金できた金額ですから、家賃が振り込まれている場合は預金通帳に記載された1年間の収入金額を合計すると計算できます。
④運営費
賃貸経営をするうえで必要な費用であり、管理料や仲介手数料、修繕工事費用や共用電気料・水道料、固定資産税や火災保険などが該当します。
⑤営業収益
営業利益ということもあります。実際の収入から運営費を差し引いた金額です。
⑥負債返済額
賃貸物件を取得するために借入したローンなどの返済金です。元金と利息を合計した返済金額になります。
⑦税引き前キャッシュフロー
収益から負債返済額を差し引いた金額で、不動産所得税を支払う前の金額です。
以上の要素を図式に表したものがキャッシュフローツリーですが、Excelで作ると次のような表になります。
あるべき賃料収入 | |
△ | 発生したロス |
実際の収入 | |
△ | 運営費 |
営業収益 | |
△ | 負債返済額 |
税引き前キャッシュフロー |
(表の中の△は差引する要素を表します)
この表に具体的に金額を記載して計算してみます。
仮定する条件は次のとおりです。
2.発生したロス=100万円
3.運営費=200万円
4.負債返済額=150万円
この条件でキャッシュフローツリーを作ると以下のようになります。
①あるべき賃料収入=600万円 | |
△ | ②発生したロス=100万円 |
③実際の収入=500万円 | |
△ | ④運営費=200万円 |
⑤営業収益=300万円 | |
△ | ⑥負債返済額=150万円 |
⑦税引き前キャッシュフロー=150万円 |
収益の最大化に貢献する
収益の最大化はキャッシュフローツリーの⑤営業収益を増やすか、⑦税引き前キャッシュフローを引き上げるかです。
賃貸管理を行うことにより、収益やキャッシュフローを引き上げるのに貢献するものはなにか?これをオーナーに気づいてもらいます。
キャッシュフローツリーは、収益を最大化させる方法を視覚的に理解できるため、オーナーにもすぐ気づいてもらえる便利なツールです。
ではキャッシュフローツリーにもとづいて、収益を最大化する方法をシミュレーションしてみましょう。
⑤営業収益を増やす方法
「営業収益」を増やすには、キャッシュフローツリーを見ると、3つの方法があるとわかります。
・②の発生したロスを減らす
・④の運営費を削減する
どれか1つを実行するか複合して実行するか、どのような方法で営業収益を増やすのかを考えることがポイントです。
①のあるべき収入を増やす
あるべき収入を増やすには物件の価値を高める方法を採用します。
「退去を防ぐ」仕組みが実施され効果が表れているなら、賃料を高めに設定することが可能です。
プチリフォームやフルリノベーションの提案により、賃料設定を高く保つこともできるでしょう。
②の発生したロスを減らす
空室を早く埋める仕組みが機能していると、稼働率を1%でも2%でも向上させることが期待できます。
また入居審査のスキルを磨き入居希望者の見きわめができると、滞納を防ぐことが可能です。
このように空室対策の提案と実践力や、退去を防ぐコンセプトが実践されていると、発生したロスの削減につながります。
④の運営費を削減する
修繕費のコスト削減や無駄な工事の見直しなど、さらに火災保険の見直しをオーナーに提案することにより運営費を削減します。
稼働率が高くなると相対的に仲介手数料や広告費の支出が抑えられるので、退去を防ぐ効果を狙った仕組みも運営費の削減に寄与します。
⑦税引き前キャッシュフローを増やす方法
税引き前キャッシュフローを増やすには、負債返済額の削減を考えます。
金融機関との交渉や借換えによる金利削減をオーナーに提案します。
あるいは余剰資金があれば一部繰り上げ返済をおこない、毎月の返済額を縮小することも可能です。
もうひとつはリスケジュールにより返済期間を延長する方法もあります。
賃貸経営戦略を考えもっとも効果が期待できる方法を提案するのです。
キャッシュフローツリーの活用
「オーナーに最大の収益をもたらす」コンセプトをオーナーに理解してもらうには「キャッシュフローツリー」の活用が欠かせません。
四半期ごとや年次の賃貸経営状況をキャッシュフローツリーに落とし込むと、次期に行うべき改善点が「目で見て」わかるようになります。
表現の方法を下のようにすると、なおいっそう視覚化されオーナーは一目で理解してくれるでしょう。
数字を並べたデータよりも図にすると、四半期ごとのキャッシュフローの違いや運営費の違いなど、収益を最大化させることに直接関係する要素が明確になります。
オーナーの収益性を管理会社が考えるなど、これまではなかったことだと感じるのではないでしょうか。
しかしそれは、オーナーのために考えている管理会社がすくないだけの話であって、本来は管理会社が踏み込むべき領域なのです。
収益性を検証することは、賃貸管理の実務においてもけっしてハードルの高いものではありません。
ぜひキャッシュフローツリー作成にチャレンジして、オーナーに賃貸管理のコンセプトを上手に伝えることができれば、強力なツールになるでしょう。