
営業エリア内で賃貸物件の建築が進んでいたら、物件オーナーにアプローチし管理委託の営業を行うのが基本です。
ただしほとんどは『募集と管理をする業者は決まっている』と言われます。
しかしすでに決まっている管理会社をひっくり返す可能性はゼロではありません。
アプローチする切り口を変えるだけで、募集と管理をひっくり返すことはできるでしょう。
新築物件の管理受託を狙うには、まず新築物件情報をキャッチするところからはじめます。
新築物件情報をキャッチする
新築物件情報をいかに早くキャッチできるかが、管理受託の成約率をあげるポイントです。
新築情報を知るには、できるだけ「川上」にポジショニングしなければなりません。
その方法はいろいろ考えられます。
1.紹介してくれる事業者とのネットワーク
銀行、ゼネコン、工務店、税理士、設計事務所などの事業者と人間関係を作っておき、公開前に情報をキャッチする
2.建築確認の情報
地方自治体で確認できる「建築確認一覧」や、民間賃貸情報は少ないですが「建通新聞」での入札情報で情報収集する
3.現地リサーチ
建物の解体工事や駐車場の閉鎖などは新規建物の建設計画の可能性が高く、その後に行われる地鎮祭や上棟式などの変化をチェックし地道なリサーチをつづける
このような情報キャッチの網を張っておき、賃貸物件の新築情報を取得できたら、さっそくオーナーにダイレクトメールを送ります。
オーナーニュースレターなどのコンテンツや、会社のパンフレットと管理メニューを送り、2~3日後に訪問をします。
訪問するとほとんどは『入居者募集をする会社は決まっている』と言われることが多いですが、その時には「保証」というキーワードで切り返します。
新築物件へのアプローチ用に考えた保証メニューを準備しておき「満室保証」を説明します。
新築物件の満室保証
新築時の賃貸物件は企画や家賃設定を間違いがなければ、ほとんどの場合スタート時点では満室になるものです。
そしてその後の稼働率も高いものになります。
そのため新築時からサブリースを採用するのは、オーナーとしては機会損失と言えます。
管理料の5%ですむところを、10%~20%のフィーをサブリース会社に支払いことになります。
新築から5年~10年は管理委託のほうがオーナーは絶対得です。
しかしオーナーには次の2つの不安があり、サブリースを求めることが多いのです。
1つ目の不安は新築時ですが、ローンの返済がはじまるのに空室があったらという不安です。
家賃収入が少ないと自腹でローン返済をしなければなりません。
2つ目の不安は古くなった時です。
空室が増え収入が激減することへの不安です。
そのため30年一括借上げに飛びついてしまうのです。
「満室保証」は1つ目の不安に対応する目的があります。
満室になるまで家賃を保証し、満室になった時点で管理委託の5%に切り替える内容です。
オーナーにとっては新築時の不安が解消し、満室後は家賃の全額が収入となるので、サブリースよりも有利な条件となります。
管理会社は満室までに完成後1か月の免責期間をもらうことにより、すこし余裕を持って臨むことができます。
また募集の開始は完成の数か月前になるので、完成後1か月での満室は難しいことではありません。
満室保証の提案は「もう決まっています」という決まり文句に対応できます。
逆にこのような提案がなければ切り返すこともできず、第一関門の突破は難しくなるでしょう。
家賃査定させていただく
オーナーが発する「もう決まっています」に対応するもう1つの切り口が「家賃査定させていただく」作戦です。
「もう決まっています」には『参考までに当社にも家賃査定させてください。なぜなら・・・・・・』と切り返します。
そして「なぜなら」のあとには
・低すぎると得られるはずの家賃を失う機会損失となる
・高すぎると満室までの時間がかかる
・家賃設定はバランスが必要
などを説明し、重要な家賃設定は「正しい家賃査定」を行うことにより決めなければならないことをオーナーに理解してもらいます。
実際に行われている募集物件の家賃設定をみると「素人並み」な事例が多いものです。
たとえば4階建て16戸の1Kマンションの事例です。
A案は角部屋と真ん中の部屋の家賃差額は1,000円になっています。
1階と2階の差も2,000円しかありません。
このような設定では角部屋だけが先に埋まり、真ん中の部屋が残ってしまうでしょう。
B案の家賃合計はA案とまったく同じで82万8,000円です。
しかし角部屋と真ん中の部屋とには4,000円の差をつけています。
さらに1階と2階の差も4,000円であり、このような家賃設定であれば予算のない人は1階の真ん中の47,000円を選びます。
予算に余裕のある人はいちばん高い2階か3階の角部屋を選ぶでしょう。
『高いのは、それだけの価値がある』と考えるのが人間の心理です。
B案の設定であれば家賃表示「47,000円~」とすることができ、特定な部屋にかたよることなく部屋は “まだら” に決まっていきます。
そのような決まり方が正しい家賃査定と言えます。
オーナーには『こんな素人査定では大変ですよ、査定だけでもご参考に』と切り返すのが家賃査定作戦です。
収益予想を作成
3つ目の切り口は『賃貸オーナーの収益を最大化する提案内容』で解説したキャッシュフローツリーを活用し、査定した家賃設定にもとづき新築から5年間くらいの「収益予想」を作って差し上げます。
オーナーには『単に査定家賃が高い低いだけで判断するのでなく、5年間くらいの収益とキャッシュフローを考えることが重要です。』と教えてあげるのです。
単年で判断せず複数年で判断することが重要だと理解してもらいます。
下記の表は、さきほど査定した1Kマンションの家賃設定にもとづき、5年間の収益とキャッシュフローの推移を表したものです。
初年目と2年目の空室ロスは5%とし、運営費は「あるべき賃料の20%」で計算しています。
年間の実際収入は745万円と計算されます。
借入は6,600万円とし25年返済・金利2%とします。
年間の負債返済額は335万円となり、差し引きした税引き前キャッシュフローは410万円という結果です。
月額キャッシュフローは34万円となります。
3年目と4年目は賃料が新築時より5%下がると設定し、空室ロスを10%に上げています。
この結果は年間の実際収入は660万円、税引き前キャッシュフローは325万円と低下します。
最後の5年目のシミュレーション結果は、これ以降経営が厳しくなることを予感させます。
賃料が新築の10%ダウン、空室ロスは10%で変わらずとしましたが、実際収入は625万円となり、キャッシュフローは290万円になりました。
この結果をオーナーはどのように判断するでしょう。
オーナーにとっては新築時の家賃設定よりも、むしろ複数年間の収益やキャッシュフローがどのように推移するかのほうが、とても興味あるデータであると思います。
オーナーから管理委託を受けようとする管理会社が、このような将来的に不安要素のあるデータを示すことはありません。
オーナーにとっては「漠然と感じていた不安」を、客観的なデータで明らかにされたことに、驚くとともに指摘してくれた相手に対する信頼感が増していきます。
このような切り返しを準備し、新築する賃貸物件のオーナーにアプローチしてみてはいかがでしょうか。