
既存物件のオーナーにアプローチすると、築年数の古い物件の管理を任されることが多くなります。
空室が多く設備の故障やクレームなど管理に手間のかかる物件ほど、管理委託をしようと考えるからです。
しかし古い物件をそのまま預かると、入居者募集と管理に苦労するのは目に見えています。
そこでオーナーには経営状態を改善できる重要な提案をしましょう。
リノベーションのプランニング
古い物件の管理が増えると、管理物件の平均築年数はさらに高齢化を促進します。
管理会社にとって管理物件の高齢化はよいことではありません。
そこでオーナーには新たな投資をいただき、物件の競争力を高めるよう “再生” することを提案します。
つまり「リノベーション」の提案です。
ここではオーナーに提案するリノベーションの企画について解説します。
ターゲティング
リノベーションのプランニングでまずやるべきは「ターゲット」の絞り込みです。
「誰に暮らしてもらうのか」という入居者像を明確にし、絞り込まなければなりません。
たとえば2LDKの住戸タイプで考えてみましょう。
2LDKのターゲットはカップル層やファミリー層となります。
新築の場合の計画であればこの程度の入居者像でかまいませんが、築年数の古い物件をリノベーションする場合には、このような新築と同じ入居者像の絞り込みでは勝てません。
もっと細かな設定をし、ターゲットの絞り込みをおこなう必要があるのです。
たとえば「新婚夫婦」や「DINKS」と絞り込むこともいいでしょう。
さらに「ペットを飼っている、あるいは飼いたい」という条件を付加するのもいいでしょう。
そうすると新築物件と比較してかなり特徴的で、ターゲットとなる客層にはストレートに響く部屋をつくることができます。
リビングルームのワーキングスペースや、玄関廻りの大きなシューズクロークやコート掛け、ペット専用の設備などターゲットのニーズに合ったデザインが可能です。
さらに内装材のデザインやカラーコーディネイトも、暮らす人をイメージするからこそさまざまなアイデアが浮かんでくるでしょう。
新築であれば10人中8人に響くようにと考えますが、リノベーションでは10人いれば2~3人に響けばよいという「強い特徴」をもたせるほうが効果的です。
予算設定
工事にかける費用をどうするか?
リノベーションのプランニングでは予算の掛け方が重要です。
リノベーション費用の目安は、ターゲットが支払える家賃の24か月分あるいは36か月分と、家賃からの回収を前提とした考え方をとります。
回収目標を掲げることにより上限予算を設定し、その範囲内でターゲットにした入居者に「選んでもらえる部屋づくり」を徹底します。
間違ってはいけないことはオーナーの希望でもなければ、デザインする担当者の思い入れでもありません。
そして予算額は2~3年で回収できるかどうかがポイントになります。
さらに「2~3年での回収」がオーナーに対して提案する時の説得力にもなるのです。
リノベーションを提案
プランニングができたらオーナーへの提案です。
リノベーション案の付加価値を上手に訴えるのですが、そのままなんの工夫もせずに提出すると、オーナーは心に響く部分はあっても疑問が残るはずです。
それは「選択肢は、これしかないのか?」という疑問です。たとえば家賃の値下げとか、お金をかけないリフォームだとか、築古物件に相応しい方法があるのでは?といった疑問が生じます。
オーナーへの提案ではこの疑問に答える準備が必要です。
ではどのように答えるのがよいのでしょう?
そのためにはオーナーに示すシミュレーションを数種類用意するのです。
つまりメインの提案だけではなく、必ず「代替案」を用意しておきます。
ではどのようなシミュレーションがよいのでしょう?
このとき用いるのが「キャッシュフローツリー」の算式です。
あるべき賃料収入 | |
△ | 発生したロス |
実際の収入 | |
△ | 運営費 |
営業収益 | |
△ | 負債返済額 |
税引き前キャッシュフロー |
この算式をもとにリノベーション提案のシミュレーションを作ります。
シミュレーションは次の4つのパターンとします。
2.家賃の値下げで対応したときの収益とキャッシュフロー
3.一部屋あたり数十万円のリフォームをしたときの収益とキャッシュフロー
4.提案したリノベーション工事後の収益とキャッシュフロー
この4つのシミュレーヨンを見比べてもらうのですが、さっそく作ってみましょう。
サンプルは2DKで14戸のうち空室が7戸のアパートとします。
賃料は65,000円で募集中ですが、なかなか決まらず半分空いているという現状です。
【パターン1】
現状のままなので「あるべき賃料収入」は、65,000円×14戸×12か月=1,092万円となり、満室であればこの家賃が入ってきます。
実際は半分が空室のため「実際の賃料収入」は「あるべき賃料」の半分の546万円となります。
運営費は便宜上「あるべき賃料」の15%とし、163万8,000円になります。
実際の賃料収入546万円から運営費を差引くと、収益は382万2,000円の結果です。
ローンは完済されているとして、手元に残る「税引き前のキャッシュフロー」は収益と同じく382万2,000円となり月額では31万8,000円です。
ローン返済が終わっているとある程度のキャッシュフローがあります。
【パターン2】
値下げしたパターンです。
半分空室のため募集賃料を10,000円下げて55,000円とします。
入居中の部屋の家賃も値下げした家賃で計算します。
入居済の家賃を値下げする理由は、入居者に値下げしたことを隠し続けることはできないからです。
いつかは値下げ要求があり場合によっては退去することも予想されるため、55,000円に統一するシミュレーションが合理的というわけです。
「あるべき賃料」は下がるため、55,000円×14戸×12か月=924万円となります。
空室ロスは家賃を下げたことによる影響で、入居率が上昇し20%と設定します。
すると空室によるロスは、924万円×20%=184万8,000円です。
ロスを差引くと「実際の賃料収入」は、924万円-184万8,000円=739万2,000円となります。
運営費は空室率が改善されるため上昇します。
「あるべき賃料」の20%として、空室ロスの金額と同じ、184万8,000円と計算され、差し引きの収益は、実際の賃料収入739万2,000円-運営費184万8,000円=554万4,000円という結果です。
税引き前のキャッシュフローも差し引きの収益と同じで554万4,000円、月額にすると46万2,000円が手元に残ります。
【パターン3】
次はプチリフォームをしたシミュレーションです。
一部屋当たり30万円の予算で行います。
30万円あれば、たとえば和室を洋室に変更するリフォームや、すべてのクロスを貼りかえて照明器具を設置するなどのことが可能です。
シミュレーションでは全部屋をリフォームする前提で計算します。
募集賃料は現行のまま65,000円とします。
なぜなら半分空室の状態では、リフォームしたとしても賃料を上げることは難しいでしょう。
「あるべき賃料」は現行と同じく、65,000円×14戸×12か月=1,092万円のままです。
リフォームしたおかげで空室率は改善され、空室ロスは15%としてみます。
するとロスは、あるべき賃料1,092万円×15%=空室ロスは163万8,000円となります。
「実際の賃料収入」は1,092万円-163万8,000円=928万2,000円という結果です。
運営費は「あるべき賃料」の20%と設定すると、実際の賃料収入928万2,0000円-運営費218万4,000円=709万8,000円が差し引きの収益となります。
リフォーム工事費は30万円×14戸=420万円かかっており、全額融資を受けたと設定し、3年返済・金利2%で元利返済額は約140万円となります。
これが負債返済額として差し引かれます。
収益709万8,000円-負債返済額140万円=569万8,000円が税引き前のキャッシュフローであり、月額では47万5,000円となります。
ローンを返済している3年間は、値下げした場合のキャッシュフローとほぼ同じになります。
すると『リフォームせずに家賃の値下げでもいいのでは』と思いがちですが、これは1年間の結果だけであり正しい判断とは言えません。
3年経過しローン返済が終わるとキャッシュフローは709万8,000円となり、月額は59万円に増加するのです。
【パターン4】
本命のリノベーション案です。
一部屋当たり200万円かけてのリノベーションです。
やはり全部屋をリノベーションする前提で計算します。
ただし実際のリノベーション計画では、一度にすべての部屋を工事するのではなく、半分をリノベした後に既存の入居者を移動させ、空いた部屋をリノベするという2段階になるので注意してください。
リノベーション案ではターゲットを絞り込み、ニーズに合わせているので募集賃料は10,000円アップの75,000円とします。
「あるべき賃料」は増額され、75,000×14戸×12か月=1,260万円となります。
空室ロスも大幅に改善され50%から5%になると設定します。
すると空室ロスは、あるべき賃料1,260万円×5%=空室ロス63万円となります。
「実際の賃料収入」は、あるべき賃料1,260万円-空室ロス63万円=1,197万円です。
運営費は「あるべき賃料」の20%と設定すると252万円になるので、差し引き収益は945万円になります。
リノベーションに投じた費用は200万円×14戸=2,800万円です。年利2%で10年返済とすると、年間の元利返済額は約300万円となりますので、税引き前のキャッシュフローは645万円となり、月額53万7,000円となります。
シミュレーション比較
4つのシミュレーション結果を比較してみると、リノベーション案がもっとも収益・キャッシュフローともに優れていることがわかります。
4つを比較することにより、単に『リノベーションで200万円かければ75,000円で部屋が埋まります』と提案するよりも説得力が強くなり、複数の案をシミュレーションとともに提示すると、オーナーは判断しやすくなるのです。
オーナーから賃貸管理を受託するには、賃貸管理の内容を説明することが基本です。
しかしここまで紹介したように次の4つの切り口から入る方法もあります。
・新築中のオーナーの不安を解消する
・駐車場管理から居住用賃貸の管理に発展させる
・フルリノベーションを提案して管理につなげる
どの切り口から入るかは、対応できるリソースから戦略を立てていただきたいと思います。