
展示場にふらっとやってきた4人家族。30歳前後の夫婦に幼稚園児が二人。典型的な住宅第一次取得者であり、その多くが土地も一緒に探して建てるという層だと推測されます
夫は公務員で妻は専業主婦だとすると、世帯年収もさほどあるわけではありません。場所にもよりますが、土地からの取得だとかなり厳しいことが簡単に想像できますね。
もちろん自己資金が豊富にあるかもしれませんが、その多くが目いっぱいのローンを組んだり、両親からの援助に頼ることになるはずです。つまり、ある一定程度の親の影響があるとの推測が成り立つわけです。
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積水ハウスで学んだ『決定権者と影響者』は今でもはっきりと覚えている
25年以上昔の話ですが、筆者が積水ハウスに入社後に配られた営業マン用の分厚い手帳にこう書いてありました。
『住宅営業で大事なのは決定権者と影響者の両者を見ることである』
『両親を無視しての折衝はおろか極まりない行為である』
決定権者とは目の前にいる施主となる家族のことで、影響者とはその背後にいる親のことを指しているのです。
折衝はもちろん目の前にいるお客さんと行うわけですが、親に相談をする可能性も考慮しなくてはいけないのです。
このことについて徹底的に研修やらロープレを行いましたが、いまでもその印象は強く残っています。そして、実際の折衝でも、常に背後にいる影響者である親のことを意識していました。
親の影響度合いはこの3点を押さえれば簡単に把握できる
② 親が土地を出すか?
③ 親が口を出すか?
これだけで十分でしょう。この3点を常に頭に入れながら、目の前にいる最終的には契約の意思決定をして印鑑を押す決定権者と折衝をするのです。
①親が金を出すか?
これは説明不要でしょう。自分たちだけの資金計画では厳しい場合はもちろんですが、親の方から積極的に資金援助を申し出るケースが結構見受けられます。
親バカもあるでしょうし、子供や孫への影響力を残しておきたいという気持ちも働くと私は読んでいます。
②親が土地を出すか?
これも要注意。住宅営業に携わる人間であれば、接客するお客さんの80%前後が土地を探していることはわかっているはず。そして、土地から探して家を建てることがいかに大変かも理解できるでしょう。
この状況にあるお客さんの親が土地を所有していれば、その土地に建築する可能性が出てきます。
問題はここからです。
親が土地を出せば親の意見も業者決定に反映される可能性が高くなるのも当然のこと。違うケースもあるでしょうが、基本的にはこう考えるべきです。となると、目の前にいる家族だけではなく、背後にいる親の影響もしっかり押さえなくてはいけません。
“押さえる”とは親へのプレゼンテーションも必要だという意味です。直接会ってプレゼンテーションをするのもいいし、子供夫婦を通じて親にプレゼンテーションをしてもいいのです。
③親が口を出すのか?
最後もとても重要なチェックポイント。
金も出さないし土地も出さないのですが、子供たちの家づくりに口を出さないと気が済まない親もいるわけです。
ある意味、口を出す親が一番厄介かもしれません。私の経験談を一つお話ししましょう。
市役所の税務課に勤めるKさんとパート勤務の奥さん。お子さんは幼稚園児の長男一人。
このお客さんの両親は金も土地も出さないのですが、口をとんでもなく出してくるのです。
ご主人のお父さんだったのですが、この方がとにかく契約をさせない気満々だったんですよね(笑)
「プレハブ工法というのは信用できない」
「家は木造に限る、鉄骨などもってのほか」
「家相を考えていないこんなプランは一家に悲劇をもたらす」
こんな感じだったのですが、一番困ったのが最後に書いた家相のこと。
住宅営業をしていてもっとも厄介な事案の一つが家相。ここに踏み込まれるとどうしようもなくなります。もちろん、私もある程度の知識はありますが、お父さんの知識と意気込みには歯が立ちません。
最終的には契約できましたが、この案件だけは今でも思い出すくらい強烈なインパクトがありました。
お父さんをどうやって説き伏せたか?
ところで、どうやってこのお父さんを私が説き伏せたかをお教えしましょう。
プレハブ工法に対する憎悪ともいえる殺気さえ感じたお父さんでしたので、契約に至るまでにはこのあと2回の余分な折衝をする羽目になりました。そして1回目は堂々巡りとなったのですが、そこで一計を案じ作戦を立案。その作戦がまんまと嵌って大逆転勝利となったのです。
「孫を利用すればいいんだ!!」
お施主さんの息子であるS君。お父さんから見れば孫にあたりますが、ご主人からこんな提案があったのです。
「いいことを思いついた!Sを利用すればいいんだよ!」
S君を利用?この時に私はいい勉強をさせてもらったのですが、古今東西において孫の存在は目の中に入れても痛くないものでしょう。その孫を利用しようとお客さんから提案があったのでした。
「おじいちゃんへ。どうしてせきすいはうすではダメなのですか?(中略)そんなおじいちゃんはきらいです」
どうですか?(笑) この手紙が効果てきめん。一発でおじいちゃんは陥落したのです。
孫を利用するのは住宅営業のテクニックであることに気づく
「なるほど・・・」と私は思いましたね。それ以後はこの手法を多用しました。この手法と言っても手紙ではありませんよ。
たとえば12月末に展示場へ来場者があり、私が接客したとしましょう。その時は、施主である30歳前後の一般的な夫婦だったとします。そして、小さな子供連れているという状態です。
この時に一般的な接客をするのですが、頃合いを見計らって話をこう振っていくのです。
「年末年始にご実家に帰省されますか?規制されるならばこの資料を是非お父さんお母さんにお渡しください」
こうしてちょっとした資料を渡すのです。
この中には【弊社がいかにお孫さんのことを考えた家づくりをしているか】をびっしりと書き込んだものを入れてあるのです。
勉強をしやすい環境、友達を呼んでワイワイやれる、賢く育つような仕掛け・・・などなどです。さすがに賢く育つような仕掛けに関しては強引な理屈で持っていったわけですが、この資料が効果を発揮したのです。
まとめ
おじいちゃん、おばあちゃんを狙え!との趣旨がお分かりになったでしょうか。住宅営業は目の前にいる契約者本人だけを相手にしていてはダメなのです。
そこには隠れたおじいちゃん、おばあちゃんがいて、まったく干渉しないケースもありますが、往々にして厳然たる影響力を持つことも多々あるのです。
住宅営業マンに伝えたいのですが、この記事を読んだ後の接客では必ずこう聞いてください。
「この計画のことをご両親もご存知ですか?」
「弊社〇〇ホームで家を建てるとご両親にお伝えしたら賛成されますかね?」
この2つについて私はよく使いました。この質問をすれば、ある程度の状況が把握できると思います。