建築基準法 – 役所調査マニュアル[実践編]

用途地域と用途境

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』 『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

監修者

宅地建物取引士
公取協認定不動産広告管理者

野村 道太郎(プロフィール)

ここまでにも、何度か登場してきた用途地域。それくらい役所調査を語る上では外せない主役級です。市街化区域の中を用途ごとに切り分けていくもので、大きくわけて住居系・商業系・工業系の3種、それぞれをさらに細かくしていき全13種が存在しています。(ちなみに、どれにも属さない「用途地域の指定なし」という地域も存在しますので、それも数えると14種になります)

上記の( )内は実務で接する機会の多い略称です。都市計画図などでは文字数が邪魔になるため短い表記が好まれ、2文字程度まで省略されることが多いですし、窓口でのやり取りもプロ対プロということでガンガン略称が飛び交います。入門編で紹介した呪文の一節目「イッテーソー」は「第1種低層住居専用地域」の最もポピュラーな略し方です。

さて、各用途地域では地域ごとに建てても良い建物の用途等が決められています。一番左上にある「第1種低層住居専用地域」が閑静な住宅地で、右下に行くにつれ徐々に建物の規模が大きく、用途は「静かに暮らす」「子育て」にはあまり適さないと思われる用途が解禁されていくイメージです。最後の工業専用地域にいたっては「危険性が大きいかまたは著しく環境を悪化させるおそれがある工場」も含めた全ての工場が許される反面、住宅や教育施設の建築はできなくなり、もはや住まないことを前提にします。

調査地がどの用途地域なのかは、基本的に都市計画図を閲覧した時点で確認ができるので、実務においては都市計画法と同時に調査することになると思います。調査したい土地が都市計画図(または用途地域図等)で何色なのかを見て、該当する用途地域を確認します。ちなみに、市区町村によって細かな色は違いますが経験上、住居系は緑から徐々に黄色に、商業系は赤系統、工業系は紫が多いように思います。

役所調査の時点では用途地域については「どの用途か」さえ確認できれば十分です。より細かな規制については、後ほど紹介する調査項目を確認すれば自ずとわかるからです。しかし、用途地域の確認でも厄介なケースは存在しています。それは「2種以上の用途地域にまたがっている場合」です。


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用途境

都市計画図がカラフルなことからわかるように、1つの市区町村の中でもいくつもの用途地域が混在していますから、当然異なる用途が隣り合う境界線もそこら中にあります。ですから2種以上の用途地域にまたがってしまう土地もそこら中にあることになります。そしてこういった「異なる用途地域にまたがる場合」を実務では「用途境がある」「用途境界がある」「2用途にまたがっている」といったように表現します。(本マニュアルでは「用途境」とします)

調査で用途境を見つけた場合、各用途地域の種類と範囲を特定しなければなりません。解説用に参考画像を用意しましたのでご覧ください。

[参考画像:港区用途地域地区等図]

まず、そもそも参考画像の狭い範囲ですら6色もあり「異なる用途が隣り合う境界線はそこら中にある」というのがおわかり頂けたかと思います。さて、画像を横断している赤色のゾーンにご注目いただきまして、その中に茶色の線が見えるでしょうか。これは都市計画道路の計画線で、線に沿って道路番号が記載されていますので「都道412号線」であることがわかります。

次に赤いゾーンと、他の色の境界にあたる赤線にご注目ください。この赤線と茶色の線をよくみると、2色の線は並行しているのがおわかりいただけるでしょうか。さらに詳しく解説したいので参考画像内の赤い点線で囲われた範囲を拡大していきます。

画像左下の青い四角をみると、道路端から垂直に伸びる線があり「30m」と書かれていることを確認できます。これは赤線が「都道412号線の道路端から30mの位置」で並行していることを示しています。また、画像の下側中央をみると「商業」の文字がありますので、赤いゾーンは商業地域ということもわかります。

ではそろそろ用途境のサンプルを示したいので赤丸で囲われている「建築中」と書かれた建物にご注目ください。それはもうわかりやすく「建築中」の文字を割るように用途境がありますね。南側の赤い範囲は商業地域でした。北側の緑色の範囲は画像左側に「二中高」とありますから「第二種中高層住居専用地域」であることがわかります。

これで2種の用途地域について種類と境界線の位置を特定できましたが、安心するのはまだ早いです。この物件の用途地域は2種ではありません。

物件の右上を見ると僅かながら黄色い部分があることがわかります。図の右上に「一住」とありますのでここは「第一種住居地域」です。また、赤丸の直上にある緑色の四角を見れば、道路端から30mまでが第一種住居地域であることもわかります。ちなみに画像内には記載がありませんが、北東側の通りは環状3号線であることが、画像の範囲外に記載されていましたので、各用途地域の種類と範囲をようやく特定できました。

この物件の用途地域は下記の3種です。

 A:都道412号線の道路端から30mの範囲 = 商業地域(赤)
 B:環状3号線の道路端から30mの範囲 = 第一種住居地域(黄)
 C:AおよびB以外の部分 = 第二種中高層住居専用地域(緑)

今回のサンプルのような大通り沿いでは、用途地域の境界線が道路と並行することが多いだけでなく、規模の大きな建物も多いので、用途境を見つける機会も多いでしょう。ただ全ての場合で「道路端」が起点になるわけではないので注意が必要です。「道路中心線」を起点とする場合や、実際にはまだ道路が存在していなくとも「都市計画道路の計画線」を起点とすることもあります。様々なパターンがありますので、間違いのないよう慎重に確認しましょう。

続いて、先程の画像の少し東側に面白いサンプルがありますので、少しずらしてみます。

画像内の赤丸のなかを「◯」が3つ書かれた赤線が縦断しているのが見えるでしょうか。これも用途境で、道路中心線を起点としているものです。途中で屈曲していますが、都道412号線の南北にある道路それぞれの道路中心線を都道412号線まで伸ばし、都道412号線に接した地点で止め、その2点を結ぶとこのような線になります。

このサンプルが面白い点はまだあります。先程示した用途境が都道412号線を通過している部分をご覧ください。「用途境」と申し上げましたがその左右は全く同じ赤色、つまり同じ商業地域です。「同じ商業地域なのになぜ用途境なのか」その答えは画像内をよく見ると書かれています。左側の「商業」という文字の上には「600」という数字が記載されているのに対し、右上側は「700」となっています。この数字は後ほど説明する「容積率」という規制値を示したものです。左右はたしかに「商業地域」という点は共通しているものの、「容積率600の商業」と「容積率700の商業」という条件の異なる用途地域なので、やはり間を通る赤線は用途境なのです。

用途境は本当に様々なパターンがありますし、都市計画図を閲覧しただけでは中々読み取れないような厄介なものも多いです。また、仮に閲覧しただけで特定ができそうな場合こそ注意が必要で、本当に合っているのか、必ず役所の窓口で確認をすることを推奨します。万が一、勘違いしたまま重説を作成してしまった場合に、購入した人が「建てようと思っていた建物が建てられない」なんてことになれば、とんでもないことになります。役所調査における確認作業は、慎重過ぎるくらいが丁度いいのです。

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監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、不動産専門 広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

※実績等:初心者向けセミナー「よくわかる役所調査」受講者アンケート結果:満足度96.3%、全国3,000社が利用した「役所調査チェックシート」企画・制作、業務効率化ツール「スマホで役所調査メモ」企画・設計・監修 など

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