契約終了後も賃借人が立ち退かない。強制執行の流れとは?

賃借人と立ち退きを合意し、賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃借人が退去しない場合、どのようにして建物を取り戻せば良いのでしょうか。

このような場合、民事執行法に基づいて強制執行の手続きを取ることになります。

強制執行には踏まなければならないステップがたくさんあるため、慣れていないと戸惑ってしまう部分もあるかもしれません。

この記事では、強制執行の手続きの流れや、強制執行にかかる費用などについて詳しく解説します。
この機会に、強制執行とはどういうものか?ということについてのイメージを持っておきましょう。

 

執筆者紹介
大手法律事務所にて弁護士として金融法務に従事。
退職後にフリーライターとしての活動を開始。
法律・金融関係の執筆を得意とし、企業媒体への寄稿を中心に幅広く記事を提供。
条文・文献・実務経験等に依拠した、確固たる根拠に基づく執筆を持ち味とする。
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趣味は将棋。

1. 建物明け渡しの強制執行の流れ

建物明け渡しの強制執行の流れについて、順番に見ていきましょう。

1-1.明け渡しの確定判決を得る

まずは、賃借人に対して建物明渡請求訴訟を提起し、勝訴判決を得ましょう。
そして、勝訴判決が確定するのを待ちます(控訴されなければ、判決の言渡しから2週間で確定。)。

建物明渡請求訴訟の流れについては別の記事で解説しているので、詳しくは以下のリンクを参照してください。

➡︎立ち退き時に賃借人が原状回復をしなかった場合、費用を請求できる?

1-2.確定判決の正本に執行文の付与を受ける

勝訴判決が確定してもなお、賃借人が任意に建物を明け渡さない場合は、いよいよ強制執行の手続きを取ることになります。

強制執行は「執行文の付された債務名義の正本」に基づいて行われます(民事執行法第25条)。

債務名義とは、強制執行の根拠となる書面と理解しておけば良いでしょう。
確定判決は債務名義の一つです(民事執行法第22条第1項第1号)。

ただし、勝訴判決が確定した段階では、確定判決の正本には執行文が付されていません。
そのため、裁判所に対して執行文付与の申立てを行う必要があります。

執行文付与の申立てを行うと、裁判所書記官が確定判決の正本に執行文を付与してくれます。

1-3.裁判所から送達証明書を取得する

強制執行は、賃借人に対して、債務名義である確定判決の正本が送達されている場合に限り行うことができます(民事執行法第29条)。
その関係で、裁判所発行の送達証明書が、強制執行を申し立てる際の添付書類となっています。

裁判所に申請を行い、送達証明書を予め取得しておきましょう。

1-4.強制執行の申立てを行う

執行文の付された確定判決と送達証明書が準備できたら、裁判所に対して強制執行の申立てを行います。

管轄裁判所は、明け渡しの対象となる建物の所在地を管轄する地方裁判所となります。

1-5.執行官との打ち合わせ

強制執行の申立てから数日後、執行官との打ち合わせを行います。

打ち合わせにおいては、明け渡しの決行日や執行補助者(荷物を搬出、保管する業者)の選定などについて話し合われます。

1-6.明け渡しの催告

強制執行に先立って、賃借人が任意で建物を明け渡す最後の機会を与えるため、明け渡しの催告が行われます(民事執行法第168条の2第1項)。

催告に伴い、賃借人には強制執行の日時が伝えられることになります。
なお、鍵業者を伴って行くので、賃借人がインターホンに応答しない場合などにも、強制的に開錠して催告を行うことになります。

1-7.明け渡しの断行(強制執行)

明け渡しの催告を受けても、引渡し期限までに賃借人が建物を明け渡さない場合には、強制執行が断行されることになります。

その際、家具などを搬出した上で、鍵の付け替えが行われます。

最後に執行官より賃貸人に新しい鍵が手渡され、強制執行は完了となります。

2. 強制執行にかかる費用は?

強制執行にかかる費用は、基本的に賃貸人が負担することになります(もっとも、後から賃借人に対して、強制執行にかかった費用の損害賠償を請求することは可能です。)。

強制執行にかかる主な費用について解説します。

2-1.執行予納金

強制執行の申立ての段階で、強制執行に必要な費用として裁判所書記官が定める金額を予納しなければなりません(民事執行法第14項第1項)。
不動産の明け渡しの場合、裁判所によって異なりますが、5万円から7万円程度です。

なお、最終的に強制執行にかかった費用を精算する際には、予納金が賃貸人の支払うべき費用に充当されます。

2-2.明け渡しの催告の際の鍵業者代

明け渡しの催告の際に同行する鍵業者を雇う費用が必要となります。
業者にもよりますが、2万円から3万円程度が多いです。

2-3.執行補助者へ支払う費用

強制執行が断行される場合、荷物の搬出や管理を行う執行補助者に対する支払いが必要となります。
金額は物件の面積や業者によって異なりますが、少なくとも数十万円の支払いが必要になると思われます。

2-4.弁護士費用

強制執行の手続きについて弁護士に依頼する場合には、弁護士への依頼費用がかかります。

費用の形態は弁護士事務所によって異なりますが、多くの弁護士事務所では着手金・成功報酬の二段階制を取っています。

不動産の明け渡しの場合は、着手金が10万円前後、成功報酬が10万円~40万円程度が多いようです。

弁護士費用は弁護士事務所によってかなり幅がありますので、複数の弁護士事務所を比較検討するのが良いでしょう。

3. まとめ

強制執行ができる段階まで来たら、立ち退き問題の解決まであと一息です。

手続きの流れや費用についての具体的なイメージを持って、正しく手続きを進めていきましょう。

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