工務店を開業するにはどのような方法があるのか、許可の必要性や必須の資格など、事業のスタートに最低限かかる費用はどのくらいになるのでしょう。
「住まいづくりは幸せづくり」……2009年にPHP研究所が出版した文庫本、会社の理念となり朝礼で社員全員が読むことも多いと言います。
住まいづくりは夢のある仕事、住宅や建築に係るビジネスマンなら、独立を目指そうとするのも当然です。
独立を目指す建築工事経験者から未経験者まで、準備しておかなければならないモノや考え方をお伝えします。
工務店を開業する方法は?
工務店は産業分類として「建設業」に該当し、中分類は「総合工事業」でありさらに細かく次の3種類の工事業に分類されます。
- 建築工事業(木造建築工事業を除く)
- 木造建築工事業
- 建築リフォーム工事業
木造建築から鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建築物を、新築しリフォームするなどの工事をおこなう工事業者を「工務店」と称します。
開業するには法人を設立することも可能ですし、個人事業でもまったく問題なく開業できます。
開業にあたっては資格や免許はとりあえず必要なく、仕事さえ受注できる方法があれば誰でも開業できます。ただし請負できる工事金額に上限があり次のように定められています。
建築一式工事の場合は1,500万円以上、一式工事以外の場合は工事金額が500万円以上の工事を請負うには、建設業法にもとづく建設業許可を受けなくてはなりません。
建築一式工事とは、複数の下請け工事業者が専門工事を担当し、総合的に工事を進め監督する立場で行なう規模の大きい複雑な工事のことです。一般に建築確認申請が必要な工事を言います。
一式工事以外の工事とは、大工工事や左官工事など専門的な工事で、一式工事のような複雑で複数の下請工事業者を必要するような工事ではありません。なお建築一式工事に対する建設業法の許可工事名は「建築工事業」になります。
ポイント工務店として開業しすぐに工事を受注するには、ゼネコンやサブコンの下請工事業者としての関係を作るか、発注する企業や個人との信頼関係を作っておく必要があるでしょう。
工務店開業時に許可を取るには?
工務店の開業に必要なものは、建設業許可を受けるか受けないかによって異なります。ここでは許可を受ける前提で必要なものについてお話しします。
建設業許可を取得するには建設業法で定める要件を満たさなければなりません。
また建設業許可には「一般建設業」と「特定建設業」があり、工務店をはじめて開業するケースでは「一般建設業」がほとんどのため、特定建設業に関しては割愛します。
経営業務管理責任者
工務店には常勤役員として次の要件の1つを満たす「経営業務管理責任者」を1名置くか、経営管理業務を適正に行える体制を整備しなければなりません。その要件と体制は以下のとおりです。
- 建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験
- 経営業務管理責任者に準ずる地位にあって、5年以上の経営業務の管理をした経験
- 経営業務管理責任者に準ずる地位にあって、6年以上の経営業務管理責任者の補助をした経験
- 経営業務の管理について次のA、B どちらかの体制が整備できること
A | B | |
常勤する役員等の要件 | 建設業に関し2年以上の役員としての経験かつ、5年以上役員等か役員等に次ぐ職制上の地位(財務管理、労務管理、業務運営の業務)にあった経験者 | 5年以上の役員等としての経験かつ、建設業に関し2年以上役員等としての経験者 |
常勤する役員を補佐する者 | 建設業に関し5年以上の業務経験(財務管理、労務管理、業務運営の業務)のある者が、当該担当役員等を補佐する |
経営管理責任者としては[1]~[3]のいずれかを満たすこと、要件が満たせない場合は[4]に示す管理体制を整備することが求められます。
まったく新しく工務店を開業する場合、[4]の管理体制の整備はむずかしく、経営業務管理責任者の要件を満たす人材を、設立当初からビジネスパートナーとして加える必要があります。
経営業務管理責任者を置けない場合は、5年間、無許可業者として建設業を営み、代表者もしくは役員が経営業務管理責任者の要件を満たしたのち許可申請を行なうことになります。
その場合、建設業を営み経営管理業務の経験を証明するため、工事請負契約書や注文書などの保存が望ましいです
専任技術者
工務店の営業所ごとに「専任の技術者」を置かなければなりません。
専任技術者の要件は以下のとおりです。
- 高等学校卒業後5年以上、大学卒業後3年以上の実務経験があり、在学中に建築学または都市工学に関する学科を修了している者
- 専門学校卒業後5年以上の実務経験があり、在学中に建築学または都市工学に関する学科を修了している者
- 専門学校卒業後3年以上の実務経験があり、在学中に建築学または都市工学に関する学科を修了しており、専門士又は高度専門士を称する者
- 許可を受ける建設業に係る実務経験が10年以上の者
- 1級施工管理士・2級施工管理士・1級建築士・2級建築士のいずれかの資格を有する者
500万円以上の預金
請負契約を履行できる財産的基礎あるいは金銭的信用が必要であり、純資産額が500万円以上なければなりません。
貸借対照表の純資産合計が500万円以上となっているか、もしなっていない場合は銀行預金の残高証明書の提出が求められます。
新設法人の場合は資本金が500万円以上であれば、残高証明書の必要はありません。
欠格要件に該当しない
建設業の許可基準には欠格要件が定められており、対象者は事業主本人と支配人や使用人(建設業法施行令第3条)、法人の場合は役員等と使用人(建設業法施行令第3条)などです。
主な欠格要件は以下のとおりとなっており、上記の対象者が該当する場合は許可を受けることができません。
(初めて許可申請をする場合に該当する要件に絞っています。)
- 暴力団員または暴力団員でなくなってから5年経過しない者
- 暴力団員などが事業活動を支配する者
- 禁固以上の刑を受け執行されたか、または執行を受けることがなくなってから5年経過しない者
- 建設業法や一定の法律に違反し罰金刑に処せられ、刑の執行が終了または執行を受けることがなくなってから5年経過しない者
- 成年被後見人および被保佐人や破産手続き開始の決定を受けて復権していない者
社会保険の加入
法人または従業員が5人以上いる個人事業主は社会保険に加入しなければなりません。
このような強制適用事業所が建設業の許可申請をする場合、社会保険加入が必須となっています。
建設業者が加入手続きをする社会保険は次の3つです。
- 雇用保険
- 健康保険
- 厚生年金保険
また建設業許可申請にかかわらず労働保険(労災保険)への加入は義務になっています。上記3つの社会保険に加えて労働保険の加入も忘れられません。
建設業許可申請の方法
建設業許可を取得するにはご自身で手続きすることも可能ですが、時間が取れない方やこのような事務手続きが苦手な方は、行政書士に依頼することもできます。
手続きの代行を依頼しても現在は費用が透明化されており、あらかじめ予算を立てておくこともでき、費用もリーズナブルなので行政書士に依頼するケースは多いと思われます。
工務店開業時に必要なものは?
工務店開業にあたって実際の業務に必要なツールや、工事を受注できる見通しが立てられる実践的な営業戦略を準備する必要があります。
業務に必要なもの
開業準備としては実務に使うさまざまな道具や器具類および車両、そしてコンピューターアプリケーションや書物も必要です。
- トランシット、レベルなどの測量機器
- シュミットハンマー、木材水分計などの測定機器
- 建築基準法、都市計画法、建設業法など建築工事に係る法律書
- 建築工事共通仕様書、建築施工管理技術マニュアルなどの図書
- 施工管理に必要な各種アプリケーションとパソコンやモバイル機器
- 営業エリアの住宅地図帳
- 小運搬用のトラック
- 事務所および資材仮保管用倉庫
ざっくりと列記すると以上のように各種必要なものがあります。工事に必要な機材類は下請を依頼する各工事業者や職人所有のものを使用するので、工務店として準備する工事用機材はほとんどありません。
工事現場では資材が残ることが多く、別の現場で使えるよう一旦持ち帰って保管するため、運搬用のトラックと倉庫があると大変重宝します。
また最近は「ANDPAD」に代表される施工管理アプリが使われており、業務の効率化と確実性を高めるには欠かせないツールで必ず準備したい重要アイテムです。
営業に必要なもの
工事の受注がなければ工務店の経営は成り立ちません。
どのような分野で、どのような顧客を対象にした営業活動を行うのか、開業にあたってもっとも大事な経営戦略をしっかりと立てなければなりません。
- 個人住宅を対象としたリフォーム工事
- 新築住宅をメインとした注文住宅
- 不動産業者を顧客とする建売住宅の施工
- ハウスメーカーと提携を図ったアフターメンテナンスとリフォーム事業
- 再生マンション専門のリノベーション事業
- 古民家や空き店舗の再生事業を専門としたリノベーション事業
など得意な分野や関心の高い分野に絞り込むか、ジャンルを絞り込まず注文があれば、すべてに対応していこうといった考え方もあるでしょう。しかし間口を広げると経営リソースが分散する傾向があり、開業初期はある程度的を絞った営業展開が望ましいでしょう。
ターゲットを絞り込むことにより、営業展開を図るべきターゲットのリスト化や、広告メディアの選択をより現実的に考えられます。
工務店開業時の費用は1000万円以上あると良い
工務店開業にあたって必要な費用を試算してみましょう。
あくまでも一例ですので実際の計画にあたっては、それぞれ相手先からの見積書などで確認してください。
項 目 | 摘 要 | 金 額 |
会社設立費用 | 法人登記や保険関係の手続き | 30万円 |
建設業許可申請 | 行政書士代行 | 10万円 |
事務所取得費 | 敷金・保証金など契約時費用 | 100万円 |
車両取得費 | 200万円 | |
事務所備品類 | 50万円 | |
運転資金 | 500万円 | |
その他 | 建設工事保険料や予備費 | 110万円 |
合 計 | 1,000万円 |
ざっくりですが1,000万円は必要と考えてよいでしょう。
法人であれば資本金を1,000万円で設立します。すると建設業許可申請においては純資産500万円がクリアできます。
さらに建築工事は工事着手から完成まで期間があり、仕入れする資材や下請会社への外注費など、立替払いをしなければならないことが一般的です。
そのため資金手当てが必要になり、金融機関からの短期資金借入ができる状態にしておかなければなりません。
取引金融機関の開拓など、開業時には必ずやっておかなければならない最重要課題です。
まとめ
工務店を開業するには、当初から建設業許可を受ける必要はありません。無許可でも受けられる仕事はあります。
信用を得るために許可が必要という考え方もありますが、許可の前に、信頼されるに足る技術力と「住まいづくりは幸せづくり」と真に思える理念が大切なことです。
資金面では最低1,000万円は準備したいところです、立替え払いの多い建設業は資金不足による黒字倒産もあり得る業界です。
開業するのであれば、共通した理念により集まった数人が資金を出し合い起業する……といった方法もおすすめです。