RSC(不動産情報サイト事業者連絡協議会)の調査によると、不動産購入のお客様が訪問する不動産会社数は、平均2.5社。
自社に買主様が相談に来られたとすると、あと2社に訪問していることになります。
5社以上に訪問しているお客様もおおよそ18%います。
買主様は住替え先の物件を探しに来られますが、「担当でございます」と現れた営業担当者に対して「この人はどんな人かな?」という感情も持たれるでしょう。
人は初めて会う人に「警戒心」を抱きます。
皆さんが飼われているペットも、飼い主である皆さんには擦り寄ってきますが、見たことのない人が来るとネコちゃんはさーっと隠れたり、ワンちゃんは吠えたりします。
それと同じです。
人間ですから、吠えたり、隠れたりはしませんが、「この営業はどんな人かな」、「経験はあるかな?」、「知識は豊富かな」、「無理やり物件を押し付けてきたらどうしよう」など、様々な感情を抱きながら、私たちの発言や提案を聞いています。
よって、最初にお目にかかった際に、お客様の警戒心のハードルを下げることができれば、その後の面談がフレンドリーな雰囲気で進行させることができます。
フレンドリーな雰囲気であれば、買主様は私たちからの質問にも答えてくださいますし、場合によってはお悩みや相談が寄せられるかもしれません。
では何をすればいいでしょか?
今回は具体的かつ現実的にできる手段についてご説明させていただきます。
自己開示(自己紹介プロフィール)
不動産仲介営業である程度の成績を出されている方の多くは、自己開示や能力開示と言われることを意識的にされています。
例えば「自己紹介プロフィール」。
A4サイズ1枚に自己紹介を面白おかしくまとめて、名刺を渡したあとにお時間をいただいて数分自己紹介タイムをいただける環境を作ります。
超有名な生命保険の営業の方の書籍には、「名刺の裏にプロフィール」を入れるという一節がありましたが、彼の書籍がでるずっと前から、仲介営業の世界では行われています。
ただし、全員がしているわけではありません。
目的が理解できているごく一部の人だけが継続して行っています。
目的を理解せず、カタチだけ真似している会社は長続きせず、すぐに止めてしまいます。
類似性の法則
プロフィールにはお客様との共通点が見いだせるような内容にしておく必要があります。
出身地や出身校、家族構成や、飼われているペット、好きな食べ物、旅行に行った先などなどです。
ここで一つだけでもお客様が自分との共通点を見つけてくれると、そこから話がはずんでグッと距離が近くなります。
お客様が笑顔になってくれることもあります。
これをコミュニケーションの世界では「類似性の法則」などと表現することもあります。
当たり前ですが、「人は自分と共通している部分を持っている人に好感を持つ」ということですね。
「な~んだ、こんなことか。くだらねぇなぁ」という印象を持つ人が業界の約9割。
だからやらない。
だからトップセールスといわれる人は1割ぐらいしかいないのでしょうね。
お客様から「〇〇さんの家もネコがいるんだね。うちにも2匹いるよ」、「そーなんですね。これがうちのネコです(写真を見せる。もしくはプロフィールに記載しておく)」とペット談議で数分間雑談ができます。
意味のある雑談
お仕事ですから、お友達と話をしているような「雑談」では意味がありません。
「うちもネコがいるんだよね」と言ってくだされば、戸建かペット可のマンションを提案すべきお客様だと分かります。
「〇〇さんもランナーなんだね。私もフルマラソンを何度か完走したんです」と言ってくだされば、ご自宅の周辺でランニングができる環境があるエリアで提案したほうがいいかも知れないな。
「うちの子供も今2歳。〇〇さんのお子様はいつぐらいから歩きだした?」と質問されれば、それに答えながら、「このお客様は保育所(保育園)の情報も一緒に提供したら喜んでくれるかも知れないな」というヒントがいただけることもあります。
集客コストを無駄にしないために
例外なく、お客様と仲良くなった方が仕事はうまくいきます。
仲良くなったからと言って、それで購入していただけるほどこの仕事は甘くありませんが、仲良くなればお客様の背景が見えてきます。
お客様の背景がつかめない中で物件提案を行うことは、「この営業はピントはずれているな」と思われるリスクを含んでいます。
この業界で、新人さんはエリアの知識や物件知識も乏しく、相場観もなく、質問スキルも身についていない状態で接客を始めます。
「間」が持たないので、販売図面(物件資料)に逃げたくなり、お客様の背景が分からない状態でバシバシ販売図面を出し続けます。
100回に1度くらいはピッタリと行くこともあるでしょうが、ほとんどの場合、お客様とのズレが発生し、何十万円もかけて集客をしたお客様を初回でダメにしてしまいます。
悪気はないのですが、どのようにアプローチをすべきか理解していないので、二度と会ってもらえない状態にしてしまいます。
もったいないです。
買主様の面談では、「自己紹介のプロフィール」以外にも準備をしておくべきツールがあり、それぞれの目的が決まっています。
その他のツール
その他のツールのひとつに「資金計画書」がありますが、資金計画に対する営業担当者の対応はいくつかのタイプに分かれます。
一例として資金計画に関する能力開示について考えてみましょう。
①資金計画ができない(やらない)営業担当者
買主様とお金の話ができないので、「銀行に相談してください」という対応になります。
不動産は高額で、買主様は長期の住宅ローンを返済しますので、不安に思う方も多くおられます。
初期段階では概算でも構わないので、ある程度の資金計画ができれば、「今の家賃並みで返済ができそうですね」と安心いただくことで商談は前に進みますが、資金計画ができないと、そこでお客様との商談が切れてしまうかもしれません。
営業にとっては致命傷です。
また、資金計画ができないと、住宅ローンを組めないお客様に対して一生懸命に追客をしてしまい、時間を有効に使えないということも発生します。
仲介営業は時間を有効に使えば使うほど生産性が上がります。
②ローン電卓の画面を見せるだけの営業担当者
営業担当者の中には、ローン電卓をパタパタと操作して、結果のみ画面で見せて「毎月の返済額は〇〇〇〇円です」などと説明する人もいます。
一般の消費者にとって、住まい(不動産)の購入は大きなイベントです。
家に帰って、ご主人様と奥様が住宅購入についてお話しをするでしょう。
今の預貯金を考慮しながら「どうしようか」と相談し合うこともあるでしょう。
それなのに、家に持ち帰ることができる資金計画の結果を書面で渡すことをせずに、画面を見せるだけで終わってしまう。
たぶん、お客様は家に帰るときには毎月の返済額を忘れてしまうでしょう。
「分かりにくい営業=不親切な営業」と思われると、次の面談はないでしょうね。
③ひとつのパターンしか説明しない営業担当者
お客様は住まいのためだけに生きているわけではありません。
お子様の教育、家族の余暇、親御様の介護など、家族によってお金の使い方には異なる優先順位があります。
ひとつのパターンしか提案しないということは、選択肢を与えないということです。
「自己資金は少なく、住宅ローンを中心に考えたい」、逆に「住宅ローンはできる限り少なくしたいので、自己資金を多めに入れて考えたい」、「月々均等返済とボーナス併用返済の両面から検討したい」など、お客様がご自宅で検討できるよう、さまざまな提案をしてあげることで、お客様はご自身の優先順位を考慮しながら、お住み替えの計画を立てることができます。
営業担当者が提案した資金計画が、お客様の優先順位にぴったりとはまればいいのですが、そうでない場合、「買えないね」、「もうしばらく賃貸でいいか」という結論になってしまうかも知れません。
④資金計画書に複数のパターンで資金計画を提案する営業担当者
上記②や③の通り、お客様はご自宅で色々な要素を検討し、住宅の購入に関するお金について検討します。
お客様の返済希望額、ご年収からの借入限度額、月々均等返済かボーナス併用返済か、自己資金の額は、などお客様のご要望をうかがって、それにあわせて複数の資金計画を提案することで、「うちはこのパターンがいいよね」とご夫婦で検討することもできるでしょう。
その他のツールとして「購入計画書」があれば、初めて不動産購入をされるお客様に分かりやすく今後のスケジュールやすべきこと等をご説明できるでしょう。
またご両親から資金的な援助を受けて不動産購入を検討しているのであれば、住宅取得資金贈与の特例について説明するために「税金ガイド」のような冊子も必要となるでしょう。
お客様から「次も会ってみたい」、「次も会ってもいいかな」と思っていただける対応をしないと競合他社に負けてしまいます。
まとめ
私たちは常に比較されています。
ネット時代。
多くの物件情報は公開され、共有されています。
どこの不動産会社でも同じような物件が提案されています。
そのような中で、お客様から選んでいただくために、会社や営業担当者の信頼性、資金計画の提案の質など、「他社と比べて分かりやすい」、「他社よりも親切」、「この営業担当の話は勉強になる」と思っていただける対応が、お客様との距離を縮め、契約に向けて時間を共有させていただけることにつながるのではないでしょうか。