小規模不動産仲介事業者やリフォーム会社など、社内の情報管理システムをどうすればいいか常に悩んでいる組織は多いのではないでしょうか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が盛んに使われ、導入した方がよさそうだとは思いつつ、実際のところ何から注力したらいいのか、なかなかよい方法が思い浮かばない。という経営者の声を耳にします。
この記事では、
・DX化の一歩。社内システムをどうしたらいいか?
・不動産業界のDX成功事例
・社内のDX化で注意すること
についてまとめていきます。
不動産業界のDX化の現実
ここ数年、多くの業界や企業で、IT化やデジタル技術を駆使した「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が推進されています。
DXとIT化を混同されている方が多いので、少し説明書きをすると
DX:情報やデジタル化を「手段」として、製品・サービス・ビジネスモデルの変革を進めるものIT化:業務効率化などを「目的」として、情報やデジタル化を進めるもの
という違いがあります。
コロナの影響も相まって、オンラインベースでビジネスを完結させる流れが促進しているにも関わらず、いまだに従来の商慣習から抜け出せず、遅れをとっているのが不動産業界と言われています。
DX導入の遅れは今後、企業の競争力や優位性を確立できない事態を招く非常に重要な観点であることはもはや疑う余地のないものになりつつあります。
日本の不動産業界のDX化の遅れについては、経済産業研究所「産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス」において日本の不動産業界はアメリカを100%とした場合、28.4%の生産性しかないというデータが載っています。
米国対比の日本の業種別労働生産性水準(2015 年)
「アメリカの生産性が高いだけだろう」と思った方もいるかもしれませんが、ドイツと比べても24.0%、イギリスと比べても31.8%しかありません。
ドイツ対比の日本の業種別労働生産性水準(2015 年)
イギリス対比の日本の業種別労働生産性水準(2015 年)
引用:産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス
また、日本国内の他業種と比べてみても、2019年時点の不動産業のテレワーク導入状況は25.4%にとどまっており、情報通信業や金融・保険業と比べて半分程度の低水準に位置しています。
引用:総務省 令和元年 通信利用動向調査報告書(企業編)
こうして見るとハードルが高いように思えるかもしれませんが、不動産業は、本来DXと相性が良い産業であると言えます。
その理由は不動産業は、情報産業の側面が強いからです。賃貸にしろ売買にしろ、不動産業は顧客のニーズに合う「物件情報」を紹介するところから商売がスタートします。
DXとは情報(データ)とデジタル技術を使って商売を変革することを指しますので、「不動産業と相性が良い」というわけです。
DX化の一歩。社内システムをどうしたらいいか?
今のSaaS時代においては、なるべく情報をワンストップでひとつのデータベースに格納することが、将来的な統合マーケティングや情報をつなげた分析、アプローチには欠かせない基本となる手法です。
不動産業界向けの専用システムも流通していますが、どうしても使い勝手が悪いといった声もよく耳にします。
そこで、重点的に考えていくことは
・顧客との取引履歴
・顧客情報
これらの情報を一元管理できるシステムを作ることです。
今までにあるデータやシステムを使ってもいいですし、最初から作るのでもいいですが、とにかく上記の情報を一元管理することでUPCYCLE(使わなくなったものをより良いものに変換して価値を高めること)の時代に備えていくことが重要です。
消費行動に関して言うと、今はどんどん売れない時代になってきています。
ミレニアル世代、Z世代を中心に、家で過ごす時間やモノを大切にする意識の高まりがコロナ禍以降特に顕著に見られ、自分らしさを重視して身に付けるものを選んだり、サステナブルを意識した消費行動によるものだと思います。
これは一般的なモノに限らず、不動産ももちろん例外ではありません。
これからの時代、鍵になってくるのはストックマーケットの中でひとりひとりの顧客の情報をどれだけ詳細に蓄積し、その都度ニーズに合わせた最適な提案・サービスができるか。
そしてその顧客からの購入件数を増やしていくことが大切になってきます。
大衆に対してや闇雲に売るのではなく1人のLTV(顧客生涯価値)をあげることが注力すべきポイントです。
CRM発想の不動産システム構築、それをもとにしたデジタルマーケティングの強化は今すぐ取り組むべきDXの一歩です。
不動産業界のDX成功事例
①三井不動産:AIカメラを導入し、オフィスビルを見える化
三井不動産は「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」の実現に向けたDXの推進に積極的に取り組んでおり、DX進捗状況を記す「2020 DX白書」というものも公開しています。
その取り組みの一貫として、AIカメラである「OPTiM AI Camera」を導入して、オフィスビル内の「混雑状況」「滞留」「入店者数」「エリア別の人数分布」「属性(性別・年齢)」といったデータを収集し、ダッシュボード上で利用者の行動を可視化、次の施策への反映などに活用しています。
「OPTiM AI Camera」で収集した混雑状況は、テナント向けの情報サービスとして提供を開始しており、Webブラウザから食堂(4F)と共用スペース(2F)の空席状況の確認が可能。「上階から降りてきたが人が混雑のため利用できずオフィスに戻った」といった事態を未然に防ぐことができるそうです。
このサービスが有効活用されるようになればビル内のムダな移動が減り、エレベーター運用の改善につながり、オフィスワーカーのエレベーターの待ち時間改善にも役立ち、こうした情報の確認や活用を遠隔で行えることは、多数のビルを運営する不動産会社にとって大きな効率化に繋がると想定しています。
引用:マイナビ
②野村不動産パートナーズ:RPAツールの導入により、年間1万時間の削減に成功
野村不動産パートナーズは野村不動産グループの一員でビル・マンションの運営管理をする「ビル管理事業」「マンション管理事業」、オフィスのリニューアル工事やマンションの大規模修繕工事等を請負う「建築インテリア事業」、公共施設の運営管理を行う「PPP 事業」、リフォーム工事をする「リフォーム事業」、不動産経営のサポートをする「プロパティマネジメント事業」と多岐に渡る事業をしています。
約1万1,100戸の賃貸マンションを、オーナーに代わって運営しており、主な業務は、家賃などの入出金管理や、テナント入れ替わりにあたってのテナント募集や契約管理といった事務のため、多くの時間がルーティン作業にかかるという課題がありました。
それを解決するためにロボパットというRPAツールを導入し、メールチェックやエクセルに入っている賃貸情報をシステムに転記する作業など現在は41個のロボットを作って業務を自動化しています(2020年3月時点)。
41個のロボットは、全て社内で作ったものです。
プログラミングの専門知識がないメンバーでも、その場でパッとロボットを作れて、そのロボットがすぐに業務を自動化してくれるという点に大きなメリットを感じて導入したとのことです。
引用:ロボパット
③三菱地所リアルエステートサービス:クラウドベースのCRMを活用し、全ての営業情報を管理
三菱地所リアルエステートサービスは、三菱地所グループのB2B専業の不動産サービス事業者です。
2019年にデジタル戦略部が立ち上がり、営業改革を加速し、「DXによりまずは社内の生産性を高め、将来はデジタルを使って新しいサービスを作れるような情報プラットフォーム」を目指した新たなデジタル基盤への取り組みに着手しています。
Salesforceを導入し、集客から商談のクローズ、物件の管理まで、一気通貫で情報が連動するようにしています。
これにより取引先件数は倍増し、取り扱い物件数は1.5倍に。
さらにWeb経由での商談獲得数も倍増し効率化を促進。
会議に必要なデータはすべてSalesforceからアクセスできるようになり、紙の資料のプリントアウトは廃止。
また、社内でツールを使いこなせる人材を育てることにも注力した結果、Salesforce認定資格を3人が取得しています。
DX化が遅れている不動産業界において、デジタル技術とビジネス実務を融合出来る人材創出として大きな期待がかけられています。
社内のDX化で注意すること
DX化を促進するシステムやツールは数多くありますが、選ぶ際に注意してほしいのが
・顧客管理だけではなく、賃貸管理全般の効率化を考えて選ぶ
という点です。
この2つの観点は外さないように検討した方がいいです。
また、不動産業界でDX化を進める上での大きな課題の1つにIT人材不足ということも挙げられます。
それぞれをフェーズに応じて使い分けようにも、社内にITに詳しい担当者がいないというのは非効率であり、ストレスも大きなものになると思うのでその場合は、マーケティングに強く、システムに強い企業に問い合わせてみることをおすすめします。
全てを外部委託してしまうという手段もありますが、よりスピーディに、そして顧客のニーズを叶える最適な判断ができるのはやはり社内の人間です。
使えるツールを見極め、自社で活用することがベストです。
まとめ
まだまだ遅れをとっている不動産業界のDX化。
しかし、コロナをきっかけに確実にこの流れは主流になっていきます。
多くの不動産企業がDX化に目を向け始めた今、スタートダッシュを切れるかどうかで今後の成長は変わってくる潮目の時期です。
この機会を逃さず、社内システムのDX化について検討してみてはいかがでしょうか。