最近ではSNS(ソーシャルメディア)が社会にすっかり定着し、ネットワーク上での個人間の会話や交流に留まらず、企業が運営する「企業公式アカウント」を目にする光景も日常的になったのではないでしょうか?
どこの業界においても今やSNSは認知拡大、ロイヤルカスタマーの育成、企業ブランディングなどなど、様々な戦略を遂行する上で非常に重要なツールとして位置付けられています。
不動産業界も例外ではなく、SNSの大きな特徴として挙げられる「長期的に情報発信が行えコミュニケーションツールとしても有用」である点や、「知名度向上やブランディングに有効」である点、「写真や動画などを用いて視覚からの訴求が可能」である点などが非常に相性が良いため、SNSを活用する不動産企業が増えています。
今回の記事ではSNSの中でも特に多くの企業が運用しているInstagramについて、大手注文住宅会社のアカウントを参考に、不動産業界内のInstagramアカウントのトレンドについてご紹介します。
この記事では、
・大手注文住宅会社のアカウントごとの特徴
・最近の不動産業界のinstagramトレンド
についてまとめていきます。
不動産業界の企業がInstagramを活用するメリット
冒頭でも触れたように、SNSは写真や動画といった「視覚的訴求」に長けている特長があり、実際に物件を決める時には「内見」をしたり、お家づくりでは「モデルハウス」を訪れて参考にしたりする傾向のある住宅・不動産業界とは相性が良いと言えます。
SNSが普及していない時代でも家を買いたい場合には
・家の雰囲気
・キッチンなどの機能性
・楽しそうに住んでいる人の姿
・近所の雰囲気
などが、総合的に判断されて集客に結びついていました。
それら購買層のインサイトから家づくりを検討しているお客様にとって、SNSの中でもInstagramは非常に効率良く理想の物件やアイデアを探すことができるツールと言えます。
他にもInstagramに関するメリットとしては、
・住宅・不動産購入に積極的なターゲットとの接点を増やせる
・ハッシュタグや位置情報などで物件情報を見つけてもらえる
・住宅・不動産情報の投稿や広告の拡散が期待できる
・ユーザーと相互コミュニケーションができる
など、Instagramを使って情報収集や検索をするという行動が生活者の一般的な行動になっている現代において、自社のマーケティング戦略に取り入れることはとても重要です。
大手注文住宅会社のアカウントごとの特徴
重要なマーケティング戦略の一旦を担うInstagram。
それは何となく分かっているから自社でも運用してはいるけど、一体どんな投稿を、どれくらいの頻度で、どんなハッシュタグを付ければいいかが分からない!
そんなお悩みをお持ちの担当者の方は大勢いるのではないでしょうか?
今回は、日本を代表する大手注文住宅会社9社のInstagramアカウントを参考に、現在の不動産業界におけるInstagramアカウントのトレンドを紐解いて行きたいと思います。
参考にする大手注文住宅会社は以下の9社です。
①パナソニック ホームズ株式会社
②旭化成ホームズ株式会社(ヘーベルハウス)
③積水ハウス株式会社
④大和ハウ工業株式会社(ダイワハウス)
⑤住友林業株式会社
⑥株式会社一条工務店
⑦三井ホーム株式会社
⑧積水化学工業株式会社(セキスイハイム)
⑩ミサワホーム株式会社
では、1つづつ見ていきましょう。
①パナソニック ホームズ株式会社
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/panasonichomes_official/
|
2.3万人 | 174 | 200前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
パナソニック ホームズ社のアカウントで特徴的なのは日常的な投稿や雰囲気を重視した投稿より、家の作りの中で機能性が分かる投稿の方が反応いいことです。
例えば上の9枚の投稿では、一番左上の曲線が特徴的な玄関の写真が最多いいねを獲得しており、以前の投稿でも女優ミラーのあるメイクルームの投稿や、アイランドキッチンの機能性を謳った投稿などがいいねが多い傾向にあります。
左:女優ミラーのあるメイクルーム
右:アイランドキッチンのあるダイニングリビングルーム
②旭化成ホームズ株式会社(ヘーベルハウス)
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/hebelhaus_official/
|
5.9万人 | 541 | 400前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
内装写真をメインに競合他社の中では多めの毎月15投稿ほどをコンスタントに投稿しています。
開放感と重厚感のある雰囲気の写真をメインに投稿しており、中でも屋内と屋外の境界線を曖昧にしたような構図の投稿へのいいね数が多いことが特徴的です。
左:開放感溢れるテラス
右:風通しがよさそうなリビング
③積水ハウス株式会社
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/sekisuihouse/ | 11.2万人 | 424 | 1100前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
フォロワー数は競合他社9アカウントの中でダントツトップなのが積水ハウスで、内装写真をメインに投稿しています。
開放感のある内装写真が多くのいいねを獲得しており、明るめの印象の投稿が多いです。
また、機能性を謳った投稿よりも開放感や雰囲気の良さが際立った投稿の方ががエンゲージメント高い傾向にあることも特徴的です。
ヘーベルハウスと同様に、屋内と屋外の境界線を曖昧にした投稿の反応がいいです。
左:開放感がある広めの玄関
右:屋内と屋外の境界線が曖昧な開放的なリビング
④大和ハウ工業株式会社(ダイワハウス)
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/daiwahouse_official/ | 6.6万人 | 284 | 800前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
木材の美しさを主張した内装写真の投稿が全体的に多い印象を受けます。
階段を構図に入れ込むことで、開放感を際立たせる写真が多くのいいねを獲得しています。
左:間接照明が美しい階段
右:昼間の日光が開放感を演出する階段
また、ダイワハウはこのアカウントとは別にもう1つストーリー性をもたせたインスタマガジンのような投稿をメインとするアカウントも運営していました。
(2022年9月6日の投稿をもって終了)
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/daiwahouse_story/ | 2.2万人 | 132 | 120前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
毎月テーマを1つ決めて、それに沿った投稿を6回のコンテンツに分けてシリーズ化した投稿を実施。1回の投稿に5~6枚の画像を用意し、スワイプしながらストーリーとして楽しめるコンテンツ作りをしていました。
2020年の10月から始めていましたが、2022年9月の投稿で終了することが発表され、現在は休止中となっています。
終了の理由は明記されていませんが、毎回コンテンツ内容がかなり作り込まれていたのに対していいね数やフォロワー数がそこまで伸びていなかったことから費用対効果に見合わなかったのではないかと思われます。
左:マガジンのような投稿1枚目の写真
右:2枚目以降には暮らしをイメージさせるストーリーを展開
⑤住友林業株式会社
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/sfc_ie/
|
7.2万人 | 644 | 700前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
住友林業もやはり木材の美しさを主張した内装写真の投稿が全体的に多い印象を受けます。
また、最近は少し減ってきていますがインスタライブの告知投稿が他のアカウントに比べると多めであることも特徴的です。
外観写真も適度に取り入れながら、自然や開放感を感じさせる投が多くのいいねを獲得しています。
左:緑が見える開放感のあるリビング
右:広々とした玄関
⑥株式会社一条工務店
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/ichijo_official/
|
9.6万人 | 483 | 600前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
ユーザー参加型企画「#みてみて一条」というUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)を活用していることが1つ大きな特徴です。
現在、このハッシュタグでの投稿数合計35000件を超えており、毎月1000件ずつコンスタントに増えています。
また、フォトコンテストを年に数回開催したりとユーザーを巻き込む発信に力を入れている印象です。
通常の投稿では、機能面を謳ったもののエンゲージメントはあまり高くなく、デザイン性や雰囲気がいい投稿にいいねがつきやすい傾向にあります。
加えて、外観写真へのいいね数が相対的に多く、他のアカウントとの違いがある部分です。
左:ユーザー参加型企画「#みてみて一条」
右:毎回反応のいい外観写真
⑦三井ホーム株式会社
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/mitsuihome/
|
8.6万人 | 1012 | 700前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
内装写真をメインに競合他社の中では多めの毎月15投稿ほどをコンスタントに投稿しています。
以前は投稿の中に人物の写真を混ぜていましたが、他の内装写真や外観写真と比べていいね数が少なかったことから、今年の7月頃からは人物の入っていない写真を投稿しています。
海外風の大きな白い家や、勾配天井、ベランダを用いた構図を使うなど憧れを誘うような投稿が印象的です。
左:海外の豪邸を思わせる真っ白な住まい
右:人気の勾配天井と開放感のあるリビング
⑧積水化学工業株式会社(セキスイハイム)
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/heimlife_816/
|
3.1万人 | 628 | 250前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
内装写真をメインに投稿しており、今年の5月頃からはリール投稿の回数が増えていたり、6月頃から写真に文字を入れた投稿が多くなっているなど、それぞれ何の投稿なのかをひと目で伝えるような工夫をしています。
リール投稿ではファーストビューに文字が入っているのといないのとでは、パッと見た時に続きをみるかスキップするかの違いにかなり影響するので、ユーザーインサイトを意識した投稿になっていることが見受けられます。
またリールではオーナー邸宅紹介動画へのいいね数が多いです。
左:人気のオーナー邸宅紹介コンテンツ
右:開放感のあるキッチンダイニング
⑩ミサワホーム株式会社
基本情報
アカウント | フォロワー数 | 投稿数 | 1投稿あたりの平均いいね数 |
https://www.instagram.com/misawahomes/
|
2万人 | 126 | 250前後 |
直近9枚の投稿
投稿内容とユーザー反応から見た考察
ミサワホームのアカウントは2021年の6月を境に一度発信が止まっていたのですが、2022年4月から、発信内容や世界観を整えた上で再発信しています。
4月以降は、競合他社9アカウントの中で最多の毎月20投稿前後をコンスタントに発信しています。
社員宅やオーナー宅、新商品紹介、RoomClipとのコラボ企画などが主な投稿内容です。
セキスイハイム同様に、オーナー宅紹介の投稿が毎月多くのいいねを獲得しています。
また、今年の10月が操業55周年記念ということもあり、それに関連した投稿がされているのも特徴的です。
9月からは〇〇推しポイント〇選といったような、読み物系の投稿も新しく開始して保存数アップによるエンゲージメント強化を狙っているのが伺えます。
いいね数だけを見ると他アカウントに比べて少ないものの、フォロワー数でいいね数を割ったエンゲージメント数を見るともっとも高い数値です。
左:人気のオーナー邸宅紹介コンテンツ
右:読み物系コンテンツ
最近の不動産業界のinstagramトレンド
ここまで大手注文住宅会社9社のInstagramアカウントを見てきた中で全社の投稿に共通したキーワードは「開放感」です。
この開放感というキーワードは、居心地のいいおうち時間を過ごすために特にコロナ禍以降人気の言葉です。
この開放感という言葉1つをとっても、そこにはお客様の多種多様な価値観が含まれており、例えば
・緑に囲まれた開放感
・吹き抜けがある開放感
・すぐ近くに公園がある開放感
・リビングの延長にバルコニーがある開放感
・目の前に建物がないタワーマンションという開放感
このように、1つのキーワードでもいろんな因数分解ができます。
「〇〇のような価値観を持っているユーザーに興味を持ってもらいたいから投稿写真でこう表現する」というようにアカウントの方向性ごとに届けたいユーザーのインサイトを思考し、紐解きながら戦略を立てて発信していくことが非常に重要です。
各社アカウントを見て分かる具体的な投稿のトレンドとしては大きく2パターンです。
1つ目が屋内と屋外が一つの空間として繋がり開放感を表現している投稿です。
このようにベランダやテラスといった屋外とリビングが一体となった投稿はどのアカウントでも構図として用いており、その月の最多いいねを獲得するアカウントも多くありました。
2つ目は階段を入れた構図にすることで開放感を表現している投稿です。
この階段構図も各アカウントが何度も使用しており、最多いいねを獲得する投稿も多く見受けられました。
日の光が入る様子や間接照明を使った演出もよく映え、天井の高さやリビングの広さが強調される投稿となっています。
あとは、インテリアや料理などを配置して、アカウントを見ているユーザーが実際に生活しているイメージをしやすく訴求することもともポイントです。
Instagramでは実際にユーザーが体験しているイメージをいかに湧かせ、共感してもらえるようにするか、ということが重要ですが不動産業界のアカウントではそれに加えて理想の暮らし、憧れを抱かせるようなイメージ訴求も重要です。
「こんな家に住みたい」というマイホームへの憧れが湧き出てくる写真や動画を「誰に(どんな価値観を持った人)届けたいか」ということを意識しながら投稿していくことで、とても効果的なマーケティングツールとなるでしょう。
また、業界問わずInstagram全般におけるトレンドとしてはリール活用の重要性が高まっています。
Instagramに特化した分析ツール「Insight Suite(インサイトスイート)」を開発・運営するスマートシェア株式会社によるとInstagram上の新規投稿の25%がリールになっているという統計もあり、Instagram運用において重要性が更に増してきていると発表しています。(2022年7月)
参照:Instagram分析ツールInsight Suite、企業アカウントのリール投稿を調査し衝撃の結果に!
スマートシェア社の調査によると傾向として、 フォロワー数が10,000以下のアカウントでは、リール投稿におけるリーチ率がフィード投稿と比べて、134%〜190%高く、またフォロワー数が10,000〜30,000のアカウントに関しては、リーチ率、いいね率、保存率ともにリール投稿の方が大幅に高い結果になったということです。
今回取り上げた9社のアカウントでも、ここ数ヶ月で少しづつリールに力を入れ始めてきているアカウントが出てきています。
ですが、不動産業界企業のアカウントでリールに関してはまだほぼ横並びの状態なので、注力して取り組む価値は多いにあるでしょう。
まとめ
今回の記事では、不動産業界内のInstagramアカウントのトレンドについて大手注文住宅会社のアカウントを参考にご紹介しました。
・どのアカウントも「開放感」を感じられる投稿を意識している
・屋内と屋外の境界線が曖昧な構図&階段を使った構図がトレンド
・リール活用の重要性が増加。各社まだほぼ横並びの状態なので大きな可能性がある
特にこの3つを意識して、今後のInstagram戦略に取り入れてみてはいかがでしょうか。