【その業務、ひょっとして独占業務に抵触していませんか?】覚えておきたい各士業の守備範囲について

不動産業に相応の年数従事していれば、法的な書面、例えば委任状や覚書のほか金銭消費貸借契約書や委任契約書まで、とくに見本を参考にしなくても作成できる程度の知識を得ていることでしょう。

人によっては登記申請書や各種の訴状、税務申告書なども労せず作成できてしまうのではないでしょうか。

作成できるほどの知識を有していることは素晴らしいことですが、注意しなければならないのは不動産に関連するそれらの書類には、かなりの部分について独占業務、つまり有資格者でなければ作成してはならない書類が含まれているということです。

例えば重要事項説明書について言えば、交付して説明するのは宅地建物取引士の独占業務ですが、その作成についてはその限りではありません。

つまり、有資格者ではない誰が作成しても良いわけです。

もっとも、重説に記載される記名は説明をする宅地建物取引士ですから、万が一、内容に不備がありそれに気が付かず誤った説明を行えば、その不利益は自身に及ぶのですから事前に内容を精査するのは当然です。

ですが先述したように、作成をすること自体は認められている。

このような感覚があるからでしょうか、不動産に関連がある、もしくは顧客から要望されたからと本来は作成すること自体が禁止されている書類を、不動産業者が代行して作成し、トラブルが発生している事例が確認できます。

作成できるということと、作成しても良いということは同義ではありません。

いくら顧客から頼まれたからと言って、権限もないのに応じれば、その後、手痛いペナルティーが科せられます。

今回は、そのような事態に陥らないよう、不動産に関連する業務のうち、独占業務であるものについて解説したいと思います。

気軽に応じてはいけない!登記申請に関しての相談業務

ご存じのように、各種の登記は司法書士もしくは弁護士のみが行える独占業務です。

ただし、当事者本人、つまり登記権利者が自ら申請する場合についてはその限りではありません。

比較的申請書の作成が楽なのは相続登記や所有権移転登記ですが、これらの記載例は法務局の公式ホームページを検索すればすぐに確認できます。

申請に関しても令和2年1月14日以降は電子証明書を持っていなくても申請が可能になっています。

インターネット経由で申請できるよう簡略化されていますので、多少の知識は必要ですが、見様見真似で法務局から提供されている申請用総合ソフトを利用して作成でます。

登記申請書

日頃から登記事項証明書などに慣れ親しんでいる皆さんなら、申請書を作成するのもさほど難しくはないかも知れません。

登記相談に応じることも同様です。

ただし、「できる」ということと、「応じて良い」ということは同義ではありません。

司法書士法第73条では「非司法書士等の取締り」を定めており、司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者が同法第3条1項第1号~第5号まで、つまり登記申請書の作成や法務局への提出、供託の代理など司法書士の独占業務について行うことが禁止されています。

これに違反した場合には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すると定められています。

まれに「業」として行わなければ問題ない、つまり反復継続する意志もなく無償で応じるのなら問題はないと勘違いしている方もおられますが、回数や報酬の有無によらず抵触します。

厳密には作成や申請のみならず、登記に関する相談に応じること自体が違法となりますので、相続登記に関してなどの相談などがあった場合、不動産業者の業務範囲から逸脱しない程度に留め、詳しくは専門士業を紹介しますのでそちらにお尋ねくださいとするのが無難です。

独占業務にも種類がある

不動産取引に関連する独占業務としては、司法書士以外だと弁護士、税理士、行政書士、測量士、土地家屋調査士などが上げられます。

これらの士業は全て独占業務を持っています。これら士業の独占業務に抵触することが、ただちに違法とされるかと言えば、実はそうではありません。

前述した司法書士の専従業務については報酬の有無によらず無資格者が行うことを禁じていますが、これは税理士も同様です。ですが例えば弁護士や公認会計士については違う定めがされています。

報酬を得ておらず得る予定もない、かつ法が定める範囲内であれば専従業務に抵触したとしても直ちに違法とはされないのです。

弁護士の独占業務は弁護士法第2条で、「弁護士は、法律に別段の規定がある場合を除き、審判機関及びすべての段階の司法手続において、特に民事事件、商事事件、行政事件、労働事件及び社会活動事件において、依頼者からの同意を得て依頼者を代理するか、又は依頼者を弁護することができる(以下略)」とされています。

ですが同法第4条で「弁護士会の会員である弁護士を除き、いかなる者も、報酬を得る目的で、弁護士業を行うことができず、かつ法律相談を受けること及び法律文書を作成することもできない。ただし、当該法律相談又は文書の作成が、その者の職業に付随する業務である場合、又は法律が認める役割である場合は、この限りではない」とされているのです。

筆者は不動産コンサルタントとしてクライアントからの法律相談に対応していますが、これは不動産業者であり宅地建物取引士である筆者が、業務に付随する範囲で相談に応じているのです。

まれに弁護士法に違反していると揶揄されることもありますが、このような指摘をされる方は弁護士法第4条の定めを理解していないのでしょう。

例えば一定の条件下であれば、無資格者でも裁判において弁護人になれることを知っている方はそれほど多くありません。

刑事訴訟法により、刑事事件については弁護士以外による弁護は認められませんが、民事事件でありかつ簡易裁判所の場合には、民事訴訟法により弁護士でなくても訴訟代理人になれます。

地裁以上の場合、裁判所の許可を得る必要はありますが、補佐人として弁護士ではない一般人による弁護も認められているのです。

公認会計士も同様で、公認会計士法によりその業務は「他人の求めに応じて報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすること」とされ、具体的には財務書類の調整、財務に関する調査もしくは立案、財務に関する相談に応じることですが、これらの業務についても、報酬を得ているもしくは得る目的でなければ一定の範囲まで無資格者が行うことができるのです。

相談に応じれば責任が生じる

行政書士法についても同様で、「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類そのた権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする」とされており、無償であればこれらの書類を無資格者が代理作成しても行政書士法に抵触することはありません。

このように独占業務を持つ士業については、報酬を得られるかどうかが有資格者とそうでない者の判断基準とされる物もあれば、報酬の有無によらず一切の専従業務への抵触が禁止されているものに分かれます。

興味があれば、それぞれの専従業務について調べてみるのも良いと思いますが、各種法律に抵触するか否かを問わず、私たちが相談に応じればそれには責任が伴います。

不動産に関連した内容であるからと、自身が正しく理解できていないことについて気軽に相談に応じ、万が一、誤った説明を行えば少なからず相談者に不利益を生じさせることになります。

論語に「之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らざると為せ。是れ知るなり」との言葉があり、これは「自分が知っていることを知っているとして、知らないことについてはまだ知らないと素直になることが知るということだ」というほどの意味ですが、私たちが心に留めておきたい教えです。

不動産業に従事していると、顧客から「よくご存じですね。さすが不動産のプロ」と煽てられ、つい調子にのって理解が及んでいないことを説明した結果、誤った解釈を伝達したことでトラブルになった経験をお持ちの方も多い(少なくても筆者は、このような手痛い失敗が無数にあります)と思います。

実際には経験が浅く知識に乏しくても、顧客からすれば不動産のプロであると認識します。

そのような立場で説明を行えば、そこに責任が伴うのは当然です。

正しく理解しておきたい「業」として行うことの定義

新人研修の講師役として登壇した際に、今回、コラムで解説した内容について話す機会もあるのですが、その際によく受ける質問として「業として行う」とは具体的に何かとのものがあります。

つまり反復継続する意志がなく、一回限りであれば問題ないのかといった質問です。

これは宅地建物取引士の試験勉強をした場合にも出てくる、「業」の定義についての質問ですが、法において「業務」とは「反復継続、または反復継続の意志を持って行うこと」とされていることから、一度限り、もしくは反復継続の意志がなければ良いとの印象を受けがちですが、これは誤りです。

例えば登記に関して言えば、当人以外のものが申請書を作成したり申請したりする行為は、報酬の有無によらず司法書士以外おこなうことはできません。ですが親の変わりにその子が無償で代理した場合には業務に該当せず、法に抵触することはないとされています。

ただし、反復継続する意志がなくても私たち不動産業者が、報酬の有無によらず一度でも代理業務を行えば「業務」に該当する可能性が高いとされているのです。

専従業務により業務が制限されている理由は、有資格者はすくなからずその資格を取得するために学び、かつ業務を通じて経験を積み重ねたプロであるからこそ依頼者の利益に貢献できるためです。

残念ながら有資格者であっても頼りない方を時折みかけることもありますが、それは依頼する側の人間が見極めれば良いことです。

「餅は餅屋」の例えではありませんが、専門性の高い業務ほど信頼できる士業の方に依頼して、いわばチームとしてそれぞれの専門業務に集中することが、結果的には顧客満足につながるということでしょう。

まとめ

今回は不動産に関連する専門士業についての独占業務を紹介することにより、私たちが顧客の相談にどこまでなら、各士業法に抵触せず応じられるかについて解説しました。

無資格者でも一定の範囲内であれば弁護人になれることなどは、一般的にあまり知られていませんから驚かれた方もいるでしょう。

ですが反面、登記については報酬の有無によらず、原則として相談にすら応じてはならないのです。

もっともこの辺りを杓子定規にとらえ、顧客からの質問に対して「司法書士法に抵触するので一切お答えできません!」とするのも営業職としてはいかがなものかと思いますので、そのあたりは上手に誘導しながら専門士業を紹介する配慮が必要でしょう。

そのように臨機応変に振る舞うためにも、各士業の独占業務について理解し、かつ不動産に関連する各種法規について相応に学んでおく必要があるでしょう。

それと同時に、信頼できる各専門士業との連携を重視して協力体制を構築し、不動産に関することならどのような問題でも解決できることが理想であると言えるでしょう。

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