【日常に潜む危機】盗聴被害が身近に存在している事実について

先日、近々転居を予定している独身女性の方から、「賃貸マンションに転居する際、入居前に盗聴器が設置されていないか調査した方が良いでしょうか?」という相談を受けました。

確かに、映画やドラマでは、部屋に盗聴器や盗撮器を仕掛け、その音声や画像を確認しているシーンをよく見かけます。しかし、それはフィクションの世界であり、多くの人は自分に関係がないと思うでしょう。

ところが、実際には盗聴器や盗撮器が悪用される事例は身近に存在しています。相談者である女性も、かつてストカーによる盗聴被害に遭われた経験がある方です。

まず、盗聴器などは専門店で普通に販売されていますし、インターネットを利用すれば誰でも簡単に購入できます。盗撮に関しては、令和5(2023)年7月13日に「撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)」が施行されたことにより、相手の意思に反して性的な部位(下着など)を撮影した場合に罪が成立する他、各都道府県の迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反に問われる可能性はあります。一方、盗聴に関しては、設置・所持・盗聴行為そのものを取りしまる法律が存在していません。そのため、仕掛ける側の心理的ハードルも極めて低いのです。

警察庁生活安全局生活安全企画課が発表している「令和5年中の迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮)に係る検挙状況の調査結果」によると、撮影罪で1,203件、迷惑防止条例違反で5,730件も検挙されている実態を確認できます。

盗聴に関しては、設置する際に住居不法侵入が行われていれば罪に問えますが、発見されなければ、そのまま放置されてしまうこともあります。また、発覚した場合でも、警察が事件性を認めて捜査に着手しない限り、対処は困難です。

これを説明すると、多くの方が驚かれます。とくに、盗聴自体は違法とされていない点です。

実際に筆者は、賃貸物件のオーナーや不動産業者が、面白半分で取り付けたケースを知っています。また、ストーカー被害に悩まれている方からの依頼で、専門業者に頼んで部屋に盗聴器などが設置されていないか確認したことが何度もあります。立会により調査方法を覚えたので、最近では簡易調査を行うために盗聴発見器を所有し、初期段階の調査に役立てています。

盗聴や盗撮というと、ストーカーを思い浮かべる人が多いかも知れませんが、それ以外にも企業の機密情報を盗む目的や、単なる興味本位で設置される場合もあります。また、浮気調査や相続問題で揉めた際に、自分が不在の時にどのようなやり取りが行われているか確認するために仕掛けられることもあります。

今回は、意外にも身近に潜む盗聴について解説します。

覚えておきたい盗聴器のタイプ

盗聴器は、正式には「盗聴発信器」と呼ばれ、周囲の音を高感度マイクで集音し、その音声を電波で受信機に送信する器具です。盗聴器の仕組み自体は単純であるため、一般の人でも手に入れ使用することが容易です。

普及している盗聴器の種類には、①コンセント型、②モジュラーコネクト型、③ボックス型の3種類があり、最も設置される頻度が高いのはコンセント型です。また、ボイスレコーダーやコンクリートマイクが利用されることもありますが、これらは室内に仕掛けるタイプではないため、解説は割愛します。

コンセント型は100Vのコンセントに差し込むだけで使用でき、電力はコンセントから供給されるため、電池切れの心配がありません。このタイプは三穴コンセント型やテーブルタップ型、平コンセント型など、一般家庭でよく見られる形状に模倣されており、日頃から目にしても気づかれにくいのが特徴です。

コンセントが盗聴器かどうかを確認するためには、盗聴発見器を使用するのが最も確実です。ただし、コンセントの差し込み付近にA~Cが記されたアルファベットのシールが貼られている、あるいはコンセントが通常よりも開閉しにくい場合、盗聴器の可能性が疑われます。

これらのシールは、盗聴に使用される主要な周波数が示されており、Aは398.605MHz、Bは399.455MHz、Cは399.030MHzに対応しています。なお、実際にはシールが剥がされていることも多いため、形跡がないか確認することが重要です。

モジュラーコネクト型は、固定電話の機材であるモジュラーコネクトに偽装された盗聴器で、電話線から電源を供給されるため電池切れもありません。このタイプは、集音ではなく電話の通話内容を盗聴するために使用されます。電話が使用されているときのみ盗聴波を発するため、盗聴発見器での発見が難しい機種とされています。

ボックス型は、大きさがライター程度の箱型盗聴器で、クリップ型やAC電源寄生型などの派生型も存在します。このタイプは、花瓶の中やソファの隙間、ベッドマットの下など、部屋の死角に設置されます。一見して怪しさを感じる黒い箱状の外観ですので、発見した場合は予備知識がなくても、盗聴器だと分かるでしょう。

事件性がなければ、警察は捜査してくれない

次に、盗聴器を発見した場合の対応について解説します。

もし、消費者が速やかな撤去だけを望む場合、すべての盗聴器を発見して取り外すだけでその要望を満たせます。

しかし、発見したからといってすぐに取り外すのはお薦めしません。盗聴していた相手に「発見した」ことを知らせる結果になるからです。直ちに危害が及ぶ可能性は低いかも知れませんが、思わぬ被害が発生する可能性も否定できません。したがって、まずは警察へ被害届けを提出することを検討しましょう。

先述の通り、盗聴行為を違法とする法律は存在しません。しかし、不法に侵入して盗聴器を設置している場合、住居不法侵入罪が成立する可能性があります。また、以下の犯罪要件に該当する可能性もあります。

 

A. 有線電気通信法違反:他人の電話線を切断・改造して盗聴器を仕掛けていた場合。

B. 器物損壊罪:家具や家電などの財産を許可なく破損・改造して盗聴器をしかけた場合。

C. 電波法違反:コードレス電話など無線式通信機に盗聴器を仕掛け、その内容を第三者に漏らした場合。

 

原則として、警察は事件性が認められなければ捜査を行いません。被害事実が犯罪行為として評価されない限り、被害届けや告訴自体が受理されない可能性も高いのです。そのため、被害届けを提出する際には、日時や場所、被害の詳細を正確に記載し、提出時に適切に説明できるよう、準備しておくことが重要です。

また、被害を証明できる証拠(盗聴器の写真や、家具などが破損されている状況の写真など)を、説明資料として準備しておく必要があります。

ただし、実体験から言えば、被害届が受理されない可能性の方が高いといえます。しかし、たとえ不受理であっても、被害届けを提出した記録は残ります。もし、盗聴器を撤去したあと新たな設置が確認された場合、再度提出した被害届けは受理される可能性も高くなります。

警察に被害届けを提出して不受理となった場合、盗聴器を取り外すことになりますが、取り外すだけでは根本的な解決にならない可能性があることを理解しておく必要があります。再び設置されるリスクがあるからです。

また、盗聴器を発見した際には次の点に注意が必要です。

①盗聴器に素手で触らない:盗聴器に触れる際は、必ず手袋を直用し、指紋を残さないように注意しましょう。指紋が残っていると、警察による指紋照合の妨げになる可能性があるからです。

②発見した際に声を出さない:発見時に「見つけた!」と声をあげないようにしましょう。その声も盗聴器に拾われる可能性があり、また、他に複数の盗聴器が仕掛けられている場合、会話が盗聴され続ける危険性があるからです。

 

住居者は直ちに取り外すことを希望するかも知れませんが、安易に取り外すのではなく、警察への被害届けの提出と再発防止のための対策を十分に検討した上で対応することが大切です。

■中:まとめ■

今回は、身近に潜む盗聴の危険性とその対策について解説しました。地域によって異なるものの、盗聴や盗撮に関する相談は少なくありません。盗聴発見器は1~8,000MHzを探知する全周波感知型でも、3,000~10,000円程度で手に入ります。設置箇所が予測できていれば高額な高性能機器を無理して購入する必要はありません。安価な商品で十分に発見可能です。

より正確な調査が必要な場合は、専門業者に依頼するのが確実ですが、業者選びは慎重に行うべきです。中には安価に市販されている全周波感知型で調査を行い、高額な費用を請求する業者も存在しています。また、かつては「周囲を調査していたら、お宅から盗聴電波が出ているのを確認しました」と訪問してくる、流しと呼ばれる悪徳業者も存在していました。

重要なのは盗聴器の発見だけではなく、その後の対応と再発防止策です。業者に依頼する場合は、アフターケアの内容を確認することが重要ですし、自ら対応する際には、今回の注意点を踏まえた適切な対処が必要です。

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