【改正景品表示法施行で厳格化が進む】それでも減らない「おとり広告」の実態

「おとり広告」は業態によらず、景品表示法第5条第3号で禁止されています。具体的には、商品やサービスが利用・購入できないにもかかわらず、あたかも可能であるかのように広告を表示する行為の禁止です。

不動産業者は、景品表示法だけではなく、宅地建物取引業法第32条及び不動産の表示に関する公正競争規約第21条で「おとり広告」や「虚偽広告」が禁止されています。これに違反した場合、宅地建物取引業法に基づき、指示、業務停止、免許取消の処分が課せられ、さらに6ヶ月以上の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

公正競争規約は不動産業界が自主的に定めたルールですが、こちらも違反により課徴金などの制裁を受けるリスクがあります。

このような厳しい規定があるにもかかわらず、2024年10月1日に公社・首都圏不動産公正競争取引協議会が公表した「インターネット賃貸広告の一斉調査報告」によると、2024年5から6月にかけて不動産情報サイトに掲載された賃貸住宅広告を調査したところ、「おとり広告」の可能性が極めて高い物件は532件見つかりました。さらに調査を進め結果、そのうち28件が「おとり広告」と認定され、掲載した事業者は72社中16社(22.2%)に達したとのことです。

これらは首都圏での調査結果に過ぎませんが、全国的に見ると、2022年の1年間だけで421件も、「おとり広告」等に関する処分が下されていることを確認できます。

不動産業者による「おとり広告」や「虚偽広告」は違法であり、発覚すれば厳しい罰則が科せられ、最悪の場合、免許取り消しのリスクさえあります。このような厳しい制裁が科せられるにもかかわらず、毎年多くの違反事例が報告されています。なぜ「おとり広告」は減少しないのでしょうか?

今回は、この問題に焦点を当てて「おとり広告」が減少しない理由を検証したいと思います。

改正景品表示法が施行された

不動産業者による「おとり広告」を規制する罰則としては、宅地建物取引業法や不動産の表示に関する公正競争規約に目も向きがちですが、2024年10月1日から改正景品表示法が施行されたことも見逃してはなりません。

今回の改正でとくに注意が必要なのは、違反行為に対する抑止力の強化です。

具体的には、過去10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者が再度違反を犯し、再び納付命令を受けた場合、課徴金の額が1.5倍に増額されます。

景品表示法に基づく課徴金の額は、違反商品やサービスの売上額に3%を乗じた金額です(ただし、課徴金額が150万円未満の場合は納付命令が出されません)。再違反の場合、この割合が4.5%に引き上げられるのです。

2024年5月、中国電力が家庭用電気料金プランに関して実際よりも電気代が安くなると誤認させる広告表示を行っていたとして、過去最高額となる16億5,595万円の課徴金納付命令を受けたのは記憶に新しいですが、もし改正法が適用されていれば、課徴金額は24億8,392万円にまで引き上げられていたのです。

それだけではありません。改正ポイントではありませんが、措置命令に違反した場合には2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金、もしくはその併科が科されます。

さらに、実際のサービスや商品より優良、もしくは有利であると誤認させるような広告表示を行った事業者に対しては、行政処分を経ずに100万円以下の罰金を科せられる規定が新設されました。

課徴金は行政罰であるため、不当広告の停止命令などを経て課されますが、罰金は刑事罰であるため、行政処分を経ない直罰として科される点に注意が必要です。

この2つは根拠法規が異なるため、両方が同時に科される可能性もあります。

景品表示法が適用されるのは広告表示のみだと誤解されることもありますが、正式名称が「不当景品類及び不当表示防止法」であるように、規制されているのは「表示全般」です。つまり、広告だけでなく、訪問や電話営業、YouTubeやSNSを使った宣伝活動も対象となります。特に、広告であることを隠して消費者にアプローチする「ステルスマーケティング」も景品表示に該当するため、YouTubeやSNSで情報発信している営業マンは注意が必要です。

「表示」とは、事業者が商品やサービスの品質、規格、その他の内容や価格等の取引条件について、消費者に知らせる手段を指します。広告に限らず、消費者に訴求するすべての情報が対象となるのです。

例えば、太陽光発電の説明で、季節や天候などによる創電量の変動に考慮せず、「毎月〇〇円お得です」と説明した場合、有利誤認に該当する可能性があります。

「おとり広告」に対する根拠法規

不動産業における違反行為に対しては、どの法律が適用されるかは違反行為の内容や程度に応じて異なります。罰則が重複しないように、通常は以下のように区分されます。

●虚偽や誇大広告:宅地建物取引業法、景品表示表
●おとり広告:宅地建物取引業法、景品表示法
●広告表現のルール違反:不動産の表示に関する公正競争規約

一般的には、不動産に関する広告表示のルール違反については公正競争規約が適用されます。
これは、景品表示法第36条で、事業者又は事業者団体は業種ごとに公正競争規約を設定し、自主規制できるとの定めがあるからです。

しかし、極めて悪質性が高いケースや再犯を繰り返す業者に対しては、宅地建物取引業法や景品表示法の併用といった、より厳しい罰則が科せられる可能性はあるのです。

なぜおとり広告が減らないか

改正景品表示法の施行や、宅地建物取引業法、公正競争規約により厳しい罰則が科せられるにもかかわらず、「おとり広告」が減少しないのは何故でしょうか?

広告掲載には労力や費用がかかります。したがって、募集していない物件や売却済物件などを広告に掲載しても、当該物件を契約して媒介報酬は得られません。したがって、「おとり広告」を掲載するメリットはないなずです。

おとり広告が指摘された際に業者は、その理由として「消し忘れ」をよくあげます。しかし、公益社団法人 首都圏不動産公正取引協議会による「2022年度不動産広告の違反事例の紹介」を見ていくと、単純なヒューマンエラーではないケースの多いことが分かります。

例えば、契約済みとなった物件を長期間掲載し続ける事例はよく見られますが、その期間が数年ともなれば単なる消し忘れとは言い難いでしよう。他にも、鍵交換やクリーニング費用等を徴収しているにもかかわらず、指摘された10物件全てにおいて費目や金額を表示していなかった事例も確認できます。

また、実際の専有面積が23.94㎡であるのに「25㎡」、35.05㎡を「38.91㎡」と表示するなど、虚偽の面積を数多く掲載していた事例や、主要駅まで7分と表示しなければならないのに、5分と偽って表示した事例もありました。

指摘に対し掲載業者は「広告管理を営業マンまかせにしていた」、「広告を担当する別会社に委託していた」といった理由を挙げ、再発防止策として掲載管理システムの導入や物件確認の強化を図ると述べています。しかし、過去に違約金課徴措置を受けているにもかかわらず、再び違反広告を行い、再度措置命令を受けた業者も複数確認されます。

中には、取引ができない状態の物件を3年3ヶ月以上継続して掲載し続け、敷金や損害保険料などの償却費を表示していなかった業者もありました。この業者は「物件カタログのつもりだった」と答弁したと記述されていますが、次いで聴取担当のコメントとして「長年、事情聴取を行ってきたが、このような答弁は初めて聞いた」と記載されているのを見て、筆者も苦笑を禁じえませんでした。

販売資料やパンフレット、カタログなどはすべて「表示」とみなされ、表示関連法の対象とされます。言い訳としても非常に苦しいものであると言わざるを得ません。

過去には、取引できない物件を8年7ヶ月以上に渡って掲載し続けた事例も確認されており、このようなケースは単なる「消し忘れ」で済まされないでしょう。

では、なぜ「おとり広告」がなくならないのでしょうか?

それは、少しでも多く消費者からの問い合わせを得て、そこから利益をあげたいという業者の思惑が働いているからです。もちろん、ヒューマンエラーによる意図しない違反もあるでしょう。しかし、悪質なケースでは、事実に反する広告を掲載して問い合わせ件数を増加させ、他の物件へ誘導して利益を得ようとするのです。

取引件数が減少しているにもかかわらず、宅地建物取引業者は令和5年度末で1,081業者も増加したとされています。平成26年以降10年連続の増加です。

一方で、帝国データバンクは2024年3月2日に、賃貸マンションやアパートの仲介・管理を手掛ける「街の不動産屋」の倒産件数が急増したと報じています。具体的には2023年倒産件数は120件、前年(69件)対比で7割増、この倒産件数は過去最高でした。

帝国データバンクは倒産増加の原因を、在宅勤務の普及や優秀な人材の獲得を目的に転居を伴う移動制度が見直されたことや、法人向け賃貸需要の伸び悩み、引っ越し代や家賃の上昇による個人住替えニーズの手控え感による収益低下が背景にあると推測しています。

しかし一方で、大手業者を中心にDXを利用した賃貸物件情報の発信やオンライン内見といった先進技術が導入され、優良な築浅物件を囲い込む動きが加速しているとも報じており、2極化が進んでいることも示唆しています。

倒産件数が過去最高を記録しても増加数はそれを上回わり、総体的な不動産業者総数は増加しています。

その結果競争は激化しますから、会社の存続を優先し、規制を無視してでも利益を上げようとする業者が表れるのも必然でしょう。「おとり広告」が賃貸に偏よっている背景には、このような理由があるのかも知れません。

まとめ

法改正により罰則が強化されたことで、その成果に対する期待は高まりますが、「おとり広告」が実際に減少するかについては、懐疑的にならざるおえません。摘発された事例は氷山の一角に過ぎず、意図的かどうかは別としても、依然として多くの業者が「おとり広告」を行っていると推察されるためです。

実際、不動産業者のホームページをランダムに確認してみると、物件紹介に「特選」、「厳選」、「抜群」、「眺望最高」といったワードを頻繁に見かけます。これらは、合理的な根拠を示していない限り、公正競争規約で禁じられている表現です。

こうした不当な表現は、細かく見ればきりがないほど横行していることでしょう。しかし、「おとり広告」が社会問題とされるなか、規制の厳格化はさらに進むと予想されます。意図的に行うメリットはもはやないのです。

広告担当者の知識不足や意図しない掲載が生じるケースはあるかもしれませんが、不動産業者に求められるのは、法規への理解を深めると同時に、コンプライアンス重視を徹底し、消費者に誤解を与えないように注意する姿勢です。

広告チェック体制を強化し、公正で適切な広告を掲載することで、正々堂々と同業他社と切磋琢磨し、業界全体の信頼向上を図るべきなのです。

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