
2026年2月2日から施行されている「所有不動産記録証明制度」は、相続人の手続負担を大きく軽減できる画期的な制度です。
これは、相続不動産に関する相談や取引に対応している私たち不動産業者にとっても、調査負担を大きく軽減できることを意味します。
しかし、相続人は本制度の施行を十分に認識しているのでしょうか。
さらに、被相続人名義の不動産を「すべて把握している」と言い切れるのでしょうか。
2024年4月の相続登記義務化を契機に、不動産業界では「相続不動産」に関する売却や利活用に関する相談が増加しています。
これに伴い、相続に伴う不動産調査の重要性もこれまで以上に高まったといえるでしょう。
そもそも、相続人が被相続人名義の不動産を正確に把握できなければ、相続登記はもちろん、売却、利活用、管理、処分といった実務は一切進展しません。
私たち不動産業者にとっても、相続案件ではまず「何を所有しているのか」を把握することが出発点です。
しかし現実には、被相続人が所有する不動産の全容を特定する作業は決して容易ではありませんでした。
実務の現場では「父は昔、東北で土地を買ったと口にしていたのですが、その場所が分からなくて……」といった相談は珍しくありません。
こうした場合、手がかりは曖昧な記憶のみというケースが多いのです。
こうした実務上の困難を大きく軽減するのが、本制度です。
本稿では、不動産業者が実務で活用できるよう、制度の趣旨、申請方法、必要書類、費用、そしてメリットと注意点まで体系的に解説します。
従来の調査方法とその限界
従来、生前に故人が地方で複数の不動産を所有していると口にしていても、登記済証や登記識別情報、固定資産税の納付書等が見つからないケースにおいて一般的だったのは、市区町村で名寄帳を取得する方法です。
しかし、この方法にも明確な制約がありました。
第一に、「市区町村が分からなければ調査できない」という根本的な問題です。
被相続人が相続したものの名義変更を行っていないケースや、投資用として家族に無断で取得した不動産が存在する場合など、所有や所在が不明確なケースでは、数少ない手がかりを頼りに一つずつ自治体を当たる必要がありました。
遠隔地の自治体が複数にわたる場合、移動や郵送取得にかかる時間的負担は決して少なくありません。
例えば、3つの都道府県にまたがって不動産が存在する可能性がある場合、各自治体へ照会・取得・確認に要する期間は数週間に及ぶこともあり、その間は売却が利活用の具体的提案に着手できないという事態も生じます。
第二に、名寄帳は固定資産課税台帳を基礎とするため、非課税物件や共有持分などの一部が把握しづらい場合があるという点です。
さらに、過去に売却済みであるか否かの判断も、別途登記情報の確認が必要でした。
また、世代を遡る必要があるケースでは、戸籍調査と並行して不動産調査を行うこととなり、不動産業者が単独で調査するには限界もあり、かつ時間的・人的コストも膨らみます。
結果として、「本当にこれで全部なのか」との不安が常につきまとい、調査完了までには相当の労力を要するのが実情でした。
しかし、「所有不動産記録証明制度」の施行によって、所有権移転登記がなされているのが前提ではあるものの、全国の登記記録を横断的に確認できる仕組みによって調査効率は飛躍的に向上したのです。
所有不動産記録証明制度の概要
「所有不動産記録証明制度」とは、特定の個人(本人・被相続人等)が日本全国に所有する不動産(土地・建物)の登記記録を、法務局が横断的に検索し、その結果を一覧化して証明書として交付する制度です。
従来は、不動産ごと個別に登記事項証明書を取得して確認する必要がありました。
本制度はこれを全国一括で確認できる点に最大の意義があります。
これは、相続登記義務化後の実務を支えるインフラ的制度と位置づけることができるでしょう。
それだけに、申請要件については正確に理解しておく必要があります。
1. 請求できる者
●不動産名義人の相続人
●一般承継人(法人を含む)
●不動産名義人(被相続人)の法定代理人
●登記名義人または相続人から委任を受けた代理人
このうち、不動産業者は登記名義人または相続人から正式に委任を受けた場合のみ、代理人として申請が可能となります。
単独では申請できないため、留意が必要です。
また、委任状には請求内容に応じた厳格さが求められており、委任状への押印は実印で、かつ請求人(委任者)の印鑑証明書の添付が求められます。
日頃利用している簡易的な委任状では申請できないため、法務省が公開している参考例を基に、あらかじめ作成しておく必要があります。

さらに、交付請求書の記載事項も正確に把握しておく必要があります。

2. 必要書類
登記名義人が自ら申請する場合は印鑑証明書(発行期限なし)もしくは本人確認情報の移し(マイナンバーカード、運転免許証など)、および必要に応じて戸除籍謄本、住民票の写しのみで足ります。

ですが、相続人やその他の一般承継人が申請する場合は加えて、登記名義人との相続関係・承継関係を証する情報として、戸籍謄本や法定相続情報一覧図の写しなどの提出が必要となります。

また、私たち不動産業者が代理申請する場合は、これらに加えて先述した委任状が必要となります。

名義人による申請、あるいは相続人が申請するいずれの場合であっても、申請書、委任状への押印は「実印」によるとされているため、使用する印鑑に注意が必要です。
3. 手数料
手数料は原則として、1つの検索条件につき1通あたり所定の額が必要となります。

登記事項証明書を個別に取得する場合は1通600円(窓口)または500円(オンライン請求)を要し、複数物件を調査する場合はその都度費用が発生していました。
これと比較すれば、全国横断検索が可能となる本制度は、費用対効果の観点からも極めて合理的といえます。
そのため、検索条件について理解を深めておく必要があります。
●過去の氏名及び住所を条件
つまり、一つの検索条件欄に複数の氏名(又は名称)・住所等をまとめて記載することはできず、実務においては現在住所と過去の住所氏名の両方を、それぞれ検索条件として申請する必要があるのです。

なお、検索は請求書に記載された条件を登記官がシステムに入力して行われ、システム上、以下のルールに基づき所有権の登記名義人として記録されている不動産が抽出されます。
●氏名又は名称の前方一致、かつ住所の末尾5文字が一致している人
このルールに基づき抽出された不動産から、検索条件と合致するものを選定し、証明書に記載されます。
このため、検索結果として抽出される不動産の網羅性には限界があり、また、検索条件が一致する同名異人が名義人として記録されている不動産が、抽出される可能性もある点に注意が必要です。

所有不動産記録証明制度のメリット
本制度を利用する最大のメリットは、「全国一括検索」による網羅性です。
登記名義人当人や相続人の記憶、保管書類に依存せず、客観的に登記情報を確認できるからです。
これにより登記名義人や相続人、そして私たち不動産業者も、調査に要する時間と費用が大幅に削減できるのです。
さらに、不動産業者が本制度の存在や申請方法の理解を深めることで、適切に提案することが可能となり、専門性の高さを示す差別化要素となり得ます。
とりわけ相続初期段階において「登記済み不動産の全体像」を提示できることは、顧客の安心感を高め、信頼関係の構築にも直結します。
相続不動産に関する相談を受けた際、必要に応じて「まずは所有不動産の全体像を把握しましょう」と提案することは、相談時の初動として極めて有効です。
限界点の理解と実務対応
本制度は登記記録を基礎とし、さらに検索結果の網羅性にはシステム上限界があるため、以下のような問題があります。
1.登記ベースである点
未登記の建物や移転登記未了の物件は抽出されません。
このため、それらの物件については、従来どおり数少ない記憶や書類などを頼りに紐解く作業が必要となります。
2. 網羅性の限界
登記名義の表記揺れがある場合、抽出漏れが生じる可能性があります。
例えば、法務省が例示しているように、検索条件が一致する同名異人が存在する場合については、意図せず他人が所有する不動産が抽出される可能性もあるのです。
本制度は日本全国に所有する不動産(土地・建物)の登記記録を、一覧化して証明してくれる強力なツールではありますが、名寄帳や現地調査を完全に代替するものではありません。
あくまで補完的に活用する姿勢が必要です。
ですが、「所有不動産記録証明制度」の施行により、私たち不動産業者の役割が大きく変化する可能性が生じました。
従来であれば、相応の知見を有していなければ困難であった相続不動産の調査が容易となり、以下のような相続初期段階からの伴走支援が容易になったのです。
●司法書士との連携強化
●調査後の活用提案
今後は、すでに施行されている本制度について知っている程度の業者と、正確に理解して積極的に活用できる業者とは、相談獲得量に差が生じる可能性があります。
まとめ
「所有不動産記録証明制度」は、相続実務の透明性と効率性を飛躍的に高める制度です。
相続登記義務化という大きな制度改正の流れの中で、本制度は不動産実務を支える重要な基盤となります。
それだけに、私たち不動産業者に求められるのは、制度を知識として理解することではなく「実務でどう活かすか」をいう視点を持ち、積極的に活用することです。
しかし、本稿で指摘したように、この画期的制度も万能ではありません。
そもそも、登記がされていなければ情報は抽出されないのです。
したがって、従来からのいわば泥臭い調査手法と併用しながら、漏れ落ちなく調査を実施する必要があります。
制度を過信せず、かつ最大限活用する姿勢こそが、これからの不動産実務に求められるのです。
そして、制度の趣旨、手続、費用、限界を正確に理解し、専門家と連携しながら活用することで、相続人の不安を軽減し、調査の精度を高め、その後の売却や利活用提案へつなげることができるでしょう。
もはや本制度は「知っているかどうか」の段階ではありません。正確に理解し、実務で使いこなせるかどうかが、今後の相続案件獲得力を左右する分水嶺となり、さらには次世代型の相続対応力を備えた不動産業者へ進化するための第一歩となるのです。



