不動産の物件情報を検索すればインターネット上に大量の情報が溢れている時代です。
他社と比較するのも容易であると同時に、差別化するのも難しくなっており、何か突出した魅力がなければ、競合他社に埋もれてしまいます。
ただ単純にインターネット上に物件情報を掲載するだけでなく、潜在顧客とのタッチポイントは複数確保しておくことは非常に重要な戦略であると言えます。
この記事では、他業界の事例をもとに、物件情報に頼らない集客方法として不動産業界でも活用できそうな方法についてまとめていきます。
切り口①オンラインセミナー
Withコロナの時代となり、オンライン会議を始めオンラインでの会話や学習といった行動は格段に増えました。
コロナ禍以前と比較してテレワーク推進も加速しており、総務省の「通信利用動向調査」によると、テレワーク導入企業の割合は平成24年度の11.5%と比較し令和元年では20.2%まで増加しているというデータもあります。
そんなオンラインでのコミュニケーションが当たり前になりつつある今、オンラインセミナーという手法は潜在的な顧客層への最初のタッチポイントとして有効です。
よって多くの企業やインフルエンサーなどが続々とオンラインで情報を発信しています。
そんな中、ただやみくもに何でもかんでも発信するのは非効率なので意識するポイントとしては「お客さんが隙間時間に参加できるコンテンツを増やしていく」ということです。
オンラインセミナーのメリット
参加者メリット
①自宅から手軽に参加できる
どこからでも視聴が可能であり、他の作業をしている間の「ながら視聴」も可能です。
会場までの交通費や移動時間を削減できるため、忙しいビジネスマンにとっては隙間時間に必要なインプットができる点が最大の魅力的であると言えます。
②好きな時間に視聴できる
オンラインセミナーの種類は大きく分けて、「リアルタイム配信」と「録画配信」があります。
「リアルタイム配信」は名前の通り、配信時間を設定しリアルタイムにオンラインセミナーを開催する方法です。
臨場感のあるセミナーを開催でき、参加者からの質疑応答による双方間のコミュニケーションも可能です。
一方、その時間の都合が合わなかったら見れないというデメリットもあるので、「録画配信」としてアーカイブ配信を行う場合も多いです。
または、あらかじめ録画しておいたセミナー映像を配信する場合もあり、どちらの場合も予定が合わない場合や、セミナーを繰り返し視聴したい場合などに非常に便利です。
③質疑応答が気軽にできる
これは基本的に「リアルタイム配信」の場合になりますが、チャット機能を通じて登壇者と気軽にコミュニケーションが取れることも魅力の1つです。
リアル開催の場合、会場で手を挙げて質問することをためらう方も多いかと思いますがオンラインではチャット機能で視聴者からの質問を受け付けることが多く、テキストだけでの質問が可能なので、ハードル低く質問ができ、より理解を深めることが可能です。
主催者メリット
①最小限のコストで開催できる
会場開催型セミナーとは違い、コストをほとんどかけずに開催できるのが大きなメリットです。Web会議ツールをすでに導入している場合は、追加コストを支払わずにオンラインセミナーが開催できます。
また、会場準備等にかける手間やコストもないため、効率良くセミナーを開催できます。
②場所や回数の制限なく開催できる
物理的な距離の問題や、会場確保などの問題を考えずに開催が可能です。
今まで接点を持つことが叶わなかった商圏外の人々ともコミュニケーションをとることが可能であり、また録画配信を選択した場合、開催したオンラインセミナーはアセットとして蓄積され、営業の自動化のような役割を果たします。
③いろんなツールからアクセスできる
パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットからでも参加できます。
参加者の利便性をアップすることでより多くの人にセミナーに参加してもらうことができます。
このように、オンラインセミナーには参加者・主催者双方に多くのメリットがあります。
ここからは実際に、オンラインセミナーの特徴をうまく活用した事例を紹介します。
オンラインセミナーの事例
①DMM MARKETING CAMP
DMM MARKETING CAMPはDMMグループの1つである株式会社インフラトップが主宰したオンラインセミナーです。
(実際の表現はオンラインイベントでしたが本記事内ではセミナーとして紹介させていただきます。)
これは2020年5月に始まったもので、在宅学習でマーケティングを学ぶ皆様を応援するために、10週間連続で最前線のマーケティングノウハウを無料でライブ配信するという企画でした。
株式会社インフラトップはWEBマーケティングを学べるスクール運営をしている会社なので、最終的にはそこに誘導するような狙いですが、10週間連続で最前線のマーケティングノウハウを無料でライブ配信という内容は認知拡大のためのかなり大きなフックとなったはずです。
私自身、DMMのグループ会社がマーケティング人材の育成事業を手掛けているとは知らず、このセミナーを通して知りました。
毎週の登壇者はマーケティング業界で最先端をひた走る豪華なメンバーで、それだけでも視聴者からしたら期待の高まる内容だったことは間違いないと思います。
それに加えて上手だなと思ったのは、week2開催日の前日に公開された登壇者の紹介noteです。
実際のnoteはこちら↓
https://note.com/hitomi_kurosu/n/n0c60951e0d14
前回イベントの振り返りから、翌日の登壇予定者のプロフィールと代表的な記事やツイートなどがまとめてあり、5分もあれば予習ができるnoteになっており、セミナーがより一層楽しみになる内容でした。
オンラインセミナー開催前は話す内容の確認や、時間配分など最終チェックに時間を割くべき箇所はたくさんありますが、このような紹介記事(事例の場合はnote)の準備が事前にあると参加者は、登壇者がどんな話をするのか想像することができ、期待や高揚感を高めるのに効果があると思います。
あとは、主にTwitterですがSNSとの連携が活発にされているのも特徴です。
マーケティング業界はTwitterを利用してビジネス発信をしてる人が多いという前提はありますが、Twitterでの拡散効果をうまく活用しています。
②和歌山県庁
県外企業の誘致フォーラムをオンライン化し、360度カメラのバーチャルツアーを活用して誘致施設を紹介しています。
引用:和歌山県庁
和歌山県では地域の雇用促進などを目的に、県外企業の誘致政策を推進しており、特に、2018年からは都内の会場で誘致イベントを開催し、和歌山県内にサテライトオフィスを置くメリットやその魅力を継続的に発信していました。
しかし、コロナの影響を受け2020年はオンライン配信に変更。
オンラインイベントでは360度カメラでサテライトオフィスをくまなく紹介することで、入居を検討している参加者に対してより印象的に訴求でき、効果的な集客に繋げています。
引用:Web会議ブイキューブ
③Kaino Software
AI系の技術開発をしているKainos Softwareという海外の事例です。
このオンラインセミナーの特徴の1つは、冒頭でまずオンラインアンケートを採って結果を表示し、視聴者のAIに対する取り組みを把握している点です。
アンケート機能は、最後にオンラインセミナー自体の反応を確かめる目的などで利用されたりしますが、テーマによっては、このように最初に視聴者の知識や意識のレベルを確認して、その後の進め方や内容をリアルタイムで調整するうえでも有効といえます。
引用:BiND CAMP
冒頭で「あなたの企業は、すでにAIを利用、または導入を予定していますか?」というアンケートを取っています。
これによって視聴者のレベルを考慮したオンラインセミナーの進行が可能となります。
不動産業界で活かせるポイント
・事前に登壇者の自己紹介記事を作成
・SNSの拡散を狙った有益情報のまとめスライドを用意
・VRを活用したオンラインツアーの企画
・アンケート機能を使って参加者を巻き込む。また知識や意識のレベルを確認して、その後の進め方や内容をリアルタイムで調整
切り口②リファラルストラテジー
この「リファラル」という言葉は特に人材業界で使われているリファラル採用というフレーズで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
リファラル‥referralの意味は紹介や委託、推薦などいった意味です。
リファラルの仕組みは様々なビジネスシーンで導入され始めており、
・リファラルマーケティング
・リファラル営業
といった、人を介したアプローチとなっています。
既存顧客による「紹介」は新規の顧客を獲得するのにもはや不可欠な要素です。
パソコンやスマートフォンを持つようになって一日に得る情報量は莫大に増え、情報過多の時代においては「何を言うか?」より「誰が言うか?」がとても重要です。
よってインフルエンサー活用でもリアルの繋がりでも、今後はリファラルの仕組みを使う人を介したセールス方法を確立していくことは非常に重要な戦略です。
リファラルストラテジーの事例
①YOUTRUST:リファラル採用
引用:YOUTRUST
リファラル採用のプラットフォームとして急成長している「YOUTRUST」。
YOUTRUSTは信頼できる友達もしくは友達の友達からオファーが届き、副業・転職先と出会えるキャリアSNSです。
Facebookと連携を行い会員登録を行った後、すでに繋がりのある知り合いや友人に「つながり申請」を送ることで仕事のオファーを受けられるチャンスを増やすことができます。
また、Twitterとの連携も可能です。
仕事を受ける人にとっては繋がりを活かして友人やその知人から副業の誘いを受けることができるので、安心して条件の交渉や業務の稼働をすることができ、また依頼主も信頼して依頼ができるwin-winな関係というわけです。
②Amazon Prime :リファラルマーケティング
リファラルの概念自体は古くからあるもので、多くの企業が活用しているいわゆる「お友達紹介特典」です。
Amazon Primeではお友達紹介で1,000円分のクーポンがプレゼントされるAmazonファミリー会員紹介プログラムがあります。
紹介プログラム管理ページから招待用リンクをコピーして自分のサイトやブログ、Eメールに貼り付けたり、Facebookでシェアすることができ、紹介された人がAmazonファミリーに入会し、Amazon.co.jpでの販売商品(Amazonマーケットプレイスの商品を含む)から1,000円以上同時購入すると、そのご注文の発送日から約10日後にアカウントにクーポン(1年間有効)として登録されるという内容です。
③Saleshub:リファラル営業
リファラル営業とは、かんたんに言えば「商品を提案したい企業と顧客をつなげる営業」です。
顧客側としても、信頼のある人からサービスを提案してもらったほうが承諾しやすく、企業側としても成約率が高いので、アポを取ってもらうだけでもメリットを享受できます。
Saleshubは自分の知り合いと企業をつなぎ、商談アポイントをセッティングすることで企業からお礼の報酬としてご協力金を得ることができるマッチングプラットフォームです。
利用者は報酬が得られることをモチベーションにしている場合もありますが、通勤時間や仕事の休憩中などの隙間時間で成長企業に関わることができるというやりがい面を重視している場合もあります。
引用:Saleshub
不動産業界で活かせるポイント
・魅力的なお友達紹介キャンペーンを企画する
・紹介キャンペーンの場合は社会のコミュニケーション基盤の変化に合わせSNSやLINEなどを積極的に検討してみる
・リファラル営業のプラットフォームを利用してみる
切り口③データドリブン
データドリブン(Data Driven)とは、ユーザーの行動履歴や売上情報、ビッグデータなど、オンライン、オフラインを問わず取得した複数のデータにもとづいて客観的に判断するマーケティング手法です。
これは熟練の担当者が、カンや経験にもとづいて判断する従来のものとは真逆のものです。
すでに大企業を中心に導入され結果を残していますが比較的新しい手法であることや、データ分析には自社の場合どのようなデータが必要なのか、どのような手段で取得可能か、他のデータに合わせた形式かなど、きちんと計画を立てておくことが重要であり、データやマーケティグに詳しい担当者がいない場合は比較的ハードルの高い内容のため、導入に積極的でない企業もまだまだ多いのが現状です。
しかしスマホやAIの普及により、自分のこれまでの消費行動や嗜好に合わせたレコメンドを受けることは当たり前のことになってきています。
そうした消費者に対して属人的なカンや経験にもとづいたアプローチをしても「全然わかってないな」とエンゲージメントを下げる行為となってしまいます。
誰にどうアプローチするか、どこにどうやって発信するかという点はデータドリブンで行っていく必要性が大いにあるわけです。
データドリブンの事例
①JTB
大手旅行会社のJTBは2018年から本格的なデータドリブンに取り組んでいます。
「データサイエンスセントラル」と呼ばれるデータドリブンの中心となる部署を立ち上げ、「量的分析(統計数値による分析)」と「質的分析(旅行に行く理由、モチベーションなど数値以外をメインとした分析)」の2種類の分析を掛け合わせることにより顧客一人ひとりに対するより深い理解を試みました。
「出張女子(出張に出ている女性)」ならではの行動パターンや思考を見つけ、最適な宿泊プランを提案してコンバージョン率を45%もアップさせるなど、すでにデータドリブンによる結果を残しています。
②日清食品
日清食品では、ボリュームゾーンである40~50代の年齢が上がり、シニア世代になっていくことでカップラーメン離れが起こる経営課題がありました。
若年層に向けて施策を多く取り組んできたことによって「カップラーメンは若者が食べるもの」という概念が定着してしまい、60歳以上の購入が低迷している中、「アクティブシニア(積極的にSNSを利用する熟年層)」に着目し彼らのSNSを分析しました。
その結果、豪華の食事の写真の投稿が多いことがわかり、これまでの健康志向を打ち出した商品からふかひれスープやすっぽんスープといった贅沢感を打ち出した商品を開発。
この商品がシニア層にもヒットし、販売7ヵ月で1400万食の売上を達成しました。
データ分析によって、シニア層でもおいしければカップラーメンを食べたいというインサイトを見つけ出し、上手く商品企画へ反映することができた事例です。
③三菱地所リアルエステートサービス
三菱地所リアルエステートサービスは、三菱地所グループのB2B専業の不動産サービス事業者です。
2019年にデジタル戦略部が立ち上がり、営業改革を加速し、「DXによりまずは社内の生産性を高め、将来はデジタルを使って新しいサービスを作れるような情報プラットフォーム」を目指した新たなデジタル基盤への取り組みに着手しています。
Salesforceを導入し、集客から商談のクローズ、物件の管理まで、一気通貫で情報が連動するようにしています。
これにより取引先件数は倍増し、取り扱い物件数は1.5倍に。
さらにWeb経由での商談獲得数も倍増し効率化を促進。
会議に必要なデータはすべてSalesforceからアクセスできるようになり、紙の資料のプリントアウトは廃止。
また、社内でツールを使いこなせる人材を育てることにも注力した結果、Salesforce認定資格を3人が取得しています。
DX化が遅れている不動産業界において、デジタル技術とビジネス実務を融合出来る人材創出として大きな期待がかけられています。
不動産業界で活かせるポイント
→切り口②のリファラルストラテジーを活用するのも有効
・SNS分析の解像度を上げ、ニッチな課題分析と解決施策を検討
・SalesforceのようなCRMツールの導入
・デジタルツールを使いこなせる人材の積極的な育成
マーケティングの世界は、データドリブンが進んできていますが、不動産業界はいまだに属人的でカンや経験に頼った方針の企業が多いです。
気合いと根性で、とにかく数打ちゃ当たるという労働集約的な慣習が根付いています。
だからこそ、テクノロジーを活用することで生産性は大きく向上する余地が大いにあり、競合他社への優位性も高まります。
まとめ
不動産業界はコロナを始めとした経済状況や世界情勢、少子高齢化といった要素の影響を受けやすく、世の中の流れを見極めたうえで集客しなければ勝ち続けることが難しい業界です。
従来通りの集客方法だけでは反響が得られなくなっているのが現実です。
今回ご紹介した3つの切り口は今後のビジネス成長に大きく影響してくるので、ぜひ取り組みの検討・強化をおすすめします。