管理会社にとって、もっとも大切な業務のひとつが、管理物件を獲得することです。
管理会社の収益は管理物件からの管理料で成り立っています。
管理物件を増やし、収益を上げることにより事業規模を大きくすることを、管理会社は求めているのです。
そのため、管理会社は、日々、管理物件の獲得に向けて営業活動を行っています。
しかし、管理物件を取りたいがあまりに、調査が不十分なままに管理を取ったあとに、大きなトラブルになってしまうことも少なくありません。
では、どのようなトラブルが起こってしまうのでしょうか?
また、管理引き受け時に確認しておかなければいけないポイントとはどのようなものがあるのでしょうか?
管理物件を引き受けたあとのトラブルや引き受けるときのチェックポイントなどについて詳しく解説していきましょう。
宅地建物取引士、賃貸経営管理士、定期借地コンサルタント、米国不動産経営管理士といった資格を持ち、
さまざまな経験と知識から管理物件の収益拡大や維持管理に取り組んでいる。
管理引き受けトラブルその① 入居者のクレームをほったらかし
私は、管理会社の社員として長らく勤務していますが、他の管理会社同様、管理物件の獲得は大きな目標として日々、管理獲得を推進しています。
あるとき、他社に依頼している管理物件を管理してほしいとの話が飛び込んできました。
話を聞くと、現在の管理会社に不満があり、管理をお願いしたいとの内容です。
詳しく調査を行い、管理を引き受けるに問題ないと判断して引き受けたのですが、2週間後に突然入居者からクレームが入りました。
「備え付けのエアコンの故障依頼を1ヶ月以上ほったらかしにされている」
「何回も電話したのに一向に対応がないので、部屋を解約するから引っ越し代などを請求する」
といった内容です。
すぐに前の管理会社へ連絡し、事実確認を行いましたが、
「よく把握できていない」
「管理が変わったのだから、御社で対応して欲しい」
と、全く解決にあたる姿勢は見えませんでした。
そこで、問題解決に動いたのですが、入居者は大変怒っており収まりがつきません。
まずは、エアコンの交換だけはすぐに行い入居者との交渉を重ねました。
結果、オーナーにエアコン交換や、家賃1ヶ月分の減免を承諾してもらって何とか収めることができました。
その後も、前の管理会社が手を打っていないクレームの電話が多く、引き継ぎの聞き取り不足を痛感した事例です。
管理引き受けトラブル② 家賃が違う?
私が、お付き合いのある同業他社が体験した管理引き受け時のトラブルです。
委託していた管理会社が倒産してしまったオーナーから、管理の引き受けを依頼されました。
管理会社がすでに倒産しているので、すぐに引き受けなければならず、調査が不十分な中、管理を引き受けました。
1か月後、賃貸借契約書に沿って家賃を請求したら、ある入居者からいつもよりも5,000円家賃が高いとの連絡があったのです。
詳しく話を聞くと、2年前に家賃の減額交渉を行い5,000円の値下げで合意して、オーナーと入居者の同意書も存在していました。
そこで、オーナーに聞き取りをしてみると、値下げの話すら聞いていないとの回答です。
何とか、倒産した管理会社の社員と連絡を取り話を聞いてみました。
すると、とても減額交渉は受け入れてもらえないから勝手に減額し、同意書も自分たちで作成し、値下げした家賃の5,000円は管理会社が補填していたとの話だったのです。
現在の管理会社が補填することは到底できる話ではないので、オーナーに話すと家賃減額は受け入れられないとの話でした。
同意書があるので、いきなりの家賃増額は難しいと判断し、3か月後に5,000円家賃を上げると入居者に伝えて、3か月後に元に戻したそうです。
管理会社が倒産してしまって、確認すらとることが難しかった事例です。
管理を引き受けるときの注意点
管理を引き受けたあとに思わぬトラブルに巻き込まれないためにはどのような点に注意しておかなければいけないのでしょうか?
注意点とチェックするために必要な書類などについて掘り下げてみましょう。
管理引き受け時の チェックポイント1 修繕の内容
今までに、どのような修繕を行ってきたのか、費用や修繕時期を確認しておく必要があります。
修繕の状況を確認しておくと、オーナーへの適切なアドバイスができたり、修繕関連のリスクについて事前に備えることができます。
必要な書類としては、修繕履歴表などがあると便利です。
今まで、どのような修繕を行ってきたのか、費用や修繕時期が分かるリストを指します。
もしも、修繕履歴を管理会社がとっていない場合は、徹底的に修繕履歴を聞き取らなければなりません。
また、修繕履歴の有無に関わらず、管理引き受け予定物件の点検は行いましょう。
できることなら、専門業者に依頼し、全体的な点検を行いたいところですが、費用面での問題があるのであれば最低でも目視点検は行わなければいけません。
途中から管理を行う場合、今までの修繕状況を把握していないと、のちのち思わぬ修繕などが発生する可能性があります。
事前のチェックとして修繕状況の確認は怠らないようにしておきましょう。
管理引き受け時の チェックポイント2 滞納状況
現在の入居者の一覧表などは当然として必要です。
契約書や入居者情報は必須なのですが、滞納の状況も必ずチェックしておく必要があります。
・家賃が遅れがちな入居者のチェック
・過去の滞納履歴ああ
などは、確認しておく必要があります。
滞納状況を確認しておかなければ、管理を引き受けたあと、滞納の処理に大きな労力が必要です。
また、近年の管理業務においては、賃貸保証会社が付いているかどうかという点も、滞納処理のキーポイントといえます。
賃貸保証会社が付いていると、家賃の滞納においては、賃貸保証会社が処理するので管理会社として業務を省略できます。
入居者の滞納状況も管理引き受け時の大きな確認ポイントです。
管理引き受け時の チェックポイント3 家賃の推移
オーナーが望む賃貸経営は、高入居率と安定収入が多くを占めるでしょう。
つまり、管理を引き受けたあとは、高入居率を維持していくことに全力を尽くさなければいけません。
管理を引き受ける地域の相場や環境がしっかり理解できていれば、それなりに対応もできますが、そうではない場合、空室が出た
場合の家賃設定を誤る場合があります。
現在の入居者がどの程度の家賃で入居しているのかはもちろん必須ですが、できることならば、各部屋の3世代前までの契約家賃は把握したいものです。
家賃の減少率や、改装して家賃はどの程度上げているのかといった点を知っておくと、今後の募集に有利です。
管理引き受け時の チェックポイント4 クレーム一覧表
管理トラブル①で起こった、クレームのほったらかしは、管理会社が変更になる際によくあります。
管理を変えられる管理会社は、変更までの数か月間、あまりモチベーションが高くはなく、いい加減な管理業務になりがちです。
そのため、管理引き受け直後に新しい管理会社がクレーム対応に困ってしまうといったことがあります。
クレーム一覧表を確認することで、どのようなクレームが処理済みなのか対応中なのか、把握が可能です。
また、今後起こりうるクレームについての準備もできます。
管理業務の中でもクレーム処理はできる限り少なく、対応も簡潔に行うに越したことはないのでクレーム一覧表が大きな手助けとなるのです。
管理引き受け時のチェックポイント5 契約書と入金の照らし合わせ
管理引き受けトラブル②で起こった、管理会社が家賃をオーナーに黙って補填したケースを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。
管理会社が家賃を補填している場合、毎月オーナーに送る送金明細ではチェックできません。
前の管理会社から入金された通帳のコピーをもらっておくと入居者の入金金額や入金日が分かるので、実際の入金と契約状況の照会が可能です。
入金額と契約書の照らし合わせも必ず行う必要があります。
まとめ
どこの管理会社も、新しい管理物件を獲得することには非常に熱心なのですが、実際管理を始めてからのリスクを考えていない場合が多いといえるでしょう。
管理会社が変わって管理を引き受ける場合は、新築時から管理を行うよりもリスクが高く、後々引き受けたことを後悔することもあります。
そうならないためにも、管理引き受け前の情報をできる限り知っておきましょう。
しかし、本記事において、管理引き受け時のチェックポイントとしていくつかの資料が必要と述べました。
このような書類は、前の管理会社の協力が必要です。
しかし、管理を変えられるわけですから、管理資料の提出を拒まれるケースも少なくありません。
管理引き受け時に必要な書類に関しては、オーナーから、前の管理会社に依頼してもらう方が書類をもらいやすくなります。
管理会社同士で書類の提出を依頼して「無い」と突っぱねられることが多くても、オーナーに書類が無いとは言いにくいのです。
管理を引き受けたあとに後悔しないためにも、前もっての備えはしっかりと行いましょう。