気をつけたい!礼金に返還義務が生まれるケース

賃貸借契約の初期費用としてさまざまな名目の費用があります。

ほとんどは必要があって条件設定されていますが、目的のよくわからない「礼金」については、あまり深く考えることもなく「これまでの習慣」として設定されることもありました。

礼金は契約終了時に返還する必要のないお金といわれていますが、状況によって返還することが必要になるケースもあります。

ここでは賃貸借契約の初期費用についておさらいし、礼金返還命令を受けた裁判事例についてご紹介します。

賃貸借契約の初期費用

賃貸借契約の締結時にはいわゆる「初期費用」といわれる、借主が賃主(オーナー)に対して支払わなければならない金銭があります。

1. 礼金

貸主に対して「住まいを貸してくれてありがとう」といった意味で支払うもので、契約が終了しても返還されない金銭とされています。

以前(数十年前)は住宅が不足しており、礼金を支払わないと住宅を貸してもらえないという時代もありました。

その頃の風習なのですが、住宅が余っている現代も残っています。そのため最近は礼金をゼロにして入居率を上げようとするオーナーもおり、礼金なし物件も増加しています。

2. 敷金

借主が毎月支払うはずの家賃が払えない場合や、使用中に建物・設備を破損させ修繕の必要がでた場合に、その費用の担保として貸主に預ける金銭です。

「預ける」ものなので契約終了時には返還するのが当然のものです。

3. 前家賃

賃貸借契約における家賃の支払は「前払い」が一般的です。

したがって月の途中で入居する場合、入居月の月末までの家賃を日割り計算して支払う必要があります。

また契約時に上記の日割り家賃に加えて翌月分の家賃を支払うこともあり、これらの前払いする家賃を前家賃といいます。

4. 仲介手数料

賃貸物件の契約に至るまでを仲介してくれた宅地建物取引業者に支払う手数料です。

宅地建物取引業法で金額が決まっており、家賃の半月分+消費税が原則です。

ただし借主の承諾が得られると1ヵ月分+消費税とすることができます。

5. 保険料

自然災害などが原因で借主の家財に被害が生じた損害と、貸主から借りている建物や設備に借主などが与えた損害に対して、補償する保険契約の保険料です。

賃貸管理会社が保険手続きをするケースもありますが、借主自ら任意の保険に加入することも可能です。

6. 保証料

最近は賃貸保証会社との保証委託契約つき賃貸借契約が多くなっており、契約時には保証会社に対し支払う保証料も併せて支払います。

7. 退去時清掃料

賃貸管理会社によっては退去時の清掃料を契約時払いとする場合もあり、借主にとっては退去のさいの費用が少なくなるメリットもあります。

礼金には返還義務がある

礼金は前述のとおり「返還されない金銭」とされています。

また賃貸業界においても常識とされるものですが、過去の判例に「礼金の一部を返還する命令」がだされています。

事件は大阪簡易裁判所 平成22年(ハ)第27941号「不当利得返還請求事件」というものです。

判決の概要は「礼金を受取った賃貸人に対し、受領した12万円から3万円を控除し9万円を退去した賃借人へ返還するよう命じた」ものでした。

裁判所の判断としては、礼金は建物を貸す「対価」と「謝礼」のふたつの性質があり、この件において賃借人が使用した期間は1ヵ月と8日間という短い期間でした。

そのため礼金を広い意味で賃料と考えた場合、通常は2年契約であるところを、きわめて短い期間で退去していることにより、未使用期間に対応する賃料は返還することが当然であるとの判断だったようです。

似たような裁判例は京都地裁でもあり、こちらは1年契約だったところを7ヵ月近く居住したことにより、礼金の返還は認められませんでした。

納得のいかない原告は控訴しましたが、控訴審でも棄却され礼金の返還はなかったのです。

この事例でいえることは、極端に短い期間で賃貸借契約が終了した場合には、礼金の返還を命じられる可能性があるということです。

もちろん、退去した賃借人が訴訟を起こした場合に限りますが、注意したい事実といえるでしょう。

参考:弁護士法人 近江法律事務所 消費者契約法判例集「H23.03.18大阪簡裁判決」

途中解約で敷引きはどうなるのか

関西方面では一般的といわれる「敷引特約」は、性格として礼金に近いものがあります。

目的としては、居住期間においての賃借人が原因となる修繕費用への充当と考えられています。

2020年の改正民法においては「敷引特約」について明記されませんでしたが、これまで同様「敷引き」は継続されるものと思われます。

そこで上記のような短い期間での途中解約となった場合、敷引きをおこなう金額の妥当性が問題となる可能性があります。

1ヵ月程度の居住期間がきわめて短い場合は、原状回復義務が生じるほどの損耗は考えられません。

敷引特約について仮に訴訟となった場合には、どのような判決がだされるのか興味深いところです。

礼金はやがてなくなる

敷金・礼金ゼロや仲介手数料ゼロさらにフリーレント物件など、賃貸市場では以前にはなかったような条件の物件が増えてきました。

背景には空室増・競争激化があります。

保証会社を利用し保証人不要を条件とする物件もあり、原状回復に関する考え方はより明確になりました、そのような面でトラブルがおきる可能性が低くなったといえそうです。

このような変化は、敷金や礼金のように長い間受け継がれてきた賃貸住宅の商習慣に、変化が生まれていることを表しています。

欧米には礼金という習慣はなく、更新料というシステムも日本独特のものといわれます。

海外からの長期滞在者が多くなり、日本特有の商習慣が通用する機会は、徐々に減っていくものと考えられます。

また賃貸物件のなかには特定のオーナー(大家)が存在しないケースも増えています。

不動産特定共同事業法にもとづく不動産特定共同事業体や、J-REATなどの証券化した不動産には従来の大家さんは存在せず、アセットマネジメントやプロパティマネジメントを担う法人が管理運営しています。

賃貸経営上の考え方においても、個人の大家さんが抱いてきたイメージとは異なり、資産運営の最適化を図る目的で賃貸条件が設定されます。

そのなかで「礼金」という意味不明な入居条件は、やがて消滅していくのではないかと予想できるのです。

まとめ

賃貸業は不動産業のなかで唯一「業法」のない事業です。

法規制としては借地借家法と民法が、トラブルがあった場合に解決を導く判断基準となります。

業法がないので賃貸借契約において授受される金銭に対し、民法以外には明確な定義はされていません。

そのため「契約自由の原則」にもとづき、貸主と借主が自由に賃貸借契約条件を決定することができるのです。

「礼金」についても本来は貸主と借主の両者が、充分に納得したうえで契約すべきなのですが、これまでの慣習が優先され借主もなんとなく “納得” していたのが実態だったと考えられます。

グローバル化された現代においては、社会のシステムも大きく変わっていくのが自然であり、賃貸業のあり方も変わっていくものと、思わなければならないようです。

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