住宅のIoT化が叫ばれるようになって、しばらく経ちますが、当初騒がれていたほどには普及が進んでいないのが実情なようです。しかし、最新の技術を駆使したガジェットの数々は、上手に使うことで大きなメリットを得られるものが存在しています。
今回はその中でも賃貸物件と比較的親和性の高い「スマートロック」をご紹介したいと思います。
スマートロックとは、鍵ではなくスマートフォンやタブレット等のデバイス、またはカードキーやICチップ等を用いて施錠・解錠を行えるものです。
鍵を持ち歩く必要がなくなり、遠隔操作や入退室履歴を残すことができるなど、賃貸物件での活用時には様々なメリットを期待できます。
本記事では、導入後の具体的なメリットや、賃貸業者としての選び方までをお伝えしたいと考えておりますが、まず冒頭では「なぜここまで普及が進まないか」という点を押さえておきましょう。
それはずばり、「メリットの大部分がネットワークに依存している」という点に尽きると考えられます。
なにせIoT=Internet of Things(モノのインターネット)ですから、備えられた便利機能の全てを活用しようとすると、インターネット環境を必要とします。
そして、賃貸物件で活用するとなると設置候補はもちろん「入居募集中の空室」を対象とすることがほとんど。そう、「インターネット環境が備わった空室」という中々に難しい前提条件を必要としてしまうのが現状なのです。
最近では「インターネット環境完備」「Wi-Fi完備」といった物件も増えてきてはおりますので、そういった物件を管理なさっている業者様におかれましては、ぜひ導入を前向きにご検討ください。
賃貸物件の管理効率化にスマートロックを活用すべき理由
では、ご検討頂くうえで、まずは導入した場合のメリットをお伝えしたいと思います。
- 業務効率化
- ヒューマンエラーの防止
- オーナーへのアピール
まず挙げられるメリットは「業務効率化」です。
先述の通り、鍵の遠隔操作や入退室履歴の保存といった機能を使っていくことで、「立会い」や「鍵の貸出・返却対応」「貸出台帳の記入」といった内見にかかる種々の業務を効率的に処理することができるようになります。
管理部署で一元管理できるので、物件近くの支店や協力業者へ、鍵の預かりを依頼する必要もありません。
ちょっとした業務ではありますが、預かりを依頼している物件の内見予約を受けた場合、受付をしただけでは終わらず、預かり先の店舗へ貸出依頼の連絡をする必要があります。
こういった小さな雑務は長期で見れば馬鹿にできない量になっているものです。
次のメリットは「ヒューマンエラーの防止」です。
鍵が存在しませんので、貸出時の渡し間違いも起きませんし、紛失の心配もありません。
担当する管理物件が「立会い必須」だった場合に、鍵を忘れて現地に向かってしまった経験が誰しも一度はあるのではないでしょうか。
自分ではなく、貸し出した他社の営業さんが紛失したとしても、オーナーへの報告時は何となく気まずいものです。
そうした間違いが起きる可能性をゼロにできるというのはそれだけでも価値があるように思います。
最後のメリットはこうした新たな取り組みを用いた、内見数の増加や早期成約への努力というものは、オーナー様によってはしっかりと評価してくださることがあります。一つ一つの取り組みは小さくとも、アピールできるところは積極的にアピールしていくようにしましょう。
スマートロック機種選択の基準
さて、メリットを踏まえ、もしも導入をご決断なさった方がいらっしゃれば、ぜひお伝えしておきたいのが、どうやって機種を選ぶのか、というところです。
「まだまだ普及は進んでいない」とは申し上げましたが、海外製も含め、既にかなりの種類が登場しています。
ここでは、賃貸業者の目線で機種を選ぶ際に見ておくべきポイントをまとめました。
(1)設置方法
まず最優先で確認すべきは「設置方法」です。
賃貸物件への設置を想定していますから、ドアを傷つけず、移設もできるものでなければなりません。
基本的には粘着テープのみで設置できるモデルを選ぶべきでしょう。
設置方法にはいくつかの種類がありますが、ドアに対して穴あけが必要なものは当然不可、また、対応できるドアのバリエーションが少ないため、鍵のシリンダー部分と交換をして設置するようなものを避けたほうが無難です。
(2)開錠方法
次に確認するのは解錠方法です。
遠隔操作ができるものが好ましく、スマホかPCから操作できるものを選んだほうが良いでしょう。
中には、スマートロック本体の付属品であるICチップ内蔵の電子キーが無ければ解錠できない商品も存在しています。
そういったものは結局、鍵の貸出をしなければならず、業務効率化というせっかくのメリットを享受できませんのでお勧めできません。
ちなみに、鍵本体にテンキーを内蔵したものは、最悪スマホ等がなくとも解錠が可能であり、事前に番号を伝えてしまえば、リアルタイムの鍵開け対応が要らなくなりますので利点はありますが、暗証番号を容易に変更できなければ、同じ番号を使った不正入室のリスクが上がってしまいますので注意が必要です。
(3)機能面
最後に見るべきは機能面で、スマホかPC上で鍵の開け閉めから、入退室履歴の管理まですべてを一括で管理できる「管理機能」があるものが好ましいです。
中には、スマホ宛てに、制限時間付きのスペアキーを発行できるような商品もありますので、そういった機能を活用することで使い捨ての鍵を業者に渡すようなことも可能です。
その他の機能で、あると便利なものは下記のようなものが挙げられます。
・閉め忘れ防止のためのオートロック機能
・遠隔で施錠状況の確認ができる機能
・電池残量通知機能
最後の電池残量通知ですが、スマートキー本体は電池で動作するものがほとんどなので、電池切れを起こしてしまうと遠隔での操作ができなくなってしまうリスクがある為、電池残量が一定以下になった場合に管理者に交換時期を通知する機能が備わっているものが存在しています。
せっかく内見予約が入ったのに電池切れで、解錠不可なんてことが起きてしまえば大きな機会損失ですので、電池の交換忘れを防ぐこの機能は意外と重宝するかもしれません。
他にもいろいろと、各社細かい特徴はつけているのですが、賃貸業者の目線で確実に押さえておくべきポイントは以上のようなところではないでしょうか。
お選びになる際の参考にして頂けますと幸いです。
スマートロック導入時の注意点
最後に一つ留意すべき点をお伝えしておきたいと思います。
その性質上、スマートロックはオートロック物件との相性が良くありません。
あくまで玄関ドアの鍵と連動したものですので、オートロックがある物件の場合、オートロックの解錠方法が問題になるためです。
ちなみに1棟まるまる一人のオーナー様が所有している賃貸物件であれば、非常口やごみ置き場等のドアにもスマートロックを設置することで、対応できるケースは存在していますが、入居している皆様の理解も必要になりますので中々導入のハードルは高くなってしまっています。
また、オートロック付きの分譲マンションへの導入はほぼ確実に無理ですのでこちらも注意が必要です。
まとめ
スマートロックはまだまだ発展途上の分野ですので、中々当てはまらないようなケースも多いものの、使える環境の揃った物件があるようであれば、利便性は間違いありません。
コロナショックの影響や、働き方改革など、今後ますます「立会い」での内見は減っていく可能性がありますので、変化に対応する中でこうしたものも視野に入れてみてはいかがでしょうか。