民法改正で賃貸人の修繕義務はどう変わった?賃料減額も可能?

2020年4月から民法改正により、不動産の賃貸借契約にも大きな変化が見られます。

変更になった点のひとつが賃貸人の修繕義務です。

管理会社も民法改正により管理の方向性を定め直さなければいけませんが、修繕義務がどのように変わったのでしょうか?

また、賃貸人が修繕義務を怠ることにより、賃料減額も可能だといわれています。

減額請求は可能なのでしょうか?

もし減額請求できるとするとどの程度できるのでしょうか?

今回の記事では、民法改正による賃貸人の修繕義務について詳しく解説します。

 

執筆者紹介
不動産管理会社で20年超のキャリアをもつ管理業務のスペシャリスト。
宅地建物取引士、賃貸経営管理士、定期借地コンサルタント、米国不動産経営管理士といった資格を持ち、
さまざまな経験と知識から管理物件の収益拡大や維持管理に取り組んでいる。

修繕の規定について民法はどう変わった?

今回の改正により、賃借人の責めに帰すべき事由があり、修繕が必要になった場合には賃貸人に修繕義務がなくなりました。

今までの民法における修繕義務の規定は、民法606条で

「賃貸人は、賃貸した建物について入居者の使用に支障のある不具合が生じた場合に、必要な修繕をする義務を負う」

と定めています。

しかし、今回の民法改正により、一部貸主の責任範囲が緩和され、賃借人の責任範囲まで負担することはしなくていいとしっかりと明文化されています。

では、本当に負担しなくてもいいのでしょうか?

賃借人責任の修繕負担はしなくていいの?

賃貸借契約書は、基本的に民法に即しており、設備の修繕は賃貸人が負担することとなっていますが、賃貸人の故意・過失は除くとの文章になっている賃貸借契約書が大半です。

実務上は、賃借人の責めに帰すべき事由は賃貸人が修繕義務を行わないと既になっています。

つまり、実務に法律が追いついたといっていいでしょう。

しかし、だからといって、修繕を行わなくていいのでしょうか?

明らかに、賃借人の故意・過失がしっかりと証明できれば、修繕義務はありません。

ただし、実務上、設備の故障が賃貸人なのか賃借人なのか判断付かない事例が非常に多いので、管理会社が対応に苦慮するケースが目につきます。

私も賃貸管理の仕事を行い20年超が経過するのですが、賃借人の過失によって壊れたと思われる設備の修繕も、賃借人から違うと主張されるとなかなか追求しづらいことが何回もありました。

では、設備の修繕が、賃貸人なのか賃借人責任なのかどのようにして判断しているのでしょうか?

修繕負担を賃借人か、賃貸人は判断するには

設備の修繕を賃貸人負担か賃借人負担かを判断する方法は、実際にはありません。

明らかに賃借人の故意過失だったとしても、賃借人が壊していないと言い張れば、証拠を見つけることが難しいケースもあります。

実際に、故意・過失が原因と思われる設備の故障において賃借人に強硬に主張されてしまい、結局賃貸人が修繕義務を負うケースがいくつもあるのではないでしょうか?

私は、管理会社で勤務しているので、よく設備の故障がどちらの負担になるのかで、賃借人である入居者と話がこじれてしまう例をいくつも見ています。

たいていのケースでは、賃貸人であるオーナーが負担することで問題を解決する事例が多いですね。

故意・過失の可能性があるのであれば、きちんと賃借人にも支払ってもらいたのですが、

少しでも賃借人にも負担してもらうにはどのような解決方法があるのでしょうか?

私が今まで見てきた事例の中で多い解決方法として、賃貸借契約書の特約事項にあらかじめうたいこむ方法が多いようです。

設備における故障が故意・過失か、経年劣化での判断が付きにくい場合においては、修繕負担割合を設けます。

居住年数が短いと賃借人の割合を増やし、居住年数が長くなればなるほど賃貸人に修繕負担割合を増やします。

白か黒かで修繕負担を決まるのではなく少しグレーですが、お互いが負担することである程度折り合いをつけて解決することができます。

修繕義務について完全にどちらの負担を判断することは、非常に難しいので、双方の負担割合を求め、双方に負担させるといった方法も効果的といえるでしょう。

設備の不具合により賃料減額請求が可能?

今回の民法改正において、設備の一部滅失における賃料減額という項目が改正され、賃貸人であるオーナーには少し厳しい内容が盛り込まれています。

今までの民法においても、賃借人の故意ではなく賃借物の一部が滅失した場合は、賃料の減額を請求することができるとされていました。

それが今回の民法改正により、「使用できなくなった部分の割合に応じて減額される」となったのです。

つまり、減額されるのが当たり前だといった内容に改正されているといってもいいでしょう。

今までも、賃借人からのクレームやトラブルが起こった場合にのみ、賃貸人の意向に沿って、賃料を少し減額する事例は見受けられました。

しかし、現行の民法下においては、当然のように減額されるとなるわけです。

では、どの程度の賃料減額を見ていたらいいのでしょうか。

賃料減額の目安は

国土交通省が発表した民間賃貸住宅に関する相談対応事例集~賃貸借物の一部使用不能による賃料の減額などについて~において、賃料減額ガイドラインの参考資料が掲載されています。

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出典:国土交通省『民間賃貸住宅に関する相談対応事例集~賃貸借物の一部使用不能による賃料の減額などについて』
基本的に目安なので、表記の減額賃料でなくても構いませんが、これまでの判例や実例などから判断して発表されていますので、全く的外れというわけでもありません。

例えば、家賃5万円のマンションにおいて、トイレが故障して3日間使えなかった場合を例にとってみましょう。
免責期間が1日間なので賃料減額の対象期間は2日間です。
賃料減額割合は月額ですので、2日分を日割り計算します。
50,000円×30%×2/30=1,000円
トイレが故障により3日間使えなかった場合は、家賃が1,000円減額されるということになるのです。

今後は賃貸借契約書に賃料減額について記載しておくなど、前もって賃貸人と賃借人どちらも合意しておくようにしておきましょう。

まとめ

今回の民法改正は何と120年振りという大改正です。

現実的に、賃貸借契約書が民法改正によって変更されるのは、初めてといえるでしょう。

全体的にいえる点は、より実務に近づいたという点と、あいまいだった部分を明確化したといった点がポイントです。

改正された部分をしっかりと賃貸借契約書に反映し、管理業務にも反映されるとかえって区別がしっかりできるので、やりやすくなるのでではないでしょうか?

今回の民法改正について、中身を理解し、管理業務や賃貸借契約書にどう影響しているのかをしっかりと把握すれば、法律に基づいた、根拠のある管理ができます。

この記事を参考に、民法改正における修繕義務項目の理解を深めて頂ければ幸いです。

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