不動産に関する法律や規制の情報は、ほとんどがインターネットで入手できるようになりました。しかしどうしても把握できない事柄は、直接役所の窓口でヒアリングをすることになります。ところが、この窓口調査によるトラブルは意外と多いのです。
役所の窓口調査をスムーズに完了させるためには、どんな点に注意をすればいいのでしょうか。その方法を詳しく解説します。
役所のヒアリング調査方法を解説
役所の窓口で正しい答を得られる保証はない
たとえば、売り出し中の土地に購入希望からの問い合わせがあったとします。「老人ホームが建てられるのであれば購入したい」という内容です。
用途地域は一種低層住居専用地域で、調べる限りは建築可能なようですが、地区計画の区域に入っていることが気になったので、不動産会社の若手担当者は、念のために直接市役所の窓口に赴き建築の可否を尋ねることにしました。
通常、一低層に老人ホームは建築可能です。ところがこの地域は、地区計画で「住宅以外の建築は禁じる」という制限が付加されていたのです。このため老人ホームの建築は不可能な場所でした。
もしこの地区計画の制限を役所の窓口担当者が見落として「建築できますよ」と答えてしまったらどうでしょうか。おそらく不動産会社の若手担当者は、これを鵜呑みにしてお客様に結果報告をすることでしょう。
お客様が土地を購入した後に、老人ホームが建てられないことが判明したら、仲介した不動産会社は、高額の損害賠償請求を覚悟しなければいけません。
こうした事態を未然に防ぐためには、どうすればいいのでしょうか。
メモは基本、その先のアクションが重要
まず役所の窓口で重要な話を質問する際には、対応した職員が名札を付けていることを確認しましょう。相手の名前が分からなければ、後々有効な記録は残せません。
一昔前であれば、名札を付けていない地方公務員が大勢いましたが、現在の役所ではほとんどの職員が名札をつけて応対をしています。もし名札を付けていない職員が対応したら、他の職員に代わってもらうよう要求しましょう。
そのうえで質疑内容をきちんとメモに取ります。ただ、ここまでだと単なる私的メモにすぎません。そのため会社に戻ったらこれを「協議録」あるいは「協議摘録」としてまとめます。その例文を次に示します。
〇〇市長様
作成日 令和元年 〇月〇日
協議摘録(案)
日時 令和元年 〇月〇日 午前10時15分
場所 〇〇市役所〇〇課窓口
協議者 〇〇課 △本様
相談者 □□不動産(株) 〇野
協議内容は以下のとおりです。
〇野 (別添用途地域資料を提示)この赤丸の場所に、老人ホームを建てる計画をしていますが、建築が可能な地域でしょうか。用途地域や他の制限は、ここに記載されているとおりです。道路は1号道路であることを確認しました。
△本 一種低層住居専用地域に老人ホームを建てることは可能です。
〇野 他の制限に抵触することはありませんか。
△本 建物の規模の制限はありますが、老人ホームの建築を阻害するものではありません。
以上
大変お手数ですが、この協議摘録に相違する点や修正すべき点がございましたら、下記までご連絡をいただきますよう、よろしくお願いいたします。
もし相談時に用途地域図や写真などを提示したのであれば、そのコピーを添付すると、より協議録としての体裁が整います。
文書を作成した後は、役所に郵送します。ただし送付先は窓口で対応した職員宛てではありません。「〇〇課文書取扱主任様」とします。これにより到達した書簡が文書収受され当該課の記録に残ることになります。
なぜ郵送をする必要があるのか
なぜ郵送までする必要があるのかといえば、役所の窓口での質疑応答は「言った、言わない」のトラブルに発展することがあるからです。手元に何も証拠がない状態では、役所側が「そんなことを言った覚えがない」と言えば、それ以上論争が発展する余地がなくなるのです。
そのためには、私的メモを公文書化する方法が最も有効です。郵送はそのための準備なのです。
情報公開請求をする
協議録の書簡は、文書取扱主任を経て窓口担当者に渡りますが、そのまま無回答であることがほとんどです。このため、数日後に自らが送った文書を情報公開請求します。
情報公開請求の対象は行政文書ですが、行政文書の幅は実に広く、たとえば役所との協議の最中に職員が記録していたメモも情報公開の対象になり得ます。したがって、こちらから送った文書も役所がいったん収受すれば行政文書なのです。
情報公開をすることで、協議自体が窓口で行われたことが明白になりますから、万が一役所の窓口とトラブルになったとしても、「この文書を訂正する連絡はなかった」と、情報公開文書の写しを提示して反論することが可能になります。
実は役所の側も助かる
誤解をしてほしくないのは、これは一方的に役所を責めるための手段ではないということです。実は役所の立場から考えても有効な方法なのです。
不動産に関する規約は実に多くあり、ある一点に気を取られるあまり、別の視点が欠落したままで、来訪者に説明してしまうことが往々にしてあるのです。しかも来庁者は、自ら氏名を表明することはありませんから、後から誤った説明をしたことに気づいて、やきもきしていることもあるのです。
こうした協議録が届くと、誤った情報を伝えてしまった相手に、改めて訂正内容を伝えるチャンスが得られるのですから、役所の職員が助かることも少なくないのです。
今回の事例だと「実は地区計画の制限を見落としていました。老人ホームの建築ができない地域でした」と、取り急ぎ電話がかかってくることになります。
これによって不動産会社側もお客様に迷惑をかけることなく別の土地を斡旋する流れに進むことができるのです。
まとめ
役所の窓口調査のトラブルは、ささいなミスから発展することがあります。窓口には比較的若手の人が対応することが多く、中には異動してきたばかりで、業務を十分に把握しきれないままに窓口応対をしていることもあります。
不動産調査で役所を訪ねる際は、一方的に質問をするのではなく、ある程度は下調べを済ませたうえで、最終確認の意味で質問するといった姿勢で臨むことが重要です。