既存住宅流通量比率が4割に達した2019年、そして今後は?

日本における既存住宅(中古住宅・中古マンション)の流通量は、欧米に比較するとまだまだ少ないと言われます。

しかしながら新築着工戸数との比較による、既存住宅の比率には上昇傾向がみられ、今後は既存住宅の流通量は相対的に増加します。

売買仲介に関わる専門家として知っておきたい、現在の既存住宅流通の状況と今後の傾向について、データにもとづき解説します。

既存住宅流通量比率が4割

不動産流通経営協会(FRK)は、2021年3月23日「2019年の既存住宅流通量が全国で60万戸超となり、新設住宅着工戸数との比較で、既存住宅流通比率が40.0%となった」と発表しました。

出典:R.E.port「19年の既存住宅流通量、全国60万戸超に」

FRKは既存住宅の流通量の登記個数をベースとした集計を行い算定しています。

同年のデータを国土交通省が集計している「既存住宅販売量指数」から抽出すると下表のとおりであり、新設住宅着工戸数944,336戸との比率では24.6%となります。

年・月 既存住宅流通戸数
2019.01 19,338
2019.02 22,838
2019.03 31,911
2019.04 26,950
2019.05 23,936
2019.06 26,313
2019.07 27,219
2019.08 24,769
2019.09 29,889
2019.10 23,156
2019.11 24,036
2019.12 27,086
年計 307,441

国土交通省のデータは個人取得の住宅であり、FRKのデータには法人取得のデータも含まれている違いがあります。

そのためFRKが算出する既存住宅流通量比率は、実際の取引の実態を反映していると言われています。

欧米と比較して日本の既存住宅流通量は極端に低いと言われますが、ここで再確認の意味で欧米の状況を示します。

引用:内閣府「既存住宅市場の活性化について」

既存住宅の流通量が総住宅流通量に占める割合は以下のとおりです。

・アメリカ:81.0%
・イギリス:85.9%
・フランス:69.8%

(日本の既存住宅流通シェア14.5%は既述のように、統計データのベースが異なるために低く算定される傾向にありました。)

データは2018年のものですが、前述のとおりFRK算出の既存住宅流通比率が、実際に近いものと仮定すると、日本は欧米に比較しおよそ半分の流通量比率であると言えます。

日本における新築住宅着工戸数が右肩上がりにならない限り、今後、既存住宅流通比率はますます上昇していくことに疑問の余地はありません。

新築住宅着工戸数の推移

念のため現在までの新築住宅着工戸数の推移と、着工戸数が上昇しない要因について確認しておきます。

新築住宅着工戸数の推移は下図のごとくであり、2015年以来ほぼ横ばいとなっています。

出典:国土交通省「令和2年度住宅経済関連データ」

人口減そして生産年齢人口の減少に加え、平均給与の上昇が見られない現在において、新築住宅の着工戸数を上昇させる要因は見当たりません。

引用:独立行政法人労働政策研究・研修機構「早わかりグラフでみる長期労働統計」

既存住宅流通量が上昇するもうひとつの要因

2000年4月1日より施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」にもとづき、住宅の性能を第三者機関が評価する住宅性能表示制度がスタートしました。

住宅性能表示は「品確法」が定める住宅性能表示基準に則り、定められた評価方法基準にもとづき第三者機関が次の10項目について住宅性能を評価するものです。

1. 構造の安全性
2. 火災時の安全性
3. 劣化の軽減
4. メンテナンスの容易さ
5. 温熱環境性能
6. 空気環境性能
7. 光や視覚にかんする環境
8. 音に対する環境
9. バリアフリー
10. 防犯性

2000年スタートのこの制度により、住宅性能評価書の交付を受けた住宅は2020年末までに、3,843,631戸になります。

下のグラフは毎年の交付戸数を表したものです。

出典:一般社団法人住宅性能評価・表示協会「住宅性能評価書交付状況」

年間におよそ2割の住宅(戸建・共同)が住宅性能評価書を交付されており、やがてこれらの性能の高い住宅が中古市場に登場してきます。

住宅性能評価書を交付された住宅は、性能値もさることながら耐久性が高く、メンテナンスを適切に行うと長寿命の住宅になり得ます。

このような良質な中古住宅の登場は既存住宅流通促進に寄与し、活発な取引が期待されるのです。

200年住宅が生み出す未来

2008年~2011年の4年間実施された「長期優良住宅先導事業」は、超長期優良住宅の開発を国土交通省が図ったもので、通称「200年住宅」と呼称されることがありました。

ハウスメーカーはじめ住宅関連企業が応募し、審査の結果採択されたプロジェクトは多数あります。

参考:独立行政法人「長期優良住宅先導事業 採択プロジェクト一覧(部門別)」

「200年住宅」については、200年という年数が現実的なものか、目標的なものなのかいろいろ議論があったようで、その後 “200年住宅” というワードそのものは使われなくなりました。

しかし2008年度予算案検討時点の参考資料には “200年住宅”が使われています。

引用:国土交通省「住宅の寿命を延ばす「200年住宅」への取組 H20年度予算案」

「200年住宅」は寿命の長い住宅を目指す開発者にとっては、キャッチフレーズ的な響きがあり、現在もその開発マインドは継続されています。

200年はオーバーとしても、今後は50年、60年と長持ちする住宅が生まれ、欧米にみられるような築年数の古い住宅ほど価値が高くなるという現象が生じるかも知れません。

日本は地震国であり住宅の安全性は耐震性能で決まるといっても過言ではありません。

200年住宅の概念においても、耐震等級Ⅲ以上の耐震性確保と劣化を防止するメンテナンスの容易さが重要なポイントでした。

住宅性能評価を受けた良質な住宅ストックは、既存住宅の流通比率をますます増大させることに寄与すると考えられます。

まとめ

一戸建て住宅においては耐久性の高い住宅が多くなっており、マンションにおいては大規模修繕の必要性が認識され、長期修繕計画と整合性のとれた修繕積立金制度になっている物件が増加しています。

リノベーションされた一戸建てやマンションは、中古市場において一定の評価を受けるようにもなってきました。

一方既存住宅の比率が増加する傾向の裏側では「もうひとつの高齢化」が進行しています。

それは売却物件の築年数が、年々古くなっている現実です。

次回の記事「売却される物件の平均築年数が年々古くなる理由」で、もうひとつの高齢化について考察します。

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