住宅営業社員の育て方・・・9【経験者の中途営業社員】

住宅営業の世界で頼もしい味方といえば住宅営業経験者でしょう。

いい人材がいれば、中途社員として採用したいと考える経営者はたくさんいます。

私が経営者であれば、もちろん同じことを考えますし、いい人材がいるとの情報を耳にすれば、すぐにでもその人物に会ってみたいと考えるでしょう。

しかし、経験者の中途採用は当たり外れも大きく、適当に採用すると高い確率で失敗すると思います。

今回のコラムは住宅営業社員の育て方の最終回としますが、育てる話だけではなく採用の注意ポイントも含めて解説をしていきます。

住宅営業経験があるJさんを採用したら大失敗

中部地方のあるフランチャイズ加盟店の話です。

某フランチャイズに加盟してから、ほぼロケットスタート状態で受注をゲット。

営業社員はフランチャイズ加盟前から自社ブランドを営業して頂経験者なので、そのままスライドして、問題なく業績をあげていたのです。

ところが、一番の働き頭である営業が家庭の事情で退社しました。

こうなると数字がガタ落ちするので、困った社長は中途社員の採用に乗り出しました。

社長の目にとまったのが 50代のJさん

「5~6人と面接したかな」

社長としてはもっとたくさんの人物と話をしてみたかったらしいのですが、最後に意中の人物を見つけたので採用活動をやめました。

ロマンスグレーのJさんは、身長も高くパリッとしたスーツを着こなし、話は流暢で弁が立つものの、軽薄さは一切感じられなかったとのこと。

そして採用の決定打となったのが前職における実績でした。

華々しい前職での実績

ついついこれに騙されてしまうのですが、前にいた住宅会社での成績が素晴らしいと、社長は喜び勇んで採用即決してしまう傾向があります。

Jさんも全く同じでした。

「昨年は年間15棟で一昨年は12棟の受注実績でした!!」

スーパー営業マンとまではいかなくても、これだけの数字を取っていれば、採用したくなる気持ちはよくわかります。

しかし、この答えに対して、二つの疑問を感じませんか?

① 素晴らしい数字をとっていたのになぜ辞めたのか
② そもそもその数字は本当なのか

私であればすぐにこう考えます。

15棟も取っていれば歩合給もかなりつくでしょうから、人よりは明らかに稼いでいるのは間違いありません。

そのような職場を放棄したのはなぜか、との疑問が普通なら湧くでしょう。

そして問題なのは、申告した数字が正しいかどうかです。

Jさんが在籍した前の会社とされる本社所在地は、新しく面接を受けた会社から遠く離れた県にありました。

いくら遠いといっても、電話やメールがあるわけですから、採用面接に来た件を話、事情を教えてくださいという確認電話を入れても別に問題はありません。

しかし、この基本的な作業を社長は怠りました。

Jさんのその後

晴れて転職に成功したJさんですが、その後は順調に契約を続けて10カ月勤務した段階の契約実績はなんと11棟。

この数字だけ見れば社長はホクホクですし、Jさんの転職も大成功と考えますよね。

ところが、ある日突然Jさんは退社したのです。

理由は一身上の都合という面白くもなんともない文言が書かれた紙を一枚だけ置いて、突如去って行ったそうですが、そのあとが大変でした。

11棟の契約中、5棟がテンプラだったのです。

テンプラというのは架空契約のこと。

これはこれでふざけた話ですが、これを差し引いても6棟を契約したことになるので、会社としては問題ないはずです。

しか、これらの契約の内容がすべてボロボロ。

強引に契約したり、大幅な値引きをしたり、お客さんに嘘をついたりなどのオンパレードでした。

そして、これらの嘘を隠し通せなくなったところでドロン、というのが事の顛末でした。

契約時に歩合給を出すことはやめたほうがいい

我々の仕事は扱う物件も大きいだけに、契約物件の金額や利益率に応じた歩合給を払うのが一般的です。

ところが、この歩合給を契約時に全て支払う会社が、まだまだあることが私にとって大変気になる点です。

営業としては一気に大きな歩合が入りますので嬉しいのですが、 営業の心理状態を考えると、すべてお金をもらってしまうとそのお客さんに対する意欲が薄れてしまうのは致し方ないところでしょう。

このように気が抜けると、契約後の動きが疎かになったり、クレームのもとになったりするのです。

そしてもう一つの理由がJさんのケースです。

テンプラであろうがデタラメな強引契約であろうが、契約書に印鑑さえついてあれば、それが歩合給の対象になるわけです。

この仕組みさえわかっていれば悪いことを考える営業マンが出てきても不思議ではないでしょう。

住宅営業経験者の育て方

ビジネスマン,クエスチョン,ひらめき

最悪の事例をご紹介しましたが、採用時には前にいた住宅会社への確認を必ず行い、辞めた理由と本当の成績を聞いてください。

別にスーパー営業マンである必要はありません。

納得できる理由で退社し、営業成績もそこそこならば、私が社長であれば前向きに採用を検討します。

入社後に必ずやってもらいたいこと

「住宅営業歴は10年あります」

こうこられてしまうと、あれこれと指導するのはやめて、後は好きにやってくれとなってしまうことが多いでしょう。

しかし、いくら経験者とはいえ、最低限の確認はするべきなのです。

知識テストを行う

住宅営業歴が10年もあれば、住宅関連の法規も頭に入っているでしょうし、住宅ローンのこともわかっているはずです。

断熱材の一般的な知識もあれば、耐震等級の説明も出来なくてはおかしいでしょう。

これらに関するテスト問題を作成してください。

そして、採用を決定する前に、このテストをやってもらうのです。

10年も経験があるのに、市街化調整区域のことがよくわかってなかったり、耐震等級の説明があやふやだったりすれば、何かがおかしいということになるでしょう。

入社後には接客の様子を必ずチェックする

本人にもプライドがあるでしょうから、入社面接にしっかり伝えてほしいのですが、入社後の一定期間は展示場などでの接客を、後ろから見させてもらう旨を本人に伝えてください。

接客スキルはもちろんですが、会社の方針に馴染まない接客をする中途社員がたまにいるからです。

こんな事例がありました。

ある男性営業が転職した住宅会社は、デザイン性を非常に重視しており、デザインについてだけでも小一時間は色々とお客さんに説明できる接客スキルをみんな持っています。

転職してきた彼にもそのことははっきり伝えてあるので、彼なりに接客ではデザインのことを押し出して話そうとするのですが、これまでのスタイルとは全く違うために、どうしてもうまくいかなかったのです。

このときは社長がOKサインを出すまで徹底的なロープレを行って彼を鍛え直しました。

実際に能力のある営業でしたので、デザインのことを話さなくても自分なりのスタイルで受注は取れたと私も思っています。

しかし、会社のカラーとしてデザイン性を前面に押し出しているのですから、彼だけが異質な接客をするわけにはいかないのです。

「年間10棟を取ってくれるから彼には何も言わないよ」

こう考える社長もいらっしゃると思いますが、しっかり観ていないと、気がつかないうちに営業現場がおかしくなってしまうかもしれません。

まとめ

もっといろいろな事例を書き書きたかったですが、今回はこれで打ち止めにします。

私は中途の営業マンの採用面接に立ち会うことが、年間で8~10件は必ずあります。

社長から頼まれることもありますが、私から積極的に同席をお願いすることも影響しています。

採用面接に立ち会う時には、ある架空のお客さんを設定して「あなただったらお客さんに〇〇なことを言われたらどう答えますか」 などと、どんどん質問して行きます。

このように質問して行くと、当意即妙な答えをする営業もいればパッとしない返事しかしない面接者も出てきます。

最終的な採用の可否は社長が判断するわけですが、私からも思ったところを率直に社長に進言します。

住宅営業経験者の中途採用は、育て方はもちろん大事ですけども、採用する時にも細心の注意を払ってください。

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