今日のコラムも私が現場で見た工務店が抱える、さまざまな問題を指摘していきましょう。
「あなたは自社の強みに気づいていません」
このフレーズはよく聞かれるものですが、よく聞かれるにはそれなりの理由があります。
理由があるのと同時に、これだけあちこちで指摘されながらもなかなか治らない病とも言えるでしょう。
比較的小規模な工務店が多いのですが、外野からわたくしが見ていると簡単に気付くことに、社長や社員の皆さんが気づいてないケースが多々あるのです。
そんな事例を数例ご紹介するので、皆さんの会社が当てはまるかどうか照らし合わせてください。
母体が不動産会社であるA工務店の事例
不動産に強いことがアピールできていない
このケースは私の体感でかなり多い気がしてなりません。
ある県で30年にわたって地域密着の不動産会社を展開している会社があります。
このA社が満を持し新規事業として 注文住宅事業に乗り出しました。
A社は展示場を作りましたが、展示場を建築するかしないかは別にして、さまざまなシーンで新規客を接客し建築請負契約を目指すことになります。
このような状況で、最初の一年間に100組を軽く超えるお客さんとA社は折衝しました。
このうち70%程度の方が土地を所有しておらず、建築業者を決める前に土地を探さなくてはいけない状況でした。
一般の住宅会社ハウスメーカーの場合は、このようなニーズを捉えた上で「ご希望にあった土地を探して好条件物件があればご連絡させていただきます」と折衝を進めるのが一般的な流れです。
こう考えるとA社の母体である不動産会社が30年にもわたって地域密着の不動産会社を営んできたのですから、私であればお客さんと次のような会話を必ずするでしょう。
私「土地は既にお持ちですか?もしくはこれから探されるのでしょうか?」
客「土地がないので一年前ほどからいろいろ回って必死になって探している状況です」
私「ご希望の地区とかありますか?」
客「名古屋市昭和区の川原小学校の学区内で探しているのですが」
私「あそこはなかなか土地が出ないのですよね。一般的な情報として流れる前に抑えられてしまうような人気地区になりますから」
客「そうらしいですね。私のような素人が普通に回っていても、状況は絶望的ですから」
私「弊社はこの地区で30年間不動産事業を営んでいるのですが、 新しく出る土地の情報が他社よりも圧倒的に早く入手できるのに加えて、地主さんから相続などを含めた問題で土地の売買を直接依頼されることもよくあるのですよ」
このような話の流れになれば、お客さんからすると、この会社から情報もらえば良い土地をゲットできるに違いないと考えるのではないでしょうか。
①ホームページでのアピールが薄い
私が懸念するのはこの点です。
A社のように30年の不動産実績があるのならば、それを強烈にホームページでアピールすべきでしょう。
読者の中にもこれに該当するような会社に勤務されている方もいるでしょうが、今一度会社のホームページを見てください。
ガンガンアピールしていいはずなのに、実際のホームページでは、ごく控えめな内容になってはいないでしょうか。
「不動産部があるのでさまざまな土地をご紹介できます」
極端な話をすれば、この一行で終わっているような会社すらあるのです。
土地の情報など何にもない住宅会社であっても、このぐらいのことは吹聴するでしょう。
それどころか「弊社独自のルートを通じて他社にはないような土地を皆様にご提供いたします!」と大法螺を吹くような住宅会社だってあるでしょう。
実力や情報や歴史がありながら、なぜか控えめなアピールしかしないことは、考えられないような機会損失であると言わざるを得ません。
②営業トークが控えめ
今お話したホームページと同じですが、不動産会社という強烈なツールを持ちながら、接客の現場を見ていると「弊社はもともと不動産会社ですので不動産の情報がたくさんありますよ・・・」で終わっているのです。
言っていることは間違いないのですが、これでお客さんの記憶には全く残らないでしょう。
もっと強く激しくアピールすべきなのです。
この二つの事例は、私が営業現場でよく見る光景と付け加えておきます。
デザインを軽視するB工務店の事例
困った工務店の事例をもう一つご紹介しましょう。
こちらは一人親方の大工さんの例ですが、昔ながらの大工さんによくあるケースで、住宅のデザイン性の軽視が甚だしいのです。
「これは本物の桜の木を使っているんだ」
これ自体は間違っていないのですが、お客さんのニーズとかけ離れていることに大工さん自体が気づかないのです。
木を知り尽くした大工さんなので、木に対する思いが強く、どうしてもこのような言葉が度々発せられてしまうのですが、この話が心に響くお客さんがいったいどれだけいるのか考えてみてください。
いくら立派な木を使ったり、五寸の床柱を備えた家を提案したりしても、お客さんが望んでいるのがおしゃれなデザインだったら、この提案は全くの空振りに終わります。
素晴らしい木材を使うこと自体にお客さんから反対されはしませんが「私のポイントはそこではありません」となるのです。
本物をアピールすることが悪ではない
勘違いしないでいただきたいのですが、木の良さをアピールすることがダメだなどと私は一言も口にしていません。
お客さんがそれを望み、かつ共鳴するのであれば、この方向で行くべきなのです。
ただ、ここで取り上げている事例は、大工さんの完全な思い込みや 固定概念の怖さを指摘しているのです。
私はこの大工さんが建てたある新築の家の室内写真を横目で見ながらこのコラムを書いているのですが、玄関からリビングに入る建具一つとっても、おおよそ若い方が受け入れるようなものとは程遠いデザインになっています。
ここに掲載するわけにはいかないので歯がゆいのですが、おそらくこの建具の写真を見れば、ほとんどの方が「さすがにこのデザインは無いよな・・・」と口にするでしょう。
ただ、彼にとってはこれが大工の矜持なのです。
繰り返しますがこれが悪いと言っているのではありません。
30代の若い夫婦が10組いたとしましょうか。
この中の半分にあたる五組の夫婦がこの大工の考えに共鳴するのであれば、この路線を突っ走るべきです。
ただ、現実を考えると、半数いるとは到底思えません。
それでも自分の好きなようにやりたいのであれば貫けばいいのですが、工務店を存続させていくつもりであれば、大工としての矜持に加えて、不足しているデザイン性を早急に高める努力をしなくてはだめです。
野暮ったいデザインは命取り
このコラムをご覧になっている工務店の皆さんは、おそらくデザイン性に関して一定基準をクリアされた方がほとんどだと私は推測しています。
こうしたウェブ記事に目を通す方は、新しいものを常に追い求めていますし、そのあたりの感覚は研ぎ澄まされた方が多いことを知っているからです。
私は仕事柄皆さんのような工務店の方々ともやり取りをしますが、 その一方で、コテコテの大工さんともそれなりの接点を持っています。
今お話した事例はコテコテの大工さんの話だと思ってください。
こんな田舎の大工さんもいる
この話とは別の大工さんですが、ある田舎の方の話です。
皆さんも地方に行くと気がつくかもしれませんが、同じ集落に外観がほぼ同じような一般住宅が並んで建っているのを見たことがないでしょうか。
外観も同じならば、屋根伏せの形状も同じ。
色も同じならば、窓の位置までほぼ似通ったところにある。
どうですか?不思議に思ったことはないでしょうか。
私も地方での住宅営業経験があるので、田舎に建っている家を見ながら不思議だな、といつも思っていました。
今の話はその地区で代々大工を営んでいる方が建てた家です。
昔であれば建てる側も納得してやっているので問題なかったのですが、若い世代になると「あれは勘弁してくれよ」となるのです。
親の力が強かったりお金を出されたりすると、親に文句が言えずに泣く泣く建ててしまうケースもあるのですが、こういう問題にいち早く気づいてほしいと思います。
この大工さんもかなり前から知っているのですが、後を継いだ息子さんはかなりの危機意識を持っていて、外観は親のテイストを踏襲したものの、中身は近代的なセンスを取り入れ親の世代と隔絶を宣言したところです。
まだ代替わりしたばかりでこの後の成り行きは未知数ですが、息子さんはデザイン性の重要性を強く感じています。
まとめ
自社の強みに気づいていない工務店と、弱みに気づいていない工務店の事例をご紹介しました。
本文の繰り返しになりますが、このコラムをご覧の方たちは、これに該当するようなケースはほぼないと思いながら書きました。
ただ、コンサルティングをしていると、ちょくちょくと目にするケースなのでテーマとした次第です。
本記事執筆講師が動画にてわかりやすく解説
工務店営業社員の育て方 「24年にわたって現場で営業育成をしてきたノウハウの一部をご紹介」
積水ハウスと 零細工務店で営業を経験したのち独立した私は、以後24年間に渡って現場で営業指導を行ってきました。
コンサルティング現場ではさまざまなことを行ないますが、今回の50分のビデオではコンサル現場で実際に行っていることも交えながら、3点にポイントをまとめて解説しています。机上の空論ではなく、すべてが 現場で実践してきた内容ですので、是非とも最後までご視聴ください。
今年度はひとり親方の 大工さんから、上は年間2000棟以上こなしているパワービルダーの社員研修まで幅広く行っていますが、規模の大小に関係なく、ある事を徹底的に忠実に実行すれば 受注が伸びていくのです。