【東京都が新築住宅に太陽光パネル設置を義務化!】他府県に波及するのか?

令和4年4月9日に「東京都の新築住宅への太陽光パネル設置義務化」との見出し記事が新聞やネットニュースを飾りました。

小池東京都知事がまた………といった「意見」もありますが、太陽光パネル搭載義務化にたいする賛否はともかくとしてカーボンニュートラル、つまり温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる取り組みはパリ協定で採択された世界的な約定です。

日本は2021年4月に目標の見直しを行い、2030年までに「2013年比46%、二酸化炭素排出量を削減する」としました。

その前段として令和3年10月22日に「地球温暖化対策計画」を閣議決定しています。

温室効果ガス排出量の推移

決定資料に添付されている削減推移状況の棒グラフは、縦軸が二酸化炭素1億トン換算で作成されており、一見すると2013年比で約半分削減できているように見えます。

具体的な排出量としては2013年の14億800万トンにたいし2019年は12億1,200万トンですから1億9,600万トン削減出来ていますが、達成比率としては約14%です。

実際に削減できていますからその努力は相応に評価されても良いのですが、目標としている2013年比46%削減するということは、2030年の年間排出量は約7億6,000万トンでなければなりません。

つまり2030年までの残り8年(記事執筆2022年換算)で約4億5,200万トンもの削減が必要です。

これまでの平均削減量は年2.3%ですから、このままのペースだと2030年までに達成できる削減量はせいぜい約30%前後でしょう。

閣議決定報告書にも記載されていますが、加速度的に対策を講じなければ達成困難です。

このような状況を鑑みれば東京都が日本の各都道府県に先駆けて太陽光パネルの設置を義務化するとしたのは「厳しすぎる!」と糾弾されるものではなく「よくぞ率先して動いてくれた」と称賛されるべきかも知れません。

記事によれば東京都は、主に大手住宅メーカーなどを対象として新築物件の屋根に太陽光パネルの設置を義務付けるとしていますが、全ての新築住宅に一律設置を課するのではなく、事業者単位ごとに目標設定を義務付けるようです。

具体的には総述べ床面積で年間2万平方メートル以上を供給するメーカーや不動産デベロッパーを対象にすると計画されており、対象物件にはパネルの搭載のほか断熱など一定レベル以上の省エネ性能を満たすことについても義務付する方針です。

具体的には2022年度「秋」を目処として条例改正を行うとしています。

改正により東京都内の該当メーカーは「基本性能アップによる建築費+太陽光パネル」の分だけ戸建て・分譲マンションの新築分譲価格が上がるでしょう。

とはいえ巻き込まれるのは建築業界と私たち不動産業界です。

新築賃貸マンションやアパートに対しての方針がどのようになるのかは未発表ですが、総述べ床面積による要件に該当すれば対象となる可能性を否定できません。

そのようになれば当然に「賃料」に反映されることでしょう。

東京都の動きを見て追随する都道府県も少なからずいるでしょうから全国的に波及する可能性は否定できず、これからは太陽光パネルや基本性能についての知識が必要とされるでしょう。

太陽光パネルと言えばZEHを思い出します。

ZEHもしくはZEB、前者はゼロ・エネルギー・ハウスであり後者はゼロ・エネルギー・ビルディングのことですが、詳細な概要や補助金等については新築住宅を手掛けている方なら相応に理解しているでしょうが、それ以外の方、つまり中古住宅取引や土地などの媒介業務を中心として活動している方は、直接申請する機会もないでしょうから言葉は知っていても、詳細な知識といえば多少、心もとないかも知れません。

もっともZEHで検索すれば、新築のハウスメーカーを中心に数多くヒットしますから「不動産会社のミカタ」コラムで同じような解説はおこないません。

少し視点を変えて営業に役立つ情報を解説します。

二酸化炭素排出量の部門別削減状況

冒頭で解説した全体の二酸化炭素排出量を産業別に分類すると産業・業務・家庭などの部門別ではそれなりに削減ができているのですが、運輸部門ではあまり削減できていません。

二酸化炭素排出量の部門別の推移

もっとも運輸能力を下げず排出量を削減するには車両の入れ替えも必要ですから、強硬策は業界の衰退を招き、結果としてライフラインに甚大な影響を与える可能性があります。

国土交通省は連携事業として物流部門における二酸化炭素削減対策事業に取り組んでいますが、事業スキームを見ても連結トラック支援事業やスワップボディコンテナ車両導入・物流用ドローンシステムなど企業が直ちに採用できる計画ではありません。

連結トラック導入支援事業

となれば「産業・業務・家庭」部門でさらなる削減をするしかありませんが、その中でも最も導入を誘導しやすいのが家庭部門でしょう。

部門別の二酸化炭素排出量(2019年度)

目標を達成するため加速度的に二酸化炭素排出量を削減するのに、家庭部門における太陽光パネル搭載を法制化して義務付けするのが近道だからです。

「パネル搭載が嫌なら、新築を建てなければ良いじゃないか!」なんて言葉にできない本心が見え隠れしています。

正式名称はネット・ゼロ・エネルギーハウス実証事業

冒頭でも記載しましたが「太陽光パネル=ZEH」というイメージは根強いでしょう。

ZEH関連事業は経済産業省・環境省・国土交通省の三省合同事業として行われていますが、実務は一般社団法人_環境共創イニシアチブが行っています。

温室効果ガス削減に関連する用語としては「カーボンゼロ・カーボンニュートラル・カーボンフリー」など様々な用語が用いられますが、この中でも政府が目標に使用しているカーボンニュートラルがもっともメジャーでしょう。

2050年までのカーボンニュートラル・ゼロ,再エネポテンシャルの最大活用と追加導入

日本政府が世界に向け宣言した「2050年までのカーボンニュートラル・ゼロ」を家庭部門で達成するには「再エネポテンシャルの最大活用と追加導入」が重要です。

政府は実現のため下記「八大重点対策」を掲げています。

●屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
●地域共生・地域裨益型再エネの立地
●公共施設や業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
●住宅・建築物の省エネ性能等の向上
●ゼロカーボン・ドライブ(再エネ×EV/PHEV/FCV)
●資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
●コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
●食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立

これら重点対策実現のため予算から補助金を拠出して実証実験が行われていますが、「ZEH補助金」もそのうちの一つです。

この補助金の正式名称は「ネット・ゼロ・エネルギーハウス実証事業」とされ、補助金を利用して住宅を建築した場合に、利用者には入居後2年間、都合4回の定期アンケートという名称の報告が義務付けられています。

ネット・ゼロ・エネルギーハウス実証事業,定期報告アンケート

公表されているほどにZEHは普及していない!

地球の二酸化炭素排出量を抑制し温暖化を防止することは大切だと理解をしている方が大半ですが「それはそれとして、設備金額の負担を私たちがしなければならないの?」と考えるのが人情です。

ZEH普及率を底上げしたい各省庁は「自給自足で電気代が節約できるのだから、その恩恵を受ける自分で設備費を負担するのは当然でしょう!」と、口には出さないけれど考えています。

ですが対策を取らずZEHが普及するはずもありませんから「補助金+税制優遇等」により実績を上げ、効果測定を行いながら時期を見て「義務化」に持っていく方針でした。

ご存じの方も多いかと思いますがZEH実証事業の開始当初は「2030年までにZEHを義務化する」とされていましたが、年を追うごとにそのトーンは下がり現在では2030年までに目指す姿としてZEH相当の省エネルギー性を有する住宅が確保されること、もう一つが新築住宅の6割に太陽光発電設備が導入されることとなっています。

2030年に目指すべき住宅・建築物の姿

もっとも住宅性能については省エネルギー基準の段階的な引き上げが進められていますが、大手はともかく中小工務店が高気密・高断熱住宅を建築できる技術と資金を有しておらず、性能の低いローコスト住宅建築の途を断たれれば即座に倒産しかねないといった実情もあり、政府としても強硬策を講じることができないという背景もありました。

ですが近い将来そのような甘えは通用しなくなり、一定以上の住宅性能を適正な価格で建築することができない工務店は淘汰されていくでしょう。

その兆しが今回の東京都の太陽パネル搭載義務化です。

本来であれば政府が搭載義務化に踏み切らなければならなかったのですが、ZEH補助事業が当初計画どおりに進捗していないという負い目があり強行処置に歯止めをかけています。

2020年のZEH目標の達成状況

2020年のZEH目標達成状況資料によるとハウスメーカーの56.3%が達成とされていますが、実際には太陽光発電システムを搭載していないZEH相当の住宅性能を有している「ZEH_Oriented」と、計算上において75%以上の省エネ性を確保したNearly_ZEHも含めた数です。

フルゼッチ、つまりエネルギー消費量と創エネ量が概ねゼロとなる住宅の達成率ではありません。

嘘とまでは言いませんが「グレー」な表現です。

新築注文戸建のZEH化率の推移

実際の普及率はそこまで高いとは言えないでしょう。

ZEH補助額の基本は55万円で蓄電池を導入すればプラス20万円が補助されます。

さらに建物性能などの一定要件をクリアすればZEHプラスの対象となり補助額が100万円まで引き上げられます。

これに追加して先進的再エネ熱等導入支援事業設備を導入すれば追加として90万円が補助されますから、最大で190万円の補助が受けられる可能性があり、施主からすれば利用したいでしょう。

ですが補助金を利用するためには住宅性能を引き上げる必要がありますし、それぞれの設備も高額です。

基本性能を有していない建物の場合には、追加金額として300~500万円程度は必要になるでしょう。

補助金の額を上回ります。

さらに一度でもZEH申請業務を手掛けたことがある方ならご存じでしょうが、申請書類はもとより工事進捗状況に対応しての写真撮影業務や交付申請書・実績報告書作成等その煩雑さは有名です。

技術力も住宅性能も有している中小工務店がZEH補助事業の利用を敬遠する理由は、書類作成のために他の業務が停滞するからです。

まとめ

今回は東京都の新築住宅への太陽光パネル設置義務化から二酸化炭素削減状況そしてZEH補助事業までを解説したのですが、結論として近い将来に政府はもとより各都道府県も東京都に追随して義務化へと進んでいくことを知っていただきたいと考えたからです。

根拠は平成18年4月1日から施行されている地球温暖化対策推進法が令和3年6月2日に改正されたことによります。

地球温暖化対策推進法,改正の全体像
改正によりこれまで地方公共団体に求められていなかった再エネ利用促進等施策の実施目標設定が義務とされ、目標を定める以上は少なからず達成しなさいという圧力に変わったからです。

政府による地球温暖化対策計画の策定

その代わりと言ってはなんですが実行計画を達成するための設定等に関する権限を、各都道府県等に付与しました。

地球温暖化対策推進法,改正内容

東京都が全国の自治体に先駆け太陽光パネル搭載の義務化に踏み切ったのは、政府の思惑は勿論のこと目標を達成するための手段として適切であったからでしょう。

各都道府県も目標を設定し、どのように達成するかを模索している最中でしょうから東京都の定めるルールなどを参考として追随してくる可能性が高いのは、このような理由からです。

冒頭で解説しましたが、情報を先取りして来るべき時代に備えるのは不動産業者として大切な心構えです。

解説記事を参考に、事業を展開している各都道府県の動きに注視して来るべき時代に備えることが大切だと言えるでしょう。

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