【ローコスト住宅が淘汰される?】建築物省エネ法改正案閣議決定調整開始

つい先日、東京都による「太陽光パネル搭載」に関してのコラムを執筆したタイミングとほぼ同時、令和4年4月13日に国土交通省庁が建物省エネ法改正案を令和4年国会に提出する方向で関係省庁と協議を開始したとの記事が新聞やネットニュースで報道されました。

記事によれば4月中に閣議決定をめざすとされていることから、東京都の動きが少なからず日本政府に影響を与え重い腰をあげさせたような気がしてなりません。

省エネ性能の段階的な引き上げは既定路線でしたからこれまで「推進する」と表現されていた努力目標が、どの時点で「義務」に切り替わるのかは時間の問題でしたが2030年までに2013年対比46%削減すると国内外に宣言していましたが、現状のままでは達成見込みが立たないことから一気呵成に閣議決定まで駒を進めたのでしょうか?

政治家による大人の都合が見え隠れしています。

いずれにしても改正法が閣議決定されれば、中小工務店等への影響は甚大だなどと形式的な反論などもあるでしょうけれども、なし崩し的に「一定性能以下の新築住宅は建築不可」となります。

これまで省エネ基準に備えてこなかった中小工務店は、生き残りをかけ早急に対策を講じる必要が生じました。

仲介業務を専門としている方には建物技術基準や新築住宅に求められる性能は一見、直接関係がないような気もするでしょうが、もともと一定の断熱性能を有している大手ハウスメーカーや中小優良工務店等を除き、これまで義務化されていなかったことを理由に基準を満たさない工務店等が一定性能を確保するためには、充填する断熱材等の部材を変更しなければならず建築価格が上がります。

利益率を低下させ現状の建築坪単価を引き上げるか、部材価格が上がった分を消費者に転換するかの判断に迫られるでしょう。

「ウッドショック」は御存知でしょうが、長引くコロナ禍の影響でコンクリートや鉄筋等の建築部材も値を上げ、さらに中東で繰り広げられる戦争、そして住宅性能引き上げ義務化による建築単価の上昇は業界全体に影響を与える可能性が高いでしょう。

このような観点から、今回は改正ポイントと併せて省エネ基準について解説します。

段階的に引き上げられてきた住宅性能

時代を先読みして備えてきた工務店等は「来るべき時がきた」だけのことですから、改正法が閣議決定されても慌てふためくようなことはないでしょう。

建築業界の有識者は「いずれ到来する時代に備えておくことが大切」と警笛を鳴らし続けてきました。

筆者の知己でもある東京大学サステイナブル建築デザイン研究室を主催する前真之准教授は「エコハウスのウソ」を著作するなど一般住宅における断熱性能に関しての権威ですが、いち早く「今後、生き残るのはスーパー工務店だけである」と喝破されていました。

この場合のスーパー工務店とは断熱知識と技術力を有する地方に根付いた工務店を指していますが、実際にこのような工務店はバックオーダー1年半などあたりまえで、受注にこまるどころか断るのに大変なところもあるのだとか。

それにたいし「どうせ二転三転するのだから、そうそう義務化になんかならないだろう。改正になったらその時点で考えれば良い」と日和見主義であった工務店等が多大な影響を受けるのは、ある意味で自業自得でしょう。

中小工務店の習熟状況
なんせ基本である一次エネルギー消費量や外皮性能すら、約50%の工務店は計算できないのですから。

私たち不動産業者がこれらの計算を行うことはありませんが、それぞれの用語の意味はお覚えておきましょう。

一次エネルギー消費量

建築物のエネルギー消費量を評価する指標の一つです。

一次エネルギーとは石油や石炭・天然ガスなどエネルギー自体を意味しますがそれらを原料として加工されたもの、例えば電気やガソリン・都市ガス・灯油などは二次エネルギーを呼ばれます。

ちなみに一次エネルギーは化石燃料に限らず、太陽光を始めとして風力・水力・地熱など自然界から得られるエネルギーを総称していますので、環境意識の高まりから化石燃料など、将来的に枯渇するエネルギーを「枯渇性エネルギー」、半永続的に得られるエネルギーを「再生可能エネルギー」と呼び分けることが多くなっています。

外皮性能

一次エネルギー消費量と同様に、建築物のエネルギー消費量を評価する指標の一つです。

具体的には住宅の内外部を隔てる境界部分、つまり外壁・床・天井・窓などの断熱性・気密性・遮音性などの能力を示す数値のことです。

具体的には外皮と窓の外皮の平均熱貫流率はUA値、窓は平均日射取得率であるηA値を単位としています。

住宅性能の説明方法はどうなる?

前項のように住宅性能指標を文字で表現すれば複雑に感じますが、実際には自社で使用している設備や建築部材の各性能を把握し、それらに関連する多少の知識があればそれぞれの数値を計算ソフトに入力するだけですから、慣れてしまえば簡単に算出できる程度のものです。

計算ソフトは無料で利用できるWEBプログラムが公開されており、実際に建築に関してプロではない筆者でも計算ができてしまいます。

簡易計算シート,建築

もっとも薄利多売で数をこなさなければ事業を維持することができないなど、先送りしてきた理由も各社にはありますから全てが怠慢であるとまでは言えません。

ですが省エネ基準が義務付けされれば、それ以下の性能では建築が認められないのですから対応するしかありません。

あくまでも現段階で入手できる情報の範囲ではありますが、改正案ではこれまでオフィスビルなどに限定されて義務付けされていた省エネ基準を、2025年までに義務付けするというものです。

具体的には、現行では下記図で努力義務とされている部分が全て「義務」に変わるということです。

戸建住宅等に係る省エネ性能に関する説明の義務付け

つまり省エネ基準に適合している建物であることは当然として、新築住宅を仲介して売買契約を行う際には重要事項説明時までに設計者である建築士から購入者に対し、省エネ性能に関する説明が必要になるでしょう。

建築物のエネルギー消費性能の評価結果の概要
おそらくではありますが住宅性能についての説明は、宅地建物取引業法にいても購入動機に影響を与える「重要な事項」であるとされ「重要事項説明の前までに説明をするのが望ましい」とい表現されるのではないでしょうか。

書式は、現行で使用されている「建築物のエネルギー消費性能の評価結果の概要」が引き続き使用される可能性が高いでしょう。

まとめ

解説の中で紹介したエネルギー計算ソフトの使用方法を覚える必要などまったくありませんが、一次エネルギー消費量と外皮性能の用語と意味は必ず覚えておきましょう。

理想としては下記2つの基準も抑えておきたいものです。

・活動地域の断熱基準
・一次エネルギー消費量基準

断熱基準,一次エネルギー消費量結果

ローコスト住宅など価格優先で建築されている住宅は、改正法に適合させるために断熱材や設備を変更しなければならない可能性が高く「価格」の上昇が見込まれます。

法制化により価格が上昇したという理由だけでは購入者検討者も納得しないでしょうから、性能向上により享受できるメリットについて説明できるよう知見を広めておくことが大切でしょう。

消費者に対する情報発信

とくに健康面などはポイントになるでしょうから、そのような情報についても学びを深めて備えておくことが肝要です。

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