内見業務や土地の案内など、現地に同行するとたまに受ける質問に「ここって昔、どんな場所だったの?」と聞かれることはありませんか?
質問の意図は色々だと思いますが、顧客が知りたいのは過去畑や田圃もしくは何かいわく付きの建物でも建っていたのではないかということだと思うのですが、案外、これに答えられる不動産営業マンは少ないようです。
生まれ育った地域であれば、子供時代の記憶で「この辺りは一面、広い畑で」など話もできるのでしょうが、そうでなければ「昔は……?」と質問されても答えられないものです。
現地で答えることができなければ、「後ほど調べてご連絡します」というしかないのでしょうが、調査するのにしても調べかたが分からず戸惑うこともあるでしょう。
筆者も、内見時のこのような質問をされることがありますが、大概はその場で返答できます。
とはいえ記憶している訳ではありません。
「今昔(こんじゃく)マップ」を利用して、即座に回答しているだけのことです。
今昔マップは埼玉大学教育学部の谷謙次教授が主催する人文地理学研究室から、無償で提供されているサービスの一つです。
人文地理学研究室の研究対象は地理学と文化人類学ですから、そのために地理情報に関しての情報収集はもちろん、人口分布や地価変動など幅広いデータを収集し検証しています。
地形や人口に関しての集積データは私達、不動産業者にとって「知りたい情報」が満載で、筆者もコンサルティングの調査報告書や査定書などを作製するさいには「ひと味ちがう専門的な視点からの書類」とするため、毎日のように利用しています。
それだけ使える情報が多いということです。
ですが各システムの使用方法を細かく解説するには膨大な量の文字数が必要となりますので、今回は筆者お勧めの「業務に使えるシステム」と、どのようなことができるかを解説させて戴きます。
入り口は今昔マップから
各種サービスを利用する入り口としては、下記URLから開くことができる「今昔マップ」のページから入るのが良いでしょう。
今昔マップは、「知る人ぞ知る」使えるサービスの定番ですが、ねんのためどのようなマップかを解説しておきます。
簡単に言えば1916年以降の国土地理医院地図を、年代指定して閲覧できるサービスです。
画面分割により、現代の地図と並べて表示することができますから冒頭の「この辺りは昔……」といった質問では、開いた地図を見せれば説明が不要(スマホでも利用できますが画面が小さいと見えづらいので、タブレットなどの利用がお勧めです)になります。
感覚的に利用できますので色々、試しているうちに使い方は覚えると思いますが、地図は航空写真など幾つかの種類が準備されています。
表示地図を変えることにより、様々な情報を入手できるでしょう。
各種サービスへのアクセス方法
前述した今昔マップの入り口から、左上にある「KIGIS.net」をクリックして、利用できる各種サービスを確認できます。
KIGIS.netは谷謙二教授が主催する人文地理学研究室が提供するソフトウェアや各種サービスを一覧で確認できるページです。
開いたページから下にスクロールしていき、下記の各種サービスを開きましょう。
開かれたページから利用できる各種サービスは、どれもが不動産業者にとって役立つものばかりですが、大学の研究室から提供されているサービスということもあり、多少、基本的な知識を持っていなければ利用が難しいサービスも含まれています。
ですが「習うより慣れよ」と慣用句にある通り、まずは色々と試してみることをお勧めします。
今回は利用方法が比較的に簡単で、各種提案に役立つものを中心として簡単に紹介と解説したいと思います。
不動産業者の「使える」サービス紹介
各種サービスのうち利用方法が比較的簡単で、各種提案に役立つものを中心として紹介します。
WEB等高線メーカー
地図で表示した範囲に関して任意の間隔で等高線を描画させることができます。
使いこなすのに多少の慣れは必要ですが、表示できる地図の種類だけで淡色地図・地理院地図・色別標高図・陰影起伏図など12種類もあり、その他に陰影起伏図・傾斜量図なども表示できますので、私達、不動産業者が調査を行う際にも役立つ機能が集約されています。
WEB地形断層図メーカー
地図上で指定した地点間の地形断層図を描き、複数を重ねて表示することができます。
例えば傾斜地の当該地と最寄り交通機関の標高差を調査して「徒歩で通勤できるか?」などを検討するための情報として活用できます。
このシステムは傾斜地などの現地案内をして「毎日の買い物や通学が心配」だという顧客に提示する情報として特に有効です。
人口増加率・人口密度マップ
1985年から2020年までの人口増加率を、国勢調査による基本データを基にビジュアルで表示できるサービスです。
人口増加率と併せて「人口密度」も表示することができます。
投資物件の提案、とくに賃貸物件については近隣の人口増加率などの情報は、投資判断に重要な影響を与えますから、そのような物件を扱う業者であれば見やすく表示できるこのサービスの利用は有効だと言えるでしょう。
雨温図作成サイト
地名や緯度・経度を指定して月平均気温や降水量を表示できるサイトです。
不動産業者の資料としては活用機会の少ないデータですが、ちょっとした小ネタや、平均気温の上昇の根拠にして省エネ住宅を提案する資料を作成するなどアイディア次第で活用できるでしょう。
地価公示価格
不動産業者にはお馴染みの地価公示価格ですが、このサービスでは下記図のように、㎡単価で色分けした地図を表示することができます。
さらに2画面表示機能を利用することで、年度による上昇率がひと目で分かるようになりますので筆者の場合、投資コンサルなどで出口戦略を考えた場合の参考データとして活用しています。
また公示価格の上昇の要因を、地域性も含め検討するのにも役立つでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
普段、作成している資料によって今回、紹介したサービスにたいする受け取り方も変わるのでしょうが、筆者のように不動産実務のほか不動産コンサルや執筆などを「業」としていると、これまでに紹介したシステムはどれも使えるものばかりです。
物件売買に限って言えば価格や市場優位性、顧客の要望に合致する、いわゆる「物件力」が何よりの判断基準として優先されますが、提案される物件力が同等の場合、「選ばれる」不動産営業となるためには、営業トークや容姿、会社の規模なども判断基準ではありますが「どれだけ有益な情報をもたらしてくれるか」が、何よりも大切だと筆者は思うのです。
「親密度は面談回数に比例する」というのは、旧時代の典型的な営業手法である「夜討ち朝駆け」の根拠ですが、実際にはしつこいだけの営業マンは嫌われるだけです。
ですが毎回のように有益な情報を提供することができれば、面談のたび顧客からの信頼が得られるでしょう。
最近の査定システムは高度化し、従来のように様々なサイトなどから情報を集め作成しなくても、簡単な操作で見映えの良い書類を作成することが出来ます。
利用しているシステムや盛り込む情報にもよりますが、十数ページの書類は簡単に作成できてしまいます。
そのようなシステムが優秀であることは間違いないのですが、同じシステムを採用している会社と査定書などを出し合った場合、表紙と社名が違うだけでほとんど同じ様な内容の物が出来上がってしまいます。
簡単にレベルの高い査定書が作製できる反面、個性的な提案書ではなくどこか画一的な印象を受けてしまいます(もっとも、初めて査定依頼書を提出された顧客は、その出来映えに感心するでしょうが、一括査定全盛の時代ですから)。
操作性の良いシステムで効率よく資料を作成することができれば、費用対効果から見ても間違いはないのですが、それを活用しながらも、今回、解説したシステムなどを利用して作成したデータを付け加えるだけで、「他社とは一味違う」説得力のある資料が出来上がるのではないでしょうか?