【手付放棄や違約による契約解除】それに伴う媒介報酬請求権について

真剣に悩んで購入しようと心に決め、すでに契約を終えたけれど何らかの事情により解約したい。

件数は多くないものの、上記のように買主から解約要望が出される場合もあれば、心変わりした売主から解約の意思が伝えられることも、長年不動産業務に従事していれば経験するでしょう。

不動産業者としては不本意ですが、手付解除期限内であれば買主は手付金を放棄して、売主は手付金を含む受領済みの金員に、それと同額を相手方に提供することにより契約を解除することができます。

前項で手付金解除期日と書きましたが、従来は「契約の履行に着手するまでは手付の放棄・倍返しで解除できる」としていることが多かったのですが、国土交通省庁による標準売買契約書でも「手付解除期限内であれば契約の履行の着手の有無によらず契約解除できる」とされていることから、それを踏襲した約款を採用している会社が多いのでしょう。

後ほど解説しますが「履行の着手」については、その判断を巡るトラブルも多いことから、上記で紹介したように手付解除による期限(期日)を定めているのです。

手付解除期限以降については、宅地建物取引業者が売主となる場合は違約金の上限が20%までと定められていることから、それと同額を違約金の額としていることが多いでしょう。

違約金を契約において定めた場合、それが損害賠償予定額となります。

民法420条で「当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」とし、同条3項で「違約金は損害賠償の予定と推定する」と定められているからです。

ですから契約で20%を違約金とした場合、実際に生じた損害額の多寡によらず、契約において定められた事項、及び社会通念上において相手方の責に帰すことが出来るなど特殊な事情が存在しない限り、定められた違約金の額を超えて請求することはできません。

例えば売主が決済金をあてにして新規に物件を購入し引っ越しまで終えている状態で、買主が決済直前に20%の違約金を支払い解約しても、道義的な部分はさておき違約金についてはほぼ斟酌されないということです。

契約書で定められた取り決めに基づく解除請求であれば対応するしかありません。

もっとも手付放棄や違約による解約において私たちには媒介報酬請求権がありますから「タダ働き」になることはありませんが、売主に「契約約款上合法ですから納得してください」と説き伏せようにも、スンナリと納得して貰えることは少ないでしょう。

納得が得られていない場合、媒介報酬を請求しても「決済が出来なかったのに支払いはしたくない!」と拒まれ、支払いをめぐって新たなトラブルが発生することにもなりかねません。

今回はこのような手付放棄や違約金による契約解除とそれに伴う媒介報酬請求権のほか履行についての基本的な考え方について解説します。

契約の履行とは

そもそも契約の履行とはどのような状態であることを言うのでしょうか?

通説としては「単に準備行為を意味するのではく、契約によって負担した債務の履行行為の一部を実際に行い、それが外形的にも判断できる状態であること」と解されています。

この解釈によれば、売主の場合には単に移転登記について司法書士に連絡をした程度では足りず、登記済み証書や移転の準備を完了し、その旨を買主に伝えた状態となり、買主においては融資の本承認を得て金銭消費貸借契約も終了し、具体的な残金支払日を調整するため売主に履行に即すよう連絡すれば、外形的にも「履行に着手」していると判断できるでしょう。

もっとも冒頭で解説したような手付解除期限の方式を採用せず、従来どおり「契約の履行に着手~」としている場合には「融資を申し込んでいるなら履行の着手だ!」とか「引っ越し料金の見積もりを依頼したから履行に着手している」とか、法的にも外形的にも履行に該当しない行為をそうであるとし、また不動産業者においても誤った解釈から違約金を請求するなどトラブルに発展するケースも多く、誰もが理解できるよう期限での区切りは正解だと言えるでしょう。

道義的な面を除けば、手付解除も違約金を支払っての解除も、定められた金銭を提供することで契約を解除することができ、理由を説明する必要はありません。

もっとも、それでは心情的なトラブルを誘発することになりますから、オススメは出来ませんが……。

もっとも手付放棄や違約による解約において私たちには媒介報酬請求権がありますから「タダ働きになることはありません」が、契約当事者にとってはスンナリと納得できないでしょう。

私達業者も契約から決済・引き渡しまでをスムーズに終え、最終的に約定報酬額を受領するのが本意ですから、解除は喜ばしくありません。

ましてや売主においてはせっかく契約締結できたのに一方的に解除されることは喜ばしいはずなどなく、とくに決済金を当てにして住み替え計画をしている場合にはその計画が根底から覆りますから「ハイそうですか」と受け入れづらいものです。

適切な解除は違法ではありませんから、結果的に「しょうがない」と納得してもらうしかないのですが、契約当事者は相手方に憤りを覚え、その怒りは解除の話を持ってきた私達に転嫁されることが多いものです。

例えば売主が契約解除された場合などは「納得できないから買主に一言、文句を言ってやる!」と怒り心頭になることも多く、それを受け解除の説明に訪れた私達が

「文句を言うのはご自由ですし、私達にそれをとめる権利はありません。ですが契約約款上合法ですから覆すことはできません。それよりも前向きに新たな買主を探しましょう」などと正論で受ければ「そもそもアンタ達がしっかりしていないからこんなことになるんだ!」と、トバッチリを受けることにもなりかねません。

媒介報酬請求権の根拠

家,お金,虫眼鏡

冒頭で手付放棄もしくは違約金の支払いによる契約解除、どちらの場合でも私達には報酬請求権が存在する旨を書きましたが、ここでは媒介報酬の発生時期とその根拠について解説します。

私達の媒介報酬請求権は媒介契約・実際の媒介行為・媒介行為と契約に至る因果関係・売買契約の成立により発生します。

つまり売主・買主どちらの媒介であっても、媒介契約を締結し、広告等により積極的に販売行為を行う、または物件提案・内見等の媒介行為を実際に行い、その結果として契約が締結できれば媒介報酬請求権が発生するということです。

実際の取引においては決済による残金の支払い、そして物件の引き渡しまで完了して一連の業務が終了となりますが、報酬請求権については決済や物件の引き渡しは要件とされないのです。

ですから媒介行為によって契約が成立している場合には、手付金の放棄や違約による契約解除がなされても、解除の原因が媒介業者にあるなどの特殊な場合を除き正規手数料を請求できる権利を有していることになります。

これは契約締結後の解約は媒介業者が関与できる事柄ではないからです。

ですがそれはあくまで法的な解釈であり、解約時の媒介報酬請求について裁判で争われた場合、これまでの判例等をみると取引額や媒介難易度、必要とされた労力等の事情を斟酌し、約定媒介報酬額を決定するケースが目に付きます。

そのような判例においては、正規報酬の全額を請求できる要件として「売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達せられた場合」としています。

このような判例においても契約解除時における媒介報酬請求権を否定することはありませんが、「取引の目的は達成されたといえない」として、一部を減額すると判断したものが多いのです。

法的に間違いなく請求権は存在していますが、各種判例の取引の目的が達成されることが約定媒介報酬を満額請求できる条件とする考え方にはある種、納得できる部分もありますから、結局のところ労力なども勘案しケースバイケースで判断するしかないのでしょう。

媒介契約報酬の受領時期

万が一のことを考えれば、契約締結時に全額を請求するのがベストですが(その場合には契約が解除され裁判により媒介報酬が争われた場合、一部返還命令が出される可能性はあります)さすがに物件引き渡し前の契約段階で全額請求すれば、決済・物件引き渡しまで誠実にフォローしてくれるのかと不安がられますから現実的とは言えません。

そこで媒介報酬は契約時・決済時の2回に分け受領するのが良いでしょう。

この契約時と決済時各半金としている不動産業者が、実際にもっとも多いのではないでしょうか。

表現は悪いのですが、これは万が一の時、取りはぐれしないための防衛措置です。

前項で契約解除時に約定媒介報酬全額を請求するためには「売買の目的が達成されることが必要」とする判断も多いと解説しましたが、一部減額の判例は存在しても、媒介業者が適切に業務を遂行した場合の報酬請求権を否定する判断は存在していません。

「最後に一括じゃ駄目なの?」と訝る顧客には前項の媒介報酬発生時期についての法理を説明し、媒介報酬を含む住宅ローンの申込みなど特殊な事情が存在していない限り契約時に半額を請求しましょう。

もっとも前項までに解説したように契約解除後の報酬請求権については様々な考え方が存在しているのですから、法的な措置を駆使して全額請求することも可能です。

ですが、ことを荒立てれば契約解除後に媒介契約自体を打ち切られる可能性が高くなります。

できれば穏便に済ませ、継続して新たな媒介活動を行えるよう人間関係を維持しておくのが得策だと言えるでしょう。

まとめ

コラムで解説したように「履行の着手の有無」については、当該行為の態様状況や、売買契約により締結された債務の内容、当事者事情による履行期の長短など、様々な内容を精査し総合的に判断されます。

ですから手付解除期限により区切りを設けている訳ですが、違約解除は履行遅滞、債務不履行による解除等、色々なケースが存在しそれによる実際の損害額も多様となります。

もっともどのような契約解除においても契約締結まで行っていれば媒介報酬請求権は存在します。

もっとも約定報酬額の全額請求がスンナリと受け入れられるかどうかについては、それまでの貢献度や解除となった根本原因への関与など、様々な原因を根拠として支払が拒まれることは想定されます。

媒介報酬の発生時期や違約解除となった場合の報酬額判例などを参考に、万が一の場合において報酬が極端に減額されることがないようしたいものです。

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