【事故物件を告知なしで紹介されたとお怒りの方からの相談】サイト掲載情報は必ずしも告知事項に該当しないが、無視もできない理由

不動産に関する全国の事故情報など掲載するサイト「大島てる」を、不動産調査のため利用している方は多いでしょう。

大島てる

新聞などのメディア情報や投稿者から寄せられた情報を精査し、具体的な住所や事故の内容などを掲載しているサイトで、不動産業者に限らず一般の方も利用しているかなり特殊なサイトです。

ご存じない方は、下記にURLを記載しておきますのでご確認ください。

https://www.oshimaland.co.jp/

「大島てる」は、サイト運営者が祖母の不動産事業を引き継ついだ際「心理的瑕疵物件情報」を検索するサイトなどが見当たらず、それならば「自分が立ち上げ情報提供しよう」という思いから運用を始めたとされており、掲載ポリシーとして下記のようなものがあげられています。

●掲載は事故物件に限る
●情報管理の徹底
●訂正・削除のリクエストには迅速に対応
●事故物件情報の掲載に期限は設けない(サイトが運営されている限り永久的に掲載)

サイトに掲載されている情報は広義の解釈では心理的瑕疵と言える内容ではあるものの、「事故物件ガイドライン」正式名称「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」から見れば「告知不要」である情報も数多く掲載されています。

例えば建築中における職人の落下事故などです。

販賣をする際に建築中の事故について告知不要ですし、社会的に影響のある大事故が発生したなどの特殊な例外を除き説明を求められることもないでしょう。

事故の発生が事実である場合、「大島てる」ではサイトが運営されている限りにおいて永久的に掲載するとされていますが、ご存じのようにガイドラインでは賃貸住宅の告知が必要な期間の目安は事件発生後(または特殊清掃実施後)3年間とされています。

つまり賃貸オーナーも3年を経過すれば、社会的影響が大きいなどの留意事項がない限り物件状況報告書に「告知なし」と記載することができますし、私たちも記載内容に基づき説明すればガイドラインを遵守して説明したということになります。

ですが購入者や賃借人からすれば、ガイドラインが策定されたからと言って何なのだという思いもあるでしょう。

コラムのタイトルとした「事故物件を告知なしで紹介された‼」とお怒りの方からの相談もその一例です。

賃貸仲介会社に紹介されて気に入り、契約をして入居したのだが「大島てる」サイトを見た友人から「あなたの部屋、つい数年前に孤独死があった事故物件じゃない?」と聞かされ自分でも調べたところ、確かに掲載されている。

担当者に連絡をして詰め寄ったところ「事故発生から3年以上、経過していますから告知義務はありません。また孤独死についてはそもそも告知義務がありません」と跳ね付けられたとのこと。

コラムをご覧いただいている大半の方は不動産業の方々だと思いますが、この回答はガイドラインに基づけば「正論」です。

重ねて相談者から「最初から知っていれば入居しなかったし、腹がたつので何とかならないか」と言われましたが、「あらかじめ経過年数によらず事故物件は絶対に嫌だと宣言していたことを立証できない限り、気になるのであれば引っ越しするしかないでしょう。残念ながら引越し費用などを仲介会社に請求しようとするのは無理筋ですね」と回答するしかありません。

紹介したケースと同様の話しは、おそらく珍しくもないのでしょう。

そこで今回は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」のおさらいをも交えながら、トラブルにならない告知方法について考えて見ましょう。

ガイドラインの立ち位置を理解する

まずガイドラインでは事案の発生が心理的瑕疵に該当するかについて、事案の態様・周知性・立地の特性・時代変化により変遷するとしています。

また売主や買主もしくは賃貸人と賃借人など個々人の内心に関わる事項であることから、それが取引の判断にどの程度の影響を及ぼすかについても当事者ごとに異なるとしています。

ですが、そのような判断が困難であるからガイドラインが策定された訳です。

あらためてガイドラインの位置づけを見ると、あくまで居住用物件において過去に人の死が生じた場合、宅地建物取引業者が取るべき対応や宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈について、トラブル未然防止の観点からガイドライン策定時点の判例や取引実務に照らし妥当なものをまとめたものとされています。

ポイントは「ガイドライン策定時点の判例や取引実務」であるということと「妥当なものをまとめた」ものであるという2点です。

これによりガイドラインを遵守しないからと言って直ちに宅地建物取引業法違反とされるものではない代わりに、遵守したからと言って民事上の責任を回避できるものではないとされているのです。

もっともトラブルが生じた場合の行政官庁における監督はガイドラインを参考にするとされていることから、私たち宅地建物取引業者は遵守しておくほうが良いのは間違いありません。

積極的な調査は不要。物件現況報告書に記載された内容を説明するだけで良いが……

基本的に人の死に関する事案が発生したかどうかについて、宅地建物取引業者には自発的に調査すべき義務はないとされた点が、ガイドライン最大の成果でしょう。

ですが通常の情報収集過程(物件状況報告による告知も含む)で人の死に関する事実が発生していることを知った場合、その事実が取引の相手方などにおける判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合、それを当事者に告げなければならないとされている点には留意する必要があります。

その点で注目されたのが、ガイドラインで示された下記の2点です。

●不慮の事故や自然死は原則として告知不要
●上記によらなくても賃貸(居住用)に限り、事案発生からおおむね3年を経過した時点で告知不要

冒頭の相談事例においても、上記の点を根拠として担当者は告知しなかったのでしょう。

ですから宅地建物取引業法上で違反であるとするのは無理があり、筆者も相談者にたいし損害賠償などを求めるのは無理があると回答するしかなかったのですが、そうは言っても、民事上の責任については必ずしも回避できる訳ではないことはガイドラインに記載されているとおりです。

ガイドラインは誰のため

結局のところガイドラインは誰のためにあるのかという視点が必要なのでしょう。

これまでは告知に関しての明確な指針がないことから、私たちが告知の可否について独自に判断することにより「心理的瑕疵」についてのトラブルが多発していたのですが、防止の観点から基準を示すことが求められたことにより策定されたのがガイドラインです。

求めたのは不動産業者であり、消費者側が望んだ結果として策定されたものではないのです。

例えば「殺人事件」があったとしても、賃貸の場合よほど記憶に残る凄惨な事件で社会的影響が大きかったものをのぞけば、発生後3年を経過した時点で「告知不要」の判断が採用される可能性が高いでしょう。

ですが賃貸する当事者からすれば、そのような物件に入居することは例え10年が経過しても嫌だという人もいるでしょう。

このような場合、ガイドラインに基づき告知をしないという判断は宅地建物取引業法上では直ちに違法とされませんが、民事上の責任まで免責とされる訳ではありません。

「大島てる」のサイト管理者ブログなどを見ると、「サイト内に情報が掲載されていますが、告知義務には該当せず、サイト情報によりマイナスイメージが植え付けられ売却時に影響が生じる可能性の高い情報です。法的な告知義務にも該当していないので、即刻削除をして欲しい」と言った内容の依頼が数多く寄せられているようです。

また期間を設けず掲載を続けることにより、「威力業務妨害にあたるとのでは?」なんて指摘もあるようです。

このような指摘をされる方は、ガイドラインは法律ではなくあくまでも目安であるという視点が欠けているのでしょう。

事件や事故の発生が事実である限り、期間を設けずその情報を掲載していることに違法性はありません。

実際に死亡事故などが発生していれば「大島てる」に掲載されていなくても、事実関係を確認することは難しくないからです。

私たちは積極的な調査義務について不要とされていますから、特別依頼でもない限り行う必要はありません。

ですがガイドラインを遵守するのはもちろんとしても、あくまで指針であり法律の定めではないことを理解し、契約当事者の要望や性格的な傾向、社会情勢などを念頭に置き告知するかどうかの判断が求められるという点については留意しておく必要があるでしょう。

そのような観点から言えば、説明としては「ガイドラインで定められている通常調査では告知にあたる内容について確認されませんでした。また売主(または貸主)からの報告については、別紙報告書に記載されています」という言い回しが最適なのかもしれません。

まとめ

事故物件に関する解説コラムを数多く寄稿しているからでしょうか、筆者には、告知に関しての相談が数多く寄せられます。

冒頭であげた相談もその一つですが、ガイドラインで告知不要とされているものを民事で責任追及するには相応の労力も必要で割に合わず、お薦めはしないという観点からアドバイスしています。

ですが、そもそも売買についてはガイドラインでも告知期間の目安が設けられていません。

事故発生の有無について積極的な調査は不要とはされていますが、通常調査によって把握した内容について事実関係を確認し告知の可否を判断することは私たちの責務です。

ガイドラインは万能ではないと理解し、カスタマーファーストの視点を忘れずに判断したいものです。

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