【難しいからこそメリットもある】覚えていおきたい公売の基本と注意点

つい先日、不動産会社のミカタコラムで公的不動産ポータルサイトを利用して都道府県や市区町村が所有する低未利用地の売却・貸付情報を積極的に利用してはどうかとの記事を寄稿しましたが、公共機関による売却つながりとして今回は「公売」について解説したいと思います。

説明するまでもないとは思いますが、市有地払い下げは公共施設が移転するなどして不要となった、もしくは将来的に市区町村の事業として使う予定のなくなった土地などを売却することです。

それにたいし「公売」は国税局や税務署・市区町村が国税徴収法の規定により、滞納された税金を徴収するため、滞納者の不動産などを差押さえ入札方式により売却し租税充当する手段です。

差押さえによる強制売却ですからイメージは「競売」に近いのですが、リスク面において隔たりがあります。

競売は裁判所が主導するのに対し、公売は税務署や地区町村が主導です。競売では物件概要や土地家屋調査士による評価、室内状況写真など物件の詳細情報が確認できる「物件明細書・現況調査報告書・評価書」、いわゆる三点セットが公開されますが「公売」では詳しい情報は開示されません。

もちろん所在地や面積、調査時の写真数点といった簡単な内容の情報程度は開示されるものの、3点セットと比較すればないに等しい情報です。

さらに競売では簡易的な手続きにより裁判所が強制執行を行ってくれますが、公売においてはそのような制度はなく、強制執行を行うためには裁判に提起して引き渡しを求める通常裁判によるしかありません。そのような手間を省こうと思えば当事者間で交渉するしかありませんが、立ち退き交渉に通じていなければ想像以上の時間と労力が必要になります。

そのようなリスクがあるので一般の方は手を出しづらく入札件数も少ない、結果的に競売より割安で落札できる可能性が高くなるのです。

リスクが高いからこそ不動産業者として腕の見せどころとなり、転売利益にも期待できる。

このように一長一短ある「公売」ですが、今回は入札前に確認しておきたい事項や注意点、立ち退き交渉のポイントなど、可能な限りリスクを抑えるための方法について解説したいと思います。

情報を入手するだけでも大変な理由

競売は民事執行法によるものですが、「公売」は国税徴収法により執行されます。

税金に関する徴収手続きについて定めているのが「国税徴収法」ですが、ご存じのように税金は国税と地方税に大別されます。

所得税や法人税などの国税は国税局または税務署が所管するのにたいし、住民税・不動産取得税・固定資産税などの地方税は都道府県や市区町村の所管です。

地方税に関しては「地方税法」が本来の手続法ですが、徴収金の滞納処分に関しては「国税徴収法に規定する滞納処分の例による(地方税法第六十八条第6項ほか)」とされていることから、公売はすべて国税徴収法により執行されるのです。

競売の場合はBIT(不動産競売物件情報サイト)を利用すれば国内全ての物件を確認できますが、「公売」では「おまとめサイト」は存在していません(民間による官公庁物件情報サイトはいくつか存在しますが、更新頻度には注意が必要です)

もっとも「国税庁公売情報サイト」は存在しますが、公開されている情報は国税局管轄のものだけで地方税に関する「公売」情報は掲載されていません。

公売情報

このサイトも定期的にチェックをする必要はありますが、不動産業者が心惹かれる物件が多いのは市区町村、つまり各自治体から公開される情報です。

おまとめサイトは存在していませんが、「〇〇市公売」などと検索すればすぐに確認できるでしょう。

現在の「公売」は電子申請システムが普及していますので、市区町村の「公売」入札はKSI官公庁オークションもしくは独自の外部サイトを利用して入札できます。

電子申請システム,公売,手順

入札は電子申請システムにより簡単に行えるのですが、面倒なのが入札期間情報の入手です。

これについては定期的にサイトを閲覧するほか、市政だよりや地方紙などを通じ情報を得るしかありません。

基本的に「公売」は各年度ごとに実施されるのですが、時期が一律ではないからです。

国税庁はサイトで「公売の一般手続き」、つまり公売の実施決議・公売公告など一連の手続きを定めて公開していますが、その第一節公売実施内容の決定には「公売の方法、公売の日時及び場所その他の事項をあらかじめ具体的に計画しておかなければならない」と記載されています。

つまり定期的にとも年一回開催とも規定されておらず、全てが各地自体の判断です。

期間入札による公売

共通の定めとしては入札公告や始期日、開札期日、最高買受人の決定などが日曜や祝日とならないように留意する点と、始期日の10日前に当たる日の前日以前に公売公告をすることだけです。

また公売は原則として公売財産の所在する市区町村において行う(徴収法第97条)とされていますが、税務署長が必要と認めるときは他の場所で行うことができるともされています。

さらに「多数の買受希望者の参加を得るため国税局または近隣税務署などと合同公売によることが効果的であると認められるときは、合同公売を実施することに留意する(徴収法第97条但し書き)」とされています。

このように単独・他の場所・合同開催が認められていることから、常にアンテナを張っていなければ有益情報を見落としてしまう可能性が高いのです。

覚えておきたい「公売」のリスク

ここでは公売リスクについて解説しましょう。

物件情報は基本的なことしか公開されない

公売で公開される情報は所在地・地目・面積・地勢などのほか1~3枚程度の写真程度です。

不動産業者であればインターネットを利用すれば僅かな時間で調査できる程度のものしか公開されません。

公売,物件情報

基本的に法令上の制限など基本項目以外は全て自身で調査しなければならないと覚えておく必要があります。

内部の確認ができない

空き家の場合には期日を定め内覧に応じる場合もありますが、入居中の場合はもちろん、内覧会などを開催するかどうかも都道府県や市区町村次第ですので必ず行われる訳ではありません。

開示される写真もわずか数枚しかありませんから、褒められた方法ではありませんが窓から室内を覗うなどして状態を確認するしかありません。

立ち退き交渉の問題

落札者への不動産登記簿上の手続きまでは都道府県や市区町村が対応し、「売却決定通知書」を発行してくれますが、引き渡し手続きはそこまでです。

たとえ土地や建物が第三者に占有されていても、「当局は一切関知しません」というのが原則です。

そもそも対象が建物であっても、鍵の引き渡しすらないのです(占有者と交渉して手に入れるしかありません)

冒頭でも触れたように、競売では簡易的な手続きにより裁判所が強制執行を行ってくれるのにたいし、「公売」で強制執行を行うためには裁判に提起して引き渡しを求める方法によります。

交渉力次第で裁判によらず「安く」立ち退き交渉を完了できますから、リスクであると同時に不動産業者として腕の見せどころでしょう。

危険負担

買受代金を納付した時点で危険負担は落札者に移転されます。

立ち退き交渉は納付後、自ら行う必要があり、交渉が長期化してその間に物件の毀損・盗難・焼失などが発生しても、危険負担はすべて落札者が負うことになります。

筆者の経験ですが、立ち退き交渉に何とか成功したものの退去時に、壁一面にカラースプレーで落書きされており唖然としたことがあります(その他にも壁や建具が蹴破られていたこともあります)

契約不適合責任

すべての契約不適合責任について都道府県や市区町村は責任を負いません。納付時点の現状有姿渡しが原則です。

入札前調査は徹底的に

内外観はもちろんですが、隣地と境界で揉めているなどの相隣トラブルに関する情報も一切開示されません。

また占有されている場合、それが所有者なのか第三者なのかはもちろん、氏素性や反社に属しているかなどの情報も一切不明のままです。

空き家の場合でも安心はできません。

内部にどこから持ち込まれたのか分からない家電ゴミが大量に投棄されていたケースを聞いたこともありますが、想像以上に残置物が多く処分のために相応の費用が必要となる場合もあります。

そもそも残置物は動産ですから、不動産の所有権は得ていても勝手に処分することはできません。

一歩間違えれば、窃盗や器物損傷など刑事罰の対象となってしまいますから動産の所有者に連絡し(所有者が居所不明の場合には別途手続きが必要です)所有権を放棄させなければなりません。

その場合、処分費は所有者に請求できるのですが、そもそも税金を滞納しているから「公売」にかけられたのですから「費用の回収はできない」と思っておいた方が良いでしょう。

このような落札後のリスクを回避するために必要なのが、入札前の徹底的な調査です。

現地踏査はもちらん近隣への聞き込み、空き家の場合には窓から内部を覗うなど、違法行為すれすれのテクニックを駆使して調査を実施することが、落札してから後悔しないために必要なのです。

まとめ

リスクが高いほど一般の方は敬遠しますから競合も少なくなり、低い金額で落札できる可能性が高くなります。

不動産業者としては、付加価値をつけ転売することにより利益が期待できるのですが、入札するかどうかは、今回解説したようなリスクを理解したうえで事前調査を徹底し、慎重に検討しなければなりません。

内部状況が確認できない点については解説しましたが、たとえば対象が分譲マンションの場合、管理費や修繕積立金・駐車場代などの滞納があった場合には落札者が負担する必要があります(前所有者に請求はできますが、回収できない可能性の方が高いでしょう)

立ち退きまで含め法的に整備される以前の「競売」と同程度ではありますが、3点セットが存在しない分だけ「公売」に必要とされる調査の難易度は上がります。

リスクが高いことにより、顧客から公売入札についての相談を受けることもあります。

不動産のプロとして入札方法や調査、落札後の問題点などについては理解しておく必要があるといえるでしょう。

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