【遺産分割協議が整わない】そんな時に必須の、相続申告登記を理解していますか?

令和6年(2024年4月1日)から相続登記の義務化が開始されています。

従来は任意であった同族登記を義務化した背景には、所有者不明土地や空家の増加があります。

物件周辺の環境悪化のみならず、民間取引や公共事業にも影響を及ぼす所有者不明土地等は、その取得原因の大半が相続によるとされています。

したがって義務化は必然でしょう。

相続登記の義務化に伴い、相続に関する様々な相談が不動産業者に寄せられるようになりました。

相談は、売却相談をはじめ空家の管理や所有権移転方法など多岐にわたります。

時に遺産分割協議の立会や、適正な法定遺留分について意見を求められるなど、およそ不動産業者の業務範囲外とも言える相談が寄せられます。

必要に応じ専門士業と連携しながら最後まで関わるか、業務範囲外であると断るかは各社の判断次第ですが、少なくても相談に応じるのなら最低限必要な知識は有していたいものです。

相続相談等に応じる理由は、いずれ訪れる売却時に依頼が受けられるよう「誠実で信頼のおける担当者だった」との印象を残す目的もあるからです。

したがって私たち不動産業者は、広い知識や知見を有しているほど潜在需要を構築しやすいのです。

例えば断熱リフォーム。

キッチンやトイレ、浴室やクロスの交換であれば培った経験で対応できても、「購入予定の中古住宅を、断熱等級6まで引き上げたいのですが、具体的にどの程度の規模で工事が必要ですか?」などと質問された場合はどうでしょうか?

「それはリフォーム会社等の仕事ですので、よろしければ信頼できる業者を紹介させていただきますが……」などと返答される方が多いかも知れません。

そのような時おもむろに建築図面を開き、「図面を見る限り現在の断熱等級は2もしくは3程度と推察されます。そこで断熱材とサッシ交換を優先し……」などと返答すれば、顧客の皆さんを見る目が変わるでしょう。

同様に相続相談においても、参考になる助言を一言添えるだけで俄然印象が良くなります。

今回はそんな観点から、相続申告登記について解説したいと思います。

所有権と占有

「相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権移転登記の申請をしなければならない。遺贈により所有件を取得したものも、同様とする」。

これが、改正不動産登記法で条文化された第76条の2第1項の前段です。

ポイントは、所有権の取得原因が相続に限定されている点です。

したがって売買・贈与・取得時効の完成などにより所有権を取得した場合には、従来通り所有権移転登記は義務とされません。

所有権は対象物(土地・建物・動産など)を全面的に支配する権利です。

あらゆる「物」にたいして所有権が認められるのです。

つまり不動産・動産によらず物件を支配する権利として所有権が存在するわけです。

動産の場合、公然と物件を占有していることで所有権を有していると推定されます。

しかし、厳密には占有権と所有権は別の権利です。

占有権は、「自己のためにする意志をもって、物を所有することによって取得する(民法第180条)」と定められています。

さらに占有の態様等に関する推定として、「所有の意志をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有するものと推定する(民法第186条)」とされています。

例えば親族からプレゼントされた高価な宝石を、うっかりと外出時に紛失してしまったケースを考えてみましょう。

紛失から5年後、たまたま参加した会合であなたが紛失した宝石と類似した物を身に付けている他人を見かけました。

断定できるわけではありませんが、色や形が良く似ています。

たまたま会合に知己の警察関係者がいたことから、「こういうケースって、捜査してもらえるのかしら?」と相談したところ、あっさり却下されました。

確かに、他人の占有から離れたものを自分のものにした場合は占有離脱物横領罪が適用されます。

これは1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料に処される刑事罰です。

ただし、占有離脱物横領罪の公訴時効は3年です。

時効取得は短期時効(善意無過失)で10年、有過失で20年とされていますから、民法上の所有権は失われていません。

ただし占有物離脱横領罪については時効を経過しています。したがって刑事罰を問うことはできません。

警察が捜査して起訴しても、裁判所から「免訴判決(公訴権が消滅したことを理由に裁判を打ち切る」が言い渡されるのがわかっていますから、捜査も逮捕もしないのです。

したがって民事で争うしかないのですが、物件の所有者が自分にあることの証明は簡単ではありません。

茨の道が待ち受けているでしょう。

車検証などで所有権を証明できる自動車などを除き、占有を離脱した動産についての所有権を主張するのは困難です。

前置きが長くなりましたが、不動産にも占有権が適用されますから時効取得が存在します。

しかし不動産の場合、占有を伴わなくても、登記により所有権を主張できます。

登記には様々な種類がありますが、最も多いのは不動産登記と商業登記でしょう。

それ以外だと総重量20トン以上の日本船舶が対象となる船舶登記や、企業が保有する機械設備などの動産に対して行う動産譲渡登記、債権譲渡を公示するために行われる債権譲渡登記などがあります。

いずれにしても登記は、個人や法人が持つ財産上の権利や義務を公に示すため、所有権などの権利関係を公示する行政上の仕組みなのです。

動産である私物に名前を書くことで、紛失しても所有権者であることを主張できます。

不動産登記はそれと同様の効果を持つのです。

取り敢えずの申請

登記を怠ることは、名前が書かれていない状態で動産を放置しているのと同様です。

悪意の占有者でも、20年間その状態を続ければ時効取得できます。

もっとも、他人が所有する空家へ勝手に侵入し住み始めれば不動産侵奪罪に該当しますが、こちらの公訴時効は7年です。

自力救済は日本の法律で認められていませんから、7年目以降は所有権に基づき排除請求をするほかないのです。

不動産の所有権を証明するためには登記が必須です。

なのに相続した不動産が登記されない理由は、手続き方法を知らない、もしくは面倒だからとの理由もあるのでしょう。

しかし、遺産分割協議が整わないことが原因の場合も多いのです。

とはいえ、相続が開始されたことを知り、かつ所有権を取得したことを知った時から3年以内に登記しなければ10万円以下の過料が科せられることになりました。

法の定めですから、これは強行措置です。

とはいえ、揉めに揉めている相続協議が、かならずしも3年以内で決着できるとは限りません。

そこで相続による所有権移転義務化と併せて創設されたのが、「相続人申告登記」です。

これは法務省で、相続登記の申請義務化施行に向け検討されたマスタープランに基づき創設された制度です。

相続登記の申請義務化

具体的には、自らが相続人である旨を登記官に申し出ることで、申請義務を履行したとみなす制度です(登記法第76条の3第1項及び第2項)

申出があった場合、登記官は職権により、申出者の氏名及び住所等を所有権の登記に付記します。

もっとも遺産分割協議が整った際には、分割の日から3年位内に移転登記を完了しなければなりません。

あくまで一時的な措置です。

そのため、相続人申告登記と比較して手続きが簡略化されています。

本来であれば、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本などを収集して法定相続人の範囲を証明し、かつ法定相続分の割合を定めなければ登記申請できません。

しかし取り敢えずの申請なので、被相続人の相続人であることを確認できる範囲で良いのです。

登記名義人の表示変更の登記申請

それ以外にも以下のような点で簡略化されています。

◯特定の相続人が単独で申出できる(他の相続人の分についての代理申出も可能)
◯オンラインで申請でき、その際の押印・電子署名は不要
◯専用ソフトウエアが不要(登記・供託オンラインシステムで手続きできる)
◯非課税

また申出書も下記のように簡単な書式ですから、記載で悩むことはないでしょう。

相続人申出書

ただし、前述したようにこの制度は、遺産分割で揉めているなど期限内(相続を知った時から3年以内など)に相続登記の申請をすることが難しい場合を想定し、取り敢えずの形で申請義務の履行をしたとみなされる制度です。

したがって権利関係を公示するものではなく、また、対抗力を具備しません。

相続不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりする場合には、別途、相続登記の申請が必要となります。

まとめ

相続不動産の登記義務化に伴い、相続相談に応じる機会も増加しています。

とくに持ち分割合について意見を求められるケースは多いものです。

法定相続による按分で、相続人全員が納得してくれると良いのですが、そう簡単にいかないことが多いものです。

「晩年の面倒は私が全部みた」は序の口で、「お姉ちゃんは大学まで行かせてもらったのに、私は専門学校にすら通わせて貰えなかった」、『あんたが遊んでばかりいて勉強しなかったからでしょう」などと、まるでホームドラマのような光景が繰り広げられることも多々あります。

原則として相続税の納付期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月です。

もっとも、遺産に係る基礎控除の範囲内、つまり3,000万円+(600万円✕法定相続人の数)以下であれば申告も納税も不要ですから、そのような相続案件ほど揉め事が長期化することが多いのです。

よく「揉めるほどの財産がないから、我が家は安心だ」と言われる方が見受けられます。

そのような方ほど遺言書など相続に関する準備はしておらず、それ故に分割が困難で揉め事もおきやすくなるのです。

とはいえ、不動産に関する相続登記は義務化されました。

遺産分割協議が整うまで不動産登記を猶予している時間は長くありません。

揉めている相続相談に応じた場合、まず相続人申告登記(相続人申出)を勧めることにより見識のある不動産業者であると信頼され、その後の助言が有効となるかも知れません。

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