【ご存知ですか?】瑕疵保険適用の傾向と、売却時の引き継ぎ手順について

住宅事業者(新築住宅の売主等)に対しては、2000(平成12)年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づき、住宅の主要構造部分の瑕疵について、10年間の瑕疵担保責任を負うことが定められています。

その後、構造計算書偽装問題を契機に、売主等が瑕疵担保責任を果たすための資力を有していない場合、住宅購入者が極めて不安定な状態に置かれることが明らかになりました。

そこで、2009(平成21年)年10月1日に「特定住宅瑕疵担保責任の確保等に関する法律(住宅瑕疵担履行法)」が施行され、住宅事業者は「保証金の供託」又は「保険への加入(住宅瑕疵保険)」のいずれかを選択し、瑕疵発生時の修補資金を確保しておくことが義務となったのです。ご存じかと思いますが、多くの住宅事業者は瑕疵保険への加入を選択しています。

住宅瑕疵保険の保険期間は、品確法に基づく瑕疵担保責任の履行期間と同じく、引き渡しから10年間です。もっとも、一定規模以上のハウスメーカーでは、自社による定期点検やメンテナンス工事の実施を条件に、瑕疵保証保険の期間満了後も、独自の保証で期間を延長しています。延長期間は様々ですが、20~30年としているケースが最も多く、中には60年以上や、建物が存続している限り保証するとしているハウスメーカーも存在します。

これらの保証期間内に対象建物が売買されるのは珍しくありません。したがって、中古住宅を中心に取り扱う宅地建物取引業者は、保証の引き継ぎ等に関する知識が不可欠なのです。この手続きを怠ると、後々のトラブル原因となるばかりか、購入者の不利益にもつながります。

中古住宅の売買における瑕疵保険や保証に引き継ぎの重要性を踏まえつつ、今回は瑕疵保険が適用された事故傾向やその対策について解説します。

保険適用は雨漏りが最多

住宅瑕疵担保責任保険は、住宅事業者が供託を選択しない場合は強制加入となる1号保険と、売主に資力確保義務がない場合に任意で加入する2号保険(住宅瑕疵担保責任任意保険)の2種類があります。

それ以外に既存住宅に対する任意の瑕疵保険があり、具体的には以下のような保険が提供されています。

  1. 既存住宅売買瑕疵保険
  2. リフォーム瑕疵保険
  3. 大規模修繕工事瑕疵保険
  4. 延長保証保険

瑕疵保険が適用された事故には、どのようなものがあるのでしょうか。これについては、令和3年3月に住宅瑕疵情報活用推進協議会(住宅あんしん保証、住宅保証機構など、会員6法人で構成)がまとめた「既存住宅に係る事故発生低減等に資する情報提供について」が参考になります。

保険事故の80%以上が雨水の侵入、つまり雨漏りによるものです。

この資料は、保険事故統計情報を基に、リフォーム瑕疵保険及び大規模修繕工事瑕疵保険における保険事故の種別や発生部位について分類・集計したものです。

したがって、引き渡しから10年以内の瑕疵保険、つまり1号もしくは2号保険に関するものではありませんが、公益社団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターがまとめた資料でも、1号及び2号保険のいずれについても、「雨水侵入」に保険が適用されていることが確認できます。

実際に、それ以外、例えば構造上の不備にたいしてはわずかしか適用されていません。

なぜ雨水侵入の事故発生率が高いのでしょうか。これは施工者に、止水防止に関する正しい知識が不足していることが原因とされています。

施工管理者が正しい知識を有し、適切な頻度で現場を確認して施工不備を未然に防止できれば良いのですが、建物に関する知識を有していない宅地建物取引業者が丸投げで工事を依頼することも多く、そのため建売住宅は事故発生率の高い傾向が指摘されているのです。

雨水侵入は屋根からだけではない

雨水侵入と聞くと、屋根からの雨漏りを想像する方が多いでしょう。しかし、トップライトを含むサッシからの侵入も多いのです。ここでは、雨水侵入事故が発生した原因について解説します。

まず、屋根から雨水が侵入した下記事例の侵入ルートです。

このケースでは、屋根材に隙間があったことが主な原因です。つまり、施行ミスです。

具体的には、屋根下ぶき材が野地板の端部で切られた形で施工されたため、屋根面から下ぶき材表面を伝った雨水が、下ぶき材と野地板のすき間に雨水が浸入しました。通常の雨では問題ありませんでしたが、強風で煽られて、けらば水切りと外壁の間から雨水が吹き込み、それが下ぶき材と野地板のすき間に浸入したのです。

下ぶき材が正しく施行されていれば、防止できたケースです。

また、以下の雨水侵入事例では、屋根とパラペットの取合い部において、雨押え包み板と下ぶき材の立上げ寸法が不足しており、さらに透湿防水シートと板金に隙間も生じていたことで雨水の侵入を許しています。

建築に興味のない方は馴染がないかも知れませんが、透湿防水シートが正しく施工されていれば雨水が建物内に侵入することはありません。

施工手順も難しいものではなく、例えば壁の場合、「横張りを原則とする」、「開口部周りの防水処理は防水テープにより、上勝ち(下から上に重ねて貼る)を原則に施工する」、「重ね幅は縦横とも90mm以上(窯業系、金属サイディングの横重ねは150mm以上)確保する」、といった基本的なルールを遵守するだけです。

屋根についても同様で、「壁の透湿防水シートを上まで張り上げる」、「軒の出を確保できない場合には、透湿防水シートを野路板まで張り上げる」、「下屋根の壁止まりが交差する部分は、外壁側の透湿防水シートの捨て貼り、壁止まり金物の適正な設置」といった基本的なルールを護ることで、雨水侵入を防ぐことができます。

雨水侵入は屋根からばかりではないと前述しましたが、特に注意が必要なのはベランダの壁と手すり、掃き出し窓の下部などの「取合い部」です。

施工中の現場で雨仕舞い状況を確認する場合は、前述した基本ルールが遵守されているかを確認すると同時に、取合い部については防水テープにより、正しく止水されているかを確認する必要があります。

さらに、平成13年に全国サイディング事業協同組合から、外壁に窯業系サイディングを使用する場合、壁体内の湿気や水分を排出させるのに適した「外壁通気工法」が標準工法として推奨されました。

建築基準法による定めではありませんが、多くの会社が外壁通気工法を採用しており、直張り工法は減少しています。

外壁通気工法は、壁体内通気を可能とする優れた工法ですが、透湿防水シートの浮きや捲れによって通気層をふさいでしまうことがあるため、適切に空気の流れが確保できているか確認することが必要です。

また、外装材として窯業系サイディングを採用する場合、留め付けはサイディング端部より20mm以上離す必要があります。この距離が短すぎると、側面及び目地底を接着させた3面接着となってしまい、サイディングの動きに追従できずひび割れ、破断の原因となるからです。

これらは文章で読むと難しく感じるかも知れませんが、雨仕舞いの処理方法やチェックは難しいものではありません。

建築知識が不足していても、前述した基本的なルールが遵守されているか、取合い部は防水テープにより入念に止水されているか、通気層が正しく確保されているか、外壁材の施工が正しく行われているかの4点を確認するだけです。

瑕疵保険の引き継ぎ方法

中古住宅でも、引渡後10年以内であれば住宅瑕疵保険の保証期間が残存しています。その場合、必要な手続きを行うことで、購入者が権利を承継できる場合があります。

ただし、以下2つの要件を満たす必要があります。

  1. 転売特約条項が付帯されている(所有者変更の特約は任意)
  2. 住宅事業者の承諾が得られる

住宅瑕疵担保履行法に基づく住宅瑕疵保険は、住宅事業者が義務として加入しています。被保険者は住宅事業者であり、保険金は住宅事業者が瑕疵担保責任を履行した際に、その修補費用として支払われます。

住宅取得者が直接請求できるのは、事業者が倒産や廃業した場合に限られます。

また、転売特約条項は住宅事業者が費用を負担して任意で付帯するものです。したがって、この条項が付保されている物件は多くありません。そのため、引渡後10年以内の物件であっても、住宅瑕疵保険を引き継げるとは限らないのです。

確実に承継できる場合を除いては、「この家は築10年未満なので、住宅瑕疵保険が付帯されている住宅です」などと説明するべきではありません。

瑕疵保険が承継できない場合には、メーカー独自の保証名義を変更するか、ホームインスペクションを実施して既存住宅売買瑕疵保険(保険期間5年)に新たに加入する必要があります。ただし、これも売主や住宅事業者の協力が必要です。

メーカー延長保証については精査が必要

素人目には、住宅事業者が提供する長期保証は安心の材料になります。しかし、売買によって名義変更する際には、事前に精査することが重要です。

基本的に、メンテナンスやリフォームを実施する際には、住宅事業者の指示に従わなければならないからです。

住宅事業者には、技術の程度が不明であり、かつ自社の施工基準等を理解していないリフォーム業者が行った工事を保証する義務はありません。そのため、一定の縛りがあるのも当然です。

しかし、長期保証を掲げる事業者は、過剰なメンテナンスを要求する傾向がみられます。

例えば、一般的な窯業系サイディングであれば10年以内の塗り替えが推奨されますが、表面に光触媒コーティングされた「光セラ」の場合は、数十年塗装は必要とされています。それでも、住宅事業者の保証延長基準が10年以内と定められていれば、「塗り替えはまだ必要ない」との主張は通用しないかも知れません。

メンテナンス担当から「塗り替えは提案に過ぎませんが、それを実施しなければ保証延長はできません。その点をよくご検討ください」と言われる可能性があるのです。

長期間の保証を行う以上、早期のメンテナンスを求めるのは合理的ですが、長期保証を提供する事業者の工事費は、一般的な相場と比較して割高です。

そのため、安全と安心を得るための費用が妥当かどうかは、保証約款をしっかりと精査して判断する必要があるのです。

まとめ

今回は、瑕疵保険適用事例の大半が雨水侵入に関するものである現実と、建築知識がなくても現場で確認できる止水処理のポイントを解説しました。また、媒介時における引き継ぎ手順や長期保証の落とし穴にも言及しました。

2018年4月1日の法改正により、宅地建物取引業者は、既存住宅の売買に係る手続きにおいて、インスペクション(建物現況調査)の斡旋に関する事項を依頼者に提供し、実施した場合にはその概要を重要事項として説明することが義務化されました。この改正から8年を経過し、インスペクションの認知度は上昇しましたが、実施率はまだ低いままです。

既存住宅瑕疵保険に加入するにはインスペクションが必要ですが、その加入率も令和4年度の首都圏で、戸建21.1%、マンション11.4%と低い水準で推移しています。

中古住宅では、入居前に壁や屋根のリフォーム工事を実施するケースも多いのですが、雨漏りは、新築住宅引渡しやリフォーム工事の実施後、1年以内、そのうち約半分は3ヶ月以内に発見されていることがデータで確認できます。

これらの事実から、建物の瑕疵を未然に防止するためには、正確な知識を保持していることが重要であり、かつ、保険適用についても十分に理解する必要があると分かります。

止水に必要な基本ルールも瑕疵保険の概要も、それほど難しいものではありません。正しい知識を持ち、適切に対応することが、顧客の安心につながるのです。

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