【え、そうなんですか?】知らなかったでは済まされない、媒介手数料半額キャンペーンが不当表示とされる理由

不動産広告で「キャンペーン期間中につき、仲介手数料半額」、「仲介手数料半額キャンペーン開催中」といったキャッチコピーをよく目にします。しかし、これらの表現により、公正競争規約違反を問われる可能性があることをご存じでしょうか?

「何が不当表示なのか理解できない」という方や、類似する文言を盛り込んだ広告を配布している方は、早急に理解を深め、適切な対応を取る必要があります。

宅地建物取引業法第46条では、媒介報酬額について「国土交通大臣の定めるところによる」と規定され、さらに同条第2項で、「その額を超えてはならない」とされています。つまり、媒介報酬には上限が定められているだけで、具体的な受領額については業務量や媒介の経緯、顧客からの要望等に応じて「上限内であれば自由に設定して良い」という趣旨が盛り込まれているのです。

これを踏まえると、「仲介手数料半額キャンペーン」という表現が、何を基準に半額としているのかが不明瞭であるため、違反となる可能性があることを理解できるでしょう。

「上限額の半額に決まっているじゃないか!」と思われる方がいるかも知れません。しかし、媒介契約書や媒介手数料支払約定書などに具体的な金額が記載される理由を考えてみてください。

「法で定められた上限内であれば、当事者間で自由に決定して良い」とされているからこそ、このような型式の書面が必要となるのです。

このような誤解は、意外に多いでしょう。

しかし、誤った認識により作成された広告であっても、「おとり広告」に該当すると判断され、罰則が適用される可能性があるのです。

例えば、公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会に属する「ポータルサイト広告適正部会」が2024年5月28日に公開した「2023年度の違反物件情報等の共有結果」を見ると、「おとり広告」などの違反物件数が、前年度比で増加していることが確認できます。

ちなみに、2023年度における違反物件情報総数は、全国で1,257件(うち、おとり広告は313件)でしたが、これらがすべて確信犯的に違反広告を掲載したわけではありません。見落としや「うっかり」など、意図せず作成されたものが多く含まれているはずです。

しかし、それらの理由は一切斟酌されません。

「不動産の表示に関する公正競争規約(以降 表示公正規約)」は、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)第31条の規定に基づき、内閣総理大臣及び公正取引委員会の認定を受け設定されている不動産業界の自主規制ルールです。

自主規制だからと軽視することはできません。(一社)不動産協会や(公社)宅地建物取引業協会、(公社)全日本不動産協会などに属している場合、必然的に「加盟事業者」として遵守が求められますし、違反した場合には課徴金や社名公開、会員からの除名処分といった罰則が設けられています。また、非加盟の場合でも景品表示法が適用されるため、いずれにしても違反広告は容認されません。

不当表示の要件は、「一般消費者が実際のものよりも優良、有利と誤認するおそれがあれば足る」とされています。これにより、広告主である不動産事業者の意図や故意、過失を斟酌せず、前記要件を満たす場合に適用されるのです。

つまり、違反表示は「無過失責任」であり、「知らなかった」、「違反とは思っていなかった」などの言い訳は一切通用しないのです。

そこで今回は、広告作成時に注意すべきポイントについて、不動産公正競争規約及び摘発事例を参考に解説します。

表示公正競争規約の理解が重要

不動産広告において不当表示と指摘されないために抑えておく規定等は、「宅地建物取引業法」、「表示公正規約(景品規約含む)」、「景品表示法」の3つです。このうち、景品表示法は不動産保証協会に非加盟の場合のみ適用されますので、一般的には軽く目を通す程度で十分でしょう。したがって、広告表示に関する制限として理解を深めておきたいのは残りの2つ、特に表示公正規約の理解が最も重要です。

宅地建物取引業法では、著しく事実に相違し、それにより実際のものより優良であると誤認されるような「誇大広告」を禁じているだけで、具体的な内容については詳しく言及されていません。

また、規約のうち「景品表示」については、懸賞による景品が取引価格の20倍又は10万円のいずれか低い金額であること、懸賞によらない場合は取引価格の10分の1又は100万円のいずれか低い価格の範囲であること、そして旅行や視察会など名目を問わず、取引を勧誘する旨を明示せずに招待・優待してはならない点を理解しておけば、都度確認する程度で十分です。

以上を踏まえ、どのような表現が不当表示と見なされるかを具体的に学ぶには、表示公正競争規約の理解が重要となるのです。

もっとも、いずれの規定であっても違反した場合には、以下のように厳しい罰則が設けられています。

◯宅地建物取引業法(所轄:国土交通省 免許権者:大臣免許・国土交通省、知事免許・都道府県)
6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその併科。違反内容により「指示」、「業務停止」、「免許取消」処分。

◯表示公正規約(所轄:不動産公正取引協議会)
「注意」、「警告」、「厳重注意」、「違約金課徴(1度目は50万円以下)」

  • 警告に従わない場合、もしくは2度目の違反については500万円以下の違約金
  • 違約金課徴を受けた場合には、主要ポータルサイトへの広告掲載の停止(最低1ヶ月間)
  • 非加盟事業者には適用されず、景品表示法を適用

◯景品表示法(所轄:消費者庁、公正取引委員会)
「指導」、「措置命令+課徴金」

  • 措置命令に違反した場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金
  • 消費者庁は、措置命令等の権限を各都道府県に移譲

このように、いずれの規制に違反しても重い罰則が科される可能性があるため、決して軽視してはなりません。この点を十分に理解しておく必要があります。

お取り広告とは

「お取り広告」の禁止については、改めて解説する必要はないでしょう。先述の宅地建物取引業法をはじめ、すべての関連規定で禁止されている行為だからです。

では、「お取り広告」は具体的にどのようなケースに該当するのか、ご存じでしょうか?

公正競争規約第21条では、以下のような表示が「おとり広告」に該当すると定義しています。加えて、昭和55年に公正取引委員会が定めた「『不動産おとり広告に関する表示』の運用基準」を記載しておきます。これらは最低限の基本ですから、しっかりと理解しておきたいものです。

①物件が存在しないため、実際には取引することができない物件の表示(表示規約第21条第1号)

A. 広告に表示した物件が、表示している所在地に存在しない場合。
B. 広告に表示した物件が、実際に販売又は賃貸しようとする不動産とその内容、形態、取引条件において同一性を認めがたい場合。

②物件は存在するが、実際には取引対象となり得ない物件の表示(表示規約第21条第2号)

C. 広告に表示した物件が、成約済みの不動産又は処分を委託されていない他人の不動産の場合。
D. 広告に表示された物件に重大な瑕疵があるため、そのままでは当該物件を取引することができないものであることが明らかな場合(瑕疵の内容が明瞭に記載されている場合を除く)。

③物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件の表示(表示規約第21条第3号)

E. 合理的な理由がないのに、広告に表示した物件への案内を拒否する場合。
F. 広告に表示した物件の難点を強調し、取引に応じることなく他の物件を勧める場合。

これらA~Fのいずれについても、過失の有無にかかわらず表示規約違反を問われるため、十分な注意が必要です。

土地に適当なプランを当てはめ広告する危険性

前述の通り、不当表示は、一般消費者が実際のものより優良であると誤認する恐れがある場合に成立します。不動産事業者の意図や故意、過失は斟酌されず、一律に適用される点を理解しておくことが重要です。

特に、インターネット広告が主流となっている現代において、次のような事例で違約金課徴の措置が下されています。

ア. 適切な更新を怠ったため、取引不可能な物件を掲載した事例

契約が成立した後も、情報を削除せずに更新を続けたため違反とされているケースが増加しています。これは、特に賃貸物件において確認されるケースです。

物件種別によらず、これは表示規約第21条第1号違反に該当します。一般消費者の注目を集めるため、意図的に削除せず掲載を続けるケースが確認される一方、担当者に任せきりにしていたことが原因で発生したケースも少なくありません。

具体的には、掲載物件の選定やホームページの作成・管理を、不動産の知識に乏しいアルバイトに任せた結果、既に契約済みの物件が削除されずに掲載されていたケースです。業者は、「チェック漏れ」や「知識があまりない担当にまかせてしまった」と弁明しましたが、そのような言い訳は通用しません。

イ. 架空物件を掲載していた事例

広い面積で安価な架空物件を掲載していた事例が確認されます。また、媒介依頼を受けている土地に適当なプランを当てはめ、「プラン例」として広告したことにより摘発されたケースも確認されます。

土地にプラン例を当てはめ広告掲載すること自体は問題ありません。しかし、そのプランが高さ制限や建ぺい率などに違反し、実際に建築できない場合、不当表示とされます。

例えば、建築後のイメージとして類似する外観写真を使用する際、従来は規模・形質・外観が同一である場合に限り表示が可能でした。しかし、2022年9月1日に施行された改正表示公正規約では、①取引する建物を施工する者が過去に施工した建物であること②構造・階数・仕様が同一であること③規模、形状、色等が類似していること、などの要件を満たせば外観写真の表示が可能になりました。

そのため、建築プラン例を掲載する際、間取り図にくわえ写真を掲載するケースも増加したのですが、実際にその建物が建築可能であるか十分に留意しなければ、「架空物件」であると指摘される可能性があるのです。

また、建築基準法の要件を満たし実際に建築できる場合であっても、広告掲載時には「具体的な実施計画の内容を示すものではない」旨を明記する必要があります。

ウ. 取引する意思がない物件を掲載していた事例

近隣相場と比較して賃料や販売価格が安い物件を掲載し、多くの問い合わせがあったにもかかわらず、契約に至らなかった物件の掲載が、表示規約違反として問われたケースも確認されます。

「物件が存在しているなら問題ないじゃないか」と思われるかも知れませんが、優良物件が契約もされず長期間売れ残っている(もしくは、賃貸されていない)場合、そこには合理的な理由が存在しているはずです。したがって、それを疎明できない限りは「おとり物件」であると判断される可能性があるのです。

これら摘発事例の多くはインターネット広告によるものです。インターネット広告は作成も含め情報更新が容易で、さらに費用対効果も高いため、不動産広告の主流となっています。しかし、その利便性が高さゆえに、表現や内容に対する精査を怠ると、違反広告の掲載リスクが高まるのです。

例えば、建築法規に関する知識が不足していると見落とす可能性が高まる特定事項に関しての明示などは、社内の専門家が表現・内容について精査しなければ、漏れ落ちる危険性が高いでしょう。

繰り返しになりますが、原因を問わず、一般消費者が実際のものよりも優良であると誤認する恐れがある場合、それは「おとり広告」とされます。また、必要事項が記載されていなければ規定違反となります。不動産広告における罰則は非常に厳しいため、問題が発生しないよう適切な対策を講じることが不可欠なのです。

まとめ

今回は、公正競争規約の解説を中心に、意図せず違反広告を掲載しないために必要な注意点について解説を行いました。

公正競争規約の全体を正確に理解するのが理想ではありますが、実際にはその全てを把握するのは困難です。そのため、掲載前の校正が非常に重要となるのです。

校正時には、特に以下の条項に関する表示に問題がないか、十分に精査する必要があります。

ポスティング広告などでは、必要な項目が適切に表示されていないケースが散見されます。例えば、物件概要の文字の大きさは原則として7ポイント以上と定められていますが、実際には5ポイント程度の小さな文字が使用されているケースも多く、さらに「かすれている」、「つぶれている」などの状態で判別不能となっている場合もあります。

表示規約は、広告だけではなく、販売資料やパンフレット、小冊子、説明書面など、一般消費者に提示される全ての資料に適用されます。したがって、交通の利便性、各施設までの距離や所要時間、価格改変による二重価格の表示などに関し、公正競争規約に従う必要があるのです。

インターネット広告とは異なり、これら紙媒体については「詳細はホームページで」などの記載が認められていません。そのため、必要なスペースを確保し、明瞭に表示する義務があるのです。

さらに、市街化調整区域については16ポイント(5.6mm四方)以上の大きさで建築できない旨を明示するなど、細かい規定が数多く存在しています。

「知らなかった」は通用しないことを理解し、適正に表示するよう努めることが私たちの義務です。

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