皆さんは、分譲マンションを斡旋した顧客から「管理費用が近隣マンションと比較しても割高で、管理の質も良くない。管理業者を変更するにはどうしたら良いか」との相談を受けたことはないでしょうか?
不動産コンサルティングを業としている筆者のもとには、定期的にこのような相談が寄せられます。
平成20年に国土交通省が公表した「マンション管理の現状等について」によれば、管理組合が業者に管理を委託している割合は約8割でしたが、現在では約9割に達していると想定されています。
古くから、『マンションは管理を買え!』と言われているように、快適な住環境の維持や中長期的に行われる修繕工事の実施には、管理業者の協力が欠かせません。適切に管理されることで再販価格も影響を受けるのですから、区分所有者にとって管理業者の選定は非常に重要なのです。
もちろん、分譲マンションにおける規約の設定や重要事項の決定は、区分所有者で構成される管理組合の権限です。しかし近年、役員の担い手不足により、管理業者が管理者として選任される事例や、新築マンション分譲時に、管理業者が管理者に就任することを前提として販売するケースが増加しています。
この場合、区分所有者の意思に反して不適切な管理が行われるほか、管理組合と管理業者の利益相反によって高額な管理コストが発生しているケースが確認されます。冒頭で触れた相談事例も、このような背景に基づいています。
管理の主体は区分所有者で構成された管理組合です。管理業者への委託は、適切な管理を求めるものであって、業者を利することが目的ではありません。
このような問題が増加傾向にあることを確認した国土交通省は、マンション管理業者による外部管理方式の適正な運営を促すため、2024年(令和6年)6月7日に、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を策定しました(下記から確認できます)。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001746827.pdf
不動産業者として顧客からの相談に対応するためには、ガイドラインの内容を正確に理解する必要があります。
そこで今回は、ガイドラインにおいて特に重要なポイントについて解説します。
ガイドラインの位置づけ
「マンション管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」が施行されたのは2001年(平成13年)のことです。その後、2022年に高経年マンションの増加に伴い維持管理の適正化や再生に向けての取組強化が課題であるとして改正が行われました。
高経年化が進行すれば、大規模修繕の実施や建替えなど管理を困難にする問題が多くなります。また、マンションの高層化や大規模化により管理自体が高度・複雑化する傾向が進んでいることから、外部専門家を求めるケースが増加しているのです。
外部専門家と管理業者を同列に扱うことはできませんが、管理事務を受託している管理業者は、当該マンションに関する管理上の問題に通じているため、管理組合から管理者としての就任を委託されることがあるのです。また、新築分譲マンションの場合、管理業者が管理者に就任することを前提して販売されているケースがあります。こちらは、管理組合の意向によるものではありませんので、国土交通省もその問題点を指摘しています。
組合の以降に沿う形で円滑に管理が運営されるなら、管理全般に知見のある管理業者が選任されること自体、問題とはなりません。しかし、外部専門家の就任により、区分所有者の意思に反した不適切な管理、利益相反問題、管理コストの増加などが生じたなら話は変わります。
これまで、外部専門家に関するガイドラインは存在しておらず、適正な外部管理方式自体が明確に示されていませんでした。
そこで2024年(令和6年)6月に国土交通省は、従来のガイドラインを改訂すると同時に、名称も「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」に変更したのです。
外部管理方式を採用するメリットとデメリット
ガイドラインにおいて外部専門家は、弁護士、公認会計士、マンション管理士など、マンション管理に関し一定の専門知識を有する者が就任すると想定されています。
外部管理者方式を採用する場合、理事会で議論したうえで総会で決議し、正式に決定されますが、検討を開始する時点で以下のようなメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。
〈メリット〉
◯区分所有者の負担軽減。役員担い手不足の解消。
◯外部専門家による知見に基づき、機動的な業務執行に期待できる。
〈デメリット〉
◯管理者報酬負担による管理組合支出の増加。管理者と管理組合の利益相反問題。
特に、必要以上に外部専門家の管理者権限が強くなってしまうと、管理者に対する監視が脆弱になる可能性があります。さらに、外部から専門家を招聘して任せれば良いとの認識が深まると、区分所有者が管理に関心を失い、役員の担い手がさらに減少する危険性も伴います。
そのため、外部管理者方式を採用する際には、業務執行状況の監督が重要であると同時に、適切な管理を主体的に行うのは区分所有者であるとの再認識が欠かせないのです。
したがって、外部管理方式を導入する場合、以下の基本的プロセスのうち、特に区分所有者に対する説明会と、「どこまで権限を付与するか、報酬は適切な額か」などについて、改正する規約の内容や契約書に関し十分検討することが重要なのです。
まず、特に留意すべきは規約の改正です。区分所有法では、管理者は規約に別段の定めがない限り総会で選任できるとされています(区分所有法第25条第1項)。規約に定めがある場合は、事前に改正が必要です。標準管理規約を採用している場合、外部専門家に委任することを想定した細則が設けられていますが、そうではない場合、外部専門家の活用についても規約の改正が必要です。
それ以外にも下記について検討し、規約改正、及びルールを定めなければなりません。
特に管理者の権限範囲や通帳・印鑑の保管方法については、管理組合の実情に応じて十分に検討する必要があります。
とはいえ、このような検討には高度な専門知識が必要とされますから、導入検討段階において、(公財)マンション管理センター、自治体のマンション相談窓口、管理組合団体など、中立的立場からの助言を求め、必要に応じ支援を受けることが重要です。
監視体制をどのように強化するか
外部管理方式が導入されている場合でも、採用前に議論が尽くされ、適切な管理者業務委託契約書や管理規約の設定、そして適切な監視・監督体制が構築されている場合には、管理が適正に行われていることが多いと感じます。
一方、新築時から外部管理方式が導入されている物件では、様々な問題が生じていることが多いようです。総体的に区分所有者の管理に対する関心が低く、管理運営についての理解が不十分なまま、不利益を享受して生活しているケースが多いからです。
区分所有者が自ら採用した方式ではないため、関心が低くなるのは理解できますが、放置することで不利益を被るのは区分所有者自身であることを認識する必要があります。
今回、ガイドラインが策定された目的は、これに尽きると言っても過言ではありません。
例えば、官公署や町内会等との渉外業務を外部専門家に委託した場合、地域防災に関する自治体や町内会との調整が不十分になる恐れがあります。極端に言えば、陸の孤島のような状態となり、有事の際には適切な支援が受けられない可能性が高まります。そのようなイメージが定着すれば、マンションの資産価値が低減するリスクすら生じます。
このような事態を防ぐためにも、管理規約や細則の内容を明確に把握し、必要に応じて改正することが重要なのです。
とはいえ、一度作成された管理規約等を改正するには手間が必要です。しかし、放置せず速やかに改正しなければなりません。
例えば、管理規約に外部専門家の氏名が記載されている場合、管理者の変更には特別決議(組合員総数の3/4の出席、かつ議決権総数の3/4の賛成で可決)が必要です。これにより、管理者変更のハードルが極めて高くなるのです。実際、管理者を変更したいとの相談事例でも、特別決議のハードルが高いため放置されているケースがあります。
これを防ぐためには、管理規約を作成する段階で固有名詞の記載を避けることが重要です。
また、新築時から外部管理方式が導入されている場合、外部管理者が単独で意思決定できるよう機関設計されている規約が存在していますが、これは論外です。
区分所有者が不利益を享受する必要はありません。ハードルが高くても、外部管理者だけではなく管理会社も含めて変更を模索すべきす。
そのためには、総会決議事項を精査し、特に管理者業務委託契約や監督業務委託契約の締結については、毎年、管理組合の総会により審査するよう、管理規約を改正する必要があるのです。
区分所有者の意志反映が重要
管理組合が円滑に機能しているマンションでは、区分所有者の意志を汲み取り反映するための環境整備が構築されています。このような環境が整っていれば、区分所有者の意思が直接管理組合に伝達されます。これは理想的な状態といえます。
ガイドラインでは、意見反映のために必要な環境整備として以下のような施策を推奨しています。
まず、外部専門家の独断を防止するために、組合員全員による監視体制の構築が重要です。しかし、それに加えて、管理組合内の権力の偏りにも監視が必要です。長年理事長を努めている者が独裁的な振る舞いをするケースが確認されているからです。
例えば、2022年に発生した管理費・修繕積立金の横領事件として過去最大級となる新潟リゾートマンションの着服事件は、記憶の新しいところです。
公認会計士であった前理事長の着服額は総額11億7,800万円に上り、そのうち2016年1月の訴訟時点で約7億円が時効となっていました。前理事長が所有する不動産や投資用口座を差押えられ、およそ2億円は回収できたようですが、残る9億7,800万円については回収の目処が立っていません。このマンションでは管理会社に管理が委託されていましたが、管理会社はあくまで管理組合から指示を受けて業務を遂行する立場に過ぎません。したがって、管理組合を管理・監督する権限は有していないのです。
そのため、理事長の権限が強まると、私的流用のほか、大規模修繕の業者選定に口利きしリベートを受け取ったり、法外な役員報酬を得たりする不正行為のリスクが高まるのです。
このようなリスクを防止するには、外部専門家への委託だけでなく、管理組合内での独断専横的行為や利益相反を防止するための措置を明確に講じる必要があります。
まとめ
今回は、新たに策定された「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」から、特に重要なポイントを抜粋して解説を行いました。
ガイドラインは全125Pにも及ぶ詳細な内容を含んでおり、すべてに目を通すのも容易ではありません。しかし、「マンションは管理を買え!」との言葉が格言のように定着しつつある昨今、私たち媒介業者は、適切な管理とは何か、そしてそれを実現するためにどのような配慮が必要なのかを正確に理解しておく必要があります。
外部専門家は、弁護士、公認会計士、マンション管理士といった有資格者に限られません。マンション管理に関して一定の専門知識を有していれば、不動産業者である私たちも対象となるのです。その場合、ガイドラインを熟読せず対応することは許されません。
委託されないにしても、少なくとも一度はガイドラインに目を通し、その内容を理解しておくことが不可欠です。ガイドラインの理解を深めることにより、適切な管理について助言することが可能となり、ひいてはマンションの資産価値を守る一助となれるからです。