【把握できていますか?】契約不適合責任の免責条項が万全ではない理由

先日、「築後30年以上経過した中古住宅だったため、契約不適合責任については責任制限条項を設けて契約しました。しかし、引渡後に売主が契約前から知っていた不具合を告げていなかっとして、その責任を追及され困っています」との相談を受けました。

従来の瑕疵担保責任と同様に、契約不適合責任も任意規定です。したがって、双方の合意により、これを制限又は免除する特約は有効です。特約の一例としては、以下のような条項がよく見られます。

◯買主は、本物件の土地、建物及び付帯設備に経年による劣化、損傷、ひび割れ等が生じていることを承知し、現状有姿のままこれを買い受ける。

◯売主は買主に対し、以下に定める事由(特性の例示列挙)を含む一切の契約不適合責任を負わないものとし、買主はこれに基づき、本件目的物に不適合であることを理由に売買代金の減額、追完、解除又は損害賠償を請求することができない。

全ての契約不適合責任を免除することが難しい場合、契約締結時点で判明している不具合について具体的に列挙し、それ以外の責任を免除する条項を設けている場合も多いでしょう。

しかし、こうした責任制限条項を設けても、売主が不具合を知りながら故意に告知しなかった場合には、その責任を免れることはできません。先述した相談事例は、その典型だと言えるでしょう。

このようなトラブルを避けるため、契約不適合責任に関する条項を作成する際には、契約書にどのように記載すべきか、そしてどのように説明するのが適切かについて十分に理解しておく必要があります。

そこで今回は、裁判例を交えながら、契約不適合責任についてより深く理解していただくために解説します。

瑕疵から契約不適合責任へ

改正前民法で「瑕疵」とは、「その物が備えるべき品質・性能を欠いている」と定義されていました。この場合、「その物」とは、契約において当事者が予定していた具体的な物、と判例や通説では解釈されています。

ただし、不動産は代替性のない特定物であるため、旧民法における瑕疵担保責任は「隠れた瑕疵」に限定されていました。すなわち、売買契約を締結した時点では買主が知らず、かつ通常の注意力では発見できない瑕疵のみが対象とされたのです。

このように、民法における瑕疵の規定が抽象的であったため、実務では判例法理(多数の裁判例に基づく考え方)に依拠する形で、個別に判断されていました。

そのため、短時間の内見では発見できなかったクロスの変退色などの瑕疵に対する補修請求をしても、「表面上確認できる不具合は隠れた瑕疵にはあたりません」として、売主が否定するケースがよく発生していたのです。

こうした問題を受けて、改正民法では「瑕疵担保責任」を「契約不適合責任」に改め、種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に適用できると明文化したのです。

契約不適合責任に関しては、次の4つが請求できます。

◯追完請求:修補又は代替品の引渡請求
◯損害賠償請求:損害に対する賠償額を算定し請求
◯代金減額請求:購入代金の減額を請求(原則として、売主が追完請求に応じない場合)
◯契約解除

もっとも特約により、契約不適合責任は修補請求のみとし、損害賠償請求や契約解除は出来ない旨を定めることは有効です。

全て免責の特約でも有効とされる

先述の通り、契約不適合責任は「契約の内容に適合しない場合」に適用されます。そして、民法第521条の契約自由の原則に基づき、契約内容は当事者間の合意で自由に決定できます。この原則に基づき、特約も締結されるのです。

したがって、冒頭の「全て免責する」との特約は、原則として有効となるのです。

しかし、民法第572条では以下のような規定があります。

「売主は、第560条から前条までの規定による担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることはできない」

この規定に基づき、買主は「売主が不具合を知っていたのに告知しなかった」として、修補を請求しているのです。この場合、争点は売主が不具合を知っていたか、または知らなかったことに過失があるかどうかです。これについては、下級審の裁判例でも判断は分かれており、各事案の具体的な事情に基づき判断されます。

ただし、売主が宅建業者であり、買主が一般消費者である場合、宅地建物取引業法第40条1項により、目的物の引渡から2年以上となる特約をする場合を除き、買主に不利となる特約を設けることはできません。

宅建業者と消費者間の売買契約では、免責特約に関し特別な規定が設けられている点について注意が必要です。

責任範囲を明確にしておくことが重要

瑕疵担保責任が契約不適合責任に改められた後も、それに関する裁判例は数多く確認されます。

まず、契約不適合責任の対象を限定した売買契約における、責任対象外の建物傾斜に係る損賠賠償請求事件(東京地判令4.2.24)を紹介します。

当事者はどちらも宅建業者ではない事業法人で、目的物は従業員の保養所として利用されていた土地および建物です。契約不適合責任は、①雨漏り、②シロアリの害、③建物構造上主要な部位の腐食、④施設内埋設給排水管を含む給排水管の故障、に限定し、これらについてのみ引渡完了日から3ヶ月以内に限り責任を負うとしました。また、修補責任以外の契約解除や損害賠償請求は認めないとの内容も含まれていました。

特約自体は一般的であり、不備や問題点も見受けられません。しかし、引渡後に買主は、建物の床に沈み込みがあり、これは構造耐力上主要な部位の契約不適合であるとして、修復には解体と新築が必要だと主張し、提訴を提起したのです。

裁判所は買主の請求を棄却しました。

裁判所が重視したのは、契約不適合責任の範囲が特約により明確に限定されていること、構造耐力上主要な部位についても「腐食」という具体的な条件が設定されていること、さらに売主の床傾斜に関する認識や、売却希望額より低い金額で契約が締結されていることでした。

これに対して買主は、建物が確認申請段階の内容と異なる施行がされていたことを指摘し、売主には悪意が存在していたと主張しました。しかし、売主が確認申請と異なる建築を要求していた事実は認められず、それにより生じる構造耐力上の問題を売主が認識していたと認める事情も存在していませんでした。

この裁判例から学べることは、契約不適合責任の範囲を具体的かつ明確に規定しておく重要性です。また、責任を限定させる場合にも、追完請求、損害賠償請求、代金減額請求、契約解除のうち、どこまで請求可能かを具体的に契約書へ明文化しておく必要があるということです。

免責条項は万全ではない

中古住宅の売買において、物件状況報告書の添付が重要なのはご存じかと思います。しかし、「契約不適合責任を負わない」条件で売買契約をした場合、添付を省略することが多いようです(媒介契約締結時に取得していない場合も多い)。

確かに、現状有姿渡しで取引した場合、原則として契約不適合責任を売主に請求できません。例外は売主が故意に告知しなかった場合、いわゆる「悪意の不告知」に該当する場合は例外です。

現状有姿渡しの物件は、長年空家であったり、築年数が相応に経過していたりなど、建物の管理状況や状態が悪く、適切に修繕しなければ居住の用に適さない物件が多いでしょう。

そのため、買主も設備機器の多少の不具合や壁の劣化などは予測の範囲内だとしいえるでしょう。しかし、雨漏りや構造上主要な部位の腐食など、購入判断に重大な影響を与える部分についての不告知は、たとえ契約不適合責任の免責特約を設けていても、売主の責任を認める裁判例が存在します。

これは、悪意の不告知が情報提供義務違反による不法行為と認定されるためです。そのため、契約不適合責任免責の条件で媒介依頼を受ける場合でも、物件の現状を正しく認識するために、物件状況報告書(告知書)に正しく記載してもらうことが重要です。また、免責特約を設けた場合であっても、告知しなかった不適合については責任を問われる可能性があることを、売主に対し十分に説明しておく必要があります。

覚えておきたい心理的瑕疵と契約不適合責任の関係

契約不適合責任は「契約の内容に適合しない場合」に適用されますが、その内容は当事者の合意により自由に設定できます。それでは、心理的瑕疵との関係性はどのように解釈すれば良いでしょうか。

民法改正によって瑕疵担保責任が契約不適合責任に改められたことで、売主が負う責任の判断基準は、契約内容に対して不適合であるかどうかに集約されました。一方で、契約不適合責任は主に法律的な欠陥と捉えられがちです。したがって、人が通常は契約したくないと考えるような心理的な欠陥、いわゆる心理的瑕疵や、嫌悪施設が近隣に存在する場合など、環境的瑕疵との関係性について理解が不可欠です。

通説では、心理的瑕疵や環境的瑕疵も契約内容に基づいて適合性を判断すべきとされています。

しかし、これらの瑕疵については、民法、借地借家法、宅地建物取引業法、賃貸住宅の管理業務の適正化に関する法理など、不動産関連法のいずれにおいても明確に規定されていないため、画一的な解釈は困難であり、範囲も明確ではありません。

国土交通省が令和3年に策定して「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によると、自然死については原則として告知義務がないとされています。また、賃貸物件の場合、発見からおおむね3年を経過すれば告知が不要とされる一方、売買契約については明確な基準が示されていません。

このような状況から、たとえ「免責条項」を設けていたとしても、心理的瑕疵や環境的瑕疵に関しては売主の責任が追及される可能性があるのです。そのため、現状状況報告書や告知書の添付を省略することは避け、売主に正しく告知してもらうことが重要です。

私たちの調査義務は、「告知書等に記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする」とされていることを忘れてはなりません。

まとめ

今回お伝えしたいことは、契約不適合責任の免責特約は有効であるものの、万能ではないという点です。

これまで説明してきたように、法律上、免責特約の効力は一定の条件下で制限される場合があります。例えば、売主が知りながら告げなかった場合に適用される民法上の制限、売主が事業者の場合に適用される消費者法上の制限、宅地建物取引業者が売主となる場合に適用される宅建業法上の制限など、様々な特別法による制限があります。

加えて、心理的瑕疵や環境的瑕疵についても十分な考慮が必要です。これらの要素が大きく影響を与える可能性があるため、免責特約を設けたからといって、現況報告書や告知書の作成・提供を省略することは避けるべきです。

トラブルを未然に防ぐためには、免責特約の限界を理解し、その限界を踏まえ適切に対応することが重要です。また、契約当事者が十分に納得し、理解できるよう、免責の意味や範囲について十分に説明責任を果たすことが不可欠です。

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