【不動産事業の新戦略】媒介報酬に依存しない不動産経営について

グローバル化の進展に伴い、語学力の重要性が増しています。これは一般企業に限らず、不動産業においても同様です。不動産業者は地元密着で事業を営むことが多いという特徴はありますが、近年では都市部に限らず、地方の不動産購入や賃貸を希望する外国の方が増加しています。

国土交通省は、「海外投資家アンケート調査結果」を公表しており、それによれば、2020年の海外投資家が占める割合は、全体投資額の34%と、金融危機以降最大となっています。投資資金を地域別に見ると、北米が59%、アジアが27%、欧州が14%を占めています。

投資先は東京、大阪、名古屋の三大都市圏のみならず、札幌、仙台、広島などの大都市、さらには地方都市へも広がっています。

さらに、投資目的に限らず、別荘や移住など実需としての需要も増加傾向にあります。近年の円安により、日本の不動産購入価格が相対的に安く感じられることが要因と考えられ、この傾向は当面続くと見込まれています。

媒介業者の収益は媒介報酬に依存しがちですが、新規開業件数が増加する一方で取引総数は減少しています。そのため、取引件数を増やす対策と併せて、媒介報酬以外の収入源を模索する必要があります。その際、他社との差別化が重要となります。

その「鍵」となるのが、外国人取引と不動産コンサルタント収入の確保です。これらを取り入れることで、新たな収益確保の道が開かれます。

もちろん、「日本人のみを取引対象としているため、当社は関係ない」と考えるのは自由です。しかし、外国人が日本の不動産へ関心を高めている現在、語学力を有することで事業の幅は確実に広がります。

今回は、外国人と不動産取引に必要な能力や知識、さらに、不動産コンサル収入を得るために求められる取組や考え方について解説します。

外国人との不動産取引に求められる語学力の程度

外国人との不動産取引において求められる語学力の程度は、取引内容や相手国の文化によって異なりますが、物件案内、契約書や重要事項説明書の補足説明、簡単な交渉など、一般的なコミュニケーションを円滑に行うためには、日常会話がこなせるレベルが必要です。TOEICで言えば、600点が目安になります。

外国人との不動産取引において、契約書は必ずしも外国語で作成する必要はありません。当該物件が日本にある限り、その所在地の法律に従って作成すれば問題はないのです。しかし、契約書の言語については契約自由の原則に基づき、当事者同士で自由に決めることができます。実務上は、英文での作成を希望されるケースも少なくありません。

ただし、売買契約や賃貸契約に起因して裁判が提起された場合は日本の法律が適用されます。さらに、日本における裁判は日本語に準拠されますので、契約書類は日本語であることが要求されます。裁判例でも、「宅地建物取引業法においては、日本語を理解していない外国人に対して重要事項説明を外国語で行うべきことまでは規定されていない」としたものがあります。

これらのことから、日本の不動産取引においては、契約書面は日本語で作成すべきだと分かります。その場合、説明も日本語で行えば問題なく、通訳が必要な場合には外国人の当事者に手配してもらうことになります。

無理に契約書や重要事項説明書を外国語で作成すると、誤植や意図しない表現が原因でトラブルが生じる可能性があります。参考訳として外国語の契約書を作成する場合でも、その目的や範囲を明確に説明しておくことが重要です。また、日本語で作成した書面に基づいて説明することに了承した証として、「確認書」を作成し、署名・押印(サイン)してもらうことが有効です。

とはいえ、日本語で説明した内容が正確に通訳されているかは注意が必要です。誤って説明されている場合には、補足や訂正を促すことで将来的なトラブルを防げます。そのためには、ある程度の語学力が必要です。

専門用語の理解は重要

契約書等を外国語で作成する必要はありませんが、補足説明の際に必要な、「Area(坪数)」、「Layout(間取り)」、「Age of building(築年数)」など、契約書に記載される専門用語は把握しておくべきです。英語を苦手とする方がTOEIC600点レベルに到達するには時間も必要ですが、簡単な日常会話と、以下のような不動産の専門用語を把握するだけで、簡単なコミュニケーションは可能になります。

Potential Properties(物件相談)
Property Viewing(内見・下見)
Written Offer(買付証明)
Buyer Qualification Review(審査・決定)
Disclosure Statement(重要事項説明書)
Contract(契約締結)
Possession(所有権)
Title registration(所有権登記)

TOEIC600点は英検2級から準1級レベルの英語力に相当し、英語が苦手な方にとってはハードルが高く感じられるかもしれません。しかし、これは高校卒業から大学中級程度のレベルであり、テストを受ける必要はなく、あくまで目安です。契約書類は日本語で問題なく、求められるのはコミュニケーションに必要な語学力に過ぎません。努力次第で十分に到達可能なレベルです。

コンサルタント収入に目を向ける

外国人との不動産取引が可能になることで、取引件数の増加に期待できます。しかし、さらに報酬を増やすためには、不動産コンサル業務による収入の確保が有効です。

2024年7月1日から、空家対策として800万円以下の低廉な空家に対する媒介報酬の上限が見直されました。ただし、片手取引で33万円(税込)、両手でも66万円(税込)が上限であり、物件の場所や諸条件によっては労力に見合う報酬が得られないこともあります。

そこで、注目したいのが不動産コンサルタント業務です。国土交通省は報酬規定見直しに際し、「宅地建物取引業者の解釈・運用」において、「不動産コンサルタント業務における報酬は、宅地建物取引業法における報酬規制の対象とならない」と具体的に明示しました。

これにより、課題整理や利活用方針の作成、助言、建物管理業務など、依頼者から求められた業務に対応した場合、コンサルタント報酬を受領できることが周知されました。媒介業務と不動産コンサルタント業務は別ですから、従前でも報酬を得ることが問題とはされませんでした。しかし、国土交通省が明言したことで、広く知れ渡る結果となったのです。

媒介報酬受領とは別にコンサルタント報酬を得る場合には、書面による契約が必要です。

しかし、顧客から「それらの業務は媒介報酬に含まれているだろう」と主張され、コンサルタント契約に応じて貰えないのが現状です。実際、コンサルタントとして報酬を得ている筆者のもとに、同業者から「どのように説明すればコンサルタント契約に同意して貰えるのか」といった質問が寄せられることからも、これが現状なのでしょう。

インターネットで容易に検索できる現代では、顧客が自ら調査することが増えており、知識が軽視される傾向があります。しかし、インターネット上の情報には正確なものもあれば誤ったものもあり、情報を取捨選択するだけでも手間がかかります。さらに、実践を経験している専門家しか把握していない細かいポイントも多く、これらの知識や知見を軽視してはならないのです。もちろん、専門知識を無料で提供する義務はありません。

とはいえ、「専門知識に裏付けされた助言やサポートは無料で受けられない」ことについて、顧客の理解を得るのは容易とは言えません。

その点、外国人顧客の場合、日本の不動産取引における慣習や登記、税法解釈や地域との関係性などについて不安が大きく、これに対応するコンサルタントに報酬を支払うのは当然と考えています。例えば、「物件リサーチ」、「内見同行」、「契約・購入手続きのサポート」などの業務を有償サービスとして提供することで、報酬を得ることが可能です。もちろん、納得してもらえるだけのクオリティと、質問に対して分かりやすく説明するだけの知識は求められます。

また、宅地建物取引業法の改正により、空家の利活用、課題整理、相続相談や手続き支援など総合調整のほか、所有者からの依頼に基づく定期点検や修繕提案、家財の整理などの業務においても、積み重ねた知識や知見が報酬に結びつきます。媒介報酬に依存しない新たな収入源として、不動産コンサルタント業務に目を向けることが必要です。

理解しておきたい、登記法の改正ポイント

2024年4月1日より、不動産登記法が改正され、それに基づく法務省通達により、海外居住日本人や外国人が不動産所有者となる場合のルールが大幅に改正されました。外国人との取引増加を目指す私たちは、これらの改正ポイントを正確に理解しておくことが重要です。

以下で、主な改正点を紹介します。

●ローマ字併記の追加

これまで、外国人が日本の不動産を取得した際の登記情報には、漢字とカタカナ表記のみが使用されていました。しかし、これではパスポートや在留カードに記載されたアルファベット表記と一致させることが難しく、本人確認が困難になるという問題がありました。改正により、登記情報に記載される外国人の氏名は、日本語とローマ字表記の両方で表記されるようになりました。

●国内連絡先の登記事項化

海外在住の日本人や、日本に住所を有しない外国人が不動産の所有者となる場合、日本国内の連絡先を登記事項として記載することが義務付けられました。具体的には、国内の連絡先となる者の氏名や住所を登記されます。ただし、国内に連絡先となる者がいない場合には、その旨が登記事項として記録されます。

国内の連絡先を登録する際には、国内の具体的な連絡先またはその名称にくわえ、連絡先となる者の住所が記載された印鑑証明、住民票の写し、戸籍の附票の写しなどの提出が必要となります。また、国内の連絡先となる者の承諾書も必要となるため、これらの書類の準備が必要です。

●宣誓供述書の取扱変更

2024年4月1日以前は、本国公証人や在日大使館の領事が認証した宣誓供述書が、住民票の代わりとして認められていましたが、法務省通達により、以下のいずれかを選択するよう変更されました。

1. 本国又は居住国の政府により作成された住所を証明する書類。

2. 宣誓供述書に加え、パスポートのコピーの提出。

3. 日本の公証人が認証した宣誓供述書(やむを得ない事情により、本国の宣誓供述書を用意できない場合に限る)。

4. 本国の宣誓供述書を用意できない旨の上申書。

日本の不動産を購入するだけではなく、相続や贈与、家族信託の受託者となる場合にも、外国人であることにより確認すべき事項や必要書類があります。外国人からの相談に応じる際には、必ず最新情報を確認し、適切なアドバイスを提供することが重要です。

まとめ

今回は媒介報酬に依存しない収益確保の手段として、外国人取引および不動産コンサル業務について解説しました。不動産業者には、そのノウハウを活かし、媒介業務に留まらず多様な役割を果たすことが期待されています。

近年、建築資材や人件費高騰により新築分譲価格が上昇し、中古物件の需要が増加した結果、既存住宅販売量指数は上昇しています。しかし、少子高齢化の進展を考慮すれば、この傾向はいずれ頭打ちとなり、やがて減少に転じる可能性が高いでしょう。

総務省統計局が令和元年に公開したデータによると、1968年に総世帯数が住宅数を下回り、それ以降は住宅数が世帯数を上回る状態(2018年には1.16戸)となっています。

また、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」によれば、2050年には2020年比で約310万世帯が減少し、一世帯あたりの人数も2.21人から1.92人まで減少すると予測されています。

これらのデータから分かるように、世帯数の減少が不動産取引に及ぼす影響は避けられません。

こうした状況の中、大手ハウスメーカーは自社施工物件のリフォーム需要を囲い込み、一部メーカーは早々に海外への進出を図っています。このような現状では、媒介報酬のみに依存したビジネスモデルでは、いずれ業務の縮小を余儀なくされる可能性があります。

一方で、日本人には敬遠されがちな地方の空家も、円高を背景に外国人の別荘や移住先として人気があります。こうした外国人顧客に対して、コンサルタント業務を通じて適切な対価を得ることが可能です。また、日本人に対しても専門的なノウハウを活かし、適切なコンサルタント報酬を得ることができるのです。

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