【重要】国土交通省が推奨する4号特例廃止に伴う不動産業者の説明責任

令和7年(2025年)4月から、建築確認審査の対象となる建築物の規模が見直され、いわゆる『4号特例』が廃止されます。

4号特例とは、延べ面積500㎡以下、2階建て以下などの条件を満たす木造住宅(現行法で4号物件とされるもの)について、建築確認申請時における構造計算書の提出を省略できる制度です。

一般には審査省略制度と呼ばれていますが、注意が必要なのは「構造計算が不要」とされていない点です。原則として、すべての建築物には構造計算が必要とされています。

とはいえ、提出が不要なら、わざわざ手間のかかる構造計算など行いたくありません。そのため、現行法下では構造計算を行わないビルダーも多く、それが黙認されてきたのです。もちろん、「全棟構造計算実施」と標榜しているビルダーも多数存在していますが、実施していないビルダーが圧倒的に多いのが現状でした。

しかし、2025年4月以降、現行法の4号物件は、「新2号建築物」と「新3号建築物」に分類され、延べ面積200㎡を超える「新2号物件」については構造計算書の提出が義務化されます。

さらに、300㎡を超える物件には「許容応力度計算」が義務化されるため、建築士業界は対応に追われている状況です。

「建築確認申請の制度が変更になっても、媒介業者には関係がない」と考える方もいるかも知れませんが、その考えは誤りです。詳細は後述しますが、媒介業者は建築基準法改正の要点を理解し、物件調査や顧客への説明、増改築相談などに適切に対応する必要があるからです。

今回は、国土交通省が令和6年(2024年)10月に公開した「木造住宅の大規模なリフォームに関する建築確認手続きについて」を参考に、私たちが正確に理解すべきポイントについて解説します。

なぜ理解が必要か

媒介業者にとって、直接の関係性が薄いと思われがちな改正建築基準法を正確に理解しておくべき理由は、2つに大別されます。

1. 説明責任

今後、建築基準法の改正によって「既存不適格物件」に関する相談の増加が予想されるからです。既存不適格物件とは、建築時点の法令に適合して建築されたものの、改正により不適格な箇所が生じた物件を指します。

このような物件は、法的に問題があるわけではありませんが、「既存不適格物件」との用語がマイナスの印象を与えることが少なくありません。そのため、媒介業者としては、既存不適格物件に関し適切に説明する責任があります。建築時点では合法であっても、改正後には不適格とされる箇所があるため、正確に説明しなければ顧客の信頼を損ねる可能性があります。

2. 増改築時の問題

建築基準法第6条1項では、新築や増築時だけでなく、大規模な修繕や模様替えを行う場合にも建築確認申請書の提出が必要とされています。この際、増築部分については現行法(または改正後の基準)に適合させる必要があり、予定外の費用が発生する場合もあります。

また、現行法では、既存不適格物件に対して増改築を行う場合、建物全体を省エネ基準に適合させる必要がありましたが、改正後は、増築部分のみ適合させればよいと変更されました。ただし、見付面積が過半な場合は既存部位に対しても省エネ基準への適合が求められます。

このように、どのような場合に適合が求められるのか、媒介業者は正確に理解し、顧客に説明ができるよう備えておく必要があります。

増改築の規模や工事内容に関する国土交通省の見解

国土交通省住宅局は、2024年10月に「木造戸建ての大規模なリフォームに関する建築確認手続きについて」を公表し、関連業者に周知を促しています。これは、屋根や外壁、床、階段の改修に関する見解を明確にし、誤解を防ぐことを目的としています。

具体的には、以下のような改修工事が大規模な改修や模様替えに該当しないとされています。

A. 屋根

基本的に、屋根ふき材のみの改修であれば、大規模な修繕や模様替えには該当しません。

ただし、改修により屋根全体の見付面積で過半が新しくなる場合、大規模修繕に該当するとされています。

既存屋根の上に新しい屋根をかぶせるカバー工法であれば問題ありませんが、「野地板(屋根材の下地材)」も含めて全面的に交換する場合には、大規模修繕とみなされる可能性が高くなります。この場合、改正法に基づく省エネ基準への適合が必要となり、工事費が高くなります。事前に建築士に相談して確認することが推奨されます。

B. 外壁

外壁については、外装材のみの改修や内側からの断熱改修であれば大規模修繕に該当しません。ただし、外壁全体を改修する場合は注意が必要です。判断は改修部分の見付面積が過半かどうかによります。

壁の見付面積とは、建物の正面を向いた外壁部分のことです。建築基準法では、外壁が風圧力に耐えるため見付面積に応じて所定の強度(必要壁量)を確保することが求められます。

具体的には、梁間方向(小屋梁と平行の方向)、けた行き方向(小屋梁と直角の方向)それぞれに、各階床から1.35mの高さで線を引き、その上の垂直面積を基(見付面積)に必要な壁量が計算されます。

見付面積の過半を修繕した場合、風圧に対する剛性が弱まる可能性があります。そのため、建築確認申請が必要とされるのです。

C. 床・階段

床や階段の改修も、屋根や壁と同様の基準が適用されます。つまり、仕上材のみの改修は大規模修繕に該当しません。また、階段においても、既存の踏板に仕上げ材を被せる改修や、上り位置を一部変更する改修で見付面積が過半に達しない場合は大規模修繕に該当しません。

建築基準法改正に関する説明は、宅地建物取引業法上の義務とされるか?

令和7年(2025年)4月から、建築確認審査の対象建築物の規模が見直されることは決まっています。しかし、改正により既存不適格となる物件について、不動産業者が内見や重要事項説明時にその旨を説明する義務があるかどうかについては不明確です。

この点について、筆者は2024年11月6日に国土交通省不動産・建設経済局不相談業課へ問い合わせを行いました。回答は、「説明を怠った場合に処分されるかどうかは権限者の判断による」との前提のもと、次のように示されました。

「建築基準法の改正により購入者が不利益を受ける可能性がある場合、不動産業者は重要事項説明時にその具体的内容を説明(改正前であっても)することが望ましい。現時点で『義務である』と断定する根拠法はないが、法改正による不利益が確実である場合、それは購入の判断に影響を与ぼす重要な事項であると解される。従って、説明を怠ることは、宅地建物取引業法第47条第1項第1号で規定される『故意に事実を告げず、又は不実のことをつげる行為』に抵触する可能性がある」

国土交通省が「望ましい」と述べる表現は、実質的に「説明すべきである」と捉えることができます。

したがって、改正後に既存不適格となる物件については、具体的な内容を説明すると同時に、重要事項説明書にも記載することが重要です。

また、国土交通省は宅地建物取引業法第35条第1項第2号において「説明が義務とされる重要事項」に関し、建築基準法について「災害危険区域」、「その他集団規定」の説明を求めています。

これには、建物の構造や防火、設備などの単体規定のみならず、敷地と道路との関係や建築物の用途制限など、下記の集団規定が含まれています。

なお、建築基準法の改正が説明を義務とする集団規定のどれに該当するのか明確ではありません。このため、法的には説明義務がないと考える方もいるでしょう。しかし、法解釈が難しい状況下では、不動産動産会社が各自で判断して対応する必要があります。

説明を行わずに売買契約を進めた場合、後に購入者から説明不足が指摘され、トラブルに発展する可能性もあります。最悪の場合、裁判に至るリスクもあるでしょう。

そのため、顧客の利益を最優先に考え、誠実に対応することが求められます。

重要事項説明書の記載例

建築基準法改正後に既存不適格となる物件について、重要事項説明書にはどのように記載・説明すればよいのでしょうか。

一般的な既存不適格物件に関しては、不動産会社のミカタが提供するお役立ちコンテンツ「役所調査のミカタ」の記載例を参考にすればよいでしょう。

しかし、省エネ基準や構造計算のみ不適格となる物件については、以下の記載例を参考にしてください。

◯対象不動産建物は、(令和7年4月に予定されている建築基準法改正以降は_※法施行前は記載)各種制限(省エネ基準・構造計算)の数値が建築当時と異なるため、建築基準法上不適格となります。そのため、建築確認申請が必要な増・改築・再建築の際には、構造計算上補強が必要な場合の補強工事および省エネ基準に適合させるための断熱改修工事が必要となる可能性があります。

説明の際は、上記記載例の内容をそのまま使用できますが、その際に顧客から、「具体的に費用はどのくらい必要か」と質問されることも考えられます。

構造計算は建物の規模や構造によって異なりますが、一般的な木造住宅の場合は20~50万円程度が相場です。また、耐震補強工事に関しては、新耐震基準に適合していない住宅では150万円程度を見込んでおく必要はありますが、新耐震基準に適合している住宅の場合は、部分的な補強だけで十分であり、10~40万円程度が目安となる場合が多いでしょう。

断熱改修については、見付面積で過半となった場合や増築した場合を除いては義務とされていません。工事の要否や内容については、事前に建築士へ相談することをお勧めします。

なお、改正法に適合することだけを目的に工事を行うケースは稀なため、詳細な費用については「施工会社にお尋ねください」と返答することでも問題ありません。

まとめ

今回の建築基準法改正に伴う4号特例の廃止は、建築業界ほど大きく注目されてはいないものの、不動産業界にも多大な影響を及ぼします。

特に築年数が浅い住宅の場合、売主や買主から「なぜこの築年数で既存不適格物件なのか」と質問を受けることが予想されます。こうした質問に対して適切に答えられない場合、不信感を抱かれる可能性があるでしょう。

また、改正法施行後は建築確認申請が必要な規模の工事に構造計算が必須とされ、かつそれに適合させる必要がありますから、工事費用が増加する可能性があります。

建物剛性や省エネ性能の向上は購入者のメリットになりえますが、売主にとっては既存不適格となることで資産価値が下がると感じられる場合もあります。

このように、私たち不動産業者は法改正の具体的なポイントのみならず、その背景や目的についても理解を深め、顧客に納得していただける説明を行うことが求められています。

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