【宅造法改正案閣議決定】危険な盛土は全国一律基準で包括的規制

昨年(令和3年)7月3日に静岡県熱海市で発生した発生した大雨による盛土崩壊は大規模な土石流災害を発生させ、最終的な被害報告で死者27名、行方不明者1名、流出家屋44戸、土砂の影響を受けたが現存している家屋数78戸という甚大な被害をもたらしました。

熱海市,盛土崩壊
災害発生後は憶測記事も含め様々な情報が飛び交いましたが、日が進むのに連れ盛土造成工事が不法かつ不適切な工法(排水不備・大量の土砂量等)で実施され、盛土造成工事を実施した会社や工事を具体的に指示したとされている開発会社による人為要因であることが明確になってきました。

また、そのような工事内容を未然に把握し、指導は行ってはいたもののなし崩し的に押し切られた形となった行政責任も指摘されました。

そのような背景もあり静岡県は「逢初川土石流の発生原因調査検証委員会」を立ち上げ調査に乗り出しています。

ですが現在までのところでは、公開されている調査委員会の報告書を見ても土石流発生原因についての検証までであり、人為・行政要因までの検証まで踏み込んでいません。

本来であれば一番に糾弾されるべき開発業者や施工業者への責任追及まで辿り着いてはいない印象です。

もっとも調査検証委員会ですから糾弾を意図しておらず、そこまでの議論を視野にいれていないのかしれませんが………。

もっとも、責任追及も必要ですが何よりも大切なのは同様の災害が発生させないことです。

現在まで統一された基準が存在していないことにより各自治体などに依存されていた、利益至上主義により必要な工事を手抜きし、杜撰な工事を実施する業者等への厳罰化も含め現状危険であると推定される盛土造成などの箇所を把握し尊い人命が失われないよう対応策を講じることです。

その点に関して国土交通省の動きは迅速でした。

事故発生後、全都道府県に対して危険盛土の一斉点検を速やかに指示、各都道府県も迅速に対応しました。

惜しむらくは一斉点検が目視などによる調査結果ではあることですが、これは動員する人員の問題もあり致し方がないところです。ですが驚愕であったのが調査の結果、再点検を要する箇所、つまり危険であると推定される地域が36,000件(令和3年11月集計)もあったことです。

盛土問題

このような調査報告により国土交通省は「熱海市における災害は偶発的な自然条件や地域性だけが主たる原因ではなく、人為・行政要因も多分に含まれる」と認めるしか無く、災害発生の危険性のある地域は全国に点在していると改めて自覚するのに至りました。

そこで危険地域については更なる詳細な調査を指示して具体的な対策を講じるように指示するとともに、再発防止のための法整備を急務として動き出しました。

これにより令和4年3月1日に「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。

政府広報ではいつものことですが名称が長いので「盛土規制法案」と略して覚えておけば良いでしょう。

この法律により杜撰な盛土工事に対する罰則強化も含め全国統一基準の法制化が達成されたことになります。

今回は不動産関連業者であれば「改正を知らなかった」で済まされない、改正法の概要について解説します。

法案の概要

改正ポイントは下記の図に要約されています。

盛土,法案

最大のポイントは、盛土等の土地種別や用途、目的よらず危険であるとされる盛土造成を全国一律の基準で包括的に規制できるようになったことでしょう。

●都道府県知事等の権限強化

この基準が定められたことにより都道府県知事等の権限が規制法を背景に強化されることになり「宅地・森林・農地」など用途によらず、盛土等により被害を及ぼしうると推定される場合に規制区域として指定が出来るようになりました。

指定された区域で工事を実施する場合には造成方法はもちろんのこと一時的な体積にも許可が必要となり、監視の目が行き届きやすくなります。

●安全性を強化した許可基準

盛土造成工事を行うエリアの地域特性、つまり地形や地質などに応じて災害を防止するために必要な基準を細分化し、それに準じた許可基準に変更されます。

また許可申請どおりに工事が実施されているかを確認するため施工状況の定期報告が定められ、施工中途での中間検査はもちろん竣工後の完了検査も義務付けられました。

●責任所在を明確に

竣工したら終わりではありません。販売され入居が開始された後にも所有者が安全な状態で生活していけることが大切です。

そのために安全な状態を維持するための管理義務が責務であるとされました。

またさらに責任の所在を明確にするため原因行為者を広義に解釈できるように改め、当事者に対し是正処置を命じることができるように改正されています。

●罰則強化

罰則強化は、罰則を与えることが目的ではなく「杜撰な工事を実施しても割に合わない」と自覚を促すための抑止力です。

改正法で罰則規定の上限が引き上げられました。

無許可行為や命令違反の場合には「2年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金」に改められています。

主観として抑止力である以上、罰則はもっと重くても良いような気はしますが………

まとめ

今回は盛土規制法案の改正ポイントについて手短に解説しましたが、約36,000件にも及ぶ危険地位域について、原因行為者に対する方針が講じられていません。

もはや時効ということでしょうか?

熱海市の例においても当該地を造成した開発販売会社の代表者は表に出ず「弁護士に聞いてくれ‼」と知らぬふりを決め込んでいます。

この代表者は同様の杜撰な工事を別会社でも行っており、もはや確信犯だと推定できるのですが弁護団によるこれからの責任追及に期待したいものです。

法改正によりこれから新規に造成される工事は、ある程度、安心できる内容になりましたが既婚危険地域の対応策については新しい情報を入手でき次第、解説したいと思います。

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