中古住宅に係る建物評価手法の改善とAI査定

不動産査定においてAI査定を活用するケースが増えています。

人が主観的な判断で不動産価格を算出するよりも、不動産市場の動向を反映したより実勢にもとづいた価格が算出されるメリットがあると言えます。

一方で従来からおこなわれている不動産査定方法を見直し、より物件の現状に合致した査定方法を模索する動きもあります。

ここでは国土交通省が平成26年にとりまとめた「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」と、AI査定との整合性に着目し今後の不動産査定のあり方について考察します。

不動産査定の方法

不動産査定の方法として次の3つの方法があります。

1. 原価法
2. 取引事例法
3. 収益還元法

現在多くなっているAI査定は主に「取引事例法」にもとづく方法で、原価法や収益還元法と異なり理論値ではなく、取り引きデータが多いほどより実際の市場トレンドを反映し、データが少ないと信頼性のうすい査定結果になってしまいます。

原価法は主に建物の査定に利用される手法ですが、中古マンションは取引事例法によることが多く、原価法は戸建住宅において用いることが多い手法です。

収益還元法は収益物件の査定に利用することがありますが、金融機関が融資可能額の算定に活用するほうが、この手法の特徴に合致した査定方法と言えそうです。

中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針

2014年3月に国土交通省が公表した「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」は、現在利用されている「原価法」による戸建住宅の評価方法を、物件の現状を反映したより理想的な評価方法として構築しようとするものです。

中古戸建住宅の評価方法を変更する背景

木造戸建住宅は法定耐用年数が22年であり、不動産査定においても築年が20年を超えると、ほとんど建物に対する評価はゼロとみなすことが長い期間おこなわれてきました。

最近では長期優良住宅や耐久性の高い住宅が建てられるようになっていますが、築年数による評価方法は変わっていないのが現状です。

一方「買取再販住宅」事業をおこなう事業者の登場は、新しい価値を付加された中古住宅として、新築住宅と中古住宅の境界で別のジャンルを形成し、独自の価格帯を構成しています。

リノベーション住宅という呼称が一般化し、新築とリフォームされた住宅が一次取得者にとって、甲乙つけがたい選択肢となっています。

一方個人が売主となっている中古住宅のなかには、メンテナンスの行き届いた品質の高い物件から、ほとんどメンテナンスのされていない住宅まで幅広く存在します。

これらの物件はおしなべて “築年数” により評価されることが多く、買取再販住宅との価格ギャップが生じていると言える状況です。

望まれる中古戸建住宅の評価方法

個人が売主となる中古住宅の評価方法として、査定の3方法から改善を図り活用できる方法は「原価法」になります。

取引事例法は前述のとおり『築20年経過すると建物評価はほとんどゼロとなる』前提で取引されている事例が多く、取引事例法により望ましい評価が可能になるには、まだまだ事例が少なく将来のことになるでしょう。

収益還元法による評価は自己使用を目的とした取引がほとんどである市場の実態から、賃貸住宅市場の収益性を考慮した評価方法は、将来的な検討課題と捉えられています。

原価法は「再調達原価」に対して「減価修正」をおこなう手法であり、減価修正をより物件の現状を正確に把握したうえでおこなえるよう、改善の必要性が指摘されています。

「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針 」の論点

建物評価手法,AI査定

国土交通省が2014年(平成26年)にとりまとめた「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」において、論点としてあげた3つのポイントについてみていきます。

個別判断を許容する必要性

戸建住宅は個別性が高く、仮にまったく同仕様の建売住宅2棟を比較した場合、住まい手の日常の暮らし方やメンテナンスにより、同じ築年数であっても評価時点での状態は大きく異なることが考えられます。

したがって規格化されたルールにもとづいた評価方法を求めると、結果的に経年による大幅減価が定着する恐れがあり、画一的な評価方法は望ましくないでしょう。

そのため不動産会社や不動産鑑定士が査定をおこなうさいには、客観的で適切なデータにもとづき、評価の根拠を明確にした方法により、個別に判断することを許容すべきであると指摘しています。

インスペクション等による個別の住宅の状態の把握

個別性のある戸建住宅の評価時の現状把握は、専門家による「インスペクション」が望ましいと考えられます。

インスペクションについては2013年に国土交通省が「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を策定し、2018年には媒介契約締結時や重要事項説明書および契約書において、インスペクションについての説明項目が追加されました。

しかしながらまだ実施率は低い水準にあり、インスペクションの結果が建物評価に与える影響が視覚化され、普及・定着することが必要と考えられます。

一方インスペクションを実施しない場合は、建物の評価をより正確におこなうことができず、評価結果の客観性が保てないことを売主が理解するよう図る必要もありそうです。

参考としての評価額の提示、「実質的経過年数」「残存耐用年数」の利用可能性

前述のようにインスペクションにもとづいた減価修正により、従来の「築年数のみの建物評価」に代わる改善された価格査定がおこなわれたとしても、現状においては市場価格との乖離が予想されます。

しかしながら改善された価格査定と共に「実質的経過年数」や「残存耐用年数」の提示は、個別の住宅を評価する指標として定着する可能性もあります。

事例として、アメリカでは「実質的経過年数」が鑑定人の自己責任にもとづき判定する指標として、経年減価の算式に用いられていることが「指針」で紹介されています。

我が国においてもインスペクションの定着と共に、改善した原価法の普及がやがて浸透し、より望ましい査定方法が確立すると期待されるのです。

戸建住宅の評価方法とAI査定

AI査定は「取引事例法」による査定方法であり、市場の動向が常時反映されるものと考えられます。

しかしAI査定により算出した価格が “より正確な価格” と評価することにより、戸建住宅においては個別性をまったく反映しない価格形成がすすむ懸念もあります。

AI査定の評価パラメーターに、実質的経過年数や残存耐用年数といったデータが組み込まれることにより、個別性を反映したより物件の現状を正確に捉えた価格査定が可能になるのではないでしょうか。

そのためには改善された原価法にもとづく査定の実施と、取引価格の決定プロセスにおいて、実質的経過年数や残存耐用年数を売主・買主ともに理解する機会を不動産会社は設ける必要があると思います。

まとめ

不動産査定は不動産鑑定手法をベースとして実用化されてきました。

3つの手法のうち「取引事例法」は取り引きの成立可能性が非常に高い手法であり、土地取引や中古マンション売買で優れた査定方法です。

AI査定は取引事例法を人の手によらず、より大量のデータにもとづき価格を算定するものであり、非常に優れたITツールとして成長してきました。

日本においては『木造住宅は築25年で建替える』ことが、常識的にとらえられていた時期が長くあり、その観点は今も厳然と通用しています。

しかし長期優良住宅や高耐久住宅が普及するようになり、住宅は60年~100年の耐用年数も可能な時代になってきました。

この記事ではそのような住宅性能の変化に応じた、今後の査定方法について考察してみました。

不動産査定のさいには、これまでの方法とは視点を変えた査定方法について試みたいものです。

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