不動産仲介業では、複数の司法書士事務所に不動産登記の依頼を行う機会があります。
ところが送られてくる請求書を見ると、どの数字を使って仕訳を行えばよいかがわかりづらかったり、源泉所得税の計算が事務所によって微妙に違うため、本当に請求書どおりに経理して問題ないのか迷ったりすることがあると思います。
そこで今回は、司法書士の請求書の消費税や源泉所得税の計算根拠や、実際の仕訳方法を解説します。
司法書士の請求書の「報酬額」と「登録免許税等」
多くの司法書士事務所では、次のような様式の請求書が使用されています。
種別 | 報酬額 | 登録免許税又は印紙税等 | |
手続きの代理・書類作成・相談等 | 所有権移転(売買) | 50,000 | 29,000 |
登記原因証明情報 | 5,000 | ||
登記事項証明書 | 2,000 | 500 | |
立会料 | 10,000 | ||
交通費・通信費 | 2,000 | ||
電子閲覧 | 1,000 | 500 | |
小計 | 70,000(ア) | 30,000(イ) | |
その他
費用 |
|||
小計 | 0(ウ) | ||
合計(ア+イ+ウ) | 100, 000(エ) | ||
消費税(ア × 8%) | 5,600(オ) | ||
源泉所得税(ア-10,000円)×10.21% | 6,126(カ) | ||
請求額(エ+オ-カ) | 99,474 |
(注)金額は、実際の相場や手数料とは関係ありません。
消費税の課税仕入れとなる金額
司法書士事務所から受け取る請求書の特徴は、「手続きの代理・書類作成・相談等」、「登録免許税又は印紙税等」などの名目で、金額を(ア)と(イ)の2つに分けていることです。
(ア)は司法書士が受け取る報酬で、(イ)は、本来であれば依頼主が負担する登録免許税や、登記手数料(登記事項証明書の交付料やオンラインでの閲覧料など)といった実費を、司法書士が立替払いしたものになります。
(イ)の登録免許税は課税取引にあたらないため、経理では(イ)の30,000円は課税対象外(不課税)とし、(ア)の70,000円のみ課税仕入れとして仕訳を行います。
(厳密にいうと登記手数料は非課税取引であり不課税ではないのですが、実務上、両者を支払において区別する必要ありません。)
源泉徴収の対象額
源泉所得税は、源泉徴収義務のある事業所が、個人の司法書士に対して支払う報酬から1万円を差し引いた金額に10%(復興特別所得税を含めて10.21%)をかけた金額を、支払い側において徴収し、原則、翌月10日に税務署に納税するものです。
基本的に請求書の金額を源泉徴収すればよいのですが、「計算方法が事務所によって微妙に違う…」ということがあり、気になってしまう時があると思います。
源泉所得税に消費税と登録免許税等は含めない?
上記の請求書では、源泉徴収の対象に消費税は含まれていませんが、これは「例外」です。
国税庁では、原則は「消費税額を含めた額」から源泉所得税額を計算することとし、例外として、報酬額と消費税額が明確に区分されている場合は、税抜きの額で計算してよいとしています。
したがって消費税を含めて源泉徴収した請求書があっても、間違いではありません。
参考:国税庁HP タックスアンサーNo.6929
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6929.htm
ちなみに(イ)の登録免許税等についても、源泉徴収の対象から除くことが認められています。
このことから源泉所得税も消費税と同様に(ア)の金額から計算する上記のタイプの請求書が多くなります。
参考:国税庁HP タックスアンサーNo.2801
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2801.htm
金額が書かれていないとき・高いとき
相手が司法書士法人など法人である場合、源泉徴収は必要ないため、源泉所得税の金額も記載されません。
また、支払い金額が100万円を超える場合、100万円を超える部分は通常の倍となる20.42%の徴収が行われるので金額が高いと思ったら、100万円を超えていないか確認しましょう。
司法書士の請求書の仕訳例
それでは、上記の請求書の仕訳例を見ていきましょう。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
支払手数料 | 70,000 | 普通預金 | 99,474 |
仮払消費税(※) | 5,600 | 預り源泉所得税 | 6,126 |
租税公課 | 30,000 |
(※)税込経理方式や免税事業者の場合は計上せず、支払手数料に含めます。
- は、租税公課とし、課税対象外(不課税)で計上します。
過去の経理で使用された勘定科目が別にあれば、そちらも参考にしましょう。
棚卸資産に計上する場合
不動産仲介業において販売目的で購入された土地や家屋は、固定資産ではなく棚卸資産として、「販売用不動産」(完成品)や「仕掛販売用不動産」(未完成品)に計上されます。
この棚卸資産の取得価額には、その不動産を買い取ったときの登記費用を含めることもできます。
法令・通達での扱いとしては、「購入した棚卸資産の取得価額には、その購入の代価のほか、(中略)販売の用に供するために直接要した全ての費用の額が含まれる」(法人税基本通達5-1-1)と定め、登記費用は例外として、棚卸資産に含めても含めなくてもよいもの(=「棚卸資産の取得価額に算入しないことができる費用」:同通達5-1-1の2)に列挙されています。
参考:国税庁HP 法人税基本通達
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_01.htm
もし登記費用を棚卸資産に算入する経理を行っている会社の場合は、次のような処理を行います。
<棚卸資産で処理する場合>
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
販売用不動産
(又は仕掛用不動産) |
100,000 | 普通預金 | 99,474 |
仮払消費税(※) | 5,600 | 預り源泉所得税 | 6,126 |
(※)税込経理方式や免税事業者の場合は計上せず、販売用不動産等の金額に含めます。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_01.htm