物件を販売する際、プロモーション戦略の有無によって同じ環境にある中古のリノベーションマンションが「どこにでもある中古マンション」に見えたり、「高付加価値のあるリノベーション案件」に見えたりします。
しかし、実際の現場では、「モデルルーム見学会を開催する」とか「ポータルサイトで告知を行う」など、慣習化されたことを当たり前に実行している人が多く、物件に見合ったプロモーション戦略を企画・実行しているという人は少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、販売中物件のプロモーション戦略の考え方について、元PRの現場担当者に詳しい話を聞きました。
ヨガの体験レッスンを取り入れた実例も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
競合と販売中物件の分析をしっかりやってみよう!
「販売中物件の競合は、どのようなものなのか?」を、正確に捉えられている人は多くありません。
販売中物件に作用している競争要因が分かれば、その中でどのような強みと弱みがあるのかを分析することができ、物件に見合ったプロモーション戦略を考えることができます。
具体的には、どのような「機会」と「脅威」があるのかを考え、そこから「強み」と「弱み」とは何かを考えていきます。
販売中物件の「強み」と「弱み」とは?
以下の①~④の切り口から、販売中物件について考えてみましょう。
②販売中物件の強みで脅威を回避できないか?他社には脅威でも販売中物件の強みで販売機会にできないか?
③販売中物件の弱みで販売機会を取りこぼさないためには何が必要か?
④脅威と弱みのはち合わせで最悪の事態を招かないためにはどうしたらいいか?
「中古のフルリノベーションマンション」を対象とした具体例
以下は、「中古のフルリノベーションマンション」を対象とした具体例になります。(立地などの周辺環境は同一の条件とします)
順を追ってご説明させていただきますので、ぜひ参考にしてみてください。
①新築マンション
競合が「新築」の場合、「中古」は圧倒的な弱みになります。
しかし、「フルリノベーション」の場合、中身は“新築同然”であり、「中古」という弱みを回避できる可能性が出てきます。
また、価格面では「中古」の方が「新築」よりも安く、大きな強みになり得ます。
②中古マンション
競合が「中古マンション」の場合、築年数で多少のアドバンテージがあったとしても、中身は“新築同然”という「フルリノベーション」が圧倒的な強みになります。
しかし、「中古マンション」を探している方は、新築を購入するほどの資金がなかったり、新築の必要性を感じていなかったりする方も多いため、価格差がそのまま弱みになってしまう場合もあります。
③戸建て
「戸建て」の場合、そもそも「中古のフルリノベーションマンション」にとっての競合とは考えていない方が多いかと思いますが、実際には違います。どちらも同じ「住まい」である以上、「強み」や「弱み」は必ず存在します。
実際に、新築の方が自由な暮らしができるようなイメージがありますが、いざ住んでみると自分自身で土地や建物を管理・維持する必要があり、想像以上の負担がかかります。
また、マンションとは違った近所付き合いなども避けられないため、回覧板を回したり、様々な当番を担当したりしなければいけないことなどにストレスを感じている住人は少なくありません。
こうしたことから、「戸建て」に対しては「マンション」自体が強みになると考えることもできます。
④賃貸
「賃貸」の場合も「戸建て」と同様に、「中古のフルリノベーションマンション」にとっての競合とは考えていない方が多いかと思いますが、実際には違います。
「フラット35」などの制度を上手く利用すれば、賃料とほぼ同等の価格で月々のローンが組めるようになった今、「資産」として手元に残る「中古のフルリノベーションマンション」は、強みになります。
また、使わなくなった場合は賃貸に出し、家賃収入を得られる可能性を考えれば、お客様にとっての大きなメリットになり、絶対的な強みになるのではないでしょうか。
このように、競合と考えられるものを分解しながら論理的に考えることで、販売物件にとっての「強み」が明確になり、プロモーションを考える糸口が見えてきます。
誰に向けてプロモーションを行うのかを意識してみよう!
販売中物件の「強み」が分かったら、誰に向けてプロモーションを行うのかを具体的に意識し、来て欲しいお客様を思い浮かべて、ターゲットを設定しましょう。
ターゲットを設定するための3つのポイント
お客様の欲求が多様化している中、漠然と「誰か」を意識していても意味がありません。
今の時代、お客様の心に刺さるプロモーションにするためには、「誰に」を明確に定義し、ターゲットを絞り込む必要があります。
以下、ターゲットを設定するための3つのポイントをご紹介させていただきます。
①属性:年齢、家族構成、職業、年収、居住地、学歴など
②価値観:大切にしているものや考え方
③夢、願望、課題、悩み:叶えたい夢や願望、解決したい課題や悩み
「中古のフルリノベーションマンション」を販売する場合の具体例
以下は、「中古のフルリノベーションマンション」を販売する場合の具体例です。お客様の具体像を考える際は、ぜひ参考にしてみてください。
①属性:30歳の共働き夫婦(会社員)と子どもが1人、世帯年収は1,000万円、東京都在住、四年制大学卒
②価値観:仕事にやりがいを持っているが、プライベートも充実させたいし楽しみたい健康管理に気を遣っており、食べ物にはこだわりがある、子育てにも力を入れたい
③夢、願望、課題、悩み:子育てのしやすく設備が充実したマイホームが欲しい、通勤・登園しやすい場所に住みたい、自宅で家族団らんのひとときを過ごしたい、のんびりくつろげる空間で仕事の疲れを癒やしたい
このように考えることができると、お客様にウケそうなプロモーションの手がかりが見えてきます。
プロモーション施策を選定しよう!
設定したターゲットに対して、ウケそうなプロモーション施策を選びましょう。
ポイントは、交換される「価値」を正しく見極めることです。
契約の成立とは、物件を探しているお客様と、買い手を探している不動産業者との間で、「価値」が交換されることを意味しています。
上記の具体例を参考にした場合、不動産市場で取引されている「価値」は、「物件」それ自体ではなく、「子育てのしやすく設備が充実したマイホーム」「通勤・登園しやすい場所」「家族団らんのひととき」「のんびりくつろげる空間」などになります。
「中古のフルリノベーションマンション」を購入した場合に期待できる色々な価値
その他、以下のようなものも全て「価値」になりますので、参考にしてみてください。
②周辺の設備や交通の便などの利便性(という価値)
③文教地区や転勤家族が多いなど、暮らしやすさ(という価値)
④治安や危険地域内外の安全性(という価値)
⑤その他(の価値)
このように、物件が持つ価値をきちんと見極めることができれば、それを求めているお客様がより明確になり、アプローチがしやすくなります。
プロモーション施策を決定する
今回は、販売中の「中古のフルリノベーションマンション」を使って、現地でできるプロモーション施策を決めました。
②場所:中古のリノベーションマンションの一室
③ターゲット:30代の子育て中の主婦
④コンセプト:「家族団らんのひととき」「のんびりくつろげる空間」
⑤費用:ヨガの講師料、ヨガマット代、ペットボトル飲料水
お客様には、ヨガの体験レッスンを通して「安心感」や「居心地の良さ」を経験してもらい、モデルルーム内で「家族団らんのひととき」「のんびりくつろげる空間」といった「理想の住まい」を疑似体験してもらいます。
また、ヨガの後、心身がスッキリして気分が明るくなった時に、前向きな気持ちでモデルルーム見学してもらい、購買意欲を掻き立てます。
事例紹介~ヨガの無料体験レッスンを行って~
以下は、ヨガの無料体験レッスンを開催するにあたっての、具体的な手順をまとめました。
ヨガの体験レッスンの手順
手順①:会場準備
ヨガは、ヨガマットさえあればどこでも行うことができますので、特別な会場準備は必要ありません。今回は、販売中物件の空き部屋を使って、ヨガマットが敷けるスペースを確保しました。
実際にヨガマットを敷いてみることで、何人まで参加することができるか、具体的な人数が割り出せます。
手順②:ヨガ講師の手配
会場準備が整ったら、その場で体験レッスンを行ってくれるヨガ講師を探します。
今回は、モデルルームまでの出張レッスンが可能で、尚且つ、イベント慣れしている方を探しました。また、30歳の子育て中の主婦が気軽に参加できるようにするために、話しやすい同性で同年代のヨガ講師に決めました。
手順③:イベントの企画・立案
ヨガ講師と一緒に、イベントの企画・立案を行います。
今回は、子育て中の主婦が子どもを預けて外出のしやすい休日の日中に、1時間程度の体験レッスンを無料で企画しました。
手順④:イベントの告知
イベントの内容が決まったら、告知を行います。
今回は、会場の都合上、参加人数に制限がありましたので、大体的な告知はせず、自社サイトと管理しているFacebookページで告知を行いました。
手順⑤:イベントの開催
集まったお客様を対象に、ヨガの体験レッスンを行います。
モデルルームを使っているとは言え、いきなり営業したりはしません。
「安心感」や「居心地の良さ」を体験してもらうためにも、まずはヨガそのものを楽しんでもらうように心掛けました。
手順⑥:休憩後、モデルルームの案内
体験レッスン終了後、休憩を取った後に、モデルルームの案内を行います。
レッスンを終わった後は心身がスッキリして気分が明るくなっていますので、前向きな気持ちでモデルルームを見学してもらうことができました。
手順⑦:アンケートのお願い
見学終了後は、アンケートを行い、無料体験レッスンとモデルルームの感想を集約します。
その場で、販売についての具体的な話が聞き出せなかったとしても、販売に結びつく何かしらのヒントを得ることができることもあります。
実際の効果
体験レッスンを2回開催した段階で、お申込みをいただくことができました。
ご契約者様は、1回目の体験レッスンの参加者ではありませんでしたが、体験レッスンで賑わっていたモデルルームを見て、2回目の体験レッスンに参加した後に、ご契約という流れになりました。
ご契約者様は地域で住み替えを検討していたとのことですが、「いい物件があったらいいな」と考えていた程度で、積極的に物件を探すことはしていなかったそうです。また、「通常の見学会のようなモデルルームは押し売りされそうなイメージがあり、気軽には入れなかったから、ヨガの無料体験レッスンがあって良かった」というご意見もいただきました。
まとめ
「販売物件だから、とりあえずモデルルームをしておこう」と、やり慣れたプロモーション施策を繰り返しことは簡単です。しかし、このようなやり方では、その物件だからこその「価値」を見出すことができないのはもちろん、お客さんに刺さるような提案することもできないでしょう。
今、現場担当者に求められているのは、物件が売買されている現場で、リアルな状況を想像し、お客様に「価値」を認識させ、購買意欲に結びつけることです。
プロモーションを考える際には、これらの考え方や実例をぜひ参考にしてみてください。