上下水道やガスの引き込みで他人が所有する私道の掘削を要する場合、原則として所有者の承諾が必要になります。
でも、どうしても承諾が得られない場合、ライフラインの引き込みはできないのでしょうか。
この記事では、ライフラインの引き込みで他人が所有する私道を掘削できる条件を探るとともに、事前に調査すべきポイントを解説をします。
道路を掘削するには所有者の承諾が必須
新たな宅地に家を建てようとすれば、ライフラインである上下水道やガス配管の敷設工事は欠かせません。
ただし、前面道路が私道であれば、掘削するために所有者の承諾が必要になります。
でも、もし所有者の承諾が得られないとしたら、ライフライを引き込むことは不可能なのでしょうか。
法律的には、どのように解されているのかみていきましょう。
下水道工事は法律上止めることはできない
公共下水道の敷設に関しては、下水道法第11条で「排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することができる」と定められています。
したがって、下水道に関しては、他に通すルートが存在しないのであれば、私道所有者の承諾がなくても掘削ができるとされています。
水道・ガス管は法的根拠がない
一方、水道・ガスについては、承諾が得られない場合でも掘削は可能だとする法的根拠はありません。
ただし、過去の簡易裁判所の判例では、下水道法と民法の通行権の規定からの類推解釈により、通行権がある場合は、所有者の承諾がなくても掘削が可能としたものがあります。
また、通行権がない場合であっても、下水道法に準じて、水道・ガスの掘削は承諾なしでも可能だとする解釈が有力だとされています。
しかし、私道所有者の強力な反対があり、バリケートの設置などの物理的対抗策をとられた場合には、裁判による決着を図る他に術はありません。
いくら、法解釈上優位だとしても、決着までには、1年以上の期間を要することになるため、現実の問題として、所有者の意向を無視することはあまり現実的だとは言えません。
掘削の承諾を得られない場合の対応方法
私道の掘削に際しては、各インフラ企業体から、私道所有者が署名捺印をした「私道の通行・掘削承諾書」の提出を求められます。
全員承諾が原則ですから、承諾を得るために、所有者宅を何度も訪問したり、書簡を送ったり、電話をしたりといった努力を要することになります。
再三の依頼にもかかわらず、どうしても承諾をもらえない所有者がいた場合は、交渉経過を詳細に記した理由書を提出します。各インフラ企業体は、この理由書を基に工事の実行について判断をすることになります。
法解釈上承諾がなくても敷設はできるとの判例や法解釈があるため、承諾を得るために最善を尽くし、かつ相手の反対理由が理不尽であれば、工事を実施する可能性は高いと考えられます。
ただし、買主に対しては、こうした努力を要することを重要事項説明できちんと提示する必要があります。
承諾を得るために費用が必要なこともある
掘削の承諾書に署名捺印をしてもらう際に、私道所有者から「承諾料」を条件に出されることがあります。
一般的に私道に接している家の売却価格は、公道に面している近隣物件の70%が相場だとされていますが、いくら割安で購入できたとしても、こうした「承諾料」の支払いを余儀なくされ、しかも複数の所有者に「承諾料」を渡すことになれば、公道に接している家を購入した場合と価格的に大きな違いが生じないこともあります。
こうした物件を仲介する際には、道路掘削の承諾に際して、どのような条件が提示されるのかを押さえておかないと、売却後にトラブルになりかねません。
掘削の承諾を得ても水道で支障がでることがある
古くから建つ家の場合は、既設の配管があるので、基本的に私道を掘削する必要はありません。
しかし、水道管に関して、私道所有者の承諾が必要なケースがあるので、ポイントを押さえておきましょう。
水道管の口径変更ができないことがある
現在の水道管の標準仕様は20㎜の口径とされていますが、古くから建ち並ぶ住宅では、13㎜の口径で配管されていることがあります。
この場合、13㎜の口径で新築工事を進めることになりますが、2階に配管をしたり、水回り設備が多数あったりすると、水圧が弱くなることがあります。
このケースで、20㎜の口径を引き込むと、同一の本管から引き込んでいる近隣の水圧が弱くなり、水道局にクレームがくることもあります。
このため、どうしても20㎜の口径を引き込みたいのであれば、近隣の家に予測される事態を説明したうえで承諾を得ることを水道局から求められます。
水道管の口径は水道局で調査
水道管の情報は、水道局が管理台帳で把握していますから、窓口で閲覧を依頼します。
ただし、管理台帳には個人情報も記載されているため、原則として水道の使用者しか閲覧することができません。
このため、仲介の事前調査に際しては、売主の委任状を用意する必要があります。
まとめ
ライフラインの埋設で私道を掘削するには、所有者の承諾を得ることが原則です。
他にルートが確保できない場合は、承諾を得られなくても掘削ができるとの法解釈が有力とされていますが、私道所有者の強硬な反対を無視して工事を進めることは、非現実的と言わざるを得ません。
このため、掘削の承諾に反対の意思を示している所有者がいる場合、どのような条件が整えば、承諾してもらえるのかを事前に把握しておいた方がいいでしょう。
他人が所有する私道に接する物件を仲介する際は、私道所有者の社会性や道徳観が大きく影響してくることを常に念頭においておきましょう。