2008年をピークに人口減少に転じた日本では、超高齢化社会は賃貸経営にも大きな影響を与えています。
全国の空き家は13.6%に達し(平成30年 住宅・土地統計調査住宅数概数集計)、賃貸物件空室率は東京都においても14%を超えており、高い入居率を維持し安定経営を図るには「賃貸物件の高齢者対応」が欠かせなくなっています。
ここでは敬遠しがちな高齢者の入居促進をアパートオーナーに提案し、管理会社が対策しなければならない、高齢者特有の入居リスクに対応する考え方を紹介します。
増加するシニア需要
65歳以上の高齢者比率が約3割となる今日、賃貸事業においても高齢者をターゲットとしたマーケティングが必要と考えられます。
引用:統計局「人口推計(2018年(平成30年)10月1日現在)結果の要約」
独居高齢者は600万人ともいわれており、高齢者をとりまく住宅問題には “孤独死” という深刻な事象も含め、むずかしい課題があります。
高齢者が住宅を選択するとき、バリエーションには次のような種類があります。
・高齢者専用マンション
・一般賃貸物件
・有料老人ホーム
・軽費老人ホーム
・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
・グループホーム
・ケアハウス
・特別養護老人ホーム
・介護老人保健施設
元気で健康な方から介護が必要な方まで、高齢者の自立度により入居条件に合わない場合や、入居・維持費用が高額になるケースなど、バリエーションが多いわりに選択肢が実は非常に狭いものです。
特に年金受給額が将来減少することが予想され、リーズナブルな費用で入居できる一般賃貸物件が、高齢者の受け皿になることが期待されているといっても過言ではありません。
サービス付き高齢者向け住宅との違い
高齢者用賃貸住宅として「サービス付き高齢者向け住宅(通称:サ高住)」は、現在約25万戸の登録(令和2年5月現在 サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況」)がされていますが、登録基準を満たす必要性や必須サービスとして「安否確認サービス・生活相談サービス」が必要とされ、運営コストは一般賃貸住宅より高くなることは否めません。
平均寿命が今後も延びると予想される現在、健康で元気なお年寄りにとって、必ずしも「サ高住」のサービスが必要ではないケースも多いと考えられます。
平成29年8月の調査結果ではサ高住に関し次のような傾向がみられます。
2. 要介護3以上の高齢者が3割占める
要介護3以上の入居率の多さは、特別養護老人ホームなどへの待機者が相当数サ高住に居住していると推測され、比較的介護度の低い(要支援などまで)入居者を想定していた「サ高住」は、介護施設と在宅介護の中間施設的役割を担っていると考えられます。
サ高住は食事提供が大きな魅力ですが、食事は自炊で好みに合わせてという入居者には、過剰サービスになってしまう面もあるのです。
そこで、一般賃貸物件における高齢者入居策としては、「サ高住」で提供される介護サービスや食事提供を必要としない方を対象としたマーケティングが必要です。
高齢者対応賃貸住宅とは
「高齢者対応賃貸住宅」とは「サ高住」とは異なり、また「高齢者専用マンション」とも異なる、機能的には一般の賃貸住宅となんら変わるものではありません。
コンセプトとして次のようなことを考えます。
2. デイサービス利用者に最適な生活環境を
3. 要介護3になった場合の合意形成
4. 安心して暮らせる終の棲家を提供
賃貸経営ではこれまであまり意識されてこなかった「物件内死」を、現実のものとして積極的に受け入れる考え方の転換が必要ではないでしょうか。
誰にでも訪れる “死” を真正面から受け止め、看取りの場を提供することが住宅を提供する者の使命、と考える高尚な意識があってもいいのではと思います。
具体的な経営戦略として次のようなアイデアが浮かんできます。
2. 買い物やデイサービスなど介護施設利用を優先した立地条件
3. 宅配車両や訪問介護専用の駐車スペース
4. ホームドクターとなり得る地域クリニックとのネットワーク形成
5. 市区町村の高齢者支援担当部署との連携
一般賃貸物件とはいいながらハード面よりもソフト面において、通常のアパート経営とは異なる姿をイメージすることができます。
高齢者賃貸特有のリスク
賃貸物件オーナーや管理会社にとって、高齢者が入居することのリスクには次のようなものがあります。
・急な病気やケガ
・認知機能の衰え
特に賃貸経営・管理の立場でいちばんの悩みは「物件内での死亡」です。
下のグラフは医療機関での死亡と自宅での死亡の年次推移をみたものです。自宅には老人ホームなどの施設も含まれます。
実に約8割は病院で死亡し、2割が自宅または施設での死亡です。ここに賃貸住宅での死亡数が含まれるのはいうまでもありません。
割合は低いですが、長い期間におよぶ賃貸経営のなかで、物件内における入居者の死亡は避けてとおれません。
死亡には至らずとも突然の脳梗塞により、3日間も玄関ドア前で倒れていた方もおられました。
休み明けに勤務先の同僚が訪問し異変に気付き、救急車を手配して事なきを得たこともあります。
年齢にかかわらず独り住まいは、突然の病やケガのときの対応について、本人はもちろん管理会社としても考慮すべきことだといえるでしょう。
認知機能の低下は必ず訪れることで、入居時にはきわめて健康だった高齢者が、10年居住している間に大きく変化することもあります。
認知機能低下はこれまで普通にできていたことが、できなくなってしまい、本人もショックですが関わる人を巻きこんでしまいます。
サポートする人がいると、適正な介護サービスを受けさせることも可能ですが、人との関りが少なくなった場合はむずかしくなります。誰かが変化に気づく必要があるのです。
リスクに対応した管理手法
前述のとおり「孤独死」「急な病気やケガ」「認知機能の衰え」、これらに共通するキーワードは “変化” です。
変化の兆しをキャッチできると対応は可能です。
高齢者賃貸特有のリスクに対応するためには、賃貸管理の面でも事前に準備が必要になります。
管理面では時系列的に2つにわけることができます。
2. 死後の対応と円滑な退去処理
入居時には以下のような社会的ツールや仕組みを理解し、入居者の状況変化に対応できるようにしておくことが大切です。
さらに「終の棲家」を望む入居者との間では、エンディングに関する合意形成が必要です。
亡くなった場合の家族や親族への連絡、身寄りのない人の場合は看取りをどうするのか、亡くなったときの葬儀のありかたなど、 “物件内で死亡する” ことを前提とした合意が入居時には必要になってきます。
死後は相続人の存在により対応は変わってきます。
相続人がいる場合は葬儀なども含めすべて相続人によっておこなわれ、賃貸借契約の終了・継続も明確に処理できます。
相続人がいない、あるいは不明な場合にどのような対応ができるかが問題となるでしょう。
最低限以上のような法律にしたがった処理方法について、管理会社は知っておく必要があるのです。
まとめ
高齢者向けの賃貸経営について、現在利用可能な社会的ツールを含めて、考え方をまとめてみました。
サ高住や特養老人ホームなど、法律に根拠のある施設整備は量的にまだまだ少なく、超高齢化社会到来スピードは待ったなしの状況です。
不動産業界においても「高齢者対応」は、大きな課題となってくるはずです。
賃貸オーナーはじめ管理会社にとっても、高齢者対応賃貸経営は今後の大きな柱になることが予想されます。
空室率が高めになってきた物件において、入居促進の戦略として参考にしていただければ幸いです。