賃貸管理の標準業務として、建物・設備の維持点検・管理業務を契約範囲に含めるのが一般的です。
さらに退去に伴う原状回復のための修繕工事や、大規模なリフォーム工事が含まれているケースもあるでしょう。
その場合、管理会社が工事にどのような係わり方をするのか、いくつかのパターンがあります。
賃貸経営のうえで修繕費は経費に占める割合が大きく、収益性の向上や経営改善を検討するときの大きなテーマともいえます。
またプロパティマネジメントの面からも、リフォーム工事に対する管理会社の係わり方には望ましいスタイルがあるはずです。
賃貸管理業務とリフォーム工事の関係
リフォーム工事における管理会社の立場を考えると、3つのパターンがあります。
・請負工事業者
・リフォーム工事業者をオーナーに紹介する紹介者
・リフォーム工事を第三者的立場からチェックする監理者
それぞれの立場をもう少しかみ砕いてみましょう。
1. 請負工事業者
「請負」は民法で定められている契約の形式で、「一方が仕事の完成を約束し、一方が完成した仕事に対し報酬を支払うことを約束」することにより成立するものです。
対して賃貸管理は民法上「準委任」になり、請負と異なり委託された事務について「完成責任」はありません。
したがって管理委託契約の範囲には入らず、リフォーム工事が生じた場合には、別途請負工事契約を締結する必要があります。
2. リフォーム工事業者をオーナーに紹介する紹介者
リフォーム工事に直接かかわることはなく、オーナーに対し既知のリフォーム工事会社を紹介するパターンです。
オーナーからの『いい業者を知らないかい? 』といった問い合わせから、紹介することが多いでしょう。
工事業者を紹介するだけなので、契約上や法律上の責任はなにもありませんが、工事上のトラブルがあった場合には道義的な責任を問われることがあります。
3. リフォーム工事を第三者的立場からチェックする監理者
工事発注者であるオーナーの代わりに、工事現場において工事の状態をチェックし、オーナーにアドバイスする立場です。
オーナーと管理会社の関係により、有償の場合もあれば無償の場合もあるかもしれません。
無償の場合は管理委託契約の業務範囲に入っていると解釈できます。
「工事監理者」は一定の工事規模以上の建築工事のさい、建築士法で定められている業務独占資格の必要な業務ですが、ここでは建築士法の規定以外の工事に関して、監督する立場の者といった意味で「監理者」としています。
オーナーが求めるリフォーム工事の条件
オーナーはリフォーム工事をおこなうとき、次のような条件を求めています。
・追加工事など資金計画に変更のない契約方式
・透明性が高く工事内容が明確になっている
・工事期間に変更がなく予定通りに進行する
これらの条件を満たすために、管理会社に必要な能力はどのようなものでしょう。
前述したように「紹介者」という立場では、法的にも仕組みのうえでも管理会社に責任がなく、求められる条件を満たすことはできません。
管理会社は、請負者か監理者という立場が考えられますが、それぞれの立場で必要な能力を洗い出すと次のようになります。
請負工事者 | 監理者 | |
リーズナブルな工事費 | ・安定した協力会社体制が整っている ・コスト競争力のある部材調達 |
最新の工事単価・部材単価に関する情報 |
工事費が変更しない契約方式 | ・正確な工事積算と見積り能力 ・工事種別ごとの豊富な経験 ・完成保証 |
工事費変更に関する調整能力 |
工事内容が明確 | ・設計図面、工事指示書などが適格 ・分かりやすい見積書 |
設計図面・工事指示書などに関する監理能力 |
工事期間の遵守 | ・適格な工程管理能力 ・安定した協力会社体制 |
工程表の分析能力 |
請負工事者は自ら工事をおこなう立場であり、複数の下請負をおこなう協力会社をチーム編成し工事を進めていきます。
また完成責任があり、工事を進めるうえでの資金や施工管理ノウハウなど、一定の能力がなければいけません。
対して監理者は自ら工事をおこなわず、第三者的な立場から工事計画や見積書、各種図面や仕様書などをチェックし監督する立場です。
自社での施工能力は必要とせず、監理者としての施工技術に関する知識とチェック能力が優先されます。
管理会社はコンストラクションマネージャー
管理会社が取るべき立場としては「監理者」が望ましいと考えられます。さらに発注者と施工業者との間で中立的な位置になるのではなく、より発注者(オーナー)よりの立場から工事をコントロールすることが望ましいといえます。
その立場が「コンストラクションマネージャー」であり、その方式を「コンストラクションマネジメント」といいます。
コンストラクションマネジメントとは
コンストラクションマネジメント(CM)は1970年代のアメリカにおいて、公共工事の新しい発注方式として採用されたもので、コンストラクションマネージャーが発注者の委託を受け、発注者代理人としての立場で、公共工事の設計・施工を担う設計者や工事施工者との調整を図りながら、建設プロジェクトの運営管理を進める方式です。
日本においては2001年から日本コンストラクション・マネジメント協会が活動を開始し、2010年に一般社団法人日本コンストラクション・マネジメント協会として法人化されています。
さらに2012年には国土交通省が、「多様な契約方式活用協議会」を設置し、本格的な検討に入っています。
主に公共工事の建設プロジェクトのマネジメントを対象としていますが、考え方は小規模なリフォーム工事においても参考になる考え方です。
賃貸管理会社はオーナーがおこなうリフォーム工事にどのように係るか、すでに3つのパターンがあると説明しましたが、「監理者」の立場よりももうすこし深く係るイメージです。
具体的には予算配分や工程管理などに対し、施工者側と発注者であるオーナーの要望にもとづいた調整業務をおこなっていきます。
オーナーとの間では具体的な業務の範囲や、成果として提供できる目標数値を明確にし、責任をもった仕事をおこないます。
責任も生まれるので業務報酬を明確にし、たとえば工事費総額の数%を報酬とするなどの契約を締結して進める方式です。
コンストラクションマネジメントを勧める理由
管理会社が請負工事をおこなうには、いくつか必要な条件があります。
2. 管理物件以外の建設工事案件を安定して受注できる
3. 請負工事を継続できる運転資金が充分にある
賃貸管理は毎月定期的な収入を見込める事業ですが、建設工事は基本的に工事完了まで正式な収入のない事業です。
また建設工事部門は赤字になる可能性があり、工事が完成するまで正確な数字がつかめない事業ともいえます。
建設部門があることにより、経営が不安定になる可能性も否定できません。
建設業と賃貸管理業は一見すると賃貸物件に係る事業であり似たように見えますが、業態としてはかなり違う事業です。
請負工事から利益を出す方向よりも、マネジメント業務により収益をあげることの方が、賃貸管理業には適した事業スタイルといえるのです。
賃貸管理そのものがプロパティマネジメントとして、より質の高い成果を求められるようになっています。
リフォーム工事への係わり方も工事業者としてではなく、コンサルタント的な立場でオーナーをサポートすることが望ましいのではないでしょうか。
そしてリフォーム工事をおこなう工事会社に対しては、徹底的なコストマネジメントの視点から、業者選択をおこなう立場になるべきではと思います。
まとめ
賃貸物件のリフォーム工事に対する管理会社の係わり方について解説しました。
コンストラクションマネジメントは今後注目される建設プロジェクトの形態ですが、賃貸管理の分野でもオーナーニーズとして顕在化するのではないでしょうか。
特に大規模修繕工事においては、オーナーが施工会社と直接対応することなく、施工会社との打ち合わせや工事内容の調整を管理会社に依頼するといったことが考えられます。
プロパティマネジメントに加え資産管理の面でも、管理会社の存在価値が問われる時代になってくるといえるでしょう。