管理会社がオーナーに対し大規模修繕工事の計画を提案する際のポイント

賃貸経営で大きな支出になるのが大規模修繕工事です。

入退去時のクリーニングなど原状回復工事に支出される金額の数倍~数十倍となることもあり、事前に費用の積立てをし、工事予定を計画的に立てておく必要のあるものです。

管理会社がオーナーに対し大規模修繕工事の計画を提案する機会もあり、そのポイントについて解説します。

大規模修繕工事の必要性

アパート、マンション、戸建てにかかわらず、賃貸物件として使用する建物は、定期的なメンテナンスが必要です。

屋根、外壁、共用部廊下や階段の床や手すりなど、防水性能や安全性に係る重要なものであり、適切な時期におこなわなければ建物の耐久性を低下させる原因にもなります。

これらの定期的なメンテナンスはおおむね、10年~15年サイクルでおこなうことが望ましいのですが、ほかにも設備関係の配管類交換など、もうすこし長いスパンで交換時期がくるものもあります。

住戸内に設備されている湯沸かし器・エアコン・暖房器具などの住宅設備機器は、一斉にすべての機器を交換する必要はありませんが、個別に時期がきたら交換しなければならないものです。

大規模修繕に要する費用は建物の規模や工事の内容によって異なりますが、マンションの修繕積立金の金額からおおよそ推測することが可能です。

国土交通省が2011年に公表した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、修繕積立金の目安を算出する方法を記載していますが、専有床面積当り200円/㎡・月前後が平均値となっています。

上記修繕積立金は分譲マンションにおけるデータが元になっていますが、賃貸マンションやアパートでも参考にできるものです。

木造アパートではもうすこし割安になると考えられ、8戸~10戸程度の世帯向け木造アパートで1,000万円前後の、大規模修繕工事費用を予定しておく必要があるのです。

大規模修繕工事の内容

共用部の工事としては以下のような工事があります。

・外部塗装工事
・屋上防水工事
・バルコニー防水工事
・手すりなど金属部の塗装工事
・給水管交換工事
・排水管交換工事
・ガス管交換工事

住戸内の工事に関しては、以下のような専有部の工事になります。

・給水管交換工事
・排水管交換工事
・給湯管交換工事
・住宅設備機器交換工事

ただしアパートの配管については明確に「共用部」として区分された区画はなく、2階の住戸用の配管は1階住戸にあるのがほとんどのため、共用部の工事も専有部の工事になってしまいます。

また配管の交換時期は使用する材料や資材の種類により耐用年数が異なり、定期的な点検により劣化具合を確認する必要もあるでしょう。

外部塗装工事は工事規模として “大規模” と名の付くとおりアパート全体、マンション全体に足場をかけておこなう大がかりなものです。

2階建て木造アパートまでなら一般の塗装工事会社でも対応できますが、中高層マンションなどになるとゼネコンなどと取引のある規模の大きな塗装専門会社でなければ、工事単価の面でも対応できないことが多いでしょう。

工事の品質は耐久性に大きな影響を与えるので、業者選択は複数社から見積りを取り、慎重な判断が求められます。

修繕計画の提案

大規模修繕工事はプロパティマネジメントの面で、管理会社にとっても大きな関心事です。

工事が適正におこなわれることはもちろんですが、収益性においては大きな支出により余剰資金が減少し、または借入金が増加することにより、資金繰りがきつくなる可能性があります。

オーナーの資金計画をある程度把握したうえで提案することが求められます。

一方、大規模修繕工事は物件の資産価値を維持するばかりか、資産価値向上につながる場合もあります。

・開口部ガラスを高断熱ガラスに交換
・外壁塗装に遮熱性塗料を使用
・外壁をメンテナンスフリーの材料に張替
・制振ダンパーの設置により耐震性能向上

以上のような性能や仕様のグレードアップにより快適性やセキュリティを高め、入居率の向上や収益性の改善を図ります。大規模修繕は元の状態に戻すという考え方も大切ですが、物件の築年数や状況によりグレードアップを提案することも重要です。

大規模修繕工事の時期については、資金的に余裕のあるときが望ましいのですが、タイミングを計っていると時期が遅れてしまう危険性もあります。

オーナーに対しては時期的に3年ぐらいの弾力性をもちながら、大規模修繕工事の実施時期を提案したいものです。

出口戦略との整合性がポイント

大規模修繕工事の時期は出口戦略とも関係があります。

耐用年数をすでに超えており老朽化の著しい物件では、大規模修繕工事の必要性を検討しなければなりません。

大規模修繕工事を実施したのち、数年で構造躯体の耐用年数を迎え、建替えが必要な場合には大規模修繕工事そのものが無駄になってしまいます。

物件取得時に出口戦略を意識して大規模修繕の予定を立てておくと、このような意味のない支出を防ぐことができます。

オーナーに出口戦略がない場合や明確でなく、10年経過したので来年はそろそろ……などと、工事の希望を言い出すようなときは出口戦略について話題にするいい機会です。

投資物件は最後をどうするか決めておかなければなりません。

1. 投資物件として売却する
2. 建替える
3. 解体して土地を売却する

時期がきたら3つのケースのいずれかを選択しなければなりません。

大規模修繕によりその決断の時期を延長させることが可能であれば、工事の実施は意味があるものです。

しかし、工事後数年で最後の時期が来るのであれば、無意味な工事といえるのです。

大規模修繕が迫っている物件の売却

予定していた時期に売却をする場合、点検すると屋根や外壁に劣化が目立ち、2年以内には大規模修繕が必要な物件は売却時期を変更しなければならないこともあり得ます。

理由は簡単なことで、売れない可能性が高いのです。

買主にとっては、物件購入価格+大規模修繕工事費が取得費になります。

利回りが極端に悪くなるのは明らかで、物件価格だけで判断されることはありません。

物件価格が工事費分に見合うほど安い場合以外は、大幅な値交渉があるかまたは検討もされないでしょう。

買主の立場になって考えると、取得後数年間はあまり大きな費用負担がなく、大規模修繕工事費を積立てられる期間のあるほうが望ましいといえます。

このようにオーナーが描く出口戦略と大規模修繕工事のタイミングには、密接な関係があることを理解しておきましょう。

まとめ

入居率が悪い物件の理由を分析すると、大規模修繕の時期が過ぎており外見が悪く、入居希望者が敬遠しているというケースがあります。

オーナーが遠方で管理会社に任せきりになっており、管理会社からもまったく提案がなく放置されていた物件です。

管理会社の切り替えが多くなっており、外見が悪く空室率の高い物件は、競合他社に狙われるケースが多いといえます。大規模修繕はオーナーの物件を守ると同時に、管理会社の顧客も守ることにつながるといえそうです。

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