新型コロナ感染症対策のひとつとして、2020年は「テレワーク」が推奨されました。
導入した企業ではテレワークが定着し、働き方が大きく変わったケースもあるようです。
賃貸管理業においてはむずかしい面もあるとされながら、非接触・非対面の働き方をフォローできる環境は整ってきています。
具体的なITツールなどを紹介し、現状においてどこまでテレワークが可能かを探ってみます。
賃貸管理業務はどこまでテレワークが可能?
まずは賃貸管理の仕事をひと目でわかるようにまとめてみると、以下のようになります。
入居管理 | 物件案内・内見 | 〇 |
入居申込 | 〇 | |
契約手続き | 〇 | |
退去立会 | ||
家賃管理 | 〇 | |
クレーム対応 | ||
建物管理 | 清掃業務 | △ |
居住中の修繕 | △ | |
退去後の修繕 | △ | |
リフォーム | △ | |
運営管理 | 仲介会社対応 | 〇 |
オーナー対応 | 〇 | |
事務・書類管理 | 〇 |
このなかで非対面・非接触でおこなえる仕事はテレワーク可能ですが、どうしても相手と顔を合わせる必要のある仕事もあります。
右の列にはテレワーク可能な仕事には[〇]を、アウトソーシングが可能で打合せなど、すでにリモートで可能な仕事として[△]をつけています。
「退去立会」と「クレーム対応」は、直接相手と面会し現状確認が必要な仕事といえるでしょう。
テレワーク可能といっても契約手続きについては、書面としての契約書の作成・交付および記名・押印といった、法律上整えなければならない形式もあります。
重要事項説明はオンラインで可能になりましたが、重要事項説明書と賃貸借契約書の事前送付が必要であり、完全なオンライン契約となるまではまだ時間がかかりそうです。
以下からは現在使用可能なオンラインツールの紹介を兼ねて、具体的なテレワーク手法について見ていきたいと思います。
物件案内・内見で使えるツール
お部屋探しに欠かせない「内見」ですが、2020年はVR内見に注目が集まりました。
オンラインツールが広く普及し、アフターコロナでは常識になると考えられます。
賃貸管理会社の業務効率ばかりでなく、部屋探しをする入居希望者にとっても、直接物件に行かずとも内見が可能になるのは嬉しいサービスです。
気になる物件から最終候補を絞り込むには最適なツールといえるでしょう。
1. THETA 360.biz
株式会社リコーが提供するクラウドサービスです。リコーの360°カメラ「RICOH THETA」とスマホを連携させ、撮影した画像をスマホアプリでウェブコンテンツに編集しクラウドサーバーにアップロードします。
アップロードしたコンテンツはURLにより共有でき、自社サイトのコンテンツとして埋め込め、メールやSNS上でお部屋探しする入居希望者へダイレクトに伝えることが可能になります。
2. スペースリー
360°VRコンテンツの作成も可能なクラウドサービスです。画像データは360°カメラ(RICOH THETAなど)を使用し、クラウドアプリケーションで編集します。
ウェブへの埋め込みやURL共有はもちろんVRゴーグルでVR体験も可能、さらにVR体験をリモート接客でも実現できる機能があります。
どこでもかんたんVR「スペースリー」の3つの特徴と価格(初期費用)
入居申込で使えるツール
直接物件を訪れ内見する以外にも、物件を確認することが可能になりました。
しかし入居申込をしようとすると専用の「入居申込書」に必要事項を書き込みしなければなりません。
入居申込書のダウンロードは可能でもプリンターが必要です。
固定電話が少なくなった現代ではFAXが使えるユーザーも少なくなりました。
また入居申込書のフォーマットは仲介会社によってまちまちであり、審査業務の効率化を考えるうえで統一したものが望ましいものです。
そこでこれから主流となるのが「オンライン入居申込」と考えられます。
1. アットホームの「スマート申込」
アットホーム加盟店であれば利用できるオンラインツールが「スマート申込」です。
管理会社、仲介会社、保証会社が申込情報を共有し、ペーパーレスを実現しなおかつ電話やFAXも不要のサービスです。
申込み希望があると入居希望者へアカウントを発行し、入居希望者が自ら申込フォームから入力します。アカウントの発行は仲介会社または管理会社がおこないます。
保証会社と管理会社にて審査がおこなわれ、結果は仲介会社または入居希望者へメールで連絡、そのご契約手続きに進みます。
2. 申込受付くん
イタンジのクラウド賃貸「ITANDI BB」の業者間サイトで提供する「申込受付くん」です。
物件確認の自動応答アプリ「ぶっかくん」、内見予約を24時間受付ける「内見予約くん」、と連携するアプリです。
入居希望者が入力した申込内容の入力不備は自動チェックされ、管理会社、仲介会社、保証会社と連携し情報は共有されます。
仲介会社の担当者とはチャットで情報交換、履歴もすべて記録に残るので事務上のミスはほとんど防げます。
契約手続きで使えるツール
不動産取引で必要となる重要事項説明は、宅地建物取引士が対面により買主または借主に「宅地建物取引士証」を提示のうえおこなうことが決まっています。
非対面で説明をおこなうにことにさいして、障害となるのが取引士証の提示でした。
2017年10月から賃貸借契約に限り、重要事項説明のIT化が認められ本格的運用がされています。
使用する機器は限定されず、アプリは「ZOOM」や「Skype」などの録画機能のあるものになります。
またワイプ画面が表示でき、借主が観ている取引士の説明状況を、取引士本人が確認できることが望ましいとされています。
取引士証をカメラ経由で借主に提示し確認をしてもらい、取引士記名押印済の重要事項説明書を事前に2部郵送し、説明後借主が記名押印し1部を返送してもらうことにより完了です。
賃貸借契約書は同日に説明し記名押印をおこなうか、後日借主が内容確認のうえ記名押印することにより契約手続きを終えることが可能となります。
家賃管理で使えるツール
家賃管理のオンライン化には賃貸管理ソフトを活用しますが、テレワーク可能な管理ソフトの採用に関しては検討が必要です。
家賃管理の効率化を図るには、銀行口座のオンライン化が望ましく、管理ソフトはファームバンキングやインターネットバンキングとの連携ができることが望ましいのです。
しかしテレワークの可能なクラウド型は、銀行口座との連携に制限がある場合もあり、家賃管理をオフィスワークとするかテレワークとするかにより賃貸管理ソフト選択が変わってきます。
また後に述べるように家賃管理は「業務管理者」が担う重要な業務のひとつですが、業務管理者は事務所や営業所に常勤することが求められます。
業務管理者が確実に職務をこなせる体制を考慮する必要があるでしょう。
クラウド型ソフトでネットバンキング連動可能なタイプとしては、Bambooboy株式会社が提供する「ReDocS(リドックス)」があげられます。
導入費用は初期登録料49,800円とリーズナブル、料金プランは下記のように3種類がラインナップされています。
2. ミドルプラン:6,980円/月
3. アドバンスプラン:12,480円/月
*30日間の無料トライアル版もあります。
(2020.09現在 出典:クラウド賃貸管理ソフトReDocS 価格表・料金プラン)
テレワーク可能な建物管理業務
建物管理業務はほとんどの場合、実際の業務をアウトソーシングすることが多く、依頼先への連絡はメールや電話になります。
外部とはすでにテレワークができているわけですが、社内における業務管理者と担当スタッフのコミュニケーションは、メールやチャットツール、シーンによっては「ZOOM」や「Skype」が便利な場合もあるでしょう。
管理状況の確認や共有は賃貸管理ソフトの活用で可能となりますが、リフォーム工事についてはどうでしょう。
リフォーム工事は一括して協力会社に依頼するケースと、自社で分離発注し施工管理をおこなうケースがあります。
賃貸物件でのリフォーム工事は施主がオーナーであり、施工管理上の連絡や報告は賃貸管理委託業務の一環です。
報告ミスや管理ミスは、管理業務の解約にまで発展してしまう可能性があり、担当者任せにしてはおけない業務といえます。
施工管理担当者の負担軽減と、業務管理者のチェック機能を最大限に発揮するには、工事管理アプリの活用が考えられます。
導入実績が多いといわれる「ANDPAD」は、クラウドサービスであり現場にいる外注先スタッフのスマホからでも、情報が共有できるシステムです。
費用が高くなりがちなゼネコンやサブコン向きのシステムがあるなか、60ユーザーまでであれば月額3万6千円(2020.09現在)で使用できる「ライトプラン」もあり、ローコストで業務の効率化を図ることができるのです。
テレワーク可能な運営管理業務
家賃管理はオフィスワークでおこない、その他の運営管理業務をテレワークでおこなうという考え方もあるでしょう。
そのようなシーンで使うならクラウド型の賃貸管理ソフトがお勧めです。
1. リドックス
前述しましたが家賃管理もクラウドで可能な賃貸管理ソフトです。
賃貸管理に関わるさまざまな情報をデータベース化して一元管理し、次のような書類を簡単にアウトプットできます。
・入居者別契約条件
・契約書類
・更新者の自動リストアップ
・入金管理
・退去清算書類
・オーナー清算明細
またリドックス上で作成した契約書類は、更新契約に限りますが、Web完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」との連携により、オンライン契約が可能になります。
2. 賃貸革命クラウド版
物件管理と契約管理そして賃貸管理業務を、ひとつのソフトでおこなえる「賃貸革命10」ですが、賃貸管理業務の部分をテレワーク可能にしたのが「賃貸革命クラウド版」です。
・入退去管理
・契約更新
・請求・入金
・滞納督促
・オーナー送金
といった業務に加え、建物修繕管理に関するデータも管理できる賃貸管理ソフトです。
クラウドサービスは共有データベース型が多いのですが、賃貸革命クラウド版はデータベースが独立しており、安全性が魅力といえそうです。
3. いえらぶCLOUD
・管理物件登録
・チラシ作成と物件のサイト登録
・契約書類作成
・入出金管理
・契約更新
・修繕・点検・クレーム
・解約・退去
管理業務の流れに沿ったすべての機能がひとつのソフトで完結し、しかも不動産業務のすべてをクラウドサービスで支援する「いえらぶGROUP」が提供する賃貸管理ソフトです。
賃貸管理の法制化により変わる社内組織
賃貸管理業は2020年に制定された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」により、国土交通大臣の登録が義務づけされました。
事務所や営業所ごとに、賃貸不動産経営管理士などの資格を得た「業務管理者」を設置しなければなりません。業務管理者は賃貸管理に関する業務を統括する責任があり、賃貸管理会社における重要な立場になります。
さまざまな賃貸管理に関わる業務は、次のように経営者からの権限移譲を受けて、業務管理者が組織の要となるでしょう。
テレワークの推進がなされるなか、業務管理者はオフィスワークが前提であり、事務所あるいは店舗内においての各スタッフおよびテレワークスタッフは、業務管理者を中心としたネットワーク形成が必要になるでしょう。
賃貸管理ソフトの導入にあたっては、図のような構成が可能になるシステム導入を図る必要があるのです。
まとめ
内閣府の調査では「金融・保険・不動産業」におけるテレワーク実施状況について、テレワーク実施率が50%以上と回答した企業が約30%となっています。
出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」
また労働生産性の改善効果について約30%弱が「労働時間の減少」を認めており、テレワークの定着は進んでいくものと想像できます。
賃貸管理に関するITソリューションはどんどん進歩しており、もはやExcelを用いた管理ツールは時代遅れという状況です。
テレワークの前提ともいえる賃貸管理ソフトの導入は初期投資もわずかであり、小さな事業所においても可能なこと、業務効率化のためにもお勧めします。