入居中に賃借人が死亡するという、稀にですがあり得る出来事、病気や事故など入居者の年齢にかかわらず、予告なく突然訪れる賃貸経営上のリスクのひとつといえるでしょう。
管理会社はオーナーに代わって賃借人の保証人など、関係者に連絡し賃貸借契約の継続について、速やかな対応が必要になります。
対応にあたっては、賃貸借契約にもとづく賃借権は相続される権利であることを念頭にし、賃貸借契約の継続あるいは終了を視野に話をすすめなければなりません。
同居者の意思を確認する
賃借人が亡くなった場合に真っ先におこなうことは、同居人が継続して居住を希望するかどうかの確認です。
賃借権は相続される権利なので、法律的には相続人との協議がまず必要になるのですが、相続は簡単に手続きできないこともあります。
また賃借権の相続とは別に同居人の居住権が優先されるケースもあるので、まず同居人の意思を確認します。
ただし注意すべきことは、賃貸人や管理会社から「賃貸借契約の継続」を明確にしないことです。
まず「希望をお聞きする」というスタンスに留めることが大切です。
同居人と亡くなった賃借人との続柄には次のようなケースがあります。
2. 親子
3. 兄弟
4. 友人
5. 内縁の夫婦または親子
[4.]の友人の場合は賃借権の承継はなく、相続人もいない場合は賃借人の死亡により賃貸借契約は終了しますので、継続して居住を希望する場合は新規に賃貸借契約を締結する手続きに入ります。
そのほかのケースでは相続権との関係があるので、簡単に結論はだせないのです。
相続人の存在を確認する
居住の継続について希望をお聞きし、退去するということであれば特にむずかしいことはなく、退去の手続きに進んでかまわないです。居住を希望する場合には「相続人の確認」が必要になります。
賃貸借契約は法律上相続人に承継され、相続人が複数いる場合は賃借人死亡の時点で共同相続されます。
賃貸借契約は借地借家法に則り承継手続きをする必要があることから、相続人の存在確認がまず優先します。
賃借権を相続する人には賃借人としての債務も承継されるので、相続する人を特定することは賃貸管理上も大切なことです。
・居住に関する注意義務や報告事項
などこれまでの賃借人同様に、債務をしっかりと履行してもらわなければなりません。
賃借権を承継する人が特定できずに、同居人がそのまま居住をつづけることは、法律上も管理上も中途半端な状態であり避けるべきです。
同居人が相続する場合
同居人が配偶者や親子など相続順位が上位の方で継続居住を望む場合は、賃貸借契約は継続することがほとんどでしょう。
その場合、連帯保証人も継続することになりますが、念のために意思確認は改めておこなうことが望ましいでしょう。
賃貸借契約の承継は連帯保証人もそのまま承継しますので、賃借人の変更により連帯保証人が以後の連帯債務を拒否することはできません。
かといって確認をせずにいると将来のトラブルになる可能性もあります。
連帯保証人については、同居人が内縁の夫婦または親子の場合は注意が必要になってきます。
内縁の夫婦または親子が賃借権を相続できるのは「他に相続人がいない」場合だけに限定されます。
他に相続人が存在せず内縁関係の同居人が相続した場合、連帯保証人との関係が希薄であることが想定されます。
法律上賃借権が承継され連帯債務も承継されるとしても、現実的には連帯保証人が新たな賃借人となる「内縁関係のあった人」との間では、なんの人間関係もなく連帯債務の履行に合理性がないともいえる状態です。
新たな連帯保証人を立ててもらい賃貸契約のまき直しをするなど、考慮する必要がでてくると考えられます。
同居人以外が相続する場合
同居人以外の人が相続し賃貸借契約を承継し、同居人は転貸人の立場または賃貸人の承諾のもと居住を継続するケースです。
居住するのが旧賃借人との内縁関係だった人になるケースもあります。
新たな賃借人と居住を継続する人との間で、良好な人間関係のあることが望ましいのですが、そのような関係にない場合、相続人が契約解除を申入れしてくることが考えられます。
同居していて居住を継続する人が内縁関係のあった人の場合、相続人が契約解除を申し入れても、居住者に立ち退きを要求することはできません。
この場合は、改めて居住を希望する人との間で、賃貸借契約の締結が必要です。
ただし新たな賃貸借契約締結までの間に、相続人が賃料不払いなどの債務不履行があっても、そのことを理由に居住者に立ち退きを要求できるかどうかはむずかしいといえるでしょう。
そのためにも旧賃借人が亡くなった時点で、同居人とのコミュニケーションをしっかり図り、良好な人間関係を築いておくことは大切です。
管理会社としては早めの対応が必要なことでしょう。
相続人がいない場合
旧賃借人に相続人がいない場合は、同居する人が内縁関係のある人以外は賃貸借契約が終了します。
同居人にとっての選択肢は次の2つです。
2. 退去する方向で準備をすすめる
相続人がいなければ賃貸借契約そのものが消滅するので、同居人が居住をつづける法的な根拠がなくなります。
管理会社としては同居人を新規の入居希望者と捉え、入居審査をすすめていくことになるでしょう。
通常通りの属性審査や保証会社の審査もおこなうことになります。
審査の結果、希望に添えない場合もあるでしょう。
法律上は賃貸借契約の関係はなく、借地者借家法上居住者の居住権を主張できる要素もないので、理解をしてもらい退去してもらうことになります。
居住者が納得せず居住をつづけた場合は「不法占拠」となる可能性もありますが、まず賃料の支払いがおこなわれるかどうか様子を見ざるを得ないと考えられます。
賃貸借契約の締結がない場合でも賃料の支払いが継続していると、信頼関係が破壊されているとまではいえなく、民事訴訟になったとしても退去はむずかしいかもしれません。
冒頭の『同居者の意思を確認する』では「賃貸人や管理会社から賃貸借契約の継続を明確にせず、希望を聞くスタンスに留める」と説明しましたが、状況により退去を請求することになるケースもあり得るからです。
まとめ
賃借人が死亡した場合には、管理会社が連絡を取り協議をする必要がある関係者として以下のような人たちがいます。
・相続人
・同居人
・賃貸保証会社担当者
・保険会社担当者
とくに重要なのは相続人と同居人であり、同居人と賃借人との続柄により、その後の賃貸借契約の方向性が変わってきます。
相続人が不明な場合は保証人が重要な存在になることもあり、服喪中であっても速やかな対応をお願いしなければならないケースもあります。
本文に記載した数種類のパターンによっては、むずかしい対応を迫られることもありますが、参考にしていただければ幸いです。