賃借人が破産したとき賃貸借契約の扱いはどうなる?

賃借人が破産した場合、入居中の賃貸借契約はどのようになるのか?

オーナーにとっても管理会社にとってもたいへん心配なことです。

ただし入居者が破産した事実を知ることはむずかしいことで、知らぬ間にそのようなことになっているケースもありますが、ここでは破産の事実を知った場合の管理会社の対応方法について解説します。

住宅用の賃貸借契約は解除できない

賃借人が破産した場合、住宅用の賃貸借契約を賃貸人が破産を理由に契約解除することはできません。

仮に契約書の特約に「破産したときには契約解除できる」などの文言が記載されていてもできないのです。

借地借家法第28条には「正当の事由があると認められる場合でなければ、建物の賃貸借の解約の申入れはできない。」と定めており、破産による解約の申入れは認めていません。

オーナーや管理会社として心配なことは、家賃が今後も支払われるのかということです。

家賃の滞納がつづいた場合は、破産の事実にかかわりなく家賃の滞納による契約解除は可能になります。

一般的には3ヵ月以上の滞納がつづくと、民事訴訟になったとしても契約解除の妥当性が判断されるケースが多いと考えられます。

また逆に、賃借人が破産宣告を受けると借金などの債務がなくなり、家計が楽になるケースもあります。

つまり家賃の滞納リスクは少なくなる場合もあるので、あまり心配する必要はないように思います。

住宅用以外の賃貸借契約は催告できる

事務所や店舗など非住宅用途の賃貸借契約についても、賃貸人からの契約解除には制限があります。

家賃が引きつづき支払われる状態であれば、契約解除の要件とはなりません。

事務所や店舗などの場合は事業用に使用していたもので、一般的には「破産管財人」が選任されて破産処理がおこなわれます。

破産により事業は中断するので賃借している物件を借り続ける理由はなくなります。

しかし賃借人には別の事業をおこなう可能性もあり、賃借人からの申し出により賃貸借契約が終了するとは限りません。

賃貸借契約については、継続するか終了させるかの判断は「破産管財人」がおこなうことになります。

賃貸借契約の継続については、賃貸人から破産管財人に対し「催告」し確認することが可能です。

この場合、破産管財人から賃貸借契約の継続について、催告期間内に回答がないときは契約が解除されたとみなすことができます。

破産した場合の家賃はどうなるのか

賃借人の破産により家賃がどのようになるのかケース別にみていきましょう。

1. 契約が継続し家賃はひきつづき入金される

家賃が引きつづき支払いされ破産前にも滞納がない場合は、とくに問題なく賃貸借契約は継続され、破産前となんら変わることはありません。

ただし破産手続き中に契約解除の申し出があった場合、契約書にもとづいて契約解除の手続きをおこないます。

この場合、破産後の未払い賃料や建物引渡しまでの賃料相当の損害金、および原状回復費用が発生する場合があります。

これについては後段の『破産手続き開始後の退去』で解説します。

2. 破産前から家賃の滞納がある

破産宣告を受ける前から家賃の滞納がある場合は、賃貸借契約は解除する方向で話がすすむと思われますが、滞納家賃は「破産債権」であり破産手続きの中で配当されます。

破産による配当は優先される債権が他にあるケースや、配当の元になる「破産財団」の額によって滞納分すべての回収が見込めない場合もありますし、配当がない場合もあります。

3. 破産手続き開始後に家賃を滞納するようになった

破産手続き開始後に滞納が発生した場合は、債権の種類として「財団債権」になるので優先的に支払いを受けることができます。
この場合には、破産管財人に賃貸借契約継続について催告をおこない、契約継続に意思確認を行う必要がでてきます。

また破産者に財産が少なく同時廃止になるケースでは、復権も早く破産手続き開始後すぐに破産者でなくなっている場合があります。

この場合は通常通りの滞納者に対する対応をしなければなりません。

破産手続き開始後の退去

破産手続き開始手続き中に賃貸借契約が解除され、退去することになった場合の注意すべき点についてここでは解説します。

破産前に滞納があった未納家賃は「破産債権」のため、破産手続きにしたがい配当があれば回収の見込みがありますが、わずかな金額になるかまったく配当のない可能性もあります。

破産手続き開始後に発生した滞納家賃は前述の通り、優先的に支払いされる可能性がありますが、問題となるのは「原状回復費用」です。

契約解除および退去が破産前に決まっていたことであれば、原状回復費用は「破産債権」であり、破産前の滞納家賃と同様破産財団からの配当を待つことになります。

ところが破産手続きが開始されてから、破産管財人の判断で契約解除が決まった場合、原状回復費用は「財団債権」であり、破産債権に優先して弁済を受けられるとされています。

参考:公益社団法人全日本不動産協会「賃貸借契約期間中の賃借人の破産」

この根拠は東京地方裁判所民事第20部(破産再生部)の運用にもとづいているようです。

しかし大阪地方裁判所第6民事部では、破産債権であり優先される債権ではないとされているようです。

参考:筑波大学法科大学院「賃借人破産における原状回復請求権の法的性質」

このため破産管財人によっては破産債権と扱うケースが予想され、原状回復費用が回収できない可能性があります。

預かっている敷金では未納家賃や原状回復費用に満たない場合、賃借人からの回収はむずかしく、連帯保証人との交渉により回収することを、考えなければならないといえるでしょう。

なお連帯保証人には破産手続きとは別に、未払い賃料の支払い請求ができることは言うまでもありません。

まとめ

賃貸借契約に限らず、双務契約における「倒産手続きによる契約条項」は無効とされることが多く、法人の経営破たんや個人の破産および個人再生を原因とした、賃貸人からの賃貸借契約解除はできません。

破産手続き開始時点で家賃の滞納があるかについては、ケースバイケースといえます。

事業用の賃貸借であれば、賃貸契約解除の可能性が高く賃料が未払いとなることが多いといえます。

住宅用賃貸借では「偏頗弁済」に該当する可能性はありますが、賃借人が家賃を支払いつづけることも多くなります。

賃借人の破産手続き開始を知ったとしても、オーナーそして管理会社は、慌てず成り行きを見守ることが大切です。

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