小規模管理業者が生き延びるオーナー密着の経営戦略

デジタル化が推進され賃貸管理業においても、積極的なIT導入がおこなわれるようになってきました。

IT投資は以前よりは費用負担が少なくなったとはいえ、小規模な事業者にとっては大きなものです。

全国の賃貸管理を営む事業者は約1万5千社におよび、その多くが規模の小さな会社で占められています。

管理戸数3千戸を超える大規模事業者はほんのわずかですが、どの業界にもいえるように、大きな企業が小さい企業を飲み込み寡占化していくのか実状です。

そのような状況のなか、小規模事業者が賃貸管理業界で生き延びていくためには、オーナーに密着した経営戦略こそ重要であると考えています。

ここではその一端をご紹介します。

管理戸数300戸以下が7割超

賃貸管理をおこなう管理会社の規模別分布調査によると、次のような結果が公表されています。

管理戸数 業者数 割合()
120 4,529 30.5
2150 2,363 15.9
51100 2,013 13.5
101300 2,433 16.4
301500 943 6.3
5011000 1,029 6.9
10013000 1,003 6.8
3001戸~ 546 3.7
合   計 14,859 100

*母数14,859社は「賃貸不動産経営管理士協議会」調査(平成27年6月時点)による、全管理業者数です。

分布割合をグラフにすると、いっそうわかりやすくなります。

賃貸管理,小規模,戦略

出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者登録制度の現状」

管理戸数が300戸までのわりと小規模な管理会社総数は、約11,300社であり76.3%を占めています。

そのような会社の収益に着目してみましょう。

管理委託費:家賃の5%
平均家賃:10万円
管理戸数:300戸

この条件で計算すると月間150万円、年間収益は1,800万円の事業規模となります。

この結果から、社長、事務員、管理担当者の3名体制の小規模な会社を想定できます。

この程度の規模の会社が、どのような経営戦略を立てたらよいのかについて考えていきます。

大家業から賃貸ビジネスとしての意識変革

まず賃貸管理会社が置かれている、経済環境について概観してみます。

空き家率が増加しているなか新築賃貸物件は増加し、賃貸業界はますます厳しい経営環境になっていくことが予想されます。

物件オーナーには「大家業」から「賃貸事業家」への変換が必要とされており、従来からあるイメージの “不労所得、左うちわ” などの概念はもはや通用しない時代になっていると言わざるを得ません。

オーナーは事業家としての立ち位置から自らの役割を認識し、管理会社はオーナーのビジネスパートナーとしての立ち位置で役割を果たす、よくいわれる “ウィンウィン” の関係を作りあげる必要があるのではと思います。

地方都市で長く大家さんをされている方や、所有する土地の有効活用を目的としたオーナーには、比較的安定した経営を最優先する考え方が多いようです。

収益性の落ちてきた物件を売却し、より条件のよい物件を購入する「物件入替」という考え方に否定的であるとか、将来的なニーズの変化に対応したリフォーム対策に理解をいただけないなどのこともあります。

現状をあまり変化させず状況に応じて、対処療法的な考え方を優先させます。

空室が増えてくると慌てて空室対策だけを求めてくる、といったケースなどがあてはまると言えるでしょう。

オーナーには「賃貸事業家」としての意識改革をすすめると同時に、賃貸管理会社はそのパートナーに相応しい提案力を身につけたいものです。

受け身の姿勢から共に考える姿勢

オーナーからの依頼により成り立っている賃貸管理委託契約は、賃貸管理会社を「受け身の姿勢」にさせる傾向があります。

オーナーと管理会社が協働して達成すべき目標を設定すると、受け身の姿勢からオーナーに対し積極的な提案をする姿勢に変わります。

1. 地域ナンバーワンの住みやすい環境をつくる
2. 退去から新規入居までの空室期間を最短にする
3. 入居者・退去者からの “お友だち” 紹介率をあげる

などのような目標をオーナーと共有し、達成できるような工夫やアイデアを出し合い、ともに頑張っていくといった経営マインドの転換です。

前述したように賃貸経営はもはや “不労所得” と言えるものではなくなっています。

たくさんの競合物件のなかから選ばれる物件づくりが必要であり、周辺・地域の生活環境も含めたエリアマネジメントの視点がなければ、マーケットから退場を余儀なくされると言っても過言ではありません。

家賃相場を根拠にした家賃設定

賃貸経営を左右する要素としてもっとも大きなものは「家賃設定」です。

家賃設定は空室リスクとも関係があり、空室リスクはオーナーにはもちろん、管理会社にとっても大きなリスクになります。なぜなら空室の増加は、管理業務が他社に移管される最大の理由と考えられます。

空室が増加しているのになんの対策も打てない管理会社は、他の会社に狙われていることが多く、密かにオーナーに接触し管理移管を提案している可能性があります。

さらに空室増加には、次の要因が影響しているとも考えられるのです。

1. そもそも需要に対して供給が多い
2. 古い、汚い、狭いなど物件がニーズに合っていない
3. 近隣相場家賃と比較し高い家賃設定

このなかで抜本的な解決策を考えなければむずかしい要因もありますが、比較的簡単に検証できるものもあります。

それは「近隣相場家賃」の検証です。

管理会社の立場で考えると、印象として安い、高いといった感覚はもっていても、データ化して客観的に相場家賃との比較をする機会は意外と少ないものです。

空室になり新規募集するさいに「なんとなく」下げたりしてはいないでしょうか。

比較検証データを根拠として客観的な家賃設定をしてみると、値下げ幅が大きくなることもあれば、少なく済む場合もあります。

データを集めて比較をするといった作業は、地味なもので退屈に思われがちですが、地味な作業ほど新たな発見があるものでバカにはできません。

生活利便施設などの新規事業

コインランドリー、自動販売機、貸駐輪場、などなど賃貸住宅以外にも遊休地や遊休スペースを活用したビジネスが考えられます。

賃貸経営は売上の上限が決まっているビジネス、100%満室になった時点で収入は頭打ちになり、あとは退去を待つだけの消極的なものです。

100%を超える収入を生み出す方法を模索し、オーナーとともに新規事業を開発する姿勢が大切でしょう。

こうした賃貸住宅以外の収入アップに関わる管理会社のフィーは、ビジネスマネジメントフィーと位置づけ、場合によっては無償でのサービスからはじめることもあり得ます。

オーナーとともにビジネスを成長させ、軌道に乗ったところで報酬を得ながらさらに拡大させる役割を担うのも戦略です。

事例として全国賃貸住宅新聞に掲載された記事から成功事例を紹介します。

1. 学生が多い地域の物件を管理している管理会社では、大学までの無料送迎バスを運行して入居率をアップさせ、駐車場ではオーナーが栽培する野菜の直売市を開催し売上につなげている

2. 学生やひとり暮らしの多い地域では、マンションの1階に入居者限定の食堂を開設し、飲食業としての売上確保と入居者の生活サポートをおこなっている

出典:全国賃貸住宅新聞「管理会社が「地域密着」テーマに成功事例を紹介」

このような事例は、従来の賃貸管理の認識からは生まれてこない発想であり、今後の賃貸経営・賃貸管理の可能性や方向性を感じさせるものといえるでしょう。

まとめ

オーナーと賃貸管理会社の役割は異なっています。オーナーは土地や建物といった資本を使い運用を図ります。

管理会社は、不動産運用の最適化を図りながら、さらなる成長の可能性を見いだすデベロップメントの視点が必要です。

小規模な管理会社は地域密着での事業スタイルですが、地域密着だからこそ他社には真似のできない経営戦略も可能になります。

地域密着はすなわちオーナーに密着した経営戦略ともいえるのです。

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