管理会社がオーナーに提案するサブリース事業

2020年12月15日施行の「サブリース新法」により、サブリース方式により事業をおこなう賃貸管理会社への規制と、サブリース方式に則って所有する賃貸住宅の安定経営を考えるオーナーの保護が実施されます。

この新法により『サブリースは危険』との認識が軽減され、サブリースは賃貸経営の有力な手法として、普及する可能性があります。

小規模の管理会社であってもサブリース事業への参入チャンスともいえ、新法の規制内容とサブリース方式をオーナーに提案する方法について解説します。

サブリース事業の適正化

サブリース新法はサブリース事業をおこなう賃貸管理会社に対し、次のような規制をおこなうよう定めています。

1. マスターリース契約の締結にあたっては、事実を話さず不実を告げることにより、賃貸住宅所有者の判断に影響を与えてはならない
2. その他、賃貸住宅所有者の保護に欠ける行為をしてはならない
3. マスターリース契約では事前に法令に定めた内容や事項に関し、書面の交付をしたうえで説明しなければならない

つまりマスターリース契約に関しては、契約書にて明確にすべきことと、重要事項に関する書面による説明を義務化したわけです。

新法の制定によりサブリース方式により経営をはじめたオーナーが、数年後にサブリース業者から保証賃料の値下げ要求があっとしても、トラブルとなることなく事業が継続できる可能性が高くなります。

なぜならサブリース業者は契約をさせるために、サブリースのメリットを過剰に強調することはできず、オーナーは正確な情報にもとづき契約締結の判断ができるからです。

サブリースはウィンウィン

オーナーとサブリース事業者がウィンウィンの関係になることが鉄則です。

サブリース事業者だけがおいしい思いをしていたこれまでですが、今後は両者が安定した賃貸経営をおこなえる条件が必要です。

そのような条件が成立する賃貸物件は、ある程度限定されると考えられます。

1. マスターリース契約における保証家賃は家賃下落を前提に設定
2. 10年後、20年後、30年後の下落した家賃設定であっても賃貸経営上のリスクが取れる
3. 適正な大規模修繕計画にもとづいた長期の経営計画において目標利益が得られる

長期シミュレーションの結果、上記のような事業計画が成立する場合以外は、事業の見送りが望ましいといえるでしょう。

一般的なサブリース事業での保証料は10%~20%といわれており、具体的な家賃収入に落とし込んでみると以下のようになります。(委託管料は家賃の5%で計算)

満室時家賃 入居率 家賃収入 委託管理料 実質家賃収入
100万円 0.95 95万円 4.75万円 90.25万円
100万円 0.90 90万円 4.50万円 85.50万円
100万円 0.85 85万円 4.25万円 80.75万円

つまり入居率が95%~85%の範囲が、オーナーが受取る保証家賃の範囲になります。

仮にマスターリース契約を入居率が85%に相当する保証家賃で契約した場合、サブリース業者は85%超える入居率で推移できると、超過分が通常の管理委託契約よりも高いインセンティブとなるわけです。

逆に入居率95%相当でマスターリース契約をすると、インセンティブの幅は非常に小さくなり、入居率が悪化するとサブリース業者の経営状態に影響が出ます。

入居率95%~85%の範囲のなかで、どのラインを家賃保証額とするか、落としどころを探るのがサブリース事業の重要な部分になるのです。

入居率と保証家賃の関係

保証家賃の設定と入居率には密接な関係があります。

10戸のアパートで1年ごとに入退去があり、退去から入居まで3ヵ月のインターバルがあるとし、入退去戸数の増減により入居率はどのようになるでしょう。

さらに条件を厳しくして、1戸は常時空室と仮定したものが下の表です。

年間退去戸数 満室入居月戸数 空室月戸数 実質入居月戸数 入居率
1 120 15 105 87.5%
2 120 18 102 85.0%
3 120 21 99 82.5%
4 120 24 96 80.0%
5 120 27 93 77.5%

入退去が1戸であれば87.5%となりますが、2戸になると85%に下がります。

3戸まで増えると危険なラインになるといえるでしょう。

上のシミュレーションは1棟10戸で計算したものですが、1棟あたりの戸数が減っていくともっと厳しい結果となり、入居率を85%に保つことは簡単ではないことが想像できます。

オーナーにとって安定した家賃収入は大きなメリットです。

・変動が多いが100%近い家賃収入を期待できる賃貸経営
・80%~90%の家賃収入だが安定した経営が可能

どちらを選ぶかはオーナーの考え方です。

管理会社に依存することなく空室対策も自らいろいろ工夫するオーナーなら、前者のパターンを選択することが多いと考えられますが、安定を望むなら後者のサブリース方式を選択することが望ましいと言えるのです。

サブリース事業計画の考え方

賃貸経営の事業シミュレーションは、設定条件によりまったく違う結果がでてきます。

これまでのサブリース事業ではオーナーに投資を決断させるための、プレゼン資料として事業計画書が提出され、甘い見通しとなっている部分を隠して契約させられていたということが想像できます。

できるだけ正確なデータにもとづくシミュレーションにより、契約締結を優先させた人間の意思が反映されることのない、客観的な事業シミュレーションが必要とされています。

たとえば次のような厳しめのシミュレーションをすることが大切です。

・設定入居率をできるだけ低くする
・10年後、20年後、30年後の家賃値下げを設定しオーナーサイドの事業計画を立案

設定入居率の考え方

オーナーに対する家賃保証が満室時家賃の90%と設定することは、入居率が95%に相当することになります。

サブリース大手企業の多くは建設工事の受注もおこなっており、建設工事での利益が大きく、家賃保証額を90%と高く設定することが可能です。

対して一般の賃貸管理会社がおこなうサブリース事業では、建設工事による利益はなく満室時家賃の90%設定では、きわめてリスクの高い事業運営になってしまいます。

満室時家賃の80%入居率85%の設定が限界であり、オーナーサイドの事業計画が成立つのであれば79%や78%と、できるだけ低く設定できることが望ましいといえます。

入居率の低めの設定は将来の家賃値下げ圧力を緩和でき、結果的にオーナーの経営安定性につながります。

オーナーサイドの事業計画

サブリース事業はマスターリース契約と、サブリース契約の2本立ての賃貸借契約により成立する事業です。

オーナーはマスターリース契約にもとづく家賃保証額により、自身の事業計画を策定します。

サブリース事業者はマスターリース事業の家賃保証額と、サブリース賃借人からの家賃収入との差益にもとづき事業計画を組立てます。

それぞれが事業計画の実現性やリスクを判断し、最終的な計画としてまとめるのですが、オーナーサイドの事業計画にはどうしても甘さが生じてしまいます。

・保証家賃の値下げ
・修繕費の増大
・不正確な運営費設定

保証家賃の値下げと大規模修繕の予定を組込んだシミュレーションにより、将来にわたる長期計画を検討することが必要です。

さらに賃貸経営上必要となる運営費は、地域や住戸タイプにより異なることが知られています。

その違いは1%~3%と幅があり長期計画においては、たとえ1%であっても大きな違いがでてきます。

参考:IREM JAPAN「2020年 第8回全国賃貸住宅実態調査」

サブリース事業をおこなう管理会社は、オーナーサイドの事業計画の立案にも積極的に関わり、ウィンウィンの関係を形成する真のビジネスパートナーなるよう努めるべきではないでしょうか。

まとめ

賃貸事業の計画書は条件の設定により大きく結果が異なります。

できるだけ現実に即した正確な条件設定が重要といえるでしょう。

最近はさまざまな分野でAI活用が試されており、不動産投資の分野でもAIによるリソースが提供されるようになりました。

たとえばリーウェイズ株式会社が提供する「Gate,Investment Planner」は、2億件超の不動産ビッグデータをもとに、AIが分析処理した結果がアウトプットされます。

人間が意図的に作成したシミュレーションにもとづかない、より現実性の高い予測にもとづくサブリース事業であれば、オーナーもサブリース事業者もリスクをできるだけ低くした事業展開が可能になると考えられます。

管理会社がオーナーに提案するサブリース事業では、このような最新のツールも活用してはいかがでしょう。

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