住宅セーフティネット制度は認知度のわりに、あまり活用されている状況にはありません。
登録手続きが面倒などの理由がありそうですが、制度活用のメリットがあまり理解されていないのではとも考えられます。
ここでは改めて住宅セーフティネット制度の概要とその活用方法について、今後の賃貸事業を俯瞰したうえで考え方をお伝えします。
新たな住宅セーフティネット制度とはなにか?
「新たな住宅セーフティネット制度」とは、平成29年から施行された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」 の改正にもとづき整備された制度です。
2. 登録住宅の改修・入居への経済的支援
3. 住宅確保要配慮者のマッチング・入居支援
上記のごとく賃貸住宅の登録制度を中心として、賃貸人にはニーズにマッチする改修に対して経済的支援をおこない、入居希望者に対しては物件選択やマッチングと経済的支援をおこなうことにより、住宅確保要配慮者が円滑に住宅を確保できるようにする制度です。
「住宅確保要配慮者」とは次に該当する人たちをいいます。
2. 災害による被災者
3. 高齢者
4. 障害者
5. 子供を養育している人
6. その他国土交通省が定める人
セーフティネット住宅として自治体が運営する制度に登録をすると、住宅の改修費に対して補助や融資が受けられ、家賃の補助や家賃保証会社へ支払う保証料の補助が受けられます。
さらに不動産関係団体と居住支援法人・社会福祉法人などの居住支援団体、および地方公共団体により構成する「居住支援協議会」による、マッチングや入居支援サービスを受けることができます。
住宅確保要配慮者を取り巻く現況
「新たな住宅セーフティネット制度」は “新たな” と付くように、平成19年に制定された「住宅セーフティネット法」により作られた制度を平成29年に改めたものです。
旧法では国や地方公共団体が進める施策が中心でした。
しかしその後「住宅確保要配慮者」の増加と、公的賃貸住宅の老朽化や減少により、民間賃貸住宅の活用を積極的に進める必要がでてきたのでした。
平成28年度末での公営住宅の管理戸数は約216万戸です。
このうち築30年以上となる住宅は約134万戸で62%を占めます。
公営住宅は低廉な家賃設定と柔軟な入居条件により応募者が殺到し、東京都では応募倍率が20倍を超える物件もあるといいます。
一方、住宅確保要配慮者の増加については、たとえば高齢者の状況をみると、平成27年時点の高齢単身世帯は約625万世帯ですが、令和7年には約751万世帯と見込まれています。
平成25年の総務省の調査によると、高齢単身世帯の34%が借家に居住しており、高齢単身者世帯の借家需要は250万戸を超える状況になります。
「住宅確保要配慮者」は高齢者ばかりでなく、以下のような人たちが低廉な家賃負担で居住できる住宅を求めています。
・障害者約90万世帯
・外国人約37万世帯
・生活保護世帯約75万世帯
(*いずれも平成28年のデータ)
概算ですが約500万戸を超える要配慮者向けの住宅が必要とされ、以下のように公的賃貸住宅では対応できないことが明らかとなっていました。
・改良住宅:約14.5万戸
・UR賃貸住宅:約74万戸
・公社賃貸住宅:約13.2万戸
・地域優良賃貸住宅:約13.6万戸
合計すると公的賃貸住宅は約330万戸余りであり、170万戸を民間賃貸住宅で補わなければならない状況となっていたのです。
出典:参議院常任委員会調査室・特別調査室「住宅セーフティネットの現状と課題」
民間賃貸住宅に求められる役割
公的賃貸住宅の築年数分布について平成27年3月末時点における調査結果が公表されています。
引用:国土交通省「新たな住宅セーフティネット検討小委員会 参考資料」
2025年には築30年超となる住宅は7割を超えることが予想され、使用可能な住宅は減少していくことは目に見えています。
しかし、建て替えなどによる公的住宅の供給は財政上むずかしい面があるといえるでしょう。
そこで国は「PPP/PFI」などの民間との連携による事業を進めており、今後の住宅政策は民間資金の活用を模索するとともに、民間賃貸住宅に依存せざるを得ない状況にもなっています。
住宅セーフティネット制度はこのように、公的住宅がカバーしなければならない「住宅確保要配慮者」への支援を、民間賃貸住宅の活用により補おうとする位置づけになっているのです。
住宅セーフティネット制度の活用法
住宅セーフティネット制度は賃貸住宅を借りたくても、簡単には借りることのできない人たちを対象にした民間賃貸住宅の支援制度です。
受けられる支援内容は次のようになります。
2. 入居を容易にするため家賃を減額した場合の差額に対する補助金
3. 家賃債務保証会社の保証を受けるために支払う保証料の補助金
この制度により公的賃貸住宅では不足する低廉家賃の住宅を、民間ストックを活用して補うわけですが、支援を受けるためには「住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅」として登録をします。
登録した住宅は「セーフティネット住宅情報提供システム」に掲載され、情報提供がされるようになります。
同システムには2021年2月現在、物件登録数が38,212件、総戸数は286,277戸となっています。
今後の民間賃貸住宅は築年数の比較的新しい物件と、築年数が古くなってきた物件とで、賃貸事業スキームを変える考え方が必要でしょう。
築年数の新しい物件はこれまで同様の顧客層を対象とし、築年数の古い物件は「住宅確保要配慮者」に焦点をあて、バリアフリーなどの改修補助金や入居支援補助金を前提とした事業スキームとします。
住宅セーフティネット制度は単に「空室対策」の手法として捉えるのでなく、賃貸市場の構造転換を図る制度として活用できるのではないかと思います。
まとめ
住宅確保要配慮者とは次のように定義されています。
2. 災害による被災者
3. 高齢者
4. 障害者
5. 子供を養育している人
6. その他国土交通省が定める人
賃貸管理会社としては、入居申込みに対し消極的な姿勢になりがちなケースといえるでしょう。
しかしこのような状況の人が増加すると予想され、入居に対し積極的な対応を図らないと、自らマーケットを縮小させてしまう懸念があります。
住宅セーフティネット制度は低廉な家賃設定でも賃貸事業が成立できる要素があり、補助制度を上手に活用することにより、賃貸マーケットを拡大させる可能性があります。
厳しくなっている賃貸市場の競争から一歩抜け出すため、戦略的な活用を図ってみてはどうでしょう。